K141. 自然教育園の林内気温の特徴


著者:近藤純正・菅原広史・内藤玄一
東京白金台の自然教育園の樹冠上の気温(地上19mの気温)を基準として、林内 気温(林床上1.5m)と北の丸公園内の観測露場の気温を比較した。前者を 「密な林内」、後者を林内の「開空間」の気温とする。

気温の基準値に比べて、晴天日には日中の気温差は開空間で+1℃ほどになるのに 対し密な林内では気温上昇は小さく、気温差は-1℃~-1.5℃(6月~10月) または、ほぼゼロ(12月~4月)となる。夜間の気温差は両者で違いは小さく なり、開空間のほうが0.15℃ほど高温である。したがって、密な林内に比べて 開空間の日平均気温は0.6℃ほど高く、気温日較差が大きい。ただし、高度1.5mの 気温である。晴天夜間の地表面温度は開空間の方が2~3℃低くなる。
要約すれば、地上気温は「風通し」と「日当たり」の良し悪しによって決まり、 大雨後など特殊な条件を除けば、場所による気温の違いは±1.5℃の範囲に入る (完成:2017年2月1日)。

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

これは、国立科学博物館「自然教育園報告」第48号(2017年6月頃発行予定) に掲載する論文の下書きである。


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更新の記録
2017年1月23日:素案の作成
2017年1月24日:細部の加筆・削除
2017年1月30日:細部に加筆
2017年2月1日:細部2か所を削除

    目次
        1 はじめに
        2 観測
        3 月平均気温の比較
        4 気温日変化の月平均値
        5 晴天日の気温日変化
        6 まとめ
        引用文献          


大手町の気温:大手町露場の気温は気象庁観測部提供による。

141.1 はじめに

森林内の気温については、正しく理解されていない。それには2つの理由がある。

理由の1として気温観測に誤差があること。現在、多方面で使われている 通風式気温計や自然通風式(非通風式)気温計は放射影響によって、晴天の 日中は高温に、夜間は低温に観測される。

風が弱い晴天時、自然通風式(非通風式)気温計では最大5℃以上の放射影響 の誤差が、ファンモータを使った通風式の比較的高精度といわれている 気温計でも0.3~0.5℃の放射影響による誤差がある (「K92.省電力通風筒」の表92.2、 「K99.通風筒の放射誤差(気象庁95型、農環研S型)」 )。

放射影響の誤差により、日当たりのよい林外と日陰の多い林内で観測すると、 林外の気温が高く表示され、相対的に林内はかなり低温だという常識が生まれる。

理由の2は、木陰の林内では体感温度が低いことによって先入観ができる。 また、日中の森林は蒸散によって大気を冷却するという、不正確な常識が 生まれている。通常の晴天日中の条件では、葉面は気温より高温となり大気を 加熱している。林内の低温は、おもに日陰の作用によるものである。

森林公園内が都市ビル街より高温となる例がある。東京都心部の気温は大手町 露場で観測されていたが、2014年12月2日から北の丸公園内の露場で観測される ようになった。森林公園内の北の丸露場では、3月~4月の晴天日中の最高気温 はビル街の大手町より平均1℃ほどの高温である (「K101.森林公園内の気温-北の丸公園と自然教育園」)。

北の丸露場は周辺の風通しが悪く、晴天の日中は「日だまり効果」 で都心ビル街よりも高温に、夜間は放射冷却が強く低温になる。

前記の不正確な常識を正し、林内の気温について理解を深めることは次の 諸問題に生かすことができる。
(1) 気象観測露場の環境維持
(2) 快適な市民公園の整備
(3) 森林の都市気候に及ぼす影響
(4) 森林の生態系に及ぼす影響

