Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1997年3月

「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生」

庵野秀明・総監督
★★★
私は物好きで、ついつい行ってしまいました。だいたいのストーリーはわかったけれど、背景や時折説明なしにインサートされるカットが意味不明。人型戦闘兵器エヴァンゲリオンは、シンクロ度数の高い15歳ぐらいの少年少女によって操縦される。迫りくる敵である使徒との戦い、エヴァへの指令を出すネルフ、そしてエヴァのパイロットである、碇シンジ、綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレーらの心の悩み、葛藤。しかし、なぜ、使徒が攻めてくるのか、セカンド・インパクトとはなになのか、まったく説明抜きで謎のまま放り出されるうえに、夏には続編ができて、そこでやっと解決されるという困った映画なのです。でも、映像は面白いし、エヴァが擬人化されて、敵を喰い、口から血を流すところなんか、斬新な感じ。だけどやっぱり、私は「アキラ」の方が好き。

「シャイン」

スコット・ヒックス監督、ジェフリー・ラッシュ、アーミン・ミューラー=スタール、リン・レッドグレイヴ、サー・ジョン・キールグッド、ノア・テイラー
★★★☆
アカデミー賞主演男優賞を下馬評通りに獲得。初日は立ち見の立つスペースを見つけるのも困難なほどの混みようで、人気の高さ(というか、公開劇場が少なかった)を見せつけた。ピアニストをめざす少年の父親との確執。その才能を愛する女流作家との交流。ロンドンへの留学。そして、ラフマニノフのピアノ交響曲3番への挑戦。ひとりのピアニストの挫折と再起を描いて感動的、ですが私はあまり泣きませんでした。文句を言うわけではありませんが。ちなみに私はすぐにサントラのCDとこの映画のモデルのデヴィッド・ヘルフゴットのラフ3のCDを買いました。

「マーズ・アタック!」

ティム・バートン監督、ジャック・ニコルソン、グレン・クローズ、アネット・ベニング、ピアース・ブロスナン、ダニー・デビート
★★★★
スターとお金を豊富につぎ込んでつくったチープでゴージャスな超B級映画。「ID4」のようなリアリティとか、迫力とはまったく違う攻め方で、とにかく笑いのめしてしまうコメディSFの超豪華版。マイケル・J.フォックスがすぐ死んでしまったり、007のピアーズ・ブロスナンが間抜けな科学者だったり、ジャック・ニコルソンが器の小さい大統領を演じたり、俳優だけみても贅沢かつ、ブラックな笑いに満ちています。ティム・バートンがエド・ウッドを好きなことがよくわかる一作。個人的にはジム・ブラウン(元クリーヴランド・ブラウンズのフットボール・スター)が演じたラスベガスの元ボクサーが印象的。不評が多いらしいけど、真面目に観てたらだめで、洒落のわかる人ならわかる、そんな作品です。

「聖週間」

アンジェイ・ワイダ監督、ベアタ・フダレイ、ヴォイチェフ・マライカット、マグダレナ・ヴァジェハ、ヤクプ・プシェビンドフスキ、ツェザリ・パズーラ、ボジェナ・ディキェル、ヴォイテック・プショニャック
★★★☆
ワイダの最新作。第二次大戦、ドイツ占領下のポーランドで、ユダヤ人女性をかくまう家族。ゲットーを離れたユダヤ人、そしてそれをかくまう者、そのことを知っている者は処刑の対象となる。時代は過酷で、良心と、生きたい本能がせめぎあう。ユダヤ人を疫病者扱いする者。レジスタンスに参加する弟。さまざまな人間群像が、寓話的に描かれています。戦争を描きながら、戦闘シーンはほとんどなく、しかし、戦争の影は人間関係に表されます。以前のワイダのような凄みはありませんが、一時の不調からは復活した気配が感じられる佳作。「聖週間」とはカトリックで復活祭前の一週間のこと。1943年4月19日、ワルシャワ・ゲットーのユダヤ人たちの武装蜂起(この絶望的な戦いについては、ドキュメンタリー映画「ショアー」で詳しく語られています。私はこの「ショアー」をNHK-BS1で観たのですが、震えがとまらなくなるようなすさまじい作品です。淡々とインタビューが続くだけなんですが。機会があったらぜひご覧ください)が始まった月曜日から金曜日までの、ゲットーの外側で起こったことを描いています。

「ジャック」

フランシス・フォード・コッポラ監督、ロビン・ウィリアムズ、ダイアン・レイン
★★★★

コッポラ久しぶりの新作は、通常の4倍のスピードで育つ少年の話。つまり、10歳で40歳の外見なのである。設定はSF的だが、実際に映画にするためには特殊効果ではなく、役者の演技で少年の純な心を観客に伝えなければならない。ロビン・ウィリアムズが実に自然で、屈託がない。「いまを生きる」「レナードの朝」「ミセス・ダウト」と演技には定評があるだけに、今回も見せてくれる。映画自体も笑わせて、泣かせて、とツボを心得た演出で心憎いばかり。ビル・コスビーが家庭教師役で存在感を見せる。

