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そうだ、京都へ行こう?(後編)



どうしてわたしってかんじんな時にこんなことになるんだろう。

昨日の集団行動の時に、東寺で石にひっかかって転んだのだけど、翌朝起きてみたら足首が無残にも腫れあがって動けない。今日は最初から一緒に出かける約束だったのにこんなんじゃどこにも行けない。なんでわたしってこんなにバカなの。

とりあえず、恵美ちゃんから零一くんには伝えてもらった。でも1回だけ携帯に「おとなしく寝てるように、俺のことは気にしなくていい」とだけメールが来ただけで、様子を見にも来てくれない。お昼に恵美ちゃんがお弁当を買ってきてくれた時、さりげなく聞いても零一くんを朝から見てないとしか言わない。

どこに行っちゃったんだろう。1人なのかな、誰かと一緒なのかな、わたしと一緒じゃなくて淋しくないのかな。わたしはこんなに淋しいのに、な。

「零一くんてば、冷たい……」

今日は最後の自由行動だから、9時までは遊んでいられたのに、わたしは1人ホテルのベッドでのたくって、顔を見せてくれない零一くんに悪態をついてるだけ。

あー、名前以上に冷たいんだ、零一くんって。帰ったら速攻別れてやる、こんな冷たい奴、もう知らない。もっともっと優しくてわたしだけを大切にしてくれる人を好きになろう。この際だから少しくらい成績が悪くたって、少しくらい顔が好みじゃなくたって妥協するわよ。だって出来すぎる彼氏は大変なんだもの。……でも、好きなんだよね。


「別れてやるから、あんな冷たい奴なんて、さ」
「……誰と別れるって?」
「だから、冷血な氷室零一とよ」
「俺はそんなつもりはない」
「へっ!?」
「で、紗和、大丈夫なのか?」
「えっと、あ、はい、大丈夫でございます、ほほほっ。やだなーもう」

わたしが驚いたあまり変な返事をしたものだから、零一くんは珍しく声をあげて笑った。あーびっくり。

「紗和、これ……」

そっと差し出された封筒を手に取って、そっと開けてみた。中からでてきたのはたくさんの京都の風景写真で、フィルム2本分くらいはある。これは何?

「コレは……その、あれだ。紗和と行こうと思ってた場所の写真、だ。見せようと、思って、紗和に」

だから、朝からずっといなかったの?でも、これは嵐山だよね、確か渡月橋で、こっちは銀閣寺でしょ、それから哲学の小道で、あ、これは清水寺の舞台のとこだ、でこれは三寧坂。こんなにあちこち回ってたら顔の出しようもないか。電話を掛ける余裕もないか。で、全部風景しか写ってないってことは、まさかと思うけど一人でこれだけうろうろしてたの?

「1人だったの?もしかして」
「もちろんだ。紗和以外と出かけたいと思わなかった。一緒にいようとも思ったが、それでは紗和の思い出がないままだから、こんなことをしてしまった。ばかみたいだろうか」
「ううん、……嬉しい」

なんだか頬を染めながら視線をそらしながら照れた顔でそんなことを言う零一くんの気持ちが嬉しくて、嬉しくてわたしのさっきまで別れたいと思ってた気持ちなんてどこかに飛んでいってしまった。だって、こんな素敵なことをしてくれる人なんだよ、わたしのために1日中駆けずり回ってわたしの思い出を作ってくれるような人なんだよ。やっぱり大好き。嫌いになんてなれない。

「紗和、ちょっと部屋からでられるか?」
「うん、たぶん」

と言いつつ、立ちあがったとたんよろめいてしまった。やっぱりまだちょっと痛いかな。そんなわたしをじっと見ていたかと思うと、おもむろに零一くんはわたしの腰を手を回した。うそ、こんなとこでキス?ちょっと待って、まだ心の準備が……!


「……失礼」

……なんだ、キスじゃないのかって、これはいわゆる「お姫様だっこ」ってものでは……!

「零一くん、わたし重いからいいってば」
「いや、大丈夫だ、じっとしててくれないか。一緒に屋上に行きたいんだ」
「屋上?」
「ああ、夕焼けが見える」

誰もいない廊下を零一くんにだっこされたままエレベーターに乗って屋上に向かう。このホテルって確か京都市内でもかなり高い方だって聞いたけど、屋上なんて上がって怒られないのかな。二人とも無言で心臓の音がうるさいくらい耳に入ってくる、零一くんに聞こえてしまいそうでちょっと恥かしい。

でも、細い人だと思ってたのに、やっぱり男の子なんだね。しっかりと体に回された腕は案外しっかりしていて、肩幅もちゃんとあるし。その上去年からまた背が伸びてるから、床からわたしまでの距離がかなり高い。零一くんの視界っていつもこんな感じなんだろうな。なにせ、わたしより20センチ以上大きいんだし。

「あ、もう大丈夫、立てるから」
「だめだ、じっとしてた方がいい」

確かに、綺麗な夕陽だった。京都の街の向こうに沈んでいく赤くて大きな太陽は、零一くんの腕の中みたいに暖かくて、心地いい。

さんざんな自由行動だったけど、最後にこうやって零一くんと一緒にみんなに内緒で夕焼けを見られて、締めくくりとしてはよくできた方かな、たぶん。でも今度は一緒に手をつないで京都の街を歩こうね、絶対だよ、約束だよ。

「紗和、好きだよ」

ふいに頭の上から声がして顔を上げると、目の前に零一くんの顔が……。小さな声で「目を閉じて」と囁かれてそのまま目を閉じると同時にわたしの唇にぬくもりが落ちてきた。



「だいっきらい、こんなにドキドキさせる零一くんなんて」
「俺は大好きだ」
「嘘、わたしも大好き」



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