繰り返される、日常。
  当たり前だと思っていたそれは、突然の終わりを迎える。

  自分に与えられモノは、夢でも幻でもなく、現実と言う二文字。
  生きる為に、全てを自分で行わなければいけない世界。
  非現実だと言われても、それは、自分にとっての現実で、間違いようのない真実

  今、ここに俺が居る事は、現実なのだろうか
  それとも……。


 
                                         GATE 28


 はっきりと名前を告げられた瞬間、誰もが一斉に太一へと視線を向けた。
 向けた視線の先には、今まで透き通り不確かな存在だった体が、確かな形を作り出していく。
 そして、透けていた体は、その色をはっきりと映し出した。

「タイチ!」
「俺……」

 信じられないと言う表情を浮かべて、じっと自分の手を見詰める。
 今までは、透けて見えていた景色が、自分の手に遮られて、もう見られない。

「……俺にも、はっきりとお前の名前が聞こえた……」

 ポツリと呟かれたヤマトの言葉に、誰もが小さく頷く。

「お兄ちゃん、帰ってきてくれたんだね」

 そして、一番に動いたのは、自分の名前を呼んだ少女。
 泣きながら自分に抱きついてきた少女を、太一はただそっと抱き締める。

 昔は、身長差がかなりあったのに、今では、少女の身長は、自分とほとんど変わらない。
 それが、更に、自分と彼らの時間が同じではなかった事を知らしめて、太一は、複雑な表情を見せた。

「ヒカリさんと仰いましたよね。貴方は、その彼とはご兄妹なのですか?」

 太一へと抱きついているヒカリに、光子郎が躊躇いながらも確認するために質問する。

「はい、私と兄は、間違い無く兄妹です。私が覚えている事を皆さんにお話しますね」
「ヒカリ、お前……」

 はっきりとした口調で光子郎へと言葉を返すヒカリに、太一が驚いてその名前を呼ぶ。
 それに、ヒカリは、にっこりと笑顔を太一へと向ける。

「ここに居る私と兄を合わせ、タケルくん、ヤマトさん、光子郎さんに、ミミさん。そして、丈さんと空さん。私達8人は、選ばれし子供として、3年前に、デジタルワールドを救う旅をしました。それには、デジモンと言うパートナーを連れて……」

 はっきりと自分達の名前を呼ばれて、それぞれが驚きを表す。
 同じ学年であるタケルの事を知っているのはまだ理解できるが、自分達は、彼女に会うのは初めてなのである。
 だからこそ、驚きは隠せない。

 そして、それは太一も同じだった。
 何も覚えていないと、そう言われていたのにも関わらず、自分の妹が、3年前の冒険の事を覚えているのは、信じられない事なのだ。

「ただ、私が覚えているのは、そこまでなんです。肝心な自分のパートナーの名前が、どうしても思い出せない。ずっと、一緒に居たのに……」

 だが、続けて言われた言葉は、段々と涙で掠れていく。
 そんなヒカリに、テイルモンがそっと手を差し伸べた。

「ヒカリ、私が、貴方のパートナーだ」
「ごめんなさい。私は、貴方の名前を覚えていないの」

 泣きながら謝罪するヒカリに、テイルモンはただ首を振る。

「良いのよ。だって、こうしてまたヒカリに会えたんだ。私は、それだけで、嬉しい」

 優しく微笑むテイルモンに、ヒカリは、その体をぎゅっと抱き締めた。
 小さく『有難う』と言う言葉が聞こえて、太一は、何も言わずにただぎゅっと手を握り締める。

 自分を覚えてくれた妹に対しても、何の慰めの言葉を言う事はできない。
 今この世界で、存在を認められた自分が、彼らの名前を言えば、それはパートナーである彼らにも聞き入れられるだろう。
 だがそれは、自分が望んでいる事ではない。そして、それは、彼らも同じ筈。

「タイチ」

 爪が食い込むほど強く手を握り締めているタイチに、アグモンが不安そうにその名前を呼ぶ。
 自分の大切なパートナーが、心配そうに見詰めてくるのに、太一は困ったような今にも、泣き出してしまいそうな複雑な表情を見せた。

