K149. 市街気温の高精度観測、仙台(1)


著者:近藤純正・近藤昌子・近 将史・池田 翔・大戸道弘
仙台市街の代表的な道路において、4月~5月の晴天日中の気温を観測した。 気温の高・低は気象台の気温を基準とした気温差で表す。本報告では、 気温計に及ぼす放射影響の誤差は未補正の結果である。
ケヤキ並木の定禅寺通の気温は気象台より0.5℃程度低温であり、アーケード街 の中央通(クリスロード)は気象台より1℃以上の高温である。 なお、気象台の気温は榴岡(つつじがおか)公園の広い芝地の気温に比べて 0.4℃程度高温である。
今後は、定禅寺通の樹木の着葉・繁茂・落葉にともなう気温差の季節変化や、 アーケード街の熱収支などについて検討する予定で、本報告はその第1報である。 (完成:2017年5月16日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2017年5月4日:作成開始、4月28日の観測まで
2017年5月16日:5月12日までの観測を追加
2017年5月16日:図149.2と149.12、表149.1に加筆

    目次
        149.1 はじめに
        149.2 観測
        149.3 並木道「定禅寺通」の気温
        149.4  アーケード街「クリスロード」の気温
        149.5 付録(気温計の相互比較)  
        まとめ              


観測協力者(敬称略)
小森大輔
鈴木健斗

研究協力者・機関(敬称略)
東北大学工学研究科:風間 聡教授
東北大学理学研究科:山崎 剛准教授
仙台管区気象台
仙台市青葉区役所
仙台市宮城野区役所

気温観測データ
仙台管区気象台の1分毎気温データは気象庁観測部提供によるものである。


149.1 はじめに

本研究は日本の地球温暖化量を正しく評価する目的から始まったものであり、 観測所の環境が悪化すると「日だまり効果」によって平均気温が上昇すること など、観測環境と風速・気温の関係を調べてきた。その結果、平均気温は観測 地点の「空間広さ」に大きく依存することがわかった (「K121.空間広さと気温ー”日だまり効果”のまとめ」 )。

東京の北の丸露場のように、森林内に設置されている観測所では、観測環境は 風通りの良否を表す「見通し」と林床面に届く日射量を表す「木漏れ日率」 によって表される (「K141.自然教育園の林内気温」。)

大都市の観測所の環境が極端に変化した場合、例えばアーケード街、繁茂 した並木や高層ビル等による大気の加熱効果・日陰が広範囲に及ぶような場合 に気温の観測値がどのように変化していくか、これを定量的に明らかにする 目的で新しいシリーズ研究が始まった。本研究は、 「K147.市街気温の高精度観測ー模型都市」「K148.市街気温の高精度観測ー平塚」 に続くものである。

従来の不正確な常識にとらわれず、新しい視点による都市気候の研究であり, 近年深刻化した熱中症対策や快適な都市設計にも役立つものである。

仙台市内には独特の通りがある。道幅46mの定禅寺通は並木の大路であり、 その中央分離帯には並木の遊歩道があり気温観測を行うのに適している。 また、有名な七夕の竹飾りのできる天井が高くて長いアーケード街(中央通 のクリスロード)もある。さらに、歩道が広い晩翠通や東二番丁などもある。

定禅寺通
定禅寺通については、ケヤキの着葉・繁茂度と気温の季節変化を調べたい。 並木が密に繁茂すると上部層は日射を受けて高温、下層は低温の安定成層が形成 される。この安定成層が強くなり過ぎると汚染物質が拡散されにくく なり問題となる。

この通りにおける気温について、森林公園で得られた結果と同じか否かを確認 したい。図149.1は林内の日射量と気温差(=気温ー林外の広い芝地の気温) の関係であり、見通し良好か不良に分けて表してある。

見通し良好林すなわち風通しのよい林内では気温差は小さいが、東京の北の丸露場 のように見通し不良林では、晴天日中の気温は高温になる(緑の楕円範囲)。 また、樹木の葉面積が密になる密林では気温は1℃ほど低温になる(緑の円内)。