その目的のために、都心部の森林公園(新宿御苑、明治神宮、代々木公園、 北の丸公園)、つくば市内や平塚市内の森林公園で気温の観測を行なって きた。また、東京白金台の国立科学博物館附属自然教育園における観測として、 2014年秋から2015年2月10日までの観測(近藤・菅原・内藤・萩原、2015)と、 2015年3月12日から10月13日までの観測(近藤・菅原・内藤・萩原、2016) がある。

結果の整理
図1は、それらのまとめの一部である。縦軸は、森林に隣接する広い芝地広場 の気温を基準とした気温差であり、林内気温が芝地広場より高温のときを プラスとする。横軸の木漏れ日率は、林内の直射光が占める面積の割合である。 木漏れ日率は、観測点の周囲約20m範囲の目測値であり、雲量の観測に 似ている。最下段の横軸は日射量の比「林内日射量÷林外日射量」、 同じ横軸の木漏れ日率との関係が分かるように表してある (「K113.林内の日射量と木漏れ日率の測定」)。

図中のプロットは丸印と四角印で大別し、それぞれ見通し良好・不良を表す。 目の高さ(≒気温観測の高さ)で林内を水平にみたときの見通しの良し悪しに よって「見通し良好」と「見通し不良」とする。方位の50%以上の範囲の見通し が、おおむね30~50m以下の場合を「見通し不良」、おおよそ50m以上まで 見える場合を「見通し良好」と定義する。詳細は 「K121.空間広さと気温―「日だまり効果」のまとめ」 の「林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)」を参照のこと。

次の「林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)」 をクリックして参照し、ブラウザの「戻る」を押してもどってください。

林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)


図1によれば、気温差は見通し良好林では木漏れ日率>20%の範囲でゼロに近い。 しかし、見通し不良林ではプラスとなり季節によって大きく異なる。 4~5月には気温差は+0.8℃前後で大きいのに対し、 高温期の6~9月には+0.4℃前後で小さい。

いっぽう、木漏れ日率<20%の自然林に近い密な林内では、気温差は4~5月 には-0.5℃前後、6~9月には-1℃前後である。

ほかに、この図で注目すべきことは、特に密な林内(木漏れ日率<20%)では、 降雨の翌日の晴天の日中の気温上昇が小さく気温差は-2℃前後、通常より 1℃ほど低温である。 これは、雨後の林床下の土壌水分が増えて熱容量が大きいために林床面の 温度上昇が抑制されることによるものである。

大雨が続いた後に晴天が続いた場合、気温変化が元に復するまでの日数は 4~5日かかる(近藤・菅原・萩原・内藤、2016の図15; 「K117.自然教育園の林内気温(3月~10月)」)。

木漏れ日率と気温差
図1 木漏れ日率と気温差の関係、快晴または日射の強い薄曇り日 (「K115.新宿御苑の気温水平分布(2)」 の図115.3に緑の楕円と円を加筆)。
黒丸印:見通し良好林、赤四角印:見通し不良林
上図:4~5月、赤と黒の塗つぶし印は前日が雨
下図:6~9月、赤塗つぶし印は大雨後の晴天日、緑と黒塗つぶし印は雨後の 晴天日
大きな緑楕円の範囲は、年間の北の丸露場の気温差に相当する。また、 大きな緑円の範囲は自然教育園の密な林内の気温差に相当する。


図2は自然教育園の観測塔で観測された晴天日の気温鉛直分布の例である。 日中は樹冠層の上部が日射を受けて高温の極大となり、そこから上層の大気側 と下層の林床に向かって顕熱が輸送されていることがわかる。夜間は樹冠層 が放射冷却によって低温となり、日中とは逆に上層の大気から樹冠層に向かう 下向きの顕熱輸送が生じる。

林内の最下層では、昼夜ともに下ほど気温が低いことから、林床下の土壌層 へは顕熱(地中伝導熱)が昼夜ともに入ることがわかる。日中の林床では 日射量が林外に比べて10%以下であり、このわずかの日射量と顕熱が地中へ入り、林床下の 地中水分を蒸発させる潜熱のエネルギーとして使われる。

