ABOUT

NOVELS1
NOVELS2
NOVELS3

WAREHOUSE

JUNK
BOOKMARKS

WEBCLAP
RESPONSE

Happy Happy Birthday!(前編)



もうすぐ零一くんの誕生日がやってくる。
彼女になって初めての誕生日。
なんだか今からどうしよっかなーって感じ。

もちろん何かプレゼントは渡したいと思ってるよ。だけど、去年の零一くんは女の子からのプレゼントを全部丁重に断り続けていて、結局後で益田くんに聞いた話じゃ放課後も誰も来なくなるまで屋上の給水塔の後ろに隠れてたらしい。普段は何かから逃げたり隠れたりするのをものすごく嫌がるけれど、よほど困ったんだろうなー、きっと。ま、そうやって笑ってる益田くんだって同じくらい追い掛け回されるクチなのにね。

去年、わたしだって何かしようかなー、あわよくばついでに好きですと書いた手紙でもしのびこませとこうかなーとかあれこれ考えてた。でも結局できなかったの。だって、2学期になって同じクラス委員になれて、少しだけ話せるようになってきたのに、そんなことしてぶち壊しにしたくなかったんだもん。


零一くんは、そういうの厳しいから。今は……違うけどね。

「零一くん、もうすぐ誕生日だね」
「ああ、そうだったな」
「去年は逃げまわってたでしょ」
「あれは…………」
「ねえ、何かもらったりするのって負担に思うの?」
「いや……、あれは……」
「わたしがプレゼントあげたら、迷惑かな?」
全く迷惑だなど思うわけがないだろう!
「そうお?」
「ああ、君からならどんなものでも受け取るつもりだ。だから……変な気を回さなくても、いいんじゃないのか?」
「じゃ、何かあげるね」
「楽しみにしている、紗和」


そっか、迷惑じゃないんだ。よかった。
って、まあ一応わたし彼女なんだし、受けとってくれなかったらそっちの方が問題だよね。でももうすぐって言ったけど、明後日なんだよね、実際。何しよっかなー。零一くんはお坊ちゃまのくせに結構細かいことを言うから、あまり高価そうなものを買ってあげても喜びそうにないし。やっぱここは手作りかなー。そうだ、土曜日だから前の日にケーキ焼いといて、お昼から一緒に食べるとか。二人きりじゃ淋しいからあの二人も呼んじゃったりして……あ、それいい。そうしよう。3人でお祝いしてあげよう、零一くんの17歳の誕生日。

「ねえねえ、恵美ちゃん。今週の土曜日空いてる?」
「何?どっか行くの?でも、氷室の誕生日じゃなかったの?」
「そう、それなんだけど、一緒にお祝いしない?」
「なんであたしがあんたに付き合うのよ、そんなのあんた一人でお祝いしてやんなよ」
「あ、益田くんだー!」
「何?呼んだ?」
「ねえ今度の土曜さぁ……」
「あー、オレだめ。店手伝えって言われてっから。ごめんよー」
「二人ともだめ?」
当たり前だよ
当たり前でしょ

二人同時に同じことを言う。なんでだめなの?みんな一緒が楽しいと思ったのに……。

「つうか、あんたボケ過ぎ。せっかく付き合い出して最初の誕生日なんだから二人っきりで過ごしなさい。いいから黙ってそうしなさい。その方が氷室も喜ぶからさ」
「えー」
「えー、じゃない」
「……ごめん、オレちょっとだけ零一が可哀相になってきた……」
「わたしも……同情する。じゃあね。紗和、二人でお祝いするのよ、わかったわね」


ひどい……。
二人っきりなんてまだ緊張するんだから。
時々手をつないだりもするけど、でもやっぱりすごく緊張するんだから。
修学旅行で一回だけキスしたけど、二人っきりになったらついついあの唇ばっかり見て照れるんだもん。

あー、今から緊張してきた。
「ねえ、零一くん。誕生日って土曜だよね。おウチ行ってもいいかな?ケーキ焼くから」
「えっ?俺の家にか?」
「うん、だめ?」
「だめ……と言う訳ではないが……篠崎や益田も一緒なのか?」
「ううん、わたしだけ」

できるだけ普通に言ってるつもりだけど、緊張感が伝わりそうでドキドキする。そんなに考え込まないでよ、お願いだから。

「来てもいいが……君は俺の家を知ってるのか?」
「あ、知らない」
「では一旦君の家に寄ってからにしよう」
「うん」

とりあえず、OKか。氷室くんちは大きいらしいということだけは聞いたことがあるけど、場所は知らない。どんな家なのかな、お父さんやお母さんはどんな人なんだろう。家にいたりとかするのかな。ドキドキするけど、ちょっと楽しみ。




で、土曜日。
わたしは零一くんと一緒に彼の家の前にいる。ひどく静かで大きな家。そして、人の気配がしない家。ポケットから黙って鍵を取り出すと大きな扉の鍵穴に差し込む。やっぱり誰もいない。

「ねえ、零一くん、ご家族は?」
「母は今頃ウィーンだ、父は恐らくニューオリンズだろう」
「今いないの?」
「ああ、だから帰ってもかまわない。男と二人きりになるのが嫌なら……」
「ううん、いる!それから、夕飯も作ったげる!おじゃましまーす」

こんな静かな大きな家にいつも一人で住んでるの?
淋しくないの?つらくないの?
ねえ、零一くん、何かしゃべってくれない?



back

next

go to top