updated Sept. 11 2001
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

2138. 個人事業主形式の派遣  ○○○メディカルという大手派遣会社系の派遣会社から、大手企業の健康管理室に派遣されている看護婦です。派遣会社(最大手)から、対象業務外なので「個人事業主」という形式で派遣するので、そのつもりでいるように言われました。勤めて3ヶ月以上立ちますが、社会保険の手続きをしていません。有給休暇がもらえるのか、税金などの扱いもどうなるのか心配です。

 看護婦の業務は労働者派遣法の適用対象業務ではありません。

 〔1〕対象業務以外の労働者派遣

 現行の労働者派遣法では、派遣対象業務は「自由化」されたと言われていますが、正しい理解ではありません。看護婦業務は、新派遣法でも派遣業務としては禁止されています。詳しくは、新労働者派遣法解説を読んで下さい。以前は、派遣対象業務は26に限定されていましたが、1999年12月1日以降は、労働者派遣は原則自由化されました。しかし、政令で禁止される業務が指定されることになり、看護婦の業務は、この禁止業務に含まれることになっています。

 したがって、看護婦を派遣することは労働者派遣法違反となりますので、派遣元(派遣会社)には、罰則(対象業務外労働者派遣罪)が適用されることになります。

 違法派遣ですので、それを求めた派遣先に対しては、労働大臣の改善の勧告や悪質な場合には企業名の公表といった「制裁」が予定されています。

 派遣元が、労働者派遣事業の許可を受けた業者であれば、看護婦が派遣法の適用対象業務でないことは当然、知っているはずです。

 派遣元は、労働者派遣法の規制破りで有名な会社です。
 労働者であれば当然に社会保険に加入することになるのに3ヵ月も経過しているのに社会保険に加入していません。
 対象業務外の業務(ヘルプデスク等)については労働者派遣ではなく、個人事業主扱いで「業務委託契約」を結ぶ例が、これまでの相談例として来ています。
    FAQ 2137. 作業請負(委託)と労働者派遣はどう違いますか?
 派遣元は、看護婦についても対象業務外の業務であるので、形式(建て前)は、「業務委託契約」にして、「個人事業主」扱いにしていると推測できます。
 個人事業主扱いであれば、労働者派遣にならず労働者派遣法違反でなくなること、社会保険に加入しなくてもよいこと、労働基準法などの規制を守らなくてよいことなど、脱法を重ねることができます。
 実態としての「労働者」を形式だけ「(個人)事業主」にして使用者としての責任を逃れることはできません。しかし、弱い立場の労働者が雇用を失うことを覚悟で争わない限り、問題は表面化しません。

 労働者の力が弱いこと、知識が乏しいことにつけこんでの、派遣元得意の脱法行為だと推測します。
 一般には、個人事業主(請負)と労働者(雇用)の区別の基準があります。労働基準監督署、労働委員会、裁判所などは、労働者であるのに、形式だけ個人事業主とする「脱法行為」を許さないために、ほぼ次のような判断基準を示しています。この基準を当てはめたとき、個人事業主といえるかを考えて下さい。

  1. 会社からの仕事の依頼や業務の指示があったとき、労働提供者には「この仕事はしないが、その仕事ならする」といった「諾否の自由」があるか?
  2. 労働提供者は、業務遂行上、会社の指揮命令を受けているか。
  3. 時間の管理、作業の方法、作業場所など具体的な仕事にかかわる事項を労働提供者が自分の判断ではなく、会社によって指示されているか?
  4. 労働提供者は、会社から、必要な労働力として日常的にあてにされており、事業組織に専属的に組込まれているか?
  5. 労働提供者は、自分自身で仕事をすることを指定されていますか?
  6. 労働提供者の受け取る報酬が、時間によって計算される(時間給)ではなく、出来高制であるか?
  7. 労働提供者が、高価な機械や器具(生産手段)を自前で所有し、仕事に使っているか?
  8. 労働提供者が特別に高い技能をもっており、報酬が著しく高いか?
 この(1)から(7)を総合して、労働者であるのか、個人事業主であ るのかを判定することになります。