気温鉛直分布
図2 自然教育園の観測塔における晴天日の気温の鉛直分布 (「K125.自然教育園の林内気温、3月~10月」 の図13の一部分)。


本研究の目的
本研究の目的は、曇天・雨天も含む年間の条件について林内気温の特徴を調べる ことである。具体的には、見通し不良林の「開空間」と「密な林内」を対象と する。すなわち林内の「開空間」を代表する北の丸露場の気温と、自然林に近い 「密な林内」を代表する観測塔付近の林床上の高度1.5mの気温について調べる。

図1に描かれた大きな緑楕円は、北の丸露場に相当し太陽高度が低い条件も 含む範囲を示している。左方に描いた大きな緑円は自然教育園内の観測塔付近 の密な林内に相当する。

気温を比較する際の基準として、自然教育園の樹冠上(高度19m、 平均の樹高上端から5m)の気温を用いる。

この高度19mの気温は、東京都心部の芝地広場(新宿御苑の芝地広場、 明治神宮境内北部の宝物殿前の芝地広場、代々木公園中央広場、北の丸 公園の池の隣の芝地広場)の気温とほぼ等しいことから、都心部を代表 する気温とみなされる (「K116.東京都心部の代表気温-大手町露場の代表性 (完結報)」「K117.自然教育園の林内気温、 6月~10月」「K125.自然教育園の林内気温、 3月~10月」)。


2 観測

観測塔
東京白金台(JR山手線目黒駅の東500m)の国立科学博物館附属自然教育園 に高さ20mの観測塔がある。観測塔の位置は図3に示してあり、図中の 「開空間」、「開空間北」、「塔北20m」、「塔南50m」は前報で行った 観測地点である。

気温の観測は高度19.0m、15.6m、および1.5mの3高度で行った。高度1.5mの 気温計は、塔の下の観測小屋の影響がないように塔の南20mの地点に 設置した。

自然教育園の地図
図3 自然教育園の観測塔の位置(星印).
 塔北20m:観測塔の北20mの林内(ほとんど常緑樹)
 塔南50m: 同上の南50mの林内(落葉樹と常緑樹)
 開空間:旧管理棟跡地の空間(中央部近くに落葉樹)
 開空間北20m:同上の北20mの林内(落葉樹と常緑樹)


観測塔周辺の代表的な樹木は、「塔北20」の位置では高木スダジイ、亜高木 ヤブツバキ、トウネズミモチであり、木漏れ日率は年間を通じて小さい。 「塔南50m」の付近はコナラ林であり、木漏れ日率の季節変化が大きい。 観測塔の周辺は、密な自然林に近いとみなされる。

樹林の着葉が十分になる5月上旬以後の季節には、正午前後の林床上の 木漏れ日率は10%以下、すなわち、林床に届く日射量は林外日射量の8%以下 となる(「K113.林内の日射量と木漏れ日率の測定」 )。

観測塔周辺の樹木の平均的な高さは14mである(直近で16mの樹木もある)。

気温計
気温の観測では高精度の強制通風式気温計を用いた。この気温計の総合的誤差 (通風筒に及ぼす放射影響を含む)は0.03℃程度である (「K100.気温観測用の次世代通風筒」)。

センサーは白金抵抗体のPt1000オーム、受感部の直径は2.3mmを用いている。 気温のサンプリングは10分間隔である。気温観測用の通風筒のファンモータの 電源は12ボルトであり、AC100ボルトの電源にACアダプターを接続して 12ボルトとした。ファンモータの電流は、当初は省電力型の0.06A で あったが、長寿命ファンの0.24A の品に取り換えて使用した。


3 月平均気温の比較

全体的な傾向を知るために、月ごとの平均気温を表1と図4にまとめた。 参考のために、表1には東京の郊外を表すとみなされる府中アメダス(東京 農工大学の広い農場)とママ下湧水公園(国立市)の気温も含めてある (「K140.国立市ママ下湧水公園の気温(8~12月)」 )。