木漏れ日率と気温差
図149.1 木漏れ日率と気温差の関係、快晴または日射の強い薄曇り日 (「K141.自然教育園の林内気温の特徴」 の図1に同じ)。
黒丸印:見通し良好林、赤四角印:見通し不良林
上図:4~5月、赤と黒の塗つぶし印は前日が雨
下図:6~9月、赤塗つぶし印は大雨後の晴天日、緑と黒塗つぶし印は雨後の 晴天日
大きな緑楕円の範囲は、年間の北の丸露場の気温差に相当する。また、 大きな緑円の範囲は自然教育園の密な林内の気温差に相当する。


定禅寺通では、道路走向の方向は見通し良好な林内と同じであるが、走向に 直角方向は見通し不良つまり風通し不良である。総合すると、見通し良好・不良 の境目の環境にある。それゆえ、観測結果がどちらになるか?

アーケード街
アーケード街の熱収支は興味深い。すなわち、域外では太陽直射 光が概略 1000 W/m2 に対し、アーケード街では日射エネルギーは 100 W/m2の桁であり、天井からの長波放射量は50 W/m2 程度であろう。これら小さな熱収支条件にあるので、通行人による人体放出熱 (ひとり当たり150~200 W)も効いてくるに違いない。

こうした熱バランスのもとで、外部との間で熱循環が生じる。


149.2 観測

最近、気温観測用の高精度通風筒が市販化された。 「K126.高精度通風式気温計の市販化」; 「K146.高精度気温観測用の横型通風筒」 に比べて、その原型となった軽量の手製品を今回は用いる。

気温観測の方法
前報「K148.市街気温の高精度観測ー平塚」」で 示したように、高精度の通風式気温計を自転車のハンドルの軸に固定した伸縮棒 の先端に取り付ける。自転車を押しながら観測区間をゆっくり歩き、2~3時間 かけて10~20往復する。地上高度1.8m程度の気温を観測する。身体からの放熱の 影響を受けないように注意する。

図149.2は観測路の地図である。観測の全範囲は東西3km、南北1.5kmの中に 含まれる。表149.1は道路の詳細であり、各観測区間の長さは100~150m である。

地図仙台東西路
図149.2 仙台市内の地図、Google マップに加筆。
赤長方形:移動観測道路
丸印:公園の固定観測点
四角印:仙台管区気象台

表149.1 道路の一覧表、長さは観測する距離
道路一覧表


自動車が多い道路では、両側の歩道で観測し、その平均値を平均気温とする。 歩道では車道近くを歩く、または車道を移動する。

気温の記録と解析
気温は10秒間隔で記録し、30分間(180データ)ごとに平均気温を求め、異常値 など無いか確認したのち、最終的に2~3時間の平均値を1データとする。

快晴または快晴に近いときは、観測の全範囲内の日射量が同じ条件と見なされ るが、雲の多いときは場所ごとに日射量が大きく異なる可能性がある。それゆえ、 厚い雲の少ない日について解析する。また、風向・風速や気温が急変するような 場合、全範囲内で同時に急変するわけではないので、解析の対象外とする。

仙台管区気象台の値は1分間隔データから2~3時間の平均値をもとめる。

気象台の気温を基準として、各観測地点の気温差を次式で定義する。

気温差=気温ー気象台気温

とする。

備考:気象庁型気温計の放射影響による誤差
今回用いる高精度気温計に比べて気象庁型気温計用の通風筒は放射影響 を受けやすく、晴天日中は0.3~0.4℃ほど高温に観測される (「K99.通風筒の放射誤差(気象庁95型、農環研09S型」 )。

この放射影響の誤差を仙台管区気象台の気温計について調べたが、明確な 結果は得られなかった(付録を参照)。それゆえ、今回の解析では、放射 影響の誤差は補正せず、観測値を基準の気温として用いる。

