K99.通風筒の放射誤差(気象庁95型、農環研09S型)


著者:近藤純正
気温観測用の通風筒(気象庁JMA-95型と農環研NIAES-09S型)に及ぼす放射影響による 気温観測の誤差を調べた。両者とも晴天日中は最大 0.3~0.4℃高めに観測されることが わかった。 これら通風筒は、吸気口下端部をつくる部材の断面積が大きく、地表面からの放射熱(地面反射光 と高温地面からの長波放射)を受け、その熱が顕熱となり昇温した空気が温度センサーに 吸引される。この昇温効果を少なくするために、吸気口はラッパ構造の流線型にすると ともに、昇温空気は外筒・内筒間を経て排気されるように改良した。

とくに農環研NIAES-09S型は微風時に排気の下降風成分が吸気口から再循環するので、 下降風防止板を付けた。これらの改良によって、通風筒の放射影響による誤差をそれぞれ 0.05℃以下(気象庁95型大改造)、0.15℃以下(農環研型簡易改造)にすることができた。 農環研型も通風部を大改造すれば、誤差はさらに小さくすることが可能である (完成:2015年01月10日)。

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2014年12月30日:素案の作成
2015年1月2日:備考4を加筆
2015年1月5日:基準通風筒を備考2で説明する
2015年1月10日:完成


  目次
      99.1 はしがき
      99.2 放射影響の誤差の定義
      99.3 試験器と温度センサー
      99.4 放射影響の試験
   99.5  通風部の改造と試験
   99.6  通風部の作り方
     まとめ
     参考文献


99.1 はしがき

すでに報告したように、気象庁観測所で用いられている気温観測用の通風筒は放射の影響を 受けて、日中は0.3~0.4℃ほど高めの気温が観測される(「研究の指針」の 「K84.観測露場内の気温分布-熊谷」の図84.4; 「K88.江川崎の最高気温41℃は本物か?(2)」の図88.6)。

気象庁JMA-95型の構造を見ると、吸気口には漏斗状金属板が取り付けられ、その下方にも 小さな漏斗が付けられている。これら大小の漏斗は、日中は地面からの日射の反射光と 高温地表面からの長波放射(目に見えない赤外放射、熱放射)を受けて高温になる。 これら放射熱は顕熱に変換されて吸引空気は昇温し、温度センサーは高めの気温を観測 することになる。したがって、放射影響による誤差を小さくするには、最初に、これら 漏斗構造は取り外す必要がある。

一方、農環研(農業環境技術研究所)が開発した安価に作れるNIAES-09型やNIAES-09S型 は気象庁式と比較して遜色ない性能をもつとされている。気象庁式と比較した図が示されて いて、全天日射量が大きいとき農環研式は0.20℃ほど低め、夜間は0.15℃ほど高めとなって いる(福岡・桑形・吉本、2010)。

つまり、気象庁式は放射影響により日中高め、夜間は低めになるので、農環研式は気象庁式 よりも放射影響による誤差が小さいように読み取れる。このことから、「農環研式は気象庁 式よりも高精度である」という評判になる。

しかしながら、両者の比較は気象庁測器検定試験センター露場で2009年の7月30日~10月 12日に、通風筒間の水平距離が8.7mも離れて行なわれている。通風筒間の距離が大きい 場合、気温の空間的なムラにより両地点は等温であるとは限らない。南寄りの風が多い 晴天日中は舗装道路からの影響、他の風向時は森林からの影響の受け方が2点間で異なり、 彼らの結果に誤差が含まれている可能性がある。

今回、試験のために新規購入した農環研式NIAES-09S(約2万円、日本テクノサービス販売) の構造を観察すると、2重の通風筒から構成され、吸気口は外筒と内筒の水平レベルが ほとんど揃っており、しかも内筒下端はラッパ構造ではなく、水平面を切断した形状で、 その断面部材(塩ビ管と断熱材)が地面反射と高温地表面からの長波放射を全面的に受ける 形状である。そのため、吸気口下端の断面部材で昇温した空気が温度センサーに吸引されて 気温が高めに観測されることになる。

