これまでの話題(99年12月前半)

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1999年12月15日(水)

「経営トップの使命」

企業環境が大きく変化する中で、“勝ち組”と“負け組”との差が明確になっています。こうした環境下で経営トップや幹部は何をすべきなのか。今日は、このような経営の原点について述べてみたいと思います。

かってドラッカーは、"事業の目的は顧客の創造である"(『現代の経営』)と述べています。そして、マネジメントの本質的な機能は、マーケティングと革新であると喝破しました。この言葉は1954年に出版されて以来、マネジメント関係の書物に幅広く引用されているので、皆さんもご承知のことでしょう。特に、90年代に入ってメガコンペティションが叫ばれるようになると、米国を中心にこの考え方が見直されるようになりました。

ところで、私は革新こそ経営トップが社会に果たすべき基本的な使命であると考えています。ドラッカーと共にシュンペーターのいう、"資本主義発展の原動力は企業家の革新(イノベーション)にある"という言葉を、今こそ噛み締めるべきだと思います。

この二人の主張を私流に言い換えると、"経営とは顧客創造のための革新にある"ということになります。今、IT技術とバーダレス化の進展により、新たなビジネスシステムが創造されています。つまり、革新によって新たなビジネス、顧客を創造する好機なのです。

では、具体的に何を革新するのか。そのポイントは次の5つです。

1.ビジョンを革新する
2.戦略を革新する
3.事業を革新する
4.意思決定の仕組みを革新する
5.組織と行動を革新する

ここで留意すべきなのは、1〜3を実践するには4、5の革新が不可欠であるという点です。

そして、革新を行う際には、将来のあるべき姿、革新後のイメージを描いてみることが重要です。そうすれば、賢明な人達は、何故革新が必要なのかを理解することでしょう。そして理解した人は、革新のサポーターとして実践の場で大きな役割を果たすことになります。

無論あるべき姿を描く際の基準は、従来のように業界発想、つまり同業他社との比較による相対基準では駄目ですよ。自らの価値観や理想像を明確に打ち出した絶対基準のもとに、他社とのポジショニングが明確になっていることが不可欠です。更に、グローバルに通用するかどうかで最終チェックすべきです。

革新への道のりは決して平坦ではないでしょうが、険しい道を乗り越えた暁にはきっと頂が見えることでしょう。トップや幹部が自らの使命を再認識して革新を実現し、日本企業再生の日が近いことを信じたい!!


1999年12月14日(火)

「コンサル導入のポイント」

昨日は経営コンサルタント(以下コンサル)の導入実態を話題にしました。今日は日本企業のコンサル活用パターンを概観して、コンサル導入の留意点について述べたいと思います。

私の見るところ、日本企業のコンサル活用パターンは、次の5つに大別されます。つまり、

1.戦略、計画策定ノウハウの習得
2.コンサルタントによる権威付け
3.コンサルタントによる社内調整
4.外部のプロの診断、提言、助言を実践
5.戦略・計画立案機能のアウトソーシング

この5つです。

このうち1〜3は減少傾向にあります。90年代に入って、4や5のパターンが増加しています。アウトソーシングについては、戦略や計画の骨格を社内で作成し、環境分析や検証を委託するケースが一般的です。最近は、グループ経営強化の一環として、グループ会社の事業戦略や中期計画を策定して実行する一連の流れをサポートする業務を委託するケースなどがあります。

本来のコンサル機能である4が増加している背景には、企業環境がこれまでの線形思考あるいはトレンド思考が通用しない変曲点にあること、クライアントがコンサルの使い方に習熟してきたこと、この2つの要因があると考えます。その結果、コンサルの提言を積極的に取り入れ、具現化していこうとする姿勢が明確になってきたようです。

この場合コンサルを効果的に導入するために何が必要か。私は社内の危機感がどれだけ高まっているか、この点がポイントだと思います。危機感が欠如している背景は、

1.業界横並び意識が強固
2.情報、人脈が社内偏重
3.社内での情報開示が不充分
4.トップの危機感が欠如
5.あるべき姿、ビジョンが不透明で課題の優先順位が不明確

この5点に要約されます。

上記の5点すべてがノーであれば、コンサルを導入して成功する確率は高いと思います。この場合変化を受け入れる土壌があるからです。もしイエスの数が多ければ、先ず経営トップの危機意識に基づく社内の危機感の醸成が先決です。

コンサル導入の成功の鍵は危機感にあること、この点を肝に銘じるべきだと思います。もちろん経営トップの変革を実現する強固な意思が不可欠なのは当然ですが。皆さんの会社では、トップや幹部の危機感はいかがですか?