気温変化の特徴を見やすくするために、高度19mの気温を基準とした気温差 も示してある。なお、気温計のファンモータが故障した2016年5月の19m高度 の気温は推定値を示してある。

表1 月平均気温の比較(2016年5月の19m高度の気温は推定値)。
月平均気温の表


月平均気温の季節変化
図4 月平均気温の季節変化。下図は19m高度の気温を基準とした 気温差の季節変化である。 


図4によれば、ビル街の大手町の気温(紫プラス印)は4~10月には広域を 代表する基準値(19mの気温)より0.4~0.6℃ほど高温であり、冬に向かって ゼロに近づいている。日照時間が短くなり気温の上昇が抑えられるためと 考えられる。

北の丸露場の気温(赤丸印)は、基準値とほとんど同じであるが、10月から マイナスが大きくなるのは、露場周辺に日陰が多くなることによると考えられる。

密な林内の気温差(緑四角印)は、-1℃前後で、冬に向かうにしたがって マイナスが大きくなる。

高度15.6mの気温差(緑破線)は、全期間とも-0.2℃前後である。 図2に示した気温鉛直分布の関係が月平均値についても成り立っている。 この微小な気温差のマイナスは、大気から森林へ下向きの顕熱輸送が行われて いるという意味ではない。日中は樹冠から上の大気へ、夜間は逆方向の 顕熱輸送が生じる。熱フラックスを詳しく観測した結果によれば6年半の 平均値は、上向きをプラスとして顕熱輸送量=+2W/m2となり、 樹冠層から上向きの顕熱輸送がある (「K123.東京都心部の森林(自然教育園)における 熱収支解析」)。


4 気温日変化の月平均値

図5~9は偶数月ごとに示した気温の日変化である。各図の下段は高度19mの 気温を基準にして表した気温差である。各図の下段に注目して見ていこう。

林内の開空間に設置されている北の丸露場の気温差(赤丸印)について、 4月は正午前後には+0.7℃ほど、深夜から日の出頃にかけて-0.7℃ほどである。 6月と8月は4月の傾向とよく似ている。10月になると、1日を通じて気温差は 全体としてマイナス側にずれる。12月には、露場周辺は直射光が少なくなる ためか、自然教育園の密な林内(緑四角印)の気温に近づく。

4月平均
図5 気温の日変化の月平均値(4月)

6月平均
図6 気温の日変化の月平均値(6月) 

8月平均
図7 気温の日変化の月平均値(8月)

10月平均
図8 気温の日変化の月平均値(10月)

12月平均
図9 気温の日変化の月平均値(12月) 


密な林内(緑四角印)について、4月の日中の気温差はゼロに近いが夜間は -1℃ほどである。6月と8月は1日を通して-1℃前後である。これは落葉樹 も完全に着葉した季節であり、林床に日射がわずかしか届かなくなることに よると考えられる。大気が乾燥する10月には、樹冠上部層の放射冷却で冷えた 空気が重力によって林床に下降してくるためか、17~21時ころの気温差がマイナス で最大となる。12月になると、この傾向が顕著になり、17~21時ころ-2℃ 前後となる。

高度15.6mの気温差(緑破線)は、正午前後にゼロまたは+0.2℃程度の プラスとなるが、その他の時間帯は-0.2~-0.5℃の範囲内にある。


5 晴天日の気温日変化

日変化の特徴が顕著になる晴天日について図10~14に示した。晴天日とは北の丸 公園の科学技術館屋上における日照時間 ≥ 9時間とする。ただし1日の可能 日照時間が少なくなる12月のみ日照時間≥ 8.8時間とする。

