updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

7060. 派遣労働者の権利を守るためにいまなにが?
 私の意見 とくに、派遣先従業員との同等待遇が必要です。派遣労働者であるから、賃金が低かったり、通勤手当や賞与がなかたりしても当然という、誤った「常識」がまかり通っています。育児休業・介護休業取得者の代替は、まさに、正規従業員の代替で同じ労働をすることが明らかですから、同等待遇を実現させることが必要です。

 1998年7月に、派遣労働者の権利をどう守るかについて、次のような文章を書いています。長くなりますが、その一部を掲載します。
 脇田滋「派遣労働者の権利をどう守るか」労働運動1998年7月号、P.100-107

 【目次】
 特集 派遣労働者の権利をどう守るか

 一 派遣労働者の労働条件
 二 「間接雇用」と使用者責任の分裂
  1 間接雇用
  2 民主的労働法と間接雇用の禁止
  3 労働者派遣法と「間接雇用」の一部容認
 三 派遣先にたいする使用者責任の追及
  1 派遣先の使用者責任
  2 違法な「直接採用」・「直接解雇」の広がり
  3 九六年法改正と派遣先使用者の責任強化
  4 派遣先使用者の団体交渉応諾責任
 四 登録型労働者派遣の問題点
 五 派遣労働者の権利を守るために
  1 労働基準法等を手がかりにした問題解決
  2 地域労連の大きな役割
  3 派遣先職場の労組の役割
  4 派遣の自由化に対抗する取り組み

 一 派遣労働者の労働条件

 この五月二三日、大阪労連は民主法律協会と協力して派遣労働者から電話で相談を受け付ける「派遣労働一一〇番」を実施しました。休む間もなく寄せられる相談からは、(1)派遣労働者が職場で孤立していること、(2)違法派遣(対象業務外など)が広がっていること、(3)派遣先正社員に比較して低劣な労働条件、(4)労働基準法などが定める法定労働条件さえ守られていない現実が明らかになりました。
 また、私が取り組んでいるインターネットの電子メールを利用した「派遣一一〇番」は約二年になります。これまでの相談活動を整理しますと、派遣以外にも広がっている一般的な労働者の無権利問題に加えて、派遣労働者独自の権利をめぐる問題を概観することができます。
 すなわち、(1)正社員や臨時・契約職員など直用の形態から派遣への転換、(2)派遣先(受け入れ企業)による直接面接(採用)と解雇(労働者派遣契約の途中解除)、(3)派遣先による法違反、人格・人権無視(セクハラを含む)、(4)形骸的な派遣元(派遣会社)の役割(二重派遣、派遣先正社員への採用の妨害など)、(5)登録型派遣の不利益(個人情報の流出、年休、育休・産休、雇用・社会保険)など、派遣労働関係に特有な権利問題が広がっていることがわかります。
 派遣労働は、派遣元や派遣先にとって実に大きなメリットがある雇用形態です。その反面、労働者は何時でも雇用を失う危険性があり、孤立して労働者としての権利を行使することが難しい雇用形態です。本稿では、派遣労働者の権利をめぐって基本的と思われる問題点と権利保障のためには何が必要か、その課題を考えてみることにします。

 二 「間接雇用」と使用者責任の分裂

 1 間接雇用

 派遣労働関係は、一般の労働者と使用者(会社など)の間の労働関係とはまったく異なっていて、派遣元、派遣先、労働者の三者が当事者となる三面関係を形成することが特徴になっています。これは、労働者が就労する受け入れ先が使用者となる、通常の「直接雇用(直用)」ではなく、労働者と派遣先の中間に入る派遣元(派遣会社)が形式的な使用者となる「間接雇用」の形態です。
 通常の直用形態であれば、就労先の使用者が雇用契約(労働契約)上の使用者になります。ところが、派遣の場合は、実際に就労しない派遣元が使用者となり、労働者との間で雇用契約(労働契約)を結びますので、契約上の使用者と労働者が実際に労働する先の指揮命令者としての本来の使用者が分裂することになります(図1参照)。派遣労働者の不安定で無権利な地位は、派遣労働関係の基本的な構造から生ずる必然的なものです。

   【図1】労働者派遣の法律関係(派遣労働関係)