さらなる欠点は、ファンモータからの排気流は下降成分をもち、微風時に吸気口から再循環 する。ファンモータの運転中、通風筒脇に手の平をかざすと下降風が認識できる。

本章では、いろいろな条件(快晴、曇天、降雨時、及び微風時とやや風が強い時)について 両通風筒について試験し、放射影響による誤差を知るとともに、具体的な改造を行なう。

備考1:湿度計用の通風筒
気象庁95型の通風筒には気温センサーと湿度センサーの両方が含まれ、気温と湿度を同時に 観測するようになっている。1つの円筒形通風筒内に2つの吸気口があると、吸引空気の 流れが複雑になり、放射の影響を小さくすることが難しくなる。

したがって、誤差0.1℃以下を目的とする次世代の通風筒は、気温センサー用と湿度センサー 用に分けることが望ましい。2つの通風筒に分けた気温・湿度計はすでに存在し、例えば、 「K89.通風筒に及ぼす放射影響-農研用通風筒」の図89.2に 示した通風筒がある(プリード社製、 PVC-04)。


99.2 放射影響の誤差の定義

放射影響の誤差とは、放射(日中は日射、夜間は大気放射)による気温観測の誤差を意味し、 次式によって定義する。

放射影響の誤差=(通風筒内気温センサーの指示値)-(基準通風筒2台の平均値)

基準に用いる基準通風筒2台(K1とK2)は放射による影響がほぼ無視できる気温計である。 これらは試験器と並べて設置した。数m範囲内であっても気温には空間的な違いがあるの で、K1とK2の違いが大きいときのデータは不採用とする(後掲の図では、参考のために、 塗つぶし印で表してある)。

備考2:基準通風筒
K1とK2は4重の通風筒構造の気温計である(「K92.省電力通風筒」 の図92.16)。これらに用いたファンモータは山洋電機製の標準ファン(San Ace 92、 型番109P0912H402、2,300円)、定格電圧=12V、定格電流=0.21A、定格入力=2.52W、 最大風量=1.45m3 /minである。ファンの外枠四角形の寸法=92mm×92mm、 回転部直径=82mm、 厚み=25mmである。

通風筒の排気部(ファンモータ部)の後方に白色プラダンで作った雨除けがあり、 観測しないとき雨除けは折畳んでダンボール箱に入れて運ぶことができる。すでに、 室戸岬などで観測に使用したものである。



不完全な通風筒を用いた気温観測では、日中は太陽直射光のほかに、天空・雲の散乱光、 地面反射光、および加熱された地表面からの長波放射(長波放射、赤外放射)によって、 気温は高めに観測される。地上における晴天日中の太陽直射光は概略1000W/m2 程度、地面反射光は概略200W/m2 前後、地表面が気温より20℃高温のとき、 下からの長波放射の正味量は概略100W/m2 である。

夜間は下向き大気放射(目に見えない長波放射、赤外放射)と冷却された地表面からの 長波放射によって気温は低めに観測される。晴天夜間には気温より概略20℃低い温度が出す 黒体放射量に相当する天空からの下向きの長波放射があり、通風筒に入る正味放射量は マイナス100W/m2 程度である。

気温のサンプリングと平均値
次節でも説明するように、基準に用いる通風式気温計(K1とK2)の気温センサーの検定誤差 は±0.02℃であり、試験器に用いる気温センサーも同形式のA級Pt1000オームである。

気温は20秒間隔でサンプリングし、各1時間の平均気温について比較する。すなわち、 放射影響の誤差は1時間間隔で求めた。各1時間のデータ個数=60×3=180である。晴天日中 において、互いに4m離れた2点間の気温差の時間変動の標準偏差σは0.25℃程度である (「K89.通風筒に及ぼす放射影響-農研用」の図89.5)。 それゆえ、データ個数Nの少なさから生じるばらつきの誤差をσ/√Nによって見積もると、 0.25/√180≒0.02℃程度となる。

後掲の試験結果の図において見られるプロットのばらつきは±0.02℃程度あるが、 これはデータ個数180から生じるものであることをあらかじめ理解しておこう。また、 気温センサーの検定誤差も±0.02℃であるので、試験結果にこの程度の違いが生じても 問題にしなくてよい。