前節と同じように、自然教育園の高度19mの気温を基準として気温差の日変化 を各図の下段に示した。

北の丸露場の気温差(赤丸印)は、どの季節も正午頃には「日だまり効果」 によって+1℃ほど高温になり、夜間は放射冷却によって-1℃前後の低温 となる。10月と12月は露場周辺は直射光が少なくなる関係か、夜間の自然 教育園の密な林内(緑四角印)の気温差に近くなる。

晴天4月
図10 晴天日の気温日変化(4月12, 15, 19, 20, 26, 29, 30日の7日間平均) 

晴天6月
図11 晴天日の気温日変化(6月2, 3, 10, 11, 18, 26, 27日の7日間平均)

晴天8月
図12 晴天日の気温日変化(8月5, 7, 17, 25, 26, 31日の6日間平均)

晴天10月
図13 晴天日の気温日変化(10月2, 15, 20, 24, 26日の5日間平均)

晴天12月
図14 晴天日の気温日変化(12月9, 11, 17, 28, 30, 31日の6日間平均)


自然教育園の密な林内(緑四角印)について、落葉樹がまだ完全に着葉して いない4月には、正午ころ林床の日射量は少ないながらも風が弱いことで気温差 はゼロまで上昇するが、夜間は-1℃程度となる。6月~8月は1日を通して気温差 は-1℃前後で変化している。

10~12月になると、大気が乾燥し樹冠層の放射冷却が強く、その冷気が林床に 降下し、16時以後は-1.5~-2.4℃の低温となる。

注意1:北の丸露場の気温計の誤差
晴天日中は、気象庁の気温観測用の通風筒は放射影響によって0.3℃ほど高温 に記録される。この誤差を補正すると、正午前後の+1℃は正しくは+0.7℃ となり、これまでの開空間で得られている図1の大きい楕円で囲んだ範囲の結果と 矛盾しない。なお、図1のプロットはすべて高精度の通風式気温計で観測された 値である。

注意2:基準とする気温の選定
図1において、晴天日中の日だまり効果による昇温量の平均値は、季節(気温) によって少し異なり+0.7℃(4~5月)、+0.4℃(6~9月)であった。 本解析の図10~14では、赤丸印で示したように、正午前後の気温差の季節 (気温)による違いはほとんど認められない。

その理由の一つは、基準とする気温は図1では芝地広場の気温を用い、 図10~14では樹冠上5m(林床上19m高度)の気温を用いた。この違いに よって気温差にわずかながら差が生じた可能性がある。

高温の夏期は、芝地に比べて森林の蒸発散が盛んで、樹冠上5mの気温が芝地の 1.5m高度の気温に比べて相対的に0.3℃ほど低温であると思われる。その結果、 今回の19m高度の気温を基準とした気温差が夏期に+0.3℃ほど高温になった と考えられる。

注意3:夜間の北の丸露場「開空間」と自然教育園「密な林内」の気温差
晴天日の図10~14において、夜間21時~6時の気温は北の丸露場「開空間」 が「密な林内」に比べて平均的に0.3℃ほど高温に表されている。北の丸露場 では土盛りとなっており、夜間は0.15℃ほど高温である (「K118.北の丸露場における夜間の気温鉛直分布」 )。この0.15℃を補正すると、露場下の同じ1.5m高度における気温は 自然教育園の密な林内の気温よりも平均0.15℃の高温となる。

要約すると、北の丸公園の開空間のほうが、自然林に近い密な自然教育園の 林内に比べて昼夜ともに高温である。前者は、晴天 日中には1℃(12月~4月)ないし2℃強(6~10月)の高温、晴天夜間は平均 0.15℃ほど高温となる。ただし、高度1.5mの気温の比較である。

北の丸公園の開空間が昼夜ともに高温になる理由は、(1)日中は林床の 日射量が相対的に多く林床面が高温になること、(2)その結果、日中に 蓄えられた地中熱が夜間の冷却を抑える働きをする。

