平成19年指定文化財

更新日 2013-03-03 | 作成日 2007-10-08

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礒野家歴代肖像 12幅
附 礒野家由緒書 礒野家系譜 2冊

有形文化財・絵画
福岡市中央区 個人蔵
 

概要

【法量/cm・形態等】
1. 一代   慶西居士肖像(藤左衛門慶親)         99.5×35.0 絹本著色 掛幅装
2.  二代  宗心居士肖像(孫右衛門慶)          102.2×43.0 絹本著色 掛幅装
3.  三代  本誓院釋普法慶心居士肖像(七兵衛慶永)     99.5×38.4 絹本著色 掛幅装
4.  四代  慶俊居士肖像(七兵衛慶珍)           101.0×38.6 絹本著色 掛幅装
5.  五代  淨光院釋普齋圓鏡居士肖像(孫左衛門増)    102.3×39.3 絹本著色 掛幅装
6.  六代  暁空院釋薫風梅雪居士肖像(七兵衛獲)      99.8×39.1  絹本著色 掛幅装
7.  七代  性海院釋徳本淨相居士肖像(七右衛門昭)    102.2×39.2 絹本著色 掛幅装
8.  八代  眞成院釋至徳慶信居士肖像(藤左衛門慶信)  101.1×39.1 絹本著色 掛幅装
9.  九代  深禅院釋進道了國居士肖像(七兵衛慶直)     93.9×38.6 絹本著色 掛幅装
10. 十代  釋徳寳暢典居士肖像(七十郎親久)      102.9×39.3  絹本著色 掛幅装
11. 十一代 道元院釋斉徳心念居士肖像(七平親保)    91.0×40.8  絹本著色 掛幅装
12. 十二代 普摂院殿釋明淨潤徳大居士肖像(七平保慶)  99.6×40.1  絹本著色 掛幅装

    附   『礒野家由緒書』                 24.0×17.5 墨付110丁
    附   『礒野家系譜』江島茂逸編輯      16.3×19.0 61頁 
                       明治37.9.30発行  

 

指定理由

 博多鋳物師として知られる礒野家の歴代肖像画です。代々、七兵衛、七平を襲名しました。近世博多商人を代表する商家として一族のものは博多年行司も勤め(『博多津要録』元文2.9.1)、第11代磯野七平は第2代福岡市長(明治26.1〜同27.12)を務めました。上土居町(現冷泉公園)の居宅・工場の面影は、明治18年(1835)の『筑紫国名所豪商案内記』に画かれた「鍋釜鋤鑄造商博多上土居町 磯野七平」「磯野七平 鑄造場之圖」に窺うことが出来ますが、昭和20年(1945)6月19日の福岡大空襲により同家の史資料の多くは焼失しました。
 初代・5代・7代の肖像の着賛は文化11年(1814)、亀井南冥実弟の崇福寺住持曇栄(1750〜1816)の賛、3代肖像の着賛は文化13(1816)、聖福寺仙がい(1750〜1837)の賛であることから、文化年間(1804〜1817)頃に初代にさかのぼり歴代肖像肖が作製されたもののようです。但し、4代肖像は崇福寺大嶺宗観(明和7年・1770没)の賛から明和1年(1764)の作製と考えられ歴代肖像中最も古いです。
 2代・8代ま絵師は福岡藩のお抱え絵師である衣笠守由(天明5年・1785〜嘉永5年・1852)の筆です。
 6代肖像には右下に絵師印が捺してあるが印文不詳です。
 10代・11代肖像は極めて写実的です。一見、画幅の中で宙に浮いたような感じさえします。11代肖像については第2代福岡市長となった礒野七平の写真が残っており、それと比較する時瓜二つの印象がします。写真を何らかの形で絹本に投影あるいは転写拡大して彩色を行ったのではないかと想像されますが、具体的な技法は不詳です。
 礒野家は早くは寛永年間の島原の乱で石火矢の玉鋳造に従事し、その功を藩から永く賞誉され保護を受けました。
貞享四年(1687)、「木葉鋤」「力金」と称した小鋤の製造の独占権を得、元禄12年(1699)に定められた国中の釜屋座・鉄問屋十戸の一人ともなった。明和年間(1764-1771)には鞍手郡犬鳴山の御仕立炭山元〆を勤めるなど、鋳物師家としてまた御用聞町人としての磯野家の活動は江戸初期から幕末・近代に至るまで諸書に散見されます。
 2代肖像は鍛冶士の正装を想わせるものです。5代目以降の帯刀は、5代礒野孫左衛門が明和2年(1765)に犬鳴炭山御仕組元〆役を仰付けられ、同所における帯刀を許可されたことを反映するものと考えられます。
 本歴代肖像画には寿像はないと考えられますが、服製等に関しても充分な考証を下敷きにして作製されたものと思われます。
 藩政初頭以来、博多の町人を代表する位置を占める礒野家の歴代肖像として、『礒野家由緒書』『礒野家系譜』とあわせ見る時、本歴代肖像は絵画上のみならず貴重な歴史資料としての価値をも有します。