updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

2137. 作業請負(委託)と労働者派遣はどう違いますか?
 現在、作業請負契約(実態は派遣)で働いています。2交代の勤務体制なのですが、夕方から翌日にかけての約16時間もの長時間もの非常にきつい労働があります。
 派遣契約でしたら、途中で仕事を止めてもそれなりの賃金を得ることもできますが、有給も雇用保険もないし、つまらないことで人格侵害を受けかねない立場にあります。
このような状況をどのように改善したらよいのでしょうか?
   まず、この「作業請負契約」が問題です。
 この問題点を考えるために、労務に関する、民法と労働法の違いを説明します。
 法的には、労務提供の関係は、契約関係を通じて行います。
 自由な契約が、資本主義社会の基本となっており、民法がこうした契約自由の仕組みを定めています。

 民法では、この労務提供については、大きく2つ、細かくは3つの類型を予定しています。
    A 労務の提供者が、労務の受領者の指揮命令を受けない関係
       1 請負(例: 建築請負・運送請負)
       2 委任または準委任(例: 弁護士)

    B 労務の提供者が、労務の受領者の指揮命令を受ける関係
       3 雇用

 Aは、会社などの組織で行なわれることが多い「請負」や、専門性が高い「委任」
ですので労務提供者が強い立場に立ち、独立労働と呼ばれることになります。

 このB(雇用)は、労務提供をする側が、個人で労務受領者が会社など強い立場に立ち、民法では形式的に平等であるために、契約内容では不利に決められてしまうことが多くなります。

 AもBも、平等な当事者の自由な意思による契約ですが、雇用では、弱い当事者である労務提供者に不利益が集中してしまいます。

 そこで、労働法が登場します。

 労働法は、このBの雇用で働く労務提供者を「労働者」として保護することになります。労働法は、民法とは異なり、雇用関係で働く労働者を、使用者と対等な関係ではないと考えます。
 労働者は、使用者に従属して働き、契約も対等でない関係で締結する者、つまり「従属労働」者と考えます。そして、この従属労働の弊害をなくすこと、労働者が使用者と実質的に平等になること、人間らしい労働と生活ができるようにすることが労働法の目的です。
 労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働組合法、職業安定法、労働保険や社会保険関連法などの労働者を保護する法律が数多く制定され、体系化されてきました。

 このような労働法の適用を受ける労働者を雇用すれば、多くの法律上の責任や出費を負担することが使用者の義務になりました。これを免れるために、実際には(実態では)労働者であるのに、形式では「独立労働」である「請負」や「委託」(委任と請負の両方の面をもつ)の契約をとる例が出てきます。

 こうした傾向に関連して、「名目的自営業形式の労働者」、「事実上の労働者」、あるいは、「契約労働者」という用語が生まれています。

 次の表のとおり、名目的な自営業形式の請負契約であれば、受入れ側は、労働法の定める色々な負担を避けて、労働力をより安く、また、よい有利に利用することができることになっています。

【表】労働契約と請負(委託)契約の違い
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         労働契約            請負契約
         (雇用契約)          (業務委託契約)
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 当事者     使用者(会社)         注文者(会社)
         労働者             請負人
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 労働提供の特徴 従属労働            独立労働
 (下請など)  下請禁止            下請可能
         支配=指揮命令下に       目的の完成
         入ること            結果を提供
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 両者の関係   支配・従属関係         対等関係
         専属              非専属
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 適用法規    労働基準法・労働組合法など   民法
         労働法規全般
         契約よりも法律優先が原則    契約優先が原則
         (強行法規性)         (任意法規性)
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 賃金      労働の対償           報酬
         生活の手段・支払いなどに保護 下請代金支払い遅延防止
         月1回以上の定期日支払い
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 退職      解雇保護など          契約による
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 就業規則    10人以上の事業場       契約による
         作成・届出義務
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 労働組合    結成可能・団体交渉権など    自由・特別な団交権なし
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 監督行政    労働基準監督署(罰則も)    とくになし
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 労働法も、こうした脱法を許さないための論理を用意しています。

 契約の形式ではなく、労働の実態によって「労働の従属性」を判断し、この「従属労働」性があれば、請負契約であっても、従属労働であるとして、「労働契約」関係であると判定するのです。

 「事実は契約をやぶる」のです。

 労働基準法はこの点を、次の条文で確認しています。

 労働基準法第9条
 この法律で労働者とは、職業の種類を問わず、前条の事業又は事務所(以下事業という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。


 ここでいう「使用される者」とは、指揮命令を受けて働くこと(人的従属性)を示し、「賃金を支払われる者」とは、生活のために働かざるを得ない(経済的従属性)を意味していると考えられます。

 労働組合法も、ほぼ同様の労働者の概念を規定しています。

 労働組合法第3条
 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。


 したがって、ご相談の「作業請負契約」については、契約の形式では独立労働ですから、労働法の保護を受けないとことになりますが、実態が従属労働であれば、労働者としての保護を受けられることになります。

 これまでにも、労働基準監督や裁判、労働委員会などで数多くの事例について、判断や判決・命令が出されてきました。

 【請負形式の労働者の従属性が問題になった事例】

 (Aタイプ)芸能員・楽団員・スポーツ選手
 (Bタイプ)外務員・委託集金人
 (Cタイプ)車持ち運転手
 (Dタイプ)家内労働者
 (Eタイプ)事業場内下請労働者

 もう少し詳しい事情が判れば、改めてコメントできると思います。

>2交代の勤務体制なのですが、夕方から翌日にかけての約 16 時間もの長時間労働
>に対しては非常にきついものがあります。

 労働者であれば、労働時間については労働基準法の規定を守らなければなりません。

 1日の労働時間の規定は、1日8時間の制限がありますが、交替制も認められていますので、それだけでは労働基準法違反とは言えないかもしれません。
 しかし、労働時間を含む労働条件について、就業規則で明示することや、団体交渉事項になりますので、改善の話合いを求めることができます。

 ただ、労働基準法では、休憩時間を置くことを義務づけていますし、深夜に及ぶときには、仮眠時間などを置かせるなどの例も少なくありません。

 労働基準法第34条
 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
 (2) 前項の休憩時間は、一せいに与えなければならない。但し、行政官庁の許可を受けた場合においては、この限りでない。
 (3) 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。


 さらに、午後10時から−午前5時までは、深夜労働については50%の割増賃金
が必要です。(労働基準法第37条)

 作業請負契約の形式ですが、実態は労働契約であるとして、労働者としての保護を求めることが、今後の基本的な考え方になると思います。

 労働組合に加入されているとのことですので、労働組合法上の労働者であるとして油研工業事件をモデルに、請負会社だけでなく、実際に就労している受入れ会社に対して、労働条件改善について団体交渉を求めることもできると思います。

 実際には、多くの困難があると思いますので、具体的な事情を判断して対応をする必要があります。最近、フリーランスの翻訳者の方が、連携の取組みをはじめています。労働条件の改善は、長期的に考えれば、同じ立場にたつ労働者の団結によって実現していくことになると思います。

 次のページも関連して参考になると思いますので、ご覧下さい。  2135. 派遣と請負とはどう違いますか?

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