注意4:夜間の地表面温度
上記は高度1.5mの気温が高温か低温かについて論じてきた。
地表面温度と地中温度はこの傾向と異なる。晴天夜間を想定すると、 開空間は天空が開けており、密な林内の林床からは天空がほとんど見えない。 そのため、地表面の放射冷却は開空間のほうが強く、地表面温度は低温と なる。「K101.森林公園内の気温-北の丸公園と 自然教育園」の図101.12によれば、開空間の地表面温度は林内の地表面 温度に比べて、2~3℃も低いことがわかる。


6 まとめ

東京白金台の国立科学博物館附属の自然教育園において、2016年4月~12月の 期間、観測塔の高度19mで観測した気温を基準として、林床上1.5mの気温 (「密な林内」の気温)、および森林公園内に設置されている北の丸露場 の気温(「開空間」の気温)を比較した。これらは、いずれも見通し不良林 であり、林床の木漏れ日率(日射量)の違いによる気温の特徴が 明らかになった。

本論では、「高度19mの気温」を「基準の気温」として、
気温差=気温-基準の気温
で定義する。

(1) 晴天の日中の気温差は「開空間」 の約+1℃に対して「密な林内」では気温上昇は小さく、気温差は -1℃~-1.5℃(6月~10月)ないしゼロに近い(12月~4月)である。

(2) 夜間の気温差は両者で違いは小さくなるが、開空間のほうが21時~6時 の平均で0.15℃ほど高温である。したがって、密な林に比べて開空間は 月平均気温(年平均気温)が0.6℃ほど高く、気温日較差が大きくなる。

北の丸公園の開空間が昼夜ともに高温となるのは、日中の林床に日射量 が多く届くことが主な理由である。

ただし、これらは高度1.5mの気温についての関係であり、地表面温度と 地中温度に関しては異なる。晴天夜間は、開空間の地表面の 放射冷却が強く、地表面の温度は密な林内の林床より2~3℃ほど低温になる。

今回の結果は、これまでに報告してきた前報の主な結果(図1、図2)と矛盾 しない。本報告は、林内気温のまとめであるので、これまでに得た主な結果も 以下にまとめておく。

(3) 開空間の北の丸露場では、晴天日中の正午前後の平均気温はビル街 の大手町より0.5℃前後高温となる(近藤・菅原・内藤・萩原、2016; 「K107.林内気温の日変化・季節変化、春~入梅期」 )。

(4) 高度19mの気温を基準とした林内の気温差は、地域代表の風速 (樹冠上の風速)に大きく依存し、昼夜ともに気温差は近似的に風速の逆数 に比例する。

(5) 見通し良好林では、場所による大きな気温差は生じず、密な林内でも 気温差は-0.5℃前後である。

(6) 特に密な林内(木漏れ日率<20%)では、降雨のあった翌日の晴天日中 の気温上昇が小さく、気温差は-2℃前後となり通常より1℃ほど低温である。

これは、雨後の林床下の土壌水分が増えて熱容量が大きいために林床面の温度 上昇が抑制されることによる。大雨が続いた後に晴天が続いた場合、元に 復するまでの日数は4~5日かかる(近藤・菅原・萩原・内藤、2016の図15; 「K117.自然教育園の林内気温(3月~10月)」)。

(7) 樹冠上で観測したボーエン比(=顕熱輸送量 / 潜熱輸送量)は気温 つまり季節によって大きく変化する。晴天日中のボーエン比は、15℃以下の 低温期に2~5、20~25℃で0.4~2、30℃以上の高温期に0.1~0.2となる。つまり、 森林から大気への顕熱輸送量は3月~5月に最大となるのに対し、蒸散量は6~8月 に最大となる (「K123.東京都心部の森林(自然教育園)における 熱収支解析」)。


引用文献

近藤純正・菅原広史・内藤玄一・萩原信介,2015.自然教育園内の気温. 自然教育園報告,第46号,1-15.

近藤純正・菅原広史・内藤玄一・萩原信介,2016.自然教育園内の気温. 自然教育園報告,第47号,1-22.


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