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第1日目:10月31日金曜日 誕生日まで1週間!



最近、ぼくの大切な人、桃花さんはため息が多くなりました。ぼくはとってもとっても心配です。
16歳なりに今までもあれやこれやと年相応にお悩みはあったようですけど、
今回みたいに人目をしのんでため息をついているのは初めてです。ぼくはとっても心配です。
ぼくにできることだったら何でもしてあげたいけど、原因がわかりません。
でもたぶんあの人のことなんです。きっとそうです。
あ、申し遅れました。ぼくの名前は「れいいち」と言います。誕生日は11月6日らしいです。
桃花さんのお父さんがニューヨークでぼくを買ってくれました。
そしてぼくの体についていた誕生日を見て桃花さんが嬉しそうにぼくの名前をつけてくれました。
それからはいつも一緒です。
ぼくはカンガルーですが、今はもう売られていないそうです、ちなみに。
そうなんです、桃花さんの悩みの種はきっとぼくと同じ名前で同じ誕生日のあの人なんです。
ぼくにはわかります、だって同じ名前だもん。
カンガルーの勘と言う奴です。
後1週間であっちのれいいちさんも誕生日です。
桃花さんはプレゼントを渡したいんだと思います。
でも、この間聞きました。去年は受けとってくれなかったって。
すごく哀しそうにしていましたけど、一生懸命笑っていました。ぼくはとっても悲しくなりました。
ぼくが自由に動けたら得意のパンチをお見舞いしてやりたい気分でした。
だから、今年はぼくも影ながら応援することに決めました。
なのに、桃花さんはため息の数が増えました。
桃花さん、がんばれ!ぼくがついてますから。
また桃花さんを泣かせたりしたら今度こそぼくがやっつけてやりますから。




「桃花、今日帰りちょっとっ寄ってかない?」
「あ、奈津実。う、うん、そだね、そうしよっか」

びっくりした、奈津実か。

最近わたしはどうもいつも以上にぼんやりしている。だってもうすぐ大好きな氷室先生のお誕生日なんだもの、これがため息をつかずにいられますかっての。去年は結局受けとってもらえなかったし、今年だってどうだかわからないしね。少しだけ前向きに考えるなら9月に入ってすぐに先生と「社会見学」に行ったことと修学旅行で一緒に回れたことくらい。それでもたぶん今年も受けとってはくれないかもしれない。バレンタインのチョコもクリスマスプレゼントも微妙な反応だったしね。

ま、いっか、今日は奈津実と羽伸ばそっと。

「ね、ね、あんた何か悩んでるっしょ。お姉さんに話してごらんよ。なんでも相談に乗ってあげるよ。ほらほら」
「何でもないって。それよりこのケーキおいしいねー」
「あんた、好きな男いるでしょ。で、もうすぐ誕生日だったりして」

奈津実はびしっと生クリームのついたフォークでわたしを指差した。それ、ちょっと危ないってば。
でも、その瞬間わたしの心臓はドクンと大きな音を立てて跳ね上がった。

まさか……知ってる?
いや、まさか、ね。

「でも、葉月って誕生日11月だっけ?」
「はぁ!!!何で葉月くん??」
「えっ、あんた葉月狙いじゃないの?あ、狙ってるのは葉月の方か」
「何それ?」
「だから、葉月があんたのこと好きなんだって。ひょっとして気付いてない?もう鈍いなー、桃花ってば」

けらけらと笑う奈津実。うそ、葉月くんがわたしを?なんで、どうして、だってカッコイイけど、わたし何もそんなそぶり見せたことないし、葉月くんだって。再び真剣な顔で奈津実が聞いてくる。なんでそんなに熱心なのよ。その熱意をどっか別の方向に活用した方がいいと思うよ、先生じゃないけど。

「でさ、相手誰よ」
「葉月くんじゃないよ」
「ふーん、じゃ、まさか鈴鹿?」
「ちがーう!!」

頭が痛くなるくらいぶんぶんと頭を振って否定した。ごめんね、鈴鹿くん。悪気はないのよ、ただそういう対象として見られないの。にしても今日の奈津実はやけにしつこい。どうしてそんなに熱心に聞くのよ。

「ごめん、今日夕飯作ることになってるからもう帰るわ。じゃあね」
これ以上いたらばれちゃう。だってきっと次は姫条くんは?三原くんは?守村くんは?ってどんどん男の子の名前が挙がっていって全部否定していったら、怪しまれるだけだもん。別に先生のことを好きなのは構わない、でも、バラす相手が悪い。だって奈津実は「打倒ヒムロッチ」なんだもん。絶対何かやらかしそうだもの。

そそくさと席を立ってわたしは引きとめる奈津実を置いて喫茶店を後にした。
はぁー、でもホント先生に何をあげたら受けとってくれるんだろう。
わたしだってみんなみたいに友達に相談したいよー。

はぁ、ちょっと担任の先生を好きになっちゃっただけなのになー。
こんなに大変だなんて……思ってもみなかったなー。
ねえ、れいいちくん。大変だよ。でもがんばるからね。



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