99.3 試験器と温度センサー

試験に用いる通風筒は次の2種類である。

気象庁のJMA-95型:ファンモータ12V、12W
農環研のNIAES-09S:ファンモータAC100V、14W


本試験において、これら通風筒内に取り付ける温度センサーは立山科学工業社製の A級Pt1000オーム、3導線式、受感部直径=2.3mmである。本試験で用いる温度センサー は厳密に検定されたものであり、誤差は±0.02℃程度である (「K69.気温観測用 Pt センサーの安定性と器差」と、 「K91.Ptセンサーの検定(比較検定)」を参照)。

通常用いられている温度センサーの直径は6mm以上のものがある。直径が大きいほど放射 の影響が大きく誤差は大きくなる。放射影響の誤差は3つの成分からなり、日中は、

(1)通風筒吸気口の部材で加熱された空気がセンサーに直接流れてくる影響
(2)加熱された通風筒の内壁面からの長波放射による影響
(3)吸気口を通して入射する地表面からの放射をセンサーが直接受ける影響

各成分の通風速度との理論的関係は次の通りである。

(1)について、加熱空気は通風速度に比例して流れ去るので、誤差は風速に逆比例 して小さくなる。なぜなら、吸気口付近が吸収した放射エネルギーは顕熱として風によって 流れ去ることで吸気口温度は準定常に保たれており、放射条件が一定であれば、流れ去る 顕熱エネルギーは一定で、その空気の温度は流れ去る風速に逆比例するからである。 この誤差は、センサーの大きさにほとんど依存しない。

(2)について、日射によって通風筒外壁が高温になり、その熱伝導で高温になった 内壁がセンサーに及ぼす放射影響は、センサー回りの風速がある程度大きい時、風速の 平方根に逆比例して小さくなる。ごく大まかに、センサーの直径が3倍になれば誤差は 約1.5倍になる(「大気境界層の科学」の図3.4;「K16.気温の観測 方法」の図16.3)。

(3)については(2)と同様に、センサーの大きさと風速に依存する。

したがって、本試験で使用したセンサーの直径2.3mmより大きいセンサーを観測に用いた 場合、放射影響の誤差は大きくなる。

99.4 放射影響の試験

ここでは3週間の試験を行なう。

まず、2014年11月24日から7日間行なった試験の結果を図99.1に示した。横軸の24時付近を 見ると、真夜中の曇天時であるにもかかわらず、特に農環研式は0.1℃ほど高めになって いる。この夜は微風であり、ファンモータからの排気の下降成分が吸気口から再循環して 気温が高めに観測されたと考えられる。後で下降風防止板を取り付けて改良することになる。

次の夜の横軸=42~48時付近では風が強く降雨中であり、縦軸で表す誤差はほぼゼロである。

11月27日の正午前後(横軸=84時)は快晴で気象庁95型は0.3~0.4℃の誤差、農環研式は 0.2~0.3℃の誤差となっている。11月30日の正午前後には両通風筒とも0.3~0.4℃の誤差 である。

以上の7日間の試験から、両通風筒の最大誤差は0.3~0.4℃と見なされる。

放射影響の誤差
図99.1 放射影響による気温観測の誤差。塗つぶし印は基準に用いた2つの通風式気温計 (K1とK2)による気温差の絶対値abs(k2-k1)が大きい場合であり、無視してよいが参考の ために示してある。塗つぶし印は放射影響の誤差<0.1℃範囲でabs(k2-k1)>0.03℃、 0.1~0.2℃範囲でabs(k2-k1)>0.04℃、0.2~0.3℃範囲でabs(k2-k1)>0.06℃、 0.3~0.4℃範囲でabs(k2-k1)>0.10℃である。

99.5 通風部の改造と試験

この節では、通風筒をどのように改造すればよいか、試験しながら考察する。

気象庁95型の改造
通風筒は通風部(吸気筒:吸気口から排気部への接続具まで)と排気部(ファンモータ含む) から構成される。図99.2は気象庁95型の通風部の写真である。

