Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1998年12月
「アルマゲドン」
マイケル・ベイ監督、ブルース・ウィリス、リブ・タイラー、ベン・アフレック、ビリー・ボブ・ソーントン、キース・デイビッド、クリス・エリス、ジェイソン・イザック、スティーヴ・ブシェーミ
★★

怒るほどではないが、時間を損した気になる程度にはつまらない。まあ、泣こうと思えば泣けるんだけど。ある意味ではよくできている。NASAと政府との対立、石油掘削屋と宇宙飛行士の反目、娘の父からの自立、家族の絆、命を投げうつ勇気。ただし、それらが全部できそこないの書き割りみたいに、みんな嘘っぽい。ハリウッド映画はそんなもんだ、と言われればそうかもしれないが。

というわけで、ブシェーミがだんだんキレていったり、また演説で泣かせようとしやがって、とか細かいところで楽しもうとするのだが。ブシェーミの気味悪さってのは、銃をぶっ放すところにはないんだよな。核爆弾にまたがって「博士の異常な愛情」ごっこをするまでは許すが。むしろ、小さな女の子とままごとをする場面だけで怖がらせた「コン・エアー」の方がずうっと上。

期待の隕石落下シーンは、予告編そのもの。ニューヨーク以外は手抜きとしか思えない。まあ、たぶん観る側の要求水準が上がったんだろうけど。松田聖子に至っては演技以前に存在自体がジョークだ。

「ビッグ・リボウスキ」
ジョエル・コーエン監督、ジェフ・ブリッジス、ジョン・グッドマン、ジュリアン・ムーア、スティーヴ・ブシェーミ、ジョン・タートゥーロ
★★★☆

グリフィス公園の上から眺める夜のロサンジェルスの街は、キラキラと美しい。しかし、足元には乾燥地帯特有の砂埃が舞い、素早く退散しないと危険な地域だったりする。

コーエン兄弟(ジョエルが監督・脚本、イーサンが製作・脚本)の新作は、とってもヘンな奴らのカタログにしておとぎ話みたいな映画だ。導入のナレーションでは「リボウスキというヘンなやつの話」とかいう意味の台詞が出てくるが、そのリボウスキが一番まともに見える。期待したブシェーミもかすむぐらい、無茶苦茶な連中のオンパレードで、しかも時折挿入される幻想シーンが唐突で無意味。筋とか謎とか心理ドラマとか起承転結とかは全然気にせず、コーエン・ワールドが展開されていく。

私は久々に心の底から笑わせていただきました。金持ちの方のリボウスキが、妻を誘拐されて悲嘆にくれる場面。秘書がドアを開けると真っ暗な室内、流れるのはモーツァルトのレクイエム。ハッハッハ。この瞬間、私の理性の糸は切れて、笑いっ放し。賞ももらったし、ここらで好きなことやって遊ぶか、というスケールの大きいオマージュやらパロディやら、コーエン兄弟の面目躍如。

だいたい、ストーリーに関係のないキャラクターをこんなに念入りに撮るというあたり、かなりヘンです。全身紫色ムチムチのボウラー(タートゥーロの存在感)、前衛ダンスに凝る大家、その他いろいろ。しかも、多少のキズはあるものの、誘拐をめぐるお話にはキチンとオチがついてそれなりの意外な真相にたどり着くし、最後にはちいと泣かせる仕掛けもあって(まあ、私でさえ泣かなかったから、泣く人はいないと思うが)、ちゃんと普通の人でも怒らず眠らず楽しめるつくりになっているあたりは職人芸か。

あ、そうだ、サービスにホワイト・ルシアンのレシピを。

氷を入れたグラスに
ウォッカ 40ml
カルーア 20ml
を入れてステアし、生クリームまたはミルクを静かに注いでフロートさせる。

自由人リボウスキはグチャ混ぜにして飲んでましたけど。

「阿片戦争」
謝晋監督、鮑国安、蘇民、高遠、ボブ・ペック、サイモン・ウィリアムス
★★★☆

昨年の香港返還記念の国策映画。今頃観るとういうのも何だが、中野武蔵野ホールにかかっていたので最終日の最終回に行って来ました。

最初は歴史の教科書かと思った。しかし、人が死に始めると、俄然盛りあがってくる。「さらば、清朝」という一種の壮絶な別れの歌なのかもしれない。よくできてます。常套手段として配された歴史の波にもまれる一般庶民にしても、うまく筋に絡んで感動的。とにかく、これでもか、と主要な人物が死んでいき、中国は屈辱の末路をたどっていくというのに、不思議に暗くない。まあ、人物像がかっこいいというか、義を通して死んでいくというところと、その香港が返ってくるというタイミングも大きいのだろうが。

ヴィクトリア女王が若くてものすごく洞察力があるところには少し違和感があるが、外交的配慮なのか。英議会の議論の場面は面白かった。というのも、あの議場の狭さや、カツラも、今でもほとんど同じなのだ(まあ、テレビでしか見たことはないが)。細かいことだが、道光帝の子どもは可愛かったな。