 対策としては、まず、事実の確認が必要です。

 (1)労働者派遣であれば必要となる労働契約書、就業条件明示書などの文書があるか、その内容を確認して下さい。労働契約ではなく、委託または請負の契約である可能性があります。
 (2)給与明細をみて「税法上の扱い」がどのようになっているか、を確認して下さい。給与所得となっているか。
 (3)社会保険については、会社の最寄りの「社会保険事務所」に、どのように扱われているか確認して下さい。
 (4)雇用保険については、会社の最寄りの「公共職業安定所」に、どのように扱われているか確認して下さい。

>また、事前に提示された仕事内容と開きがあって、看護婦の業務範疇外
>のことも多く、私としては早く止めたいと思っています。

 派遣元は、「労働者派遣法の対象業務外の業務」を労働者にさせるだけでなく、就業条件明示書などで事前に提示された仕事内容と違う業務も引き受けるように派遣労働者に指示することで知られている会社の一つです。

 二重の意味で法律の趣旨に反しています。

>6月まで契約があるのですが、契約違反にならないでしょうか?

 たしかに、適法な労働者派遣であれば、定められた期間を守らないことは労働契約違反になる可能性があります。

 しかし、〔1〕〔2〕からは、適法な労働者派遣とは言えないと推測できます。労働者は、むしろ被害者ですので、その点を指摘して下さい。

 私の推測があたっていれば、派遣元AはWが労働者ではないことから、労働者派遣ではないから、Wに労働者派遣法などの保護はない、と主張すると思います。

 しかし、看護婦を事業主として派遣することは、労働者派遣法の「脱法」ですので、この「脱法」を争うという強い態度を労働者が示すならば、労働者の契約違反の責任を追及することはできません。

 とくに、FAQの次の項目をご覧下さい。

>また看護婦が派遣と言う働き方をすることは、普通の業種と比較して不利な点などあるのでしょうか?

 以上の説明の通り、派遣対象業務外であること、それにもかかわらず脱法的に派遣をする派遣元のやり方に問題があると考えます。
 看護婦は、従来は派遣ではなく、派出看護婦という形式、すなわち、民営の職業紹介という形式で紹介先に雇われることが多かったと思います。こうした有料職業紹介の場合、派遣と違って派遣先と労働者の間に直接の雇用関係が生じます。1999年の労働者派遣法が、医療関連の業務を労働者派遣の対象外としたのは、患者の生命に直接の関係をもつ業務であるので、派遣先(病院)の責任を曖昧にしないために、派遣先の直接雇用にしたと考えられます。
 こうした労働者派遣法を脱法する点で、個人事業主形式の派遣は重大な法違反であると考えられます。

 派遣元は、法の網を逃れる点で悪質です。個人で問題を解決しようとしてもうまく行きそうにもないと判断されるときには、地域の労働組合や弁護士の力を借りることが重要です。

