2000.9
誕生!社会福祉法

社会福祉事業法の改正によって誕生した社会福祉法は、介護保険から端を発し、社会福祉基礎構造改革の一応の仕上げとされる。まぁ、私としては改悪だったのでないかと思わないでもないが、社会福祉という聖域をサービスの名の下に一般化したと見ることができる。このサービスとは、競争原理だったり契約主義だったりするが、現在の市場原理のおいて、業績、能力主義、ノルマなどなど利潤追求とか効率とか一般的な認識の下で、社会福祉は甘えてきたと自虐的に思っている人が多い。そうした意味でも、この一連の基礎構造改革は社会福祉従事者にとって市場への参入を通して、一般に認められるような仕事をしている…しようとしていると意気込ませるのには成功したと言える。このことには、後に述べるが、まずは、内容に触れていく。

インタビュー
は、当時の厚生省炭谷茂社会援護局長が社会福祉法の成立について解説している。このことについては次に書かれている論文にまとめられているので割愛する。しかし、炭谷は冒頭でこの社会福祉法の改正は、福祉の哲学の転換といっているが、哲学とは人としての「問い」であって、政策を誘導してきたイデオロギーや政策的な意図ではない。何をはき違えているのだろうかと思う。これまでの福祉は言い方が悪いが"施し"という考えが日本人にあったといっているが、これが哲学だったのだろうかと最初で躓いてしまい白けてしまった。

論文

小谷直道「社会福祉法誕生の意義」
社会福祉法の歴史と理念という中見出しがあるが、社会福祉法は2000年に成立したものであり、性格には社会福祉事業法の歴史と理念及び社会福祉法の理念と結ぶべきである。公私分離の原則、措置制度については古い言説で否定的である。詳しくは、拙稿を参照のこと。

社会福祉法の目的では以下のことについて解説している

  1. 情報の提供(第44,75,76,77条)〜説明責任
  2. 利用の援助(第80条,81条)〜後見人制度を視野に入れた権利の保護を中心に
  3. 苦情の解決(第82条,83,84,85,86条)82条は自主解決、83-85条は第3者機関、86条は知事による適正な処置の義務

利用制度については

老人は、社会保険形式(介護保険)、保育所は行政との契約方式、障害者福祉ホームなどは事業費補助方式、障害者の更生施設や授産施設は支援費制度で行われている。また、障害児施設、児童養護施設、乳児院、保護施設などは措置制度である。
規制緩和により設立要件が緩和され、事業の範囲を拡大させるなど経営面の緩和も図られる。また医療法人による診療報酬も施設整備の償還に当てることが可能になる。しかし、特養は、第一種社会福祉事業として、国や地方自治体か社会福祉法人しか経営できないままである。社会福祉法人の良さについて簡単にまとめられているが、示唆はそれなりにあり、
「創設の費用は原則寄付によってまかない、経営は利益を目的とせず、解散時の残余財産も最終的二國に帰属する。こうした個性を持つ社会福祉法人だからこそ、他の法人にはない大幅な公費助成や課税の優遇措置を受けてきた」
地域への公益性、民間の持つ創造的な工夫や信頼性これが社会福祉法人の持つ美点であるといえる。まぁ、規制を緩和して施設の事業費をある程度自由にしても良いかわりにある程度人件費を抑えるとかそうした工夫で今以上にお金を使ってほしくない(あるいはそれよりも節約して)と言うのが国や行政の言い分なのだろう。実際に、施設福祉に対する予算の抑制の割には、在宅福祉に関する予算も増加していないし。パイの配分の問題だったりする。また、行政の責任の縮小は、民間の自主性にすり替えられているが、これなどは隠してはいけない問題であろう。

感想…
一般社会において、あるいは市場原理であってもサービスは多様であることを知る必要がある。確かに営業や企画・開発は、能力主義であるし業績が大事である。しかし営業であっても、業績を上げるだけが仕事ではないし、むしろ組織的に振り分けられている場合がある。
業績とはもっとマクロに考えると、企業間のパワーバランスの上で市場が動き、競争とは2社とのことではなく、多様な職種や企業のバランスであり、単一の事業体の問題ではない。
さらに、企業であっても、受付、経理、事務、人事、広報など一般に言われる業績や売り上げ〜利潤とは別の仕事の形態もたくさんある。人事考課についてもスタンダードというものはない。
では、福祉の仕事〜サービスとは何か。実は、経営努力でどうにかなる部分は少なく、マクロな競争や利潤という観点からは把握できない部分が多い。もちろん、質の良い介護などを行えるような人的育成や物理的要件などは揃える必要がある。さらに、障害者や老人など社会福祉の対象者は常に社会的弱者である。それに対するまなざしは寛くありたい。それが施しなのか。私は違うと思う。社会的弱者と呼ばれる人たちが生きられる社会を形成しているのが社会福祉であると誇りを持つことである。そこには、競争や利潤、効率は要らない。少なくても目の前にいる利用者に対してはそうありたい。一般社会に対して、我々はこれから競争原理に組み込まれた一般企業と同じですと思いたくもない。それはイメージ先行の陳腐な見方である。行政もまた措置で良いじゃないですか。行政が民間に委託している以上、そこには財源に対する説明や使途に関する公平性もある。また、質の悪い施設に対して勧告や警告を発し、それが遵守できない場合は解散(退出)させる権限があるはずで、なんの問題もないような…(2004.6.14)

基礎構造改革や措置制度については、拙稿
  1. 公私の分離について
  2. 基礎構造改革について
  3. 社会福祉法人について
  4. 権利擁護についてを参照のこと。

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