Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1999年4月

「バグズ・ライフ」
ジョン・ラセター監督、デイブ・フォーリー、ケビン・スペイシー(声の出演)
★★★★

Appleフリークは、やはりジョブズ率いるPIXARを応援するのであろうが、私は「トイ・ストーリー」も見なかったし、これも見る気はなかったのだ。全編をCGで作ることに価値があるのではなくって、映画としてどれだけ魅力があるか、という基本が大事だからね。でも、「エンドマークまで立ってはいけない」というNG集に惹かれたので行ってしまった。

そのNG集が、なんともすごい。アニメなんだから、NGとはいってもわざわざ作ったわけで、そのへんの遊びというか職人魂というか、いやあ、なに考えてんだか。

ストーリーはアリがバッタと戦う「七人の侍」みたいなもんであって、最後の決戦では激しい雨も降る。キャラクターは2Dのアニメで、背景の自然や街並は驚異的な3Dという使い分けは、妥当なものだろう。なぜかアリが手が2本、足が2本だが。なにが笑えるって、差別表現でも、ハエに「ウンチまみれ」とか言っても、相手は動物だからいいわけだ。バッタが悪役でも、ステレオタイプという批判はないわな。というわけで、西部劇やらいろいろの昔の映画のパロディが楽しい。スタッフがこれでもか、という感じで詰め込んだギャグは大画面で味わうに値する。細かいところまでよくつくってあるのだ、いったい何人が気づくやら。

まあ、子ども向けであることはたしかで、残虐なシーンは巧妙に避けられ、クライマックスでも残酷な最期を生命の循環というテーマにまで昇華しているあたり、見事。で、恥ずかしながら私も2回ほどウルウルしちゃいましたね。「rockとseed」のエピソードなんか、よくやる手ですがうまいっす。実写であろうがアニメであろうが、キャラクターの個性をきっちり立てた上で物語が自然に転がっていく(ような錯覚をさせる)のはやはり脚本の勝利でしょう。加えてアニメではやっぱり表情とか仕草の完成度で、どれだけ共感できるか、画面に入り込めるか、が勝負になるわけでしょうが、その点でもこれは勝ってます。キャラクター商品、買いたくなりまっせ。私ならやっぱりバッタのリーダーの悪役、ケビン・スペイシーが声をやった彼がいいな。なんか、ダースベイダーを彷佛とさせるんだ。

「ベルベット・ゴールドマイン」
トッド・ヘインズ監督、 ユアン・マクレガー、ジョナサン・リース・マイヤーズ、トニー・コレット
★★★☆

70年代のロックの洗礼って、こんなもんだったの? って、たぶん、みんな思うよな。ワタシャあ、なんといってもT. REXでしたがね、グラム・ロックでは。しかし、それよりもハード・ロックやらプログレやらブルースの方がもっと好きだった。

それはともかく、これは70年代のロックやバイセクシュアルやファッションのひとつの流れを題材にして、監督が好きなことをやったと考えた方がいいのではなかろうか。どうも風俗の描き方が気になる向きが多いようだが、テーマとしては普遍的なものをキチンと伝えようとしているのに。成功しているかどうかは別として。

デビッド・ボウイが楽曲の提供を拒否したからといって、内容的には別に関係ないが、興行的には痛手なのかなあ。私はT.REXのナンバーが今聞いてもイチバンかっこいいことを再認識して満足だった。ついでにいえば、ダブリンのオスカー・ワイルドから始めるあたり、かなりテーマは露骨だったりする。こんなにわかりやすく作っていいのか?

「スネーク・アイズ」
ブライアン・デ・パルマ 監督、ニコラス・ケイジ、ゲイリー・シニーズ、ジョン・ハード、カーラ・グジーノ、スタン・ショウ、ケヴィン・ダン、マイケル・リスポーリ
★★★

13分の長回しだから、いい映画ってわけじゃないだろ、と思って観たわけで。しかし、やっぱりカメラワークや演出手法で引っ張るあたりはたしかにひとつの芸か。陳腐なストーリーながら見せ方で斬新にするところは褒めるに価いするのかも。

しかし、しかし。内容が空疎。ケイジもシニーズもその演技力のかけらだけ。謎もサスペンスもチャチ。見どころは、13分長回しと、その別角度からのリフレインで見せる冒頭だけ。エルロイを読んだあとでは、どんな悪徳警官も色褪せて見える。

「バンディッツ」
カーチャ・フォン・ガルニエ監督、カーチャ・リーマン、ヤスミン・タバタバイ、ニコレッテ・クレビッツ、ユッタ・ホフマン、ハンネス・イェニケ、ヴェルナー・シュライヤー、アンドレア・サバスキ
★★★☆

以前、「ビヨンド・サイレンス」を「ずさんな映画」と非難して(今もその感想は変わらないが)、実はけっこう評判がいいことをあとで知って驚愕したのだが、今回も同じドイツ映画という縁で言えば「もっとずさんな映画」である。

しかし、私は欠点をあげつらうよりも、根拠不明だが圧倒しまくるパワーを称揚しようと思う。

まあ、脱走してからテレビで事件を放送しないのに腹を立てて電話して取材させるなんて設定自体がかなりばかげている。そういうキズというか脚本の非現実さは随所にあり、しかも演出が中途半端なもんだから、怒ってもバカみたいだし、かといって「ブルースブラザース」のように納得して笑えるわけでもない。それに、だ。ギターのルナとかドラムのエマはいいのだが、ベースのエンジェルの演奏はあからさまにウソだ。あの運指とピッキングではベースの弦にひっかかってもいないぞ。

にもかかわらず。ライブハウスでマリーがピアノを弾き始める場面。最後に"Don't forget to catch me."とリフレインする演奏シーン。久しぶりに音楽映画らしい高揚感を味わったので、すべて許す。たぶん、映画もそうだが、観たときの私の精神状態によるところも大きいと思うが。

「ビートルズがやって来る! ヤア!ヤア!ヤア!」「明日に向かって撃て」のあからさまな引用とか、「飛ぶ」ことへの思わせぶりな執着とか、いろいろ思い入れもあるようだが、はっきりいってゼーンブ失敗である。そんなことより、ルナが何気なく弾く曲の方がずっとよい。

意図してこんな分裂症のような映画を撮ったのならすごいが、なーんか、自分の才能をかなり誤解している気がするのであった。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1999