市街地の状況
図149.3~図149.11は観測地点・道路の写真である。
西公園
図149.3 西公園。上:西方向(4月27日の風上方向)を撮影、下:北東方向を 撮影(2017年4月27日)。

勾当台公園
図149.4 勾当台公園、北西方向を撮影(2017年4月27日)。中央の樹木の上に 見えるのは仙台市役所庁舎。

作並街道
図149.5 作並街道、歩道橋から東方向を撮影(2017年4月28日)。

定禅寺通
図149.6 定禅寺通、西方向を撮影(2017年4月28日)。新緑の着葉が 一斉に始まる。

クリスロード
図149.7 中央通のアーケード街「クリスロード」(2017年4月28日)。

広瀬通
図149.8 広瀬通(2017年5月7日)。

青葉通
図149.9 青葉通(2017年5月7日)。

つつじが岡公園
図149.10 榴岡公園(2017年5月9日)。

気象台
図149.11 仙台管区気象台の露場(2017年5月9日)。
上:東から西方向を撮影(2017年5月9日)
下:西から東方向を撮影(2017年5月8日)

つぎに示す図149.12は5月8日15時から9日15時まで、気象台のルーチン観測用 気温計の両側に高精度気温計2台を並べて行った比較観測時の写真である。

並べた気温計間の距離が大きすぎた関係か、正しい比較観測はできなかった (付録を参照)。

比較観測
図149.12 気温計の比較観測の写真(2017年5月8日)。
S: 仙台管区気象台の気温計
K3: 高精度気温計K3
K4: 高精度気温計K4


149.3 並木道「定禅寺通」の気温

公園の固定観測点の気温
本観測に先立ち、公園の気温が地域を代表するかを確かめる目的で、榴岡 (つつじがおか)公園、西公園、および勾当台(こうとうだい)公園で気温を 観測し、気象台の気温と比較した。2017年4月27日の午前中は雲が多く太陽直射光 は弱かったが、正午前からしだいに日陰ができるようになった。

12時以後の観測結果は表149.2に示したように、広い芝地の榴岡公園は 気象台よりも0.45℃低温である。西公園はわずかながら気象台よりも0.19℃低温、 やや狭い勾当台公園は0.08℃低温である。ただし、気象台気温計の放射影響は 補正していない。なお、観測点の代表性に±0.1℃程度の誤差が含まれている ことに注意すること。

定禅寺通の気温
晴天日の3日間の観測によれば、定禅寺通の気温は気象台に比べて0.66℃、0.78℃、 0.24℃(平均=0.56℃)ほど低温である。この低温は、日陰の効果によるもので ある。

表149.2 晴天日における気温観測表
基準点気温観測値:気象台の観測値、放射影響の誤差は未補正
観測地気温差=各観測地点の気温ー基準点気温観測値
気象台風向・風速:測風塔高度52.6mにおける風向・風速
日射透過率:並木道またはアーケード街の平均日射量 / 域外日射量
東西路の気温差観測表

149.4 アーケード街「クリスロード」の気温

表149.2に示すように、アーケード街「クリスロード」の気温は、気象台に比べて 1.58℃、0.58℃(平均=1.08℃)ほど高温である。路面上の日射量は外部の12%で 小さいが、アーケードによって外からの風が入りにくく、高温に保たれる。

アーケードの天井の温度と高度1~2m付近の放射温度を比較した。 天井の温度について、5月7日(薄曇と快晴)は5~6℃高温、5月8日(快晴)は 6℃高温であった。
5月10日、雲で覆われ日射量が微弱の10時と13時の温度差はゼロに近い (0.7℃、-0.8℃)が、薄日の差した11時30分と12時には天井の温度は5℃ほど 高温になった。

この観測結果から、天井の温度は通行人の発熱量(熱気)による効果ではなく、 おもに日射によって決まると見なされる。これは通常の場合である。

しかし、多くの商店のドアは開いており、通行人も多く人工熱と人体発熱量は 無視できないと思われる。5月8日の10時~13時の時間帯における通行人密度は平均 13人/(10m×10m)であった。4月28日の通行人は計測していないが、5月8日の 2倍程度の多さであった。