1999年12月13日(月)

「コンサル導入の実態」

一般に、経営コンサルタント(以下コンサル)の導入実態は分かりにくいようです。少しデータは古いのですが、東証一部上場企業のコンサル導入率を見ると、製造業は41%、非製造業は27%、全体では34%となっています(日経の「経営コンサルタント調査」による)。

ただ、上記の調査は東証一部上場企業約1300社中、回答企業176社の結果です。また、経営コンサルティングのみならず情報システムコンサルティング等をも含む点に注意が必要です。私の推測では、現在上場企業で経営コンサルティングを利用している企業は上記の半分程度ではないかと思います。

なお、同じ調査結果によると、97年度の年間コンサル費用は製造業で平均5500万円、非製造業では平均2300万円となっています。この数字を米国企業と比較すると、日本企業のコンサル活用度が低いことは明らかです。例えば、GEやGM、ATTを始めとする米国の大企業は年間30〜50億円のコンサル予算を計上しています。CEOや各ゼネラルマネジャーが全社戦略や事業戦略その他に関して、自らの職責に応じてコンサルを利用する風土が確立しているからです。

確かに、70年代から80年代前半に比べ日本企業のコンサル導入率は高まったと思います。製造業では、グローバルな展開や新事業への進出の際のコンサルティング、事業構造を変革するためのコンサルティング、グループ企業戦略など全社戦略や事業戦略に関するテーマから、ナレッジ・マネジメント、EVA(経済付加価値)及び人事制度など新システムを導入する際のコンサルティングまで幅広いテーマでコンサルを活用しています。

最近では、金融ビッグバンに備えて銀行を含む金融機関のコンサル・ニーズが高まっているようで、外資コンサルはMBAをとった銀行出身者の採用を強化しています。他方、製造業では一頃に比べてコンサル導入の派手な動きはおさまり、水面下で静かに動いているようです。

以上は、東証一部上場企業あるいは大企業のコンサル導入実態です。だが、その他の上場企業や中堅企業ではどうでしょうか。私は相対的に導入率は低いと見ています。こうしたコンサルを十分に活用していない企業には、次の5つのタイプがあるように思います。

1.唯我独尊型:自社のことは自分たちが一番知っている
2.危機感欠如型:どうにかなるだろう症候群
3.アレルギー型:コンサル導入の結果アレルギーが生じている
4.社長コンサル型:経営トップがコンサルの役割を果たしている
5.情報非公開型:外部に情報を開示したくない

3のアレルギー型は結構見かけますが、このタイプはきっかけさえあればアレルギーは解消されるので問題ないでしょう。4はトップの自信過剰さえ気をつければある意味では理想的で、伸び盛りの中堅企業によくあるタイプです。5はさすがに最近では少なくなりました。問題は、1、2ですね。大企業でもこのタイプは多く、やっかいです。

私は、唯我独尊型や危機感欠如型のタイプは人間ドックと専門医の活用法を参考にすべきだと思います。つまり、自分の体のことをいくら知っていても定期的な健康チェックは必要です。その際、どこかに悪い点が見つかり、それが納得できれば、危機感は高まるものと思います。もし、自分で悪い個所が特定できれば専門医(専門コンサル)に見てもらうことが肝要ですね。ちなみに、コンサルをよく活用している企業は、専門医の使い方が上手です。

インターネット時代を迎えて経営環境が大きく変容しています。こうした時代に唯我独尊型や危機感欠如型企業はとっても危険だと思うのです。 このような症状が見受けられる企業こそ、企業規模を問わず是非一度企業ドックの受診をお勧めします。


1999年12月11日(土)〜12日(日)

「IBMのe−ビジネス戦略」

Business Weekの最新号(12月13日号)にIBMのe−business(biz)戦略の特集が掲載されていました。一つのお手本として参考になると思いますので、エッセンスをご紹介致します。ちなみに、e−bizとはインターネットを核にしたエレクトロニクス・ビジネスのことをいっています。

IBMのe−bizは、“最善の学習する方法は実際に行うことだ”を地でいっています。先ず、IBMは財及びサービスの調達をWeb上に移行しました。これにより、今年は110億ドル(約1兆1,550億円)の調達を行い、2億4,000万ドル(約252億円)を節約することが期待されています。

また、顧客サポートをオンライン化することで、7億5,000万ドル(約790億円)が削減され、合わせて1,000億円超のコストの減少が実現されることになります。

e−サービスに関しては、IBMは13万人のコンサルタントを擁して、古いオンラインシステムからWebをベースにしたシステムへと移行するコンサルティングを行っています。このビジネスによって年商30億ドル(約3,150億円)が見込まれています。また、e−エンジニアリングについても、IBMは各企業のネットを使ったサプライ・チェーンの構築によるコスト削減ニーズに対応しています。

