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air_mail.gif (2009 バイト) 第17回ULF大会レポート3日目(MLDの最新情報)
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3日目は具体的な情報が多く、また、疾患をMLDに特定した唯一のセッションが開かれたこともあって長くなったので、MLDの最新情報の部分とそれ以外のセッションを分けました。

bt_cube.gif (262 バイト)
 
Update on Metachromatic Leukodystrophy       
〜MLDの最新情報〜 
Charles Peters M.D 

註:このセッションはMLDの家族だけを集めて行われた。Arvan Fluharty先生は生化学が専門で、どうもクリビット先生と組んでいるようだ。「研究者にとっても、患者や家族からもたらされる情報は非常に貴重であり、実際にいままでわかったことも、そういった情報をきっかけに研究が進んだという例は多い。ここでは私の方から一方的に医学的ニュースを話すというよりも、みなさんの疑問に答える形でそれを盛り込んできたい」ということだった。

(発表)
 MLDには、乳幼児型、小児型、成人型の3臨床型がある。また、酵素活性を欠いているように見えるが、実際には症状がでない擬欠損型(Psuedodefiiency)というものもあり、
今年最大の収穫は、2週間ほど前に“Biochemistry”で発表された、アリルスルファターゼAの結晶構造がわかったというニュースだった。まだ分析が済んでいないが、いままで類似の蛋白質の構造から想像していたものとは違う部分があり、非常に興味をひかれている。結晶構造がわかれば、今までわかっている遺伝型(genotype)と臨床型(phonotype)の関係を説明できるかもしれないし、残存酵素活性を促進する薬剤の開発も可能になるかもしれない。

いままでのレポートもそうなのですが、私の英語力の限界から、発表の内容が100%正確に理解できているわけではありません。患者の家族との質疑は、マイクがなかったり、なまりがあったりして、ますます意味がとれない部分が出てきます。そこでなるべく、聞き取りに自信がある部分だけをレポートしていますが、今回については、MLD患者にとってかなり切実な問題なので、あえて全てを掲載しようとしています。聞き間違いや勘違いが必ずあると思いますので、そのまま信じ込まないように注意してください。