吸気口で集められた外気が円筒の中心に吸引されて温度センサーに向かう。その際、 漏斗構造で吸収された放射熱(地面反射光と高温地表面からの長波放射)は顕熱となり 吸引空気を昇温させることになる。

95型通風部
図99.2 気象庁95型の通風部の写真。
左:上から見た写真、真ん中の2重円筒の中に温度センサーが挿入される。その左の大きな 穴は湿度センサーが入る。他の3つの小穴は通気口である。
右:下から見た写真、大小2つの漏斗構造で集められた空気が円筒の真ん中へ吸引されて 温度センサーへ向かう。


いろいろな改造を試みながら行なった試験の結果は後掲の図99.7、99.8に示してある。

以後の試験では、排気の再循環を防ぐために「下降風防止板」を付けて行なう(図99.3)。

各種試験では、吸気口付近が天空からの日射で温められる影響を調べるために吸気口下端 から50mm上方に「直射除け小円板」を付けた試験も行なったが(図99.4)、これによる 改善効果はほとんど見られなかったので、改良型では「直射除け小円板」は付けない。

下降風防止板
図99.3 気象庁95型に「下降風防止板」(白色のプラダン)を付けた改造通風筒。通風部は 図99.2で示した構造を取り外し、替わりに塩ビ材(灰色の円筒)で作ってある。その詳細は 99.6節で説明する。

直射除け小円板
図99.4 通風筒の下端付近の外壁面が上からの日射で温められないようにするため、吸気口の上50mmに 一時的に「直射除け小円板」(白色のプラダン)を付けた写真。


農環研NIAES-09S型の改造
(1)気象庁95型と同様に、排気の再循環を防ぐ「下降風防止板」を取り付けた。

(2)吸気口断面をラッパ構造の流線型に改造する。図99.5の左に示すように、吸気口下端 部をつくる部材の断面積が大きく下からの放射熱(地面反射光と高温地面からの長波放射) を受ける構造であり、しかも吸気口付近で乱流が生じやすい。乱流が生じると、吸気口の 部材で温められた空気が通風部の内筒一面に広がって温度センサーの方向へ吸引されやすく なる。

右図に示すように、吸気口下端の水平断面積を小さくし、吸気がなめらかに内筒へ吸引 されるように改造した。すなわち、温められた空気の大部分は外筒と内筒の間を上昇させる とともに、内筒先端付近で温められた空気は内筒壁面に沿って上昇するようにした。

農環研通風部模式図
図99.5 図99.5 農環研NIAES-09S型の通風部の模式図。
左:原型
右:改良型

農環研通風部写真
図99.6 農環研NIAES-09S型を改良した通風部の写真
左:外筒の延長円筒(白色円筒)を取り外した写真
右:外筒の延長円筒を付けた写真


改造型の試験
図99.7は改良型の試験結果である。ただし、上図(気象庁95型)は各種試験を含んでいる。 下図(農環研09S型)は上述した改造であり、放射影響の誤差の最大値は0.15℃程度と 見なされる。農環研09S型の誤差を0.1℃以下にするには、原型の内筒を使用せずに、 後述の気象庁95型の改造型の内筒とほぼ同じにする必要がある。

備考3:農環研式の大改造について
上記の小改造では、誤差の最大値は0.15℃あり、これよりも小さくするには、通風部の 大改造が必要となる。筆者・近藤の提案による大改造を行なってくれるかどうかについて 販売店に問い合わせたところ、「弊社では基本的には福岡・桑形・吉本(2010)の論文を 基にNIAES-09およびNIAES-09Sの組立用部品、組立完成品を供給しておりますので、 論文の内容から外れる加工につきましては、お受け致しかねます。」との回答があった。 したがって、精度を上げるには、使用者自らが大改造しよう。なお、この通風筒に使用して いる二重排気管W17L145(製造元:東北綜合器材)は製造・販売を中止したとのこと。 従って使用者が通風筒を材料費1万円あるいは5千円以下で作るには、掲載予定の次章 「K100. 次世代通風筒」を参考にされたい。