製品については、IBMはPCからメインフレームまで、容易にネットに接続できる製品を提供しています。ソフトは、ITシステムを一体化させる“ビジネス・インテグレーション”の中心となるソフト、MQシリーズや電子商取引を含むネット向けソフトを提供しています。

研究開発に関しては、R&D予算50億ドル(約5,250億円)の半分をインターネット関連分野に投入する力の入れようです。更に、外部のコンサルタントや研究者も参加したシンクタンクを発足し、先進電子商取引に関する研究を開始しました。

それから、e−アウトソーシングについては、IBMはデンマークの郵便局の発送業務のアウトソーシング契約を結ぶなど、ホストを使ったウェブ・ビジネスのアウトソーシングに注力しています。

最後に、IBMのPCからメインフレーム・ソフトまで全製品のEコマースによる収入は99年の第3四半期までで97億ドルに達し、年間では最大150億ドルになる模様です。98年の33億ドルに比べて、既に3倍で最終的に4、5倍の規模になると予測されます。

こうしてみますと、IBMのe−biz戦略も想像の範囲を超えるものではありません。しかしながら、研究開発予算の半分をインターネット関連に集中させたり、22万人強のうち13万人をコンサルタントが占めるなど、思い切った資源配分が特筆されます。

ビッグ・ブルーから見習うべきは、将来を見据えて重点的に手を打つマネジメントのやり方だと思います。それにしても、トップの力の差は企業の将来を決めますね。皆さんの会社のトップの実力はいかがですか?(でも、それも貴方の力を含む組織能力を反映したものですから、皆さんも頑張りましょうね!)


1999年12月10日(金)

「コンサル本と内輪話」

相変わらず、いわゆるコンサル本が出版されています。主に、コンサルタント志望者向けとコンサルタントを活用したい企業向けに大別されますが、中には大分おかしな本もありますね。

最近出た二人のトップコンサルタントが書いたとかいう本では、50歳過ぎたらコンサルタントを引退すべきと述べています。著者の一人は外資コンサル大手のM社を辞めて、ある会社の役員をやっていた頃から知っていて、悪意はないことは分かっています。だが、自分が50歳でコンサルを廃業したから、他の人間も引退しろとは思い上がりもはなはだしいと思うのです(asktakaも50を過ぎて、ややむきになっているとの声がありそうですが(笑))。

その理由の一つは、40歳と同じ質の仕事はできないとのことですが、どうも理解できません。それは自分の勉強不足、本質を見抜く洞察力の不足 、体力不足など個人的な理由で、50歳を過ぎてから更に力を発揮した人は少なくありません。当然人には盛りもあるし、個人差があるわけですから、異常値である自分を基準に考えるなといいたいですね。

それから、50歳を過ぎると先生になって、クライアントの若手から本音を聞き出せないというのです。あきれたことに、これは自分のインタビュー能力と人を見抜く能力の欠如を暴露しているわけで、それを聞き出すか本質を見抜くのがプロではないのでしょうか。

この執筆者が事業会社の役員だった頃、社員の人たちはこの人が何をいっているのか理解できなかったそうです。つまり、社員が分かる言語で話をしていなかったわけで、この調子ではいくらインタビューしても本音が聞けるわけがありません。

M社の相手にしている企業は日本企業の中でも超ビッグばかりなので、この著者のように普通の会社を相手にすると少しずれが生じるようです。そういう人たちが、コンサルティング業界とそのクライアントの全体像を語るのは 随分危険な話ですね。

そこで、今日は、上場企業の売上トップ200社以外の企業やその他の普通の会社向けに、駄目なコンサルタントのタイプを示してみます。 つまり、次のタイプにぶつかると災難ですよ。

1.ワンパターン型コンサルタント
(いつも同じ話、同じ提案をする)
2.理論丸写し型コンサルタント
3.オウム型コンサルタント
(クライアントのいうままに工夫なしに提案)
4.カメレオン型コンサルタント
(話やストーリーがころころ変わる)
5.鬼軍曹型コンサルタント
6.数字音痴コンサルタント
7.昔話型コンサルタント
etc.