 2 民主的労働法と間接雇用禁止

 戦前には、就労にかかわって「人夫出し」や「組請負」などの形式をとった仲介あっせん業者(労働者供給業者)が広く登場しました。こうした間接雇用形態は、労働力を最終的に利用者する企業にとっては、使用者責任を仲介者に代行させることができる点できわめて好都合なものでした。反面、労働者にとっては、仲介業者から不当な中間搾取とともに、人格を無視した身体的拘束まで受けるという大きな弊害を生み出すものでした。

 ILOは、戦後すぐに「労働は商品ではない」ことを宣言し、間接雇用の一つの形態であった有料職業紹介に厳しい規制を加えて公的職業紹介を原則とすることを国際労働基準として設定しました(八八号、九六号条約)。こうした国際的な流れのなかで、日本でも「間接雇用の禁止」(=直接雇用の推進)が、労働関係民主化の重要な内容として、戦後の労働改革の中心に位置づけられたのです。憲法第二七条に基づく職業安定法は、民主的労働法体系の一環として、有料職業紹介を原則的に禁止するとともに、請負形式による脱法的間接雇用を禁止するために、「労働者供給事業」を明確に禁止することになったのです(第四四条)。
 他方、労働基準法(第九条)や労働組合法(第三条)は、労働者を実際に指揮命令して使用するものが、法的に使用者としての責任を負担すべきであるという考え方を労働法の基本原則として確認したのです。労働者と使用者の間に実態として使用従属の関係があれば、契約の形式上は明確ではないとしても、両者の間に労働契約の存在を認めることが、労働基準行政や労働委員会、裁判所の実務のなかで判定されてきました。

 3 労働者派遣法と「間接雇用」の一部容認

 職業安定法の規制にもかかわらず、戦後、大企業は、大工場や造船所などを中心に、下請企業の低い労働条件に目をつけ、また、雇用の調整弁としての役割を果たさせる目的で、事業場内下請労働者(社外工)を広く受け入れることになりました。本来、実体のない請負(偽装請負)は、労働者供給事業として取り締まるべきですが、労働行政の後退のなかで、事実上違法状態が蔓延(まんえん)していました。とくに、一九七〇年代には、これが第三次産業(サービス業)にも広がり、受け入れ企業が、本来の使用者責任を果たさず、間接雇用を通じて責任を逃れようとしたので、職業安定法や労働基準法、労働組合法の使用従属の実態に基づいた使用者責任の追及の闘いが広がりました。
 ところが、一九八五年に制定された労働者派遣法は、広がっている職業安定法第四四条違反を取り締まるのではなく、一定の要件の下に、労働者派遣事業を認めるものでした。

 三 派遣先に対する使用者責任の追及

 1 派遣先の使用者責任

 労働法の民主的な基本原則は、依然として「直接雇用」です。労働者を受入れて実際に指揮命令する者こそが、法的にも使用者責任を負担するべきであるというのがその内容です。派遣労働者にとって、雇用契約上の使用者である派遣元(派遣会社)は、仲介者であり、ほとんどが形骸的存在であって。実際に、派遣労働者の労働条件を決定するのは受入れ企業(派遣先)です。
 派遣先の使用者は、労働者を直接雇用したときには、会社都合で辞めさせようと思っても簡単には解雇することができません。法的には、差別的解雇は禁止されますし、人員整理解雇については判例で四つの要件が必要とされています。ところが、派遣であれば、派遣元との労働者派遣契約を打ち切るという形式で、実際的な意味で労働者を解雇することができるのです。
 間接雇用は、労働者派遣法の建て前では例外的にしか認められません。そこで、この建て前や本来の直接雇用の原則に基づいて、違法な派遣を排除するとともに、受入れ企業(派遣先)には、労働法上の使用者責任を免脱しないように、きちんと果させることが必要です。要するに、派遣労働関係から生ずる問題は、派遣先使用者の責任を追及することを基軸に据えることによって本質的解決をはかることができるのです。