図99.7(上)について、横軸の時間の順序にしたがって見ていこう。各種試験を行なうこと によって、吸気口付近で温められた空気が温度センサーの方へ吸引されずに、外筒と内筒 の間を吸引されるように改良すべき原理が理解できることになる。

まず、12月2日に吸気口の大・小の漏斗構造を取り外して試験を開始した。12月3日の日中 は戸外の風速が強いにもかかわらず、放射影響の誤差は0.7℃もある。3日19時に内筒に 用いられているステンレス2重構造を断熱のよい塩ビパイプに取り換え、5日14時に内筒を 塩ビの2重構造に取り換えたが、日中の誤差は0.8~1.2℃と大きい。つまり、通風部外筒 の原型を用いる限り、内筒壁の断熱をよくしても改善できない。

この大きい誤差が生まれる原因は何か?
95型の通風部の原型(図99.2)において、吸気口の大・小の漏斗構造を取り外した場合、 外筒上端面には湿度センサーの穴と3つの小穴があるだけで、外筒・内筒間を吸引される 流量は少なく、吸気口付近で温められた空気はよどみ、その温風は内筒に吸引されて気温 センサーに向かう。したがって、誤差を小さくするには外筒・内筒間の通風速度を大きく して温風の大部分をすばやく逃すようにしなければならない。

改良後の誤差
図99.7 改良した通風部の試験結果、塗つぶし印はabs(K2-K1)>0.05℃
上:気象庁95型、各種の試験を含む、最後の11月6日に大改造
下:農環研09S型


この原理に基づき、11月6日16時30分に通風部の原型(図99.2)を取り外し、その代替品と して図99.3で示した塩ビ管の2重構造の通風部に取り換えた(図99.7上では「95型大改造」 で示してある)。この大改造通風部は、吸気口がラッパ構造の流線型であり、内筒先端は 外筒先端より20mm奥に入った構造である。

その結果、6日17時以後の誤差は飛躍的に小さくなった(図99.7上)。この続きの試験は 次の図99.8に示される。

95型大改造後の誤差
図99.8 気象庁95型大改造の7日間試験。


大改造後の図99.8を見てみよう。12月8日~13日までの様々な天気条件において、日中の 誤差の最大値は0.06℃である。12日17時から翌日15時まで、吸気口の上50mmのレベルに 「直射除け小円板」の傘を付けたがほとんど効果は現れていないので、傘は付けないことと する。

13日の15時に吸気口に簡単なガイドを挿入した(接着材を使わず塩ビの弾力で外筒の内壁面 に固定)。ガイドは図99.10(右)の褐色の塩ビ材(たて樋の円筒)で作ってある。 このガイドは吸気口付近で生成された温風がセンサーのほうへ吸引されないように流れを 外筒・内筒の間に導く役目をするものである。

ガイドを挿入することによって、13日15時以後の誤差はほとんどゼロになった。プロットの ばらつき±0.02℃は節99.2「放射影響の誤差の定義」の「気温のサンプリングと平均値」 で説明したサンプリング数(N=180)の少なさから生じた±0.02℃と、これと同程度の 検定誤差±0.02℃によるもので、問題にしなくてよい。

備考4:新しい基準通風筒
本章では、大改造後の試験は1日間のみ示したが、その後、試験を繰り返して検討した 結果、大改造した通風筒(ガイド付き)は今後、基準通風筒として用いることができる。 つまり、従来の4重通風筒(ヤング式の大改造通風筒も同様)は、構造がやや 複雑なうえ、センサー回りの空間が狭く、3カ月以上使用した場合、ゴミ類を 除去するための分解掃除を行なわねばならないという欠点がある( 「K97.ヤング式通風筒ーファンモータ交換」の97.3節「分解掃除」を参照)。

今回の2重通風筒(ガイド付き)は設置した状態でも掃除が可能で、センサー回りの空間が 広く付着するゴミが少なくなる。それゆえ、他の通風筒の放射影響を調べたりする場合の 「基準の通風筒」として用いることができる。