さすがに最近は、3から7のタイプは少なくなったとは思います。だが、まだ1や2のタイプのコンサルタントは生息しているようです。その見分け方は?そうくると思いましたが、今日はこの辺で。近々そのテーマを話題にしたいと思います。


1999年12月9日(木)

「リストラとレイオフ」

リストラとレイオフという言葉はもうお馴染です。しかし、日本で行われている“リストラ”は、米国のビジネスパースンから見てどうもピンと来ないらしい。

米国では、リストラは中核能力、つまりコアコンピタンスに基づく競争力に基づく事業の再編をいうのです。事業の取捨選択の過程で、大量の人員削減が伴います。

一方、日本のリストラは、米国から見ると単なるレイオフ(一時解雇)、人員削減に見えるようです。なぜならば、彼らの目には日本企業がコア競争力を明確に意識して事業を再構築した結果、人を減らしているとは映らないからです。 子会社への転籍なども、単なる人件費削減ではないかというのです。まあそういわれればその通りで、米国で行われるリストラは徹底していますからね。

例えば、IBMのリストラは、ガスナー会長が就任後40万人の社員のうち30万人を解雇しました。これはコア競争力がコンピュータを有効に活用するソフト、知的財産にあると認識した上で、事業を見直した結果なのです。そして、新たにそのような知識やノウハウを持った人材を10万人採用し、20万人体制で再スタートしたのです。この期間がなんと1年ですから、とても日本企業はかないませんよね。

こうしたリストラが可能なのも、米国の失業率が低下し雇用の受け皿がある点を見逃せません。また、米国では解雇の際、“セヴァランス”という手切金(日本の退職金)を支払うのが一般的です。通常、2年で1ヶ月分が支給されるので、20数年勤めれば約1年遊んで暮らせるわけです。それから、年金制度も日本のように企業年金ではなく401Kという第三者機関が運営しているため、会社を移っても目減りしない点も背景となっているようです。

日本の場合、どうも米国から言葉だけ受け入れて、中身を吸収しないという悪い癖があるようです。かって、日本企業の経営トップや幹部から、当社の戦略はという言葉を聞くたびに、むなしい思いをしたものでした。それは大概は、単なる目標であったり、設備投資や目先の戦術的な施策でしたから。リストラの場合も同様で、前段を抜きにして人減らしの部分だけ都合よく取り上げているのです。

日本企業が米国流のリストラを実現するには、さまざまな障害がある点は事実です。その大半は、日本の文化や歴史的な背景からくるだけにやっかいです。しかし、ここは多少時間がかかっても、単なるレイオフに終わらず真のリストラを実現する企業こそ、21世紀の勝ち組だとは思いませんか?


1999年12月8日(水)

「世界のベストシティ(for Business)」

Fortuneの最新号(99年12月20日号)に恒例の企業立地ランキングが掲載されました。評価基準は、労働力の質、生活の質、総合的ビジネス環境、ビジネスに要するコスト、この4つです。

先ず、米国のトップ10は、ダラス、サンノゼ、オースティン、ニューヨークシティ、アトランタ、シアトル、サンフランシスコ、デンバー、ボストン、シカゴの順です。

上記のうち、ダラスやシカゴが、これまで躍進していたサンノゼやシアトルとともに成長株として注目されます。そして、この10都市をみると、いずれも固有の売り物があることが分かります。

ダラスの躍進は、30年前の都市開発構想に起因します。当時の一部の役人と都市プランナーが、世界規模の交通と流通のハブ、拠点を 作る計画をたてたのです。その結果、マンハッタン島より大きい空港を建設し、ダラスのフォートワース空港(DFW)は、現在世界で3番目のエアカーゴ拠点になっているのです。加えて、テキサス州では企業や個人の州所得税が無税であることも人気の一因です。

一方、ボストンは83の大学が集積しており優れたブレーンパワーを持ち、デンバーは全米で最も公園に恵まれ豊かな環境をもっています。こうした固有の資源を強化しようと、トップ10にあげた都市は、いずれもインフラ整備に力をいれています。

例えば、シカゴでは郊外から人々を引き戻すために都心に新しいショッピングセンターや劇場などを建設したり、ミシガン湖のそばに工業・流通団地を開発しています。シアトルは約5億ドルを投じてマリナーズの開閉式ドームを完成させ、デンバーは中心部への交通の便を改善するために新交通システムを導入するなど積極的な手をうっています。

このように米国の人気都市は、明確な目標、ビジョンの下に思い切ったインフラ整備を行っています。これも自治体のトップがリーダーシップをもって街づくりを推進しているからで、どこかの国とはちょっと違いますね。