8月6日~8日の七夕まつりでは大勢の通行人で賑わうので、自転車観測はでき ない。それゆえ、七夕専用の気温観測装置で観測する計画である。こうした観測 から、気温に及ぼす通行人の影響が評価できると考えている。

つぎに、並木道の定禅寺通の気温を基準にしたときのアーケード街の気温を 表149.3に示した。この表には、曇りがちの日(5月10日)も含めてある。

3日間のアーケード街の気温は、定禅寺通に比べて2.23℃、1.35℃、1.68℃ (平均=1.75℃)も高い。

表149.3 定禅寺通の気温を基準としたときのアーケード街の気温差の表
気温差:(アーケードの気温)-(定禅寺通の気温)
定禅寺通基準の気温差

今後の観測から、アーケード街の高温について、熱収支の観点から検討したい。

149.5 付録(気温計の相互比較)

この第1報では、おもに仙台管区気象台の気温を基準としたときの市街地の気温差 を調べた。観測に用いた高精度気温計と気象庁型気温計は形式が異なるので、 相互比較から気温観測値の違いを知っておかねばならない。

多くの観測露場の空間広さは、広い海面上のように無限に広いと見なすことが できず、数m離れただけで短時間の平均気温は異なる。比較的に広い農業環境技術 研究所(農環研)の露場でも80秒間移動平均気温は4m離れただけで±0.6℃の 変動幅がある(「K89.通風筒に及ぼす放射影響」の 図89.6を参照)。

図149.13は仙台管区気象台の気温計の両側に今回の観測で用いた高精度通風式 気温計(K3,K4)を設置し、相互比較を行った結果である。

上図によれば、5月9日の7~10時(横軸=31~34時)に気象台気温計の気温は 0.3℃ほど高くなっているが10~13時(横軸=34~37時)はゼロに近い。 しかし中図によれば、露場が十分に広くないことにより、地上付近の風は 渦巻きの状態と考えられ、30分間平均値でもK3とK4の気温差は±0.1℃前後もある。

したがって、今回の比較観測では、気温計相互の放射影響の誤差を明確に見出す ことはできない。気温計の並べ方が離れ過ぎていたことがその理由だろう。 それゆえ、本報告では放射影響の誤差は補正せずに解析した。

相互比較の誤差
図149.13 気象台気温計と高精度気温計の比較観測、プロットは30分ごと平均値。
上:気象台気温計の気温 S と高精度気温計の気温(K3とK4の平均)との差
中:気温計K3とK4の差
下:気温の時間変化(気温計K3とK4の平均)


まとめ

仙台市街の代表的な道路において、4月~5月の晴天日中の気温を観測した。本報告 では、通風式気温計に及ぼす放射影響の誤差は未補正の結果である。

(1)ケヤキ並木の定禅寺通の気温は気象台より3日間平均で0.5℃程度低温で ある。低温は主として日陰の効果によるものである。

(2)アーケード街の中央通(クリスロード)は気象台より2日間平均で 1℃以上の高温である。アーケード街の日射量は外部の12%で小さいが、 外部からの風が入りにくく熱交換が弱く、高温に保たれると考えられる。

アーケードの天井温度は、全天日射量(水平面日射量)が1000 W/m2 程度のときは地上気温に比べて5~6℃高温に、100 W/m2程度のとき は地上気温と±1℃程度の違いである。これは普段の通行人数のときである。

(3)1日間の観測であるが、定禅寺通に比べて広瀬通りは0.12℃高温、青葉通は 0.34℃高温である。

(4)榴岡(つつじがおか)公園の広い芝地の気温に比べて気象台は0.4℃程度 高温である。気象台の露場の空間広さがやや狭く「日だまり効果」による昇温と、 南側の舗装道路による加熱効果が考えられる。

(5)アーケード街「クリスロード」を除外すれば、各観測点の気温差は±0.5℃ の範囲内にある。

引き続き観測を行い、より詳しく調べていきたい。

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