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そうだ、京都へ行こう?(前編)



2年生の秋といえば、修学旅行に決まってる。

9月の中旬はいつも秋晴れで空が高い、なのにこの学園は毎年京都へ旅行する。それも4泊5日と短い日程で、だけどまあ泊まるホテルはそれなりにいいところだから、まったくリーズナブルともいえないけどね。最初は思ったよ、私立なのに国内なんて今どきどうなんだろうって、でもわたしは零一くんと一緒だったらどこでもいいから。

一応わたしの彼氏である零一くんはこの学園の、ある意味有名人で、いつも一緒にいる益田くんと二人してバレンタインには山積みのチョコレートをもらっていた。そんな彼が1年生の夏休み前に、頬を染めながらわたしに告白してくれたのだ。好きだって。未だに信じられない気もするけど、でもホントみたいで、それからは毎日一緒に帰ったりしているし、4人でデートもした。でも……まだキスはしてない。

恵美もその少し前くらいからなぜか益田くんとくっついてしまったから、よくわたし達4人は一緒にいることが多い。時折零一くんはちょっとご機嫌斜めになることもあるけれど、でもお友達だもんね、仲良くしなきゃ。


「零一くん、もうすぐだね、修学旅行」
「あ、ああ、そうだな」
「秋の京都、いいよね」
「そうだな、自由行動はいっしょにまわることにしよう」
「うん!絶対だよ」

絶対絶対一緒にまわろう、二人で。この際お互いの友情は横に置いといて、二人だけでまわろう。二人っきりだよ、絶対約束だよ、零一くん。


なのに、どうしてこうなるの?そりゃ今年は二人ともクラスが違うし、零一くんは毎年クラス委員だけど、だけど、なんで、どうして二人きりにさせてくれないの?零一くんも零一くんよ、どうして全部断ってわたしを優先してくれないの?約束……したじゃない。

零一くんの周りにはいつも誰かがいる。そしていつも誰かが問題を持ちこむ。彼だってすべてに万能なわけじゃないのにもういい加減にしなさいよ、わたしの、わたしの彼氏なのに。零一くんだって言ってたじゃない、二人だけで一緒に京都めぐりしようって。

もういい、わたし1人で出掛けてくる。何も言わずにガイドブックをかばんに詰め込んでわたしはそのままホテルを後にした。知らない、零一くんなんて。1人でもちゃんと京都の街くらい回れるもんね、1人で行ってくるんだから。

ホテルのロビーで零一くんはクラスの人たちに囲まれてちょっとやそっとじゃ抜け出せそうになかった。だから、わたしは1人ででかけることにした。あの二人はさっさと二人だけで出かけちゃってるし、一緒に回ろうって言われても、もちろん邪魔するようなことはしたくないからきっと断っただろう。

そう言えば、ウチの学校って結構堂々とカップルで回ってるんだ、びっくりした。あー、だから2年になったとたんみんな彼氏彼女を作りたがるのか、なんだか1人で納得してみたけど、わたしみたいに良く出来た彼氏を持つ身では、せっかく彼氏がいても一緒に遊べない。なんか空しい。

どうしよっかな、とりあえず金閣寺か銀閣寺、それとも南禅寺にでも行くか、はたまた平安神宮あたりに行こうか。1人で歩いてたらやけにカップルが目についてなんだかどんどん淋しくなってくる、一応携帯の電源は入れてあるけど、電話してくれるとは限らない。それより断りきれずにだれかと一緒にどこかに行ってるかもしれないし。はー…、やっぱつまんない。

「いいなー、みんな」
「なにが、いいんだ?」
「ふぇ?」
「だから、何がいいなーなんだ?紗和」
「えっ?どうして?」
「すぐに追いかけてきたんだ。紗和1人で歩かせるわけにはいかない」

びっくりした。いや、ほんとにびっくりした。だって、突然後ろから一番聞きたかった声が聞こえるんだもん。えへへ、でもいいや、一緒に歩けるんだし。わたしの独り言の意味をまだ考えている零一くんの手をそっと握ってみた。なんか汗かいてない?もしかして走らせちゃったのかな。

「走った?零一くん」
「ああ、あいつらを振りほどいて走ってきた」
「ありがとう」
「いや、その……ごめん、紗和」
「じゃ、行こっか」
「ああ」


わたしのために走ってきてくれるなんて、すごく嬉しい。なんだかさっきまでの落ち込んだ気分が急上昇してきた、なんて単純なんだろう、わたしって。隣の彼を見上げると少し顔が赤い、でも、ちょっと嬉しそう。

そのまま二人で南禅寺まで行って湯豆腐を食べて、電車で宇治まで行っておいしいお抹茶とお団子を食べて、平等院を見学して……。明後日はどこに行こうかと相談して…。

明後日は零一くんも気付かれないように抜け出すからって約束してその日の自由行動は終わった。



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