なお、Fortune誌では世界の都市のランキングも発表しています。アジアのトップ5は、シンガポール、シドニー、メルボルン、香港、台北です。一方、ヨーロッパは、ロンドン、アムステルダム、ブダペスト、 ミュウヘン、ストックホルムの順になっています。それからラテン・アメリカの上位5都市は、モンテレー(メキシコ)、メキシコシティ、ブエノスアイレス、サンチアゴ(チリ)、サンホセ(コスタリカ)です。

アジアの中に日本の都市が入っていませんが、これも当然かもしれません。日本の内部から見ても、有力都市のオリジナルな都市構想にはあまりお目にかかりませんからね。どの都市の総合計画をみても、かっては“国際都市”、現在は“ネットワーク都市”がキーワードになっていて、まさに金太郎飴です。

こうなると個人的な好き嫌いは抜きにして、石原都知事の臨海副都心のラスベガス構想に期待したくなるのが人情です。ぶち上げるだけでなく、是非実現させてくださいね(欲を言えば、もう少しビジネス寄りの構想があってもよかったですね。例えば、東京湾に都心へのアクセスが30分のアジア最大の海上空港を作るとか。やはり、後藤新平のスケールを望むのは無理かな)。


1999年12月7日(火)

「ロボットの話」

またソニーの話になりますが、犬型のロボット「AIBO(アイボ)」 が売れているようですね。25万円の商品が6月の発売時には20分で3千個を売りきり、先月の2回目の販売では1万個に対してなんと13万件の申し込みが殺到したそうです。以上は、日曜日の日経の春秋に出ていた話なので、ご覧になった方も多いことでしょう。

ところで、ちょっと内緒の話ですが(もう時効だと思います)、私は20年ほど前から、この手のホビーロボットの開発の動きを知っています。当時は東西の電機メーカーが産業用ロボット以外のロボットの開発を狙っていました。

その頃は、確か産業用ロボットの市場規模が2,000億円といわれており、この成長市場に足場を作ろうと200社以上の企業が参入していました。なにしろ自社の工場で使っている自動化機器を、ロボットとして外販する企業も多かった時代です。

こうした環境下で、生産工程以外の場で使われそうなロボットとして、 ホビーロボットが発想されたわけです。当時はM電機の“ムーブマスター” という研究用・教育用ロボットが売れていた頃でした(その後、10年ばかり後に、青山の表参道から根津美術館に抜ける右側のコムサデモードの店頭で、ディスプレーとして見かけたときにはびっくりしました)。

開発の切り口は、ホーム・オートメーションで、家事などのお手伝いロボットからAIBOのようなペット代わりまで、さまざまなホビーロボットの開発構想を練っていました。だが、いくつか試作品を作ったものの実際に市場で販売するには至らなかったのです。

その原因は技術的な問題というよりも、市場の問題でした。その頃はまだパソコンの世帯普及率はほとんどゼロに近い状況でしたし、AIVOのように“歩くコンピュータ”と割り切るにはほど遠い時期でしたからね。

こうして振りかえってみると、商品開発のタイミングは実に難しいと思います。例えば、かっての編み機“あみむめも”のように(まだ東急ハンズやユザワヤなどで売っています)、衰退市場でも簡易さを売り物に大ヒットした商品もあります。一方、いくら成長市場にあってもヒット商品の生まれる確率はそんなに高くないのです。

よくいわれるように、マーケットの何歩も先を行く商品はヒットしないのは事実だと思います。せいぜい半歩先ぐらいをどう読むかが、ポイントです。AIBOのヒットは、ファービーやプリモプエルなどのおしゃべりする反応型の玩具がヒットした市場を、上手く読んだ結果だと思います。加えて、限定数量を訴求して稀少性を出した売り方が効を奏したものと思われます。もちろんソニー・ブランドへの期待感もあったと思いますが。

個人的には、いくら喜怒哀楽を示す自律型ロボットとはいえ機械のペットよりは本物のほうが好きですね。どうも中年層が購入しているようですが、皆さんはAIBOと一緒に生活したいと思いますか?


1999年12月6日(月)

「渋谷のビットバレー」

最近、渋谷のビットバレーが話題になることが多い。ニューヨークのシリコンアレーが脚光を浴びる中で、日本のインターネット関連ベンチャー企業の集積に期待が寄せられているからです。

ビットバレーは、もともと渋谷の英語の直訳“ビターバレー(渋い谷)”と呼ばれていたようです。だが、ビターにはネガティブな意味があるので、結局デジタル情報量のビットからビットバレーと名付けられたそうです。

ビットバレーは渋谷を中心に北は初台、南は恵比寿あたりまで広がっています。渋谷にネット企業が集積したのは、もともとNHKがあるため広告や制作会社、プロダクション、ゲームソフトなどの企業が集まっていたことが大きな要因です。こうした企業がホームページ制作などのビジネスを手がけ出したわけです。この点はシリコンアレーとよく似ています。