質問>サルファタイドの蓄積によってミエリンが破壊されるというが、それではサルファタイドの蓄積を止めればミエリンは再生されるのか?
回答>非常に難しい質問だ。いままでの研究から無理だといいたいところだが、Krabbe病の動物実験(Mouse Model)では違った結果が出てきており、断定はできない。
質問>再生が行われるとしたら、それはどのような仕組みなのか。
回答>基本的に体細胞は常に新しく生産され、古いものと置き換わっていく。ただし、この働きは組織によって大きな差がある。たとえば、皮膚などは再生の早い器官の代表的なものである。脳を構成する細胞の更新は非常にゆっくりとしたものであることが知られており、大人ではほとんど期待できないだろう。仮に脳細胞が発達しきっていない年齢に当てはめて考えるとしても、サルファタイドの蓄積が止まったからミエリンが増えたのか、年齢相応の脳細胞の発展にともなったものなのかを言い切るのは難しい。
質問>酵素を食事に混ぜる、といった方法はなぜだめなのか。
回答>理由はいくつかあるが、最大のものは血液脳関門の存在だ。例えば、酵素を血管に注射しても脳には行かないことがわかっている。ある意味では、アリルサルファターゼAは、血液脳関門の存在を証明するのに最適な例だといえるほどだ。
質問>問題の酵素が特定されているなら、それを投与することで症状の改善は見られないか。結果が確実でなくても、たとえば末期症状の患者に実験的に投与してみることはできないのか。
この質問をした女性の娘さんはもう13年闘病しており、そのほとんどの期間が寝たきり。
回答>酵素をただ投与するだけではたぶんだめだ。骨髄移植などは、ほかの疾患で成功していて、MLDでも効果が期待できるという状況だったから臨床で使用できた。科学的に合理的な効果の見込みがなければ、たとえ末期症状だといっても、だめもとでやってみるということはできない。もちろん、患者の人権の問題もある。
質問>実際に使えるかどうかは別にして、酵素の人工的な合成はできる状況にあるのか。
これは私の質問。リピドーシス研究会の公開質問で、鈴木先生が「酵素の合成はまだ現実的な段階に至っていない」と語っていたことに対して、もう少しつっこむつもりの質問でした。しかし、あとで気がついたのですが、鈴木先生も会場に臨席されていのでした。
回答>できる。(他の研究者がフォローする形で)いや、質問の意味は臨床に使えるだけの量が確保できるのか、また、それが現実的な価格になるだろうかということだろう。その意味では非常に難しいと思う。現時点で行っているのはマウスを使った実験に必要な量の合成だけだし、その手法で人間の治療として使えるだけの量を確保するのは現実として難しいのではないか。この状況で製薬会社が製品化を始めるとは期待できないし、したところでコストを考えると非現実的なものになるのではないか。単純に製造コストだけの問題ではなく、人間に使うためにはそのための安全性の研究などのコストをすべて上乗せする必要がある。(発表者が再び引き取って)ただ、希望がもてる点としては、他の類似の疾患と違ってMLDの場合には症状が起きる原因がかなり単純で、酵素を作って脳内に運ぶことができさえすれば解決するはずだ。他の疾患ではもっと機構が複雑で、そう簡単にはいかない。
質問>(正常な成長の過程でのそれを除いて)ミエリンを再生させる、あるいはそれを促進することに関する研究はどの程度期待できるのか。
回答>個人的には希望があると思っている。どのように、どの程度というのは言える段階ではない。
質問>ミエリンのダメージは、完全に体内の閉じた環境だけの現象だと言い切れるのか。(おそらく食餌療法などがとられている他の疾患を想定して)環境との相互作用という可能性は無視していいのか。
回答>いままで数え切れないくらいの食餌療法が試されているが、効果が確認されたものはない。難しい理由はいくつかあるが、一つは動物実験でそれを実証するのが難しいからだ(MLDの症状を示すマウスを作り出せないから?……このあたりよくわからなかった)。また、実際の患者では、厳密な食事制限を行うのは事実上不可能だし、効果が期待できない以上、それを勧めることはできない。
このあたりは「ロレンツォのオイル」のオドーン夫妻と医師の衝突を思わせますね。
質問>ASA活性検査を何度か受けたが、結果はいつも違う。これは病状の変化と関係するのか。
回答>私はもう何十人もASA検査を行ったが、そこからいえることは、ASA活性検査は正常か、キャリアか、患者かを区別する以外には意味がないということだ。たとえば活性値が2だったのが7になったからよくなったというようなことはまったくない。

研究者から、発表者から患者の家族への呼びかけ
 最後に、非常に重要なことをお伝えしたい。それは、これからMLDを研究し、治療法を確立していくためには、患者の脳の標本が絶対に必要だということだ。いままで治療法が確立された疾患もそうだし、MLDに関する現在までの研究もそうだが、医者や研究者が実際に問題になっている組織を検討することで理解が深まってきた。脳が問題になる白質ジストロフィーの場合、生きている間に患部を観察するというのは不可能だ。しかし、死後の脳細胞を研究すること、それも多数の患者のそれを比較することでわかることは多い。しかし、MLDが非常に希な疾患出ることもあって、我われはそれをほとんど手にしていない。ぜひ献体に協力して欲しい。また、見逃されがちだが非常に重要なこととして、われわれは患者の脳細胞組織だけでなく、保因者(キャリア)のそれも必要としている。なにかを発見するには比較することが非常に重要だ。患者とその家族、つまり発症しなかった保因者の細胞組織を比較することができれば理想的だ。しかし、これは当然のことでもあるが、保因者の細胞組織を医者が手に入れる可能性は患者からの自発的な協力がなければゼロに等しい。

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01/09/30


※このWebサイトはあくまで患者の家族が個人的に作成したものです。医学情報の扱いにはご注意ください。
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