4倍ということは老人になるのも早いということで、ラストがどうなるか心配したが、アメリカ映画のお約束は守られています。家族で観るのには超オススメ。ちなみに私は友だちと「トゥリーハウス(木の上の家)」でなく、山の斜面に秘密の家を掘っていたことがありました。少年はなんと老いやすいのでしょう。

「ダンテズ・ピーク」

ロジャー・ドナルドソン監督、ピアース・ブロスナン、リンダ・ハミルトン
★★★
予告の噴火シーンがあまりに迫真的だったので、つい観てしまった。「ツイスター」「デイライト」に続くディザスター(災害)映画というジャンルだそうである。SFXは確かに凄いが、人間ドラマとして感じさせるものに乏しい。それ以上言うことがない。

「夜半歌聲/逢いたくて、逢えなくて」

ロニー・ユー監督、レスリー・チャン、ウー・チエンリェン、ホァン・レイ
★★★
中国映画通に言わせれば「レスリー・チャンのファンは必見」。私が結構面白かったと言うと「男の人でも面白いんだ」と感心されてしまった。ストーリーは「ロミオとジュリエット」と「オペラ座の怪人」を掛け合わせたもの。レスリー・チャンが作曲・作詞し、自分で歌い、もちろん演じ、プロデューサーまでやっている。もともとは歌手なのだから、歌がうまいのはもちろんとしても、ソングライターとしても腕は確か。恋を引き裂かれて狂ってしまうヒロインをウー・チエンリェンが好演。感情移入して観ると結構はまります。実は他愛ない話なんだけれど。「夜半歌聲(やはんかせい)」は深夜の歌声の意。オリジナルは1937年の中国映画の古典とのこと。

「フラメンコ」

カルロス・サウラ監督、パコ・デ・ルシア、ホアキン・コルテス、メルチェ・エスメラルダ
★★★☆
評価に困る。中身は、何の背景もない体育館のようなところで、ひたすらフラメンコを演奏し、歌い、踊るのを丹念にカメラで追うというもの。関係者を一カ所に集めたドキュメンタリーみたいなもので、異色作であることは確か。照明と鏡以外はほとんど演出もなく、それでいて異様な迫力がある。変な連想だが、津軽のイタコを思い出した。一種霊的な力がフラメンコにはあるようで、これを観るとアンダルシアに行きたくなる。単純にフラメンコ・ギターの神業的演奏を楽しんでもいい。

「花の影」

チェン・カイコー監督、レスリー・チャン、コン・リー
★★★★
あの名作「さらば、わが愛/覇王別姫」の監督・主演のトリオ再びで、期待感がものすごく高かったせいか、世評はあまり芳しくない。でも、決して観て損はないと思う。辛亥革命(1911年)以降の蘇州と上海を舞台に繰り広げられる恋愛模様はクリストファー・ドイルのカメラワークとも相まってなかなかの映像美を堪能できます。レスリー・チャンはジゴロながらも人を愛そうとして愛せない複雑な性格の男の役を好演。コン・リーはなかなかの気品で富豪の娘にふさわしく、また愛に一直線で凛とした女を演じて不足がない。ただ、ラストへの展開が急すぎるのが難点。知人の中国映画通によれば、原作を読んでおかないと筋を追うのに苦労するかも、ということだった。

「スリーパーズ」

バリー・レヴィンソン監督、ケヴィン・ベーコン、ブラッド・レンフロ、ロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマン、ブラッド・ピット、ジェイソン・パトリック
★★★★

「ぴあ」の試写会に当たったので、人より先に観れたのはラッキー。これも豪華なキャスティング。ささいな悪戯から傷害事件を起こして少年院に送られた4人の少年が悪徳看守に残酷な仕打ちを受ける。やがて偶然の出会いから復讐が計画される。デ・ニーロが少年たちを見守る神父、ダスティン・ホフマンが弁護士、成長した青年4人のうち、地方検事補にブラッド・ピット、新聞記者にジェイソン・パトリック。復讐の相手の看守にはケヴィン・ベーコン。

原作は実話として出版され、アメリカでのベストセラー。決して幸せな結末ではない。しかし、何の不安もなく、人生が輝いていた少年の日々が二度と戻ってこないことへのオマージュではないかと思うと、切ないものがある。「スリーパー」とは9カ月以上少年院に入っていた者を指す隠語とのこと。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1997