加えて、渋谷及びその周辺は比較的小型の雑居ビルが多く、資金の少ないベンチャー企業が進出しやすい点も見逃せません。

ビットバレーには、マイクロソフト、アスキーなどのメジャーな企業も立地していますが、ほとんどが93年以降に設立された会社です。一説によると、このエリアに300社から400社のネット企業が集積しているといわれています。

そこで、主な企業をあげると次の通りです。この分野では草分け的なデジタル・ガレージ、ソフトバンクの孫さんの弟が経営するインディゴ、映画情報サイトのバガボンド、コミュニティ・サービスのガイアックスやガーラ、インターネット広告のまぐクリック、結婚総合情報サイトのイー・ベント、女性サイトのアールシーワイ・ビジョンなどです。

ところで、インターネットの波に乗って、20代や30代の若者がこうしたベンチャー企業を立ち上げるムードが高まっている点は歓迎すべきです。ただ、このような企業群がスタートアップから無事に離陸するには、より多くの優秀な人材が集まることが不可欠です。

しかし、残念ながら日本では大学・大学院卒の優秀な方々は、まだ大企業志向が強いのが現状です。最近ではコンサルティング業界の人気も高まっていますけどね。

一方、米国を見ると、最近では一流のビジネススクール卒の人達は、スタートアップ段階の企業に就職したり、起業したりするケースが増えているそうです。ちなみに、その他、投資銀行や他の金融機関の人気が高く、コンサルティング人気は下降気味のようですね。

米国においても、若者の起業家志向が高まるには10数年の年月を要しています。それを考えれば、日本はまだスタートしたばかりです。今後、どうすればわが国に起業家魂が根付くのか。それは決して政府のバラマキ行政によって実現するものではないと思います。安定志向の両親の理解を含めた、真のエンジェルの出現こそ重要ではないでしょうか。


1999年12月4日(土)〜5日(日)

「ソニーのパソコン事業成功の背景」

ソニーの“VAIO”の売れ行きが好調です。個人・家庭向け市場ではブランド・イメージもあって一時品薄状態にあったそうです。だが、ソニーのパソコン事業も、80年代の前半に撤退した苦い経験があることをご存じですか?

ご承知のように、パソコンの歴史はスティーブン・ウォズニアックとスティーブン・ジョブズ、この2人の若き天才の手によって始まりました。1976年に、彼らはそれまでの8ビットのCPUと数キロバイトのRAM、それに簡易な入出力装置を付けた「ワンボードマイコン」から、現在のパソコンの原型をなす世界初のパーソナルコンピューター、Apple IIを世に出したのです。

その後、日本の各メーカーはパソコン市場に参入しましたが、80年代前半にはNECが圧倒的なシェアを持っていました。この成功の背景は、NECがソフトが成功の鍵であることを喝破して充実を図っていたことに起因します。その結果シェアが高まると、今でいう“勝ち組”に乗る現象が生じて、ソフト会社はこぞってNEC向けソフトを開発し、更にシェアが高まるという好循環が生じていました。

こうした環境下で、ソニーがパソコン市場に参入したのは83、4年頃だったと思います。ちょうどその頃は、アップル社が現在のアイコンとマウス持ったパソコンの原型となったLISAやMacを発売した時期でもありました。

ソニーは松田聖子をCMに使い、積極的な販促を行ったのですが、結局数年で撤退することになりました。ビジネス向けはNやFなどの先発メーカーが押さえていたので、個人や家庭をターゲットにして、ゲームソフトや人工知能ソフトLogoを使った教育ソフトを充実して拡販する計画でした。だが、まだ消費者の需要を喚起するには至らなかったのです。

ソニーの最初のパソコン事業の失敗の原因は、次の3点に要約されると思います。つまり、

1.すでにガリバーがいて市場構造がある程度固まっている中で、
2.技術的なブレークスルーがないままに、
3.まだパソコン市場が活性化していない消費者市場を狙った

この3点です。このような環境では、ソニーのブランドを生かした戦略がとりえなかったのです。

現在のVAIOの好調さは、NECのシェアが下落する中で、デジカメやインターネットを始め情報家電とAVが融合する大きなうねりの中で、 消費者市場の成長の波に乗ったからだと思います。こうした環境の中で、ソニーのブランドとマーケティング力が力を発揮するのです。

