小倉百人一首 雑の歌 歌題別分類 25首



【旅】(注:鎌倉右大臣の歌は定家撰『新勅撰集』で羇旅歌に分類されているため、ここに入れたが、主題はむしろ無常観にあると言うべきだろう。)

安倍仲麿
007 天の原ふりさけみれは春日なる 三笠のやまに出し月かも

参議篁
011 和田の原八十嶋かけてこき出ぬと 人にはつけよあまの釣舟

菅家
024 この度はぬさも取あへす手向山 もみちのにしき神のまにゝゝ

鎌倉右大臣
093 世中は常にもかもな渚こく 海人のをふねの綱手かなしも

【眺望】

法性寺入道前関白太政大臣
076 和田の原こき出てみれは久方の 雲井にまかふおきつしら波

【離別】

中納言行平
016 立わかれいなはの山の嶺に生る まつとしきかはいまかへりこん

【節会】

僧正遍昭
012 天つ風雲のかよひち吹とちよ をとめのすかたしはしとゝめん

【山家】

喜撰法師
008 我盧はみやこのたつみしかそ住 よを宇治山と人はいふなり

【無常】

蝉丸
010 是や此行もかへるも別ては しるもしらぬも相坂のせき

【老年述懐】

藤原興風
034 誰をかも知人にせん高砂の 松も昔の友ならなくに

入道前太政大臣
096 花さそふあらしの庭の雪ならて ふり行ものはわか身成けり

【述懐】

大僧正行尊
066 もろ共に哀とおもへ山さくら はなより外にしる人もなし

三条院
068 心にもあらてうきよになからへは こひしかるへき夜半の月哉

藤原基俊
075 契りをきしさせもかつゆをいのちにて 哀ことしの秋もいぬめり

皇太后宮大夫俊成
083 世中よ道こそなけれおもひ入 山のおくにも鹿そ鳴なる

藤原清輔朝臣
084 なからへはまたこの比や忍はれん うしと見しよそいまはこひしき

前大僧正慈円
095 おほけなくうきよの民におほふ哉 我たつ杣にすみそめの袖

後鳥羽院
099 人もおしひともうらめしあちきなく よをおもふゆへに物思ふ身は

順徳院
100 百敷やふるき軒端の忍ふにも なを餘りあるむかし成けり

【その他】

貞信公
026 をくら山嶺のもみち葉心あらは 今一度のみゆきまたなん

大納言公任
055 瀧の音はたえて久しく成ぬれと 名こそなかれて尚聞えけれ

紫式部
057 めくりあひてみしやそれとも分ぬまに 雲かくれにしよはの月哉

小式部内侍
060 大江山生野ゝみちの遠けれは またふみも見すあまのはしたて

清少納言
062 よをこめて鳥のそらねははかるとも 世にあふさかの関はゆるさし

周防内侍
067 春の夜の夢はかりなる手枕に 甲斐なくたゝん名こそおしけれ


[メモ] 賀歌・哀傷歌・釈教歌が一首も採られていない点、反対に述懐歌が多く、ことに人生に対する苦い感慨を含んだ作が目立つ点に選歌の特色が見られる。
なお、慈円の歌は釈教色が強いが、千載集では雑歌の部に載る。また、「百人秀歌」には一条院皇后宮の哀傷歌がある。



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