ABOUT

NOVELS1
NOVELS2
NOVELS3

WAREHOUSE

JUNK
BOOKMARKS

WEBCLAP
RESPONSE

第6日目:11月5日水曜日 誕生日まで1週間!(氷室SIDE)



なあなあ、零一。もうあの子連れてこないのか?中々いい感じだったのにさ、零一とあの子。
オレさぁ、ホントにお前の彼女かと思ったんだぜ。もっとも大人びた格好をしてても若いなーとは思ったけどさ。
でも、今までお前がつきあったことあるのって年の近い子ばっかだったじゃん。
お前には重すぎたんだよな、その年が近くて過去も現在ももしかしたら未来まで共有してるような顔されるのが。
結局さ、オレが思うにお前は全てを受けとめてくれる大人か、さもなくば守ってやらなきゃと思う子供か、どっちかだろうね。
彼女は…そうだな、両方持ってる感じがした。お前が自分の生徒だと言うまでせいぜい女子大生だと思ってたからね。
お前、口に出したりは決してしないけど、相当好きだろ、あの子のこと。
教師と生徒なんてやっかいな鎖で繋がれてるからどうしようもないんだろうけど、壊しちまえよ、そんなくだらないもん。
やっちまえよ、思いっきりそんなもんつぶしちゃえよ、零一。
ま、その前に自分の気持ちにちゃんと折り合いをつけるのが先だろうけどさ。
ま、あがけあがけ、死ぬほどあがけ。




だめだ、どうしてこう北川の顔ばかり思い浮かべてしまうのだ。
本来なら学園祭の準備で忙しいこの時期に、ましてや平日に奴の店に行くことは決してない。
しかし、1杯くらいアルコールを摂取しておかないと今日もうまく眠れないのではないか、そう思ったのだ。
なぜ、眠れないのか。理由は一つ。
そう、目を閉じるとそこにさめざめと泣く北川が現れるからだ。
そんな泣いている北川を……見るに忍びなく、そして眠りは浅くなる。
だから俺は昨年の11月6日に彼女の持ってきたプレゼントを拒絶してから、時折苦しくなるようになったのだ。
昨日の北川は珍しく俺の授業中にずっと寝ていた。本来なら起こすのだが、その前からなんとなく疲れた顔をしていたため、チャイムが鳴るまでそのままにしておいた。数学準備室で理由を問うてみたが要領を得ず、彼女はただ「調べ物をしていて遅くなった」と言うだけだった。何をそんなに睡眠時間を削ってまでしなくてはいけないことがあるのだろうか。最近は学園祭準備優先のため、さして大量の課題を与えた覚えもない。この間の日曜日に聞いた限りでは、北川の学園祭準備はかなり進んでいるということだった。
まさか、まだ今年も何か……、いや、まさか、昨年きっぱりと告げたではないか、俺は決して受け取らないと…。

「零一。さっきからさ、ちょっと鬱陶しいよお前」
「元々こんなものだ。ほっとけ」
「そっかなー、こないだ彼女連れてきた時はもうちょっとこう、なんていうかさ、明るい顔してたぜ」
「彼女ではない、あれは俺の生徒だ」
「ふーん、誰のことかすぐわかるんだ。すげーな、お前」
「……!」

俺がここに連れてきた女性と言えば、後にも先にも北川だけだった。だがどうしてあの時そうしたのか自分でもわからない、しかしどう言う訳かあの夜、彼女とここに行こうと思ったのだ。

「帰る」
「おう、明日お前の誕生日だな。何回目?」
「28度目だ」
「またあれ言うんだろ。私は生徒からの贈答品は受け取りかねるって奴」
「ああ、当たり前だ。俺は決して受け取らない」
「あの子からでも?」
「……。勘定だ」

そうだ、明日は確かに俺の誕生日だ。しかしそんなもの特別嬉しくもなんともない……はずだ。
毎年どうやって調べたのか、女子生徒が誕生日だからと物を持ってくるが、きちんと断り受け取ったことはない。昨年もそのように機械的に処理し、もちろん北川のものも丁重に断ったのだった。毎年毎年、機械のように断り続けてきたが、一度も心が痛んだことなどなかった……。しかし、昨年の北川には……無理に笑おうとしてひきつってしまった彼女の表情を思い出すと、非常に胸が痛くなる。あの時は自分の感情を完全否定したつもりだったが、クリスマスパーティでもバレンタインのチョコレートもあんな顔をさせたくなくて、受けとってしまった。

あの顔を見て以来、俺の中で何かが狂ってしまった。歯車がきしきしと小さな音を立ててずれていく、彼女の方へと少しずつ。持ってはならない、認めてはならない、そう思えば思う程彼女のことばかり考えてしまう、自分が嫌だ。

俺は彼女を泣かせるようなことをしたくない、確かにそう思っているようだ。
しかしこれは、まさか……忘れていた感情なのか。
いや、やはりありえない。
教師と生徒であるのだから。
絶対にこの一線は越えてはならないのだ。

益田の店からの帰り道、ふと見上げた夜空は薄曇で星など見えない。少し膨らんだ月がぼんやりと光りを放っているだけだ。その月にさえ、俺は北川の顔を思い浮かべてしまう。君はこの月を見上げたらそこに何を見ているのだろう、俺は……いつも君を見ている。

今頃、北川は何をしているのだろうか?
もう眠っただろうか?
君の夢の中でまで俺は君を泣かせてはいないだろうか?

何を望んでいるのだ、俺は。これでは今夜もまた、うまく眠れそうもない。



back

next

go to top