それから、これは私の推測ですが、今回の成功には、かってのパソコン事業に関与した人たちの失敗が大きく寄与していると思うのです。ソニーの情報リテラシーが高いのは、各部門に散ったかってのパソコン人脈があったからだといわれています。 しかし、もっと重要なのは、組織が失敗経験を共有して、そこから明日の成功シナリオを学ぶことだと思います。VAIOの成功を見て何故かほっとする、asktakaでした。


1999年12月3日(金)

「Blur(ぼんやりした)時代」

もう大分前から、昨年出版された“Blur”と題する本が欧米で話題になっています。Blurは、不鮮明な、ぼんやりしたという意味を持ちます。この本の著者達は、今後のビジネス社会はBlurな時代、つまり業界や国家の境があいまいになり、製品とサービス、売り手と買い手、従業員と経営者なども明確な境界が無くなる日が来るという。

顧みれば、わが国で国家や業界の境界がなくなった、ボーダレスになったといわれて久しい。かって人、物、金などの国際間移動の進展をボーダレス化といっていました。

一方、多角化が業界の垣根を取っ払いました。例えば、キヤノンのカメラ売上は全体の1割強で、ニコンのそれも4割を切っています。キヤノンはもはや情報関連機器メーカーであり、ニコンはステッパーの最大手です。繊維業界においても東レ、帝人の繊維売上比率は5割を切って、化学や医薬分野へ主力が移行しつつあります。

だが、著者達は、このようなボーダレス化の進展のみを捉えて、Blurな時代がくるといっているのではないのです。つまり、

1.企業環境や組織がリアルタイムに変化し、変化に応じた運営
2.製品、人、企業、国家などすべてがインターネットで連結
3.見えざる経済価値の重要性が増加

この3点によって、ぼんやりした、境界のない時代になるといっています。これをパラフレーズすると、インターネットを駆使した変化に即応する体制下で、モノ以外の価値、つまり、ブランド力やサービスあるいはソフトの価値が一層高まり、その結果ますます境界がなくなるというものです。

現時点で、このような時代を先取りしている企業をイメージしてみましょう。IBMやGEなどのソフトあるいはサービス分野へのシフト、マイクロソフトのOSベースの収穫逓増ビジネス、ギャップやエディ・バウアーなどのSPA(製造小売りをするブランド)、アマゾン・ドット・コムやオート・バイ・テルなどによるインターネット販売が代表例です。

国内では、まだメーカーの動きは試行錯誤の状況にあると思います。ただ、安売り航空券のHISのエアへの参入、日本のSPA、ユニクロの台頭、最近ではイトーヨーカ堂の金融業への参入意向などの動きがあります。いずれも従来の業界の枠を超えて、モノ以外の見えざる価値を創造しているといえます。

わが国の企業や政府の変化に対応するスピードが遅い点は、世界のビジネス・パースンや政治家は先刻承知しています。Blur時代を迎えて、先手を打つには具体的に企業はどう行動すべきでしょうか。

先ず、トップのリーダーシップとそれを支える体制の確立が不可欠です。これまでの集団意思決定の名の下での、前例重視、横並びの主義の無責任体制では生き残れません。少数のトップ陣がビジョンと責任とリーダーシップを持って迅速に意思決定を行える体制を整えるべきだと思います。要はトップと参謀の人選次第ということになりますかね。

それから、大きな方向、ビジョンが決まっていなければいけません。あのSONYでさえも、93年頃にはデジタル時代にどう行き抜くかを苦悩していた時期があります。しかしながら、一度“デジタル・ドリーム・キッズ”という方向が決まってからの動きは目を見張るばかりでした。細部はともかく、進むべき方向の明確化が不可欠なのです

Blurな時代には、従来の発想、思考、成功体験から脱皮し、上述した点を踏まえた一迅速な対応が求められるとは思いませんか?


1999年12月2日(木)

「戦略の基本とは?」

かのポーター教授がHBR(ハーバード・ビジネス・レビュー)に書いた「戦略とは何か」と題する論文の中で、「日本企業にはほとんど戦略がない」と述べた話は人口に膾炙している。実際、日本企業の戦略下手は、あえてポーター教授に指摘されるまでもないことだ、と多くの経営者やビジネスパースンは思っています。

では、一体、戦略とは何か。ポーター教授のいう戦略とは、競争戦略の観点から自社独特の戦略的ポジショニングを確立し、業務活動 をそれにフィット(適合)させることを意味します。このような戦略の捉え方は、個々の事業戦略を考える場合には妥当です。しかし、競争する製品市場、業界が多岐にわたる多角化企業にとって、こうした戦略の定義は適合しないことは明らかです。