 読売新聞2001年8月4日は、「業務委託「実は派遣」で指導」という見出しで、次のような記事を掲載しています。

 人材派遣会社の最大手「パソナ」(東京・千代田区)の関連だった人材派遣会社が、実態は労働者派遣にあたるのに、労働者派遣法に基づく派遣契約ではなく、業務委託契約を結んで労働法上の義務や雇用保険料の負担を免れていたとして、厚生労働省と東京・飯田橋公共職業安定所は4日までに、同社に是正指導を行った。
 業務委託契約では、契約者は労働法の適用を受けず、雇用保険に入れないほか、契約を解除されて解雇されやすいなどの不利益を受ける。派遣労働者の保護や雇用安定が脅かされることになり、同省では、都道府県労働局に対し、指導監督を強めるよう通達を出した。
 是正指導を受けたのは、人材派遣会社「アイティット」(同区)。民間調査機関によると、1986年に設立され、主な業務はコンピューター技術者の派遣やソフトウエア受託開発。設立時から一昨年4月までの代表取締役はパソナグループの南部靖之代表だったが、昨年4月に同グループから独立する形で「パソナソフト」から社名を改めた。
 ア社の契約方式は、コンピューター技術者らと業務委託契約を結び、やはり業務委託契約を結んだ企業に派遣するもの。設立当初からこの方法が取られ、現在は300―400人と契約している。
 技術者らとの契約書には、業務内容や作業時間、時給にあたる契約料金が示されているが、契約履行の見込みがない時や正当な要求に従わない時は「何らの催告も行わず本契約を解除できる」などと同社に有利な条件が記されている。
 この方式では、契約者は労働者ではなく、個人事業主扱い。契約者は仕事を丸ごと引き受けた“業者”とみなされ、〈1〉労災や社会保険が適用されない〈2〉解雇が制限される派遣労働者に比べて、委託契約の解除で解雇されやすい−−−などの不利益を受ける。
 今回の問題がわかったのは、同職安に対し、同社の元契約者から「雇用保険に加入させてもらえなかった」との申告があったため。職安で調べた結果、元契約者は、派遣先の企業から業務命令を受けていたほか、出退社などの勤務時間も管理されていた。職安では、この実態は事実上の派遣労働にあたると判断。今年6月、ア社に対し、元契約者と同様の仕事に携わる契約者について〈1〉業務委託契約から労働者派遣法に基づく派遣契約への切り替え〈2〉雇用保険の加入−−−を求めた。
 派遣契約に変われば、派遣元のア社は雇用主。派遣社員に対し、労働者派遣法や労働基準法、労働安全衛生法などに沿って、賃金支払いや健康管理といった労働法上の義務を負うことになる。
 同社では「法にのっとって必要なことはしているつもりだが、指導を厳粛に受け止め、契約のあり方を検討している」と弁明。パソナでは「現在は別会社であり、指導内容もわからないのでコメントできない」としている。

 80年代以降の、労働法をめぐる状況は余りにも異常です。職業安定法違反、また、労働者派遣法違反、さらには労働基準法違反の繰り返し、それを追認する労働行政、労働立法のあり方が、経営者の確信犯的な法違反の広がりを許してきたとも言えます。
 ドイツ、フランスでは労働者派遣法が施行されたら、その法律は、きっちりと遵守するというのが政府や経営者の姿勢です。日本では、はじめから「労働法は守る必要がない」、「できることなら脱法してやろう」という経営者が多すぎます。改めて日本の経営者のモラルの低さを感じます。
 日本の経営者は、せめて良識をもって、最低の法律は守ったうえで働く者を大切にするべきだと思います。労働者の最低の権利を認めないでおいて、自らの大きな利益をはかることは公正とは言えません。
 法を守らない企業、働く労働者を公正に扱わない企業は、長い目では労働者からだけでなく、世間から信用されません。グローバル時代、世界からも相手にされなくなります。日本の経済がだんだん苦しくなってきたのも、人間を大切にしない日本企業の労務管理のエゲツナサ(過労死、単身赴任、女性差別、雇用形態差別、過労自殺など)が徐々に世界に伝わってきたことにも大きな原因があると思います。

 個人事業主扱いにされたとき、すぐに争うのは難しくても知恵と力を蓄えておけば、後から(時効は2年です)遡って、本来の労働者としての権利を回復することが可能です。
 そのためには、派遣会社の言い分などを細かくメモしておいて下さい。
 また、就業の記録、関係文書、給与の記録などを徹底して残して下さい。
 個人で争うのは難しくても、身近な地域労働組合などと連携することで解決に近づけます。違法な扱いについては、関係行政機関に申告して行政指導や是正を求めることができます。
 また、裁判を通じて損害賠償を請求したり、派遣先での雇用関係、派遣元での雇用関係の存在を確認するなど、身分そのものを争うことも考えられます。
 地域労働組合を通じて、本来の労働者としての権利回復という全面的解決を目指して団体交渉を求めることができます。


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