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fly me to the moon 第10回



たぶん、明日目が覚めたら僕は元の世界へ戻っているだろう。
同じ予感は昨日京都でも感じた。

修学旅行から戻った夜、さんと携帯でしゃべっていたら唐突にそんな気がした。
なぜなのかは全くもってわからないけれど、確かに僕にはそんな予感があった。




……さん、たぶん僕は……」
「戻っちゃうんでしょ、今夜」
「えっ?どうして判ったの?」
「昨日のお月様があまりにもきれいだったから、かな。そうだ……1週間楽しかった?若王子先生」

明るくおどけた調子で彼女は言う。だけどその声の向こう側にはほんの少し切なさが滲んでいる。
彼女からの質問に何と答えようかと少し考えたけれど、やっぱり返事はこれしかない。

「とても、楽しかったよ」
「そう、それはよかった。あなたがわたしの先生だったらどんな感じなのかな。あんまり学生とかわらないのかもしれないね」
「そうかな、こう見えても十分いい年なんですけど」
「うん、それはそうだ。あっちのさんのこと……好きですか?若王子先生」
「や、それは難しい質問だ」
「そうなの?」
「うん、同級生なら簡単に好きと言えるけど、担任と生徒ではそう軽々しく言えないですからね」
「そんなものなんだ」
「こう見えても大人ですからね、僕だって」
「そうでした」




携帯の向こうで彼女は何をしているんだろう。
僕はなんとなく大きな窓を開けて、ベランダに出た。見上げた夜空には昨日京都で見上げた丸い月が天上に掛かっていて、月明かりで星が少なく見える。
でも、それでも吸い込まれそうなくらいきれいなお月様だった。


「ねえ、窓の傍にいる?」
「うん、そう」
「外見える?」
「窓を開けて頭を出せばね」
「最後に……同じ夜空を見ていたい。ダメかな」
「ダメじゃない……わ。ダメじゃない」

「好き……だったよ」

















あ、れ、ココはどこ?僕は……えっと、えっと、あれ?


「あ、先生!」

ものすごく心配した声とともに僕の胸に暖かな重みが被さってきたのを感じて、パチリと目を開けた。
これは……一体?

「大丈夫ですか?何だか、あの後脳震盪を起こしたみたいで、全然起きてこないから死んじゃったのかと思って……」
「はぁ……、さん。勝手に僕を殺さないでくれませんか」
「あ、ご、ごめんなさい!!」

ゆっくりと周りを見回すと、どうやらここは保健室のベッドのようだった。
そして今いるのは教師の僕と高校生のさんのふたりだけのようだ。

「あの……先生どうなったんですか?」
「気を失っちゃったんですよ、ジャンプした後。ゆすっても頬を軽く叩いても起きないから、みんなでここまで運んで、わたしは心配だから座って見てたんです」
「そうですか……、それはごめんなさい」
「そうです、無理するからです」
「ますますごめんなさい。先生大人げなかったです」
「もういいです。生きていてくれたから許してあげます」


窓から見える太陽の傾き具合から言って、今はたぶん午後6時くらいか。と、いうことは僕はほんの数時間眠っていただけということになる。あれは僕の夢だったのか、それともたった数時間の間に向こうで1週間を過ごしたのか。さて、どういうことだろう。

ベッドの上から彼女の顔を見上げると、心なしか目が赤い。
まさか、泣いたの?僕のために心配して泣いてくれたのかもって、少しだけうぬぼれちゃってもいいのかな。



さて、そろそろ合宿の夕飯の時間だ。
何となくお腹が空いた。

「ところで、今日の夕食当番さんは誰でしょう?」
「はぁ!?」
「いや、その、先生お腹が空いたなーと思って」
「もう、しょうがないですね。ご飯に行きましょうか」
「はい、そうしましょう」


君が心配でそばにいてくたこの時間、僕は君と同級生で一緒に修学旅行に出かけました。
あれはそうだったらいいなと思っていた僕の願望が見せてくれた優しい夢だったのか、それとも本当に変な時間の狭間に落ち込んだのか。

まあ、どっちでもいいでしょう。とにかく僕にはとても楽しかったわけだし。

それに……僕はどうやら本当に君のことを好きになったみたいだし。

さん」
「はい?」
「9月の修学旅行、楽しみですね」
「まだ1ヶ月も先じゃないですか、先生」
「や、そうでした。そうだ、付き添ってくれたお礼に来週遊びに行きませんか?先生オススメの場所があるんです」
「えっ……それって……」
「はい、デートのお誘いのつもりです」



誰もいない保健室の扉の前で、君は真っ赤になって固まってしまった。
なんてかわいい反応。
でも、きっと僕もすごくドキドキしてる。だって、今僕は大好きな女の子をデートに誘ってるところだから。




ねえ、アクシデントから始まる恋ってあると思う?
君と偶然唇を合わせた時は、まだ何も感じていなかった。
むしろ、ふとした瞬間に僕を意識して固くなる君を不思議だと思っていた。
だけど今の僕はそういう恋の始まりもありだと思う。
でも、もっとありかもって思うのは、違う世界で過ごした君とまたもう一度同じ時間を過ごすこと。

あっちの若王子貴文は……、やめた。
僕は僕だ。
まだ簡単に一線を越えるわけにはいかないけど、好きだという気持ちはきっと偽れない。
だから、時々君を誘うよ、デートにね。



そして、卒業したらちゃんと恋愛をしたい、君と。

今の目標はとりあえず修学旅行で一緒に観光すること。そんな些細なこと、だけど重要なファクター。
だからもっと君を知りたい。これからもずっと。

この感情の名前は……in other words,I LOVE YOU.



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