私はオーソドックスに戦略を次の2次元で捉えた方が実務的だと思います。つまり、

1.企業戦略(全社レベル)

2.事業戦略(事業部レベル)

この2つです。

企業戦略は環境変化に対応して、事業ポートフォリオ、つまり、 事業の組み合わせを変化させ、新たな価値を創造する方法をいいいます。具体的には、多角化や国際化の推進、新規事業開発などにより一層キャシュフローや収益を生む事業構造を構築することがポイントとなります。

一方、事業戦略はある特定の事業領域において持続的な競争優位を いかに構築するか、この点がポイントです。

ちなみに、このような戦略の捉え方は、企業戦略の標準的なテキス トの一つ、HBS(ハーバード・ビジネス・スクール)のコリス、 モンゴメリ先生の共著「企業戦略]の線にも添っています。

私は日本企業の「戦略下手」は、ポーター教授のいう戦略的ポジ ショニングの無さよりも、上述した企業戦略が不在である点にあると思います。 これまで、一握りのグローバル企業を除いて、こうした企業戦略が 上手くいっているケースは少ないのです。日本企業は、現場主体の事業戦略レベルで強さを発揮してきたといえるでしょう。

しかしながら、情報通信などの技術革新や規制緩和の進展などによって市場の成長力格差は拡大しているのが現状です。そのため、これから企業が更なる収益拡大の機会を得ようとすれば、成長市場に進出して事業ポートフォリオを最適化することが最善の方法なのです。このように考えれば、「戦略下手」では近未来での生き残りは難しいとは思いませんか?

そこで、日本企業のトップ並びにビジネス・パースンに問いたい。

1.貴方の会社の戦略は何か?
2.事業ポートフォリオは最適か、そうでなければどうするか?
3.戦略を立案、推進するための本社の役割、機能はどうあるべきか?

皆さんは即座に上記の問いに答えられますか?であれば、あなたは立派な戦略家です。答えられなかった方々は、今こそ企業戦略の基本を自問自答すべき時が来たと観念すべきです。


1999年12月1日(水)

「ネガティブ・サム・ゲームの時代」

景気の底入れは見えてきたとはいえ、まだ消費支出の回復力は弱い。先日の経企庁の発表結果を見るまでもなく、夜の街の静けさがそれを物語っているようです。こうした環境下で、一部の成長市場を除いて"ネガティブ・サム・ゲーム"が続いています。

かって成熟市場において競争が激化し、勝ち組と負け組の利益の総和がゼロになる、つまりゼロサム・ゲームの時代が到来したといわれました。だが、昨今は需給ギャップが拡大し、一部にデフレ・スパイラルともいうべき現象が見られます。このような市場環境の中で、各企業は値下げ競争を余儀なくされ、すべての企業の利益がマイナスになる、いわば"ネガティブ・サム・ゲーム"が支配する状況となっています。

ではネガティブ・サム時代にどう対処するか。私はそれは次の3点に要約されると思います。

1.価格競争を回避して、独自の戦略、ポジショニングを構築
2.競合の動き、市場動向等をすばやくキャッチし実践する風土の醸成
3.顧客囲い込みを実践する組織能力の強化

今、各企業は消費者の価格志向やユーザーの価格引き下げ要求に応じてシビアな価格競争を行っています。しかし、短期的な効果を狙って価格を引き下げても、コスト構造に変化がない限りネガティブ・サムになるのが落です。ここは価格競争に追随せず、独自のコンセプトを打ち出して、ポジショニングを明確にすべきではないでしょうか。

次に、日本企業はこれまで業界横並び意識が強く、競合企業といえども仲間意識があった点は否めません。しかし、今後、成熟市場下でゼロ成長あるいは低成長を前提として戦略を構築せざるを得ない状況です。こうした状況下では、企業行動はゲーム理論的なアプローチが不可欠になります。つまり、リーダーあるいは競合の動きに応じて、追随するか独自路線を取るかの選択が重要となります。そのためには、現場レベルで競合動向を機敏に把握して、戦略的行動に結びつける風土やシステムを作ることが肝要です。

更に、業種、企業を問わず売上、利益の大半は、全体の2、3割に過ぎない顧客や販売店によってもたらされているケースが多いのです。このような自社の重点顧客に対する囲い込みを強化することが、ネガティブ・サム競争を回避する決め手になると思います。それには、重点顧客に長期的な観点から利益を与える関係づくりを組織的に展開する能力が求められるのです。

ネガティブ・サム時代にこそ、各企業の競争戦略の是非が問われることになります。新たな戦略の創出とそれを実践する組織能力の向上が急務とはおもいませんか?



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