2重通風筒形式による長時間試験は次章「K100.気温観測用の 次世代通風筒」で詳しく示す予定である。

次章では、製作を簡単化した通風筒の作り方も説明し、省電力の0.06Aのファンモータを 用いる通風筒の試験が示される。

99.6 通風部の作り方

通風部(外気を吸引する放射除けの吸気部:気温センサーが中程にある)は、ホーム センターで入手できる材料を用いる。その作り方は図99.9~図99.11に示した。

内筒と外筒は別々に作った後、内筒の上端付近に接着した羽を外筒の上端に接着する。 材料は雨どいに使う塩ビのたて樋と、水道用(肉厚の上水用と、肉薄の排水用)の塩ビ管 である。塩ビ用の接着剤(業務用100グラム:1缶259円)を使って固定できる。

内筒を作る順序
図99.9 内筒を作る順序。
左:白色の塩ビ管(たて樋:外径42mm、肉厚1mm)を熱して引き延ばし、灰色の 塩ビ管(水道用:内径25mm、肉厚3.5mm)の外側に被せるように加工する。
中:流線型に加工した白色の塩ビ管を灰色の塩ビ管に被せて断熱をよくした内筒。
右:内筒を外筒の内壁に固定する羽(4枚)を内筒上端に切り込みを入れて接着する。

通風部組立順序
図99.10 通風部の組み立て順序。
左:左から順に内筒、ガイド、外筒(排水用塩ビ管:外径=75mm、肉厚=2mm)の部材、
右:ガイドの仕上がり、羽の端は外筒に差し込みながら不要部分を切り取る。

通風部完成図
図99.11 通風部の完成図。
左:上から見た写真
右:下から(吸気口)見た写真、外筒・内筒の吸気部先端はラッパ構造、肉厚の薄いガイド は先端両面を尖らせてある。完成後、外筒の外側にアルミ泊接着の断熱材を巻く (SANYUのアルミフォーム、あるいは小久保工業所のアルミ押入れシート:ポリエチレン・ PET・アルミ蒸着、0.9m×3mの広いシートはホームセンターで入手、0.9m×1.4mの狭い シートは100円ショップで入手できる)。

まとめ

気温観測用の通風筒(気象庁JMA95型と農環研NIAES-09S型)について、放射影響による 気温観測の誤差を調べた。両通風筒とも、晴天日中の誤差は0.3~0.4℃である。とくに、 農環研NIAES-09S型は、微風時に排気の下降成分が通風筒内を再循環し気温が高めに観測 されるので、「下降風防止板」を取り付ける必要がある。

本試験では下降風の再循環による気温上昇は曇天夜間に0.1℃であったが、条件によっては、 0.4℃程度になりうることに注意したい(「K90.通風筒(ノースワン 社製)に及ぼす放射影響」の図90.4を参照)。

放射影響には、(1)通風筒吸気口の部材で加熱された空気が気温センサーに直接流れて くる影響と、(2)加熱された通風筒の内壁からの長波放射による影響がある。 前者(1)の影響を小さくするには、外筒と内筒の間の通風速度が弱くならぬよう設計・ 製作しなければならない。

具体的には、吸気口先端部材の断面積を小さくするとともに、ラッパ構造の流線型にする ことである。流線型にすることによって、通風筒内の乱流を抑制し、吸気口で生成された 温風が通風筒の内壁面に沿って排気部へ逃し、気温センサーの置かれている中心部に吸引 されにくくする効果がある。

誤差をさらに小さくするには、吸気口付近で生成された日中の温風が内筒へ吸引されにくく するための簡単な「ガイド」も取り付けることである。

これらの改造を行なえば、放射影響の誤差はほとんど無視できるようになった。本章では、 3週間の試験を行なったが、経験できなかった条件(完全無風、地表面温度が異常高温に なる強放射条件、地面アルベドが非常に大きいとき)もあるので、結論として誤差は概略 0.05℃以内に収めることができたとしておきたい。

参考文献

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、pp.219.

福岡峰彦・桑形恒男・吉本真由美、2010:低コストで高精度の気温測定を可能にする 強制通風筒.農業環境技術研究所、平成21年度研究成果情報(第26集).

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