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共同研究


  1999年10月30日 
アメリカ研究学会(ASA) モントリオール大会
 

  ASAアメリカ研究編集者フォーラムに参加して
  アメリカ学会英文ジャーナル編集長 千葉大学 秋元 英一

 アメリカ研究振興会のご厚意により、1999年10月28日から晩秋の気配濃厚なモントリオールで開かれたアメリカ学会(ASA)大会に参加することができた。世界のアメリカ研究編集責任者が集まって情報交換のフォーラムをやらないかとの誘いがジョージ・ワシントン大学アメリカ研究専攻のバーナード・メルゲン氏から私のもとに電子メールがあったのは、98年の6月頃だったと思う。大賛成で開かれれば参加したいと返事をしたが、その後企画はうまく運び、12名ほどの参加者を見込めるとの見通しだった。
 じっさいのフォーラム(Where in the World is American Studies? International Editors' Forum)は30日(土)に開かれ、ASAの他のセッションと同じく正味1時間45分しかなく、8カ国9人の報告があったので、時間はほとんど報告に費やされた。それでも一番多いときでパネリストを含め40名以上が出席した。最初に私が日本アメリカ学会英文ジャーナルの10号までの編集の様子、文部省(学術振興会)からの財政援助、英語チェックの仕方、応募論文の審査などについて現状を報告した。あとに続く報告の時間のルーズさからすれば、もっとゆっくり話せばよかったと思ったが、あとの祭りだった。次に、インド・アメリカ研究誌の編集者ラメシュ・バブ氏が、西欧社会とインドとの戦後のかかわりの問題をアメリカ研究自体の潮流変化に関連させて論じた。雑誌は「国際研究をめざすインド・アメリカ・センター」(IACIS)が1969年から刊行しており、現在5600人を越える会員をかかえている。この間に発表された論文・研究ノートだけでも500を越えるが、近年社会科学の比重が高まっている。彼は人権についての世界宣言を拒否したガンジーの言葉を引用し、互恵的な責務を含まない権利宣言は道徳的に支持されないとした。また、西欧社会は後発諸国に対して社会的正義を犠牲にして政治的・市民的権利を強調しすぎるのだとも主張した。現下のグローバリゼーションも、普遍的権利のあり方についての国際的な対話を継続しないかぎり、単なるヘゲモニー争いに堕してしまうであろうと警告した。冷戦の終了後、アメリカからの恒常的な、多額の資金援助は終り、IACISも資金不足に悩むことになった。今やアメリカは東欧や中国、ロシアに資金援助の重心を移し、それら地域でのアメリカ研究が推進されている。学際的アプローチ、多文化主義、批判的国際主義もそこへ到達しているのである。なお、インドからはもう一人、キャロリン・エリオット氏も後に補足報告をしたが、その中で、インドでアメリカの定期刊行物を読むのは、かなり困難であると述べた。
 オーストラレシア・アメリカ研究誌のキース・ビアティ氏は、ニュージーランドと合わせて200名足らずのアメリカ研究学会がグローバリゼーションの時代を迎えて苦悩している状況を説明した。アルゼンチン・アメリカ研究誌のアンナ・セリ氏は、アメリカ合衆国がなんといっても支配的な勢力であるラテン・アメリカにおけるアメリカ研究のもつ緊張について語った。アルゼンチンは合衆国の軍事的抑圧はもとより、アメリカ化という文化的浸透に対しても神経質に対応してきた。1999年に初めてアメリカン・センターができ、雑誌は2000年に第1号を刊行する予定である。
 トルコ・アメリカ研究誌のゴヌル・プルター氏は、今回のパネリストの中でも最も元気な一人であった。1988年にトルコ・アメリカ学会が創設され、雑誌(JAST)は現在年2回刊行されている。そこではトルコ人学者の論文はむしろ少なく、ヨーロッパやアメリカから広く論文を募っている。彼女は学会どうしでの雑誌の交換を呼びかけた。雑誌『メキシコの声』(Voices of Mexico)の編集者、ディエゴ・ブゲダ氏は、必ずしも厳密な意味での学術雑誌ではないその雑誌について紹介した。発行主体は1997年に設立された北米研究センターであり、事務所はメキシコ国立自治大学に置かれている。アメリカとの関係が最も緊密で、かつ複雑だと語り、にもかかわらず、アメリカ・メキシコ関係はいかにも非対称だとした。雑誌はカラフルでメキシコ文化のさまざまな側面についての記事が多いように思われた。
 ドイツ・アメリカ研究誌のアルフレッド・ホルヌング氏は、1955年に設立されたドイツ・アメリカ研究学会が1991年から刊行している雑誌について紹介した。投稿は9割が英語であり、国内と海外合わせて1850部ほどが配布されている。ジェファソンやフォークナーの特集があり、理論面では若年層の貢献が大きい。最近人気を集めているテーマは、非アメリカ化、移動と多文化主義、ドイツ再統一、そしてドイツ・アメリカ関係である。カナダ・アメリカ研究誌のプリシラ・ウォルトン氏はアメリカの文化帝国主義との緊張関係の下で学際的スタンスを維持することの困難さを語った。最後に、フランス・アメリカ研究誌の編集者リリアン・ケルジャン氏は、創設以来34年を数えたフランスのアメリカ学会について、会員が300人ほど、年会費約100ドルを払うと、季刊雑誌を自動的に受け取り、またヨーロッパ・アメリカ学会会員としても登録されると述べた。1999年の学会の共通テーマは、「メインストリーム・アメリカ」である。雑誌は文学担当と文化担当の編集長がおり、ときに、ゲスト・エディターを迎えていると紹介した。
 討論時間がなかったため、当日午後4時からの別のセッション(Can We Play American Studies, Too?-- A Roundtable Discussion)に合流して議論を継続しようということになった。出席者が少なく、報告は短く議論に最適だった。この日の夜、合衆国総領事館で総領事Mary C. Pendleton主催のレセプション(ネル・ペインター、プリンストントン大学教授記念ということだった)に招かれ、多くの参加者とともにASA大会の幕切れを飾るにふさわしい上品な雰囲気を味わった。海外の活発な研究出版活動に接すると、われわれの雑誌も年刊といわず季刊くらいに、まずは日本語からでも活性化する必要があるのかな、と感じた。今回の参加を援助いただいたアメリカ研究振興会に深く感謝します。
    (アメリカ研究振興会ニューズレター)

   


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