「……ごめんな、アグモン……俺は、お前に心配ばかり掛けちまう……」

 自分に謝罪する太一に、アグモンはただ大きく首を振る。

 ずっと、自分が心配する度に、彼は謝るのだ。
 それが、本当に悪い事をしていると言わんばかりに……。

「ボクは、タイチのパートナーなんだよ、だから、謝らないで……」
「ああ、ごめんな」

 大きく首を振りながら、自分に抱きついてくるアグモンに、太一は、その体を抱き締めながら、再度謝罪する。

 大好きな、自分のパートナー。
 どんな時でも、自分の事を、思ってくれる、優しい心。

「あの、太一さんでしたよね?あの、貴方は、さっき程、そちらのデジモンの名前を呼ばれませんでしたか?」
「えっ?」

 しかし、自分達の遣り取りに、光子郎が不思議そうに声を掛けて来た。
 その質問に、太一は一瞬意味が分からないと言うように、首を傾げる。

 そう、言われるまで、理解していなかったのだ。
 今の自分が、パートナーであるアグモンの名前を呼んだ事を。
 自分は、間違いなくその名前を呼んだと言うのに、目の前に居るアグモンの姿は、透けたままなのである。

「どうして……」

 この世界に認められた者がその名前を呼べば、同じように認められるのだと思って疑う事などしていなかった。
 なのに、自分が呼んでも、アグモンの姿は変わる事がない。

 信じられないと言うように、太一がアグモンを見詰める。
 そんな太一に、誰もが掛ける言葉を失った。

「………どうしてレオモンが、ここに居るの?」

 そして、その沈黙を破ったのは、既にその存在を確かにしているタネモン。
 同じように、この世界に存在していない、レオモンの名前を呼ぶ。

「タネモン?」

 突然の事に、ミミが意味が分からないと首を傾げて、自分の腕の中に居る存在を見詰める。
 そして、不思議そうに問い掛けた。

「ここに何が居るの?」

 そして、続けて言われた言葉が、確信を付く。
 この世界で認められた自分達がその名前を呼んでも、世界に認められないと言う事を……。

「結局、こいつ等を紹介できないのは、同じなんだな」

 自嘲気味な笑みを零すのを、止められない。
 例え、この世界に認められたとしても、自分達は、この世界の者ではないと言う証。
 やはり、この世界では相容れる事は出来ないのだろう。

「それは、僕達が、自分で思い出さなければいけない事です」
「光子郎はん」
「そう言ったのは、貴方ですよ。答えは、全て僕達の中にあると」

 太一の言葉に、光子郎がきっぱりと言葉を告げる。

 それは、自分で決めた事。
 絶対に、全てを思い出すのだと。
 そして、彼の事を知りたいのだ、自分の手で。

「ああ、俺も、お前の事絶対に思い出すからな」
「…ヤマト……」

 光子郎に続いて、ヤマトもきっぱりと言い切った。
 それに、他の者達も、自分のパートナーをそれぞれ抱き締める。

「私も、貴方の事を思い出したいわ」
「ソラ」

 優しい笑みで言われて、ピヨモンの瞳が、今にも泣き出しそうに揺れた。

「うん、僕も同じだよ」
「タケル」

 自分の頭の上に乗っかっているパタモンに、タケルがにっこりと笑顔を見せる。

 それは、約束。
 自分自身に対しても、そして、大切なパートナーである彼等への……。

「なぁ、ジョウは、オイラの事、思い出してくれないのか?」
「あのね、僕が言おうとした言葉を先に言わないでくれないかい……」
「ジョウが、遅いのが悪いんじゃん。オイラは、悪くないもんね」

 まるで、漫才のように繰り広げられる丈とゴマモンの会話に、周りからも笑いが起こる。
 3年前と何も変わらない、彼等の絆が、確かにそこに存在していた。

「タイチ、それで、デジヴァイスの事なのだが……」

 そんな彼等に、レオモンが、言い難そうに、言葉を口にする。
 それに、はっと太一が、顔を上げた。

「すまない。レオモン、教えてくれ。皆のデジヴァイスは、一体何処にあったんだ?」



                                                 



   はい、昨日に引き続いての『GATE』更新です。
   今回は、本編。
   長いような、短いような、微妙な長さですね。<苦笑>
   
   そして、今回の『裏・GATE』なんですが、誰を書きましょう。
   誰視点でも可笑しくないんですよね。
   なので、今回は、リクエスト受付致します。

   先着2名さま。
   誰の視点で読みたいのか、リクエスト頂けると助かります。
   えっと、お一人様、一人限定でリクエストを下さい。
   宜しければ、ご参加お願い致します。えっと、これは、掲示板のみで受付致します。
   そうすれば、人物が被る事が無さそうなので…。
   早く決まれば早く決まるほど、次の更新が、早くなるかも……。(本当か?!)
   それでは、参加していただけるの、楽しみにしております。