 2 違法な「直接採用」・「直接解雇」の広がり

 実際には、労働者派遣法の建て前に反した、派遣先による派遣労働者の直接採用・直接解雇の実態が広がっています。本来、派遣元が採用し、選定して派遣した労働者について、派遣先は理由なく拒否することができません。ところが、事前に「業務確認の面談」といった名目で派遣先での面接や履歴書のチェックが公然と行われています。
 こうした直接面接は、労働省も明確に認める労働者派遣法違反です。そうした場合には、派遣元に代わって、派遣先が直接に雇用責任を負うと考えられます(労働契約の派遣先との間での成立)。とくに、一ヵ月程度の試用期間を置いて、派遣先が気にいらなければ派遣労働者を差し替えるといった脱法的な慣行も広がっており、規制や摘発がないなかで派遣先の横暴振りが際立っているのです。解雇についても、形式的には派遣元との間に雇用関係がありますので、派遣元しか解雇できませんが、実際には、派遣先による一方的な労働者派遣契約の解除という形で実質的な差別解雇や整理解雇も広がっています。直用従業員の解雇の場合には考えられないような、痛みや配慮がまったくない突然の途中解除=解雇も多いのです。

 3 九六年法改正と派遣先使用者の責任強化

 正社員の採用をストップして派遣に切り換える動きのなかで、限定された対象業務以外の一般的な事務などを平気で命じる派遣先が増えてトラブルが絶えませんでした。そこで、一九九六年の労働者派遣法見直しの際に、右のような法の建て前を無視する、派遣先による違法慣行を規制するために、派遣先に本来の使用者責任を果させる方向で、いくつかの措置が導入されました。
 一つは、対象業務外の業務を担当させた派遣先については、労働省は、悪質な場合は、その企業名を公表するという措置がとれることになりました。本来、対象業務外の労働者派遣は違法ですが、労働者派遣法では派遣元にだけに罰則が適用されることになっています。大企業である派遣先が、仲介者である派遣元を使って対象業務外で労働者を派遣させるのが実態ですので、派遣先への罰則適用が必要であるのに、悪質企業名公表といった曖昧な法規制になっています。
 なお、対象業務外などの違法派遣は同時に職業安定法四四条に違反しますが、職業安定法は、供給元だけでなく、供給先にも罰則(六四条四項)の適用を予定しています。また、違法派遣を派遣元に指示した派遣先には、労働者派遣法の適用対象業務外派遣罪(五九条一号)の共犯(教唆犯)としての刑事責任を追及することが可能です。
 さらに、派遣先による解雇(労働者派遣契約の途中解除)については、派遣元から派遣先への損害賠償請求(派遣労働者については期間一杯の賃金または休業手当の保障)や派遣先による関連会社への派遣就労のあっ旋です。労働省は、行政指導のガイドラインといった実に弱腰な姿勢ですが、それでも派遣先企業に対して一定の使用者責任を果すことを明確に求めることになりました(派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針〔平成8年労働省告示第一〇二号〕)。
 これ以外にも労働者派遣法は、労働基準法(労働時間関連など)や労働安全衛生法など、実際の就労にかかわる労働者保護については、派遣先の使用者責任を明確にしています。

 4 派遣先使用者の団体交渉応諾責任

 最高裁判所(第三小法廷)は、一九九五年二月二八日の朝日放送事件判決で、派遣労働者の団交権について画期的な判決を下しました。放送番組制作現場で派遣的労働関係の下で働く派遣労働者(事業場内下請労働者)の労働組合から、団体交渉を求められた派遣先の放送会社が、団体交渉を拒否したことは、不当労働行為(労働組合法七条二号)であると明確に判示したのです。この判決は、派遣的な労働関係で派遣先が「使用者」として団体交渉に応ずべきことを明確に認めています。少なくとも、この判決によれば、派遣先は、「自ら決定することができる勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等に関する限り、正当な理由がなければ」、派遣労働者の労組との団体交渉を拒否できません。この朝日放送事件最高裁判決を活用すれば、派遣労働者の団体交渉を進めることが可能です。

 四 登録型労働者派遣の問題点
 〔省略〕
 五 派遣労働者の権利を守るために

 1 労働基準法等を手がかりにした問題解決

 たしかに、派遣の形態で働くときには、労働者も複雑な当事者関係で自分の権利を守るために、個々人が労働法についての詳しい知識をもつことが必要と言えます。労働者派遣法には手がかりが少なくても、職業安定法、労働基準法、労働安全衛生法には、派遣労働者も活用できる権利保障の規定がたくさんあります。派遣一一〇番で受けてきた多くの相談も、労働基準法などの規定を守っていないことから生ずるトラブルがほとんどです。回答も、法律や施行規則、行政通達などを紹介して、派遣元や派遣先の言い分が間違っていること、法律に違反していることを指摘するといった内容になっています。
 しかし、問題は解決の方法が難しいことです。「次の仕事を紹介してもらうためには強いことが言えない」というのが、多くの派遣労働者の共通した言葉です。派遣労働者が、個人で権利を守ったり、実現することには大きな限界があるからです。

 2 地域労組の大きな役割

 派遣労働者のほとんどは、労働協約の適用を受けない無協約労働者であり、孤立無援のなかで権利行使もできず、トラブルがあっても、次の雇用の保障がないため、ほとんどが泣き寝入りせざるを得ないのが現実です。派遣労働者も、労働者に認められた基本的権利である団結権、団交権、争議権を行使することができれば、その権利の大半は実現することが可能となります。派遣労働者の組織化については多様な方法が考えられますが、地域、職場、産業などの具体的な事情に応じて現実的に対応すべきだと思います。
 当面、未組織労働者が個人で加入できる地域労働組合は、これまで労働組合と接触することがほとんどなかった大多数の派遣労働者が、トラブルのときにすぐに頼ることができる組織であるといった点で大きな役割を果すことになると思います。ところが、実際には、派遣労働者はトラブルにあったとき、労働組合よりも行政機関に頼ることが多いという傾向があるようです。残念ながら、労働組合の多くは、派遣労働者から身近な信頼される存在になっていないのです。そうしたなかで、大阪労連は、大阪に責任をもつ地域組織として、この二月に『派遣労働 知って得する権利手帳』というミニパンフを三万部作成しました。これを街頭で宣伝・配布するとともに、地域や産別の組織を通じて広く普及しています。
 地域労働組合は、これからは増大していく派遣労働者からの相談に応じることが必要になると思います。労働組合の側としても、派遣労働者の問題についての知識が乏しいときには、取り組みに消極的になりがちです。「派遣は判りにくい」と敬遠するのではなく、派遣労働関係の基本的な特徴と問題点をしっかり把握し、問題解決に機敏に対応できるように弁護士や関係行政機関とも日頃から連絡をとるなど、派遣労働者の権利を守る体制を整えることが求められています。

 3 派遣先職場の労組の役割

 他方、派遣労働者も、労働者として実際に就労している職場(派遣先)で仕事を通じて人間相互のつながりが生まれ、労働者として連帯を進める基盤ができます。派遣先企業の労働者や労働組合が、派遣労働者が働く職場で派遣労働者の組織化を援助すれば、孤立している派遣労働者も団結権を行使することが可能になります(その具体的な事例としては、民主法律協会派遣労働研究会編『がんばってよかった 派遣から正社員へ』かもがわ出版)。
 派遣労働者が導入されれば、その無権利な労働条件が派遣先職場に広がることになります。派遣労働者の問題は、派遣先職場の労働者(正社員)自身の権利問題にもなっています。労働組合が組織されている職場では、公務部門を含めて、この点の認識が現実的にも重要な意味をもってきています。同じ職場に働く仲間である派遣労働者に対する連帯の気持ちをもって、派遣労働者の問題に取り組まない限り、長期的に考えたとき労働者全体の権利実現や労働条件改善はあり得ません。EU諸国の労働者派遣法は、派遣労働者が派遣先で団結活動に参加する権利を明確に認めています(一九九七年イタリア法など)。

 4 派遣の自由化に対抗する取り組み

 政府や経営者側や「派遣自由化」の動きは、労働側の派遣労働問題についての立ち後れにつけこんだものです。労働行政が、違法派遣の取締りをほとんど行わないままで、さらに、派遣労働者の無権利な現実を前提に、労働者派遣の一層の拡大を進める動きは、近い将来の労働の世界に深刻な問題をもたらすことになります。また、病院、福祉、教育、公務などの部門で派遣労働や類似の雇用形態が急速に拡大しているのが最近の特徴ですが、雇用・労働条件の劣悪化が、国民への公的サービスの低下に直結するといった面も合せもっています。
 こうした派遣をめぐる問題点を正確に把握しつつ、労働組合が、派遣労働者の権利行使や正当な要求を励ますこと、さらに、派遣労働者自身が団結権の主体として活動できるように組織することが緊急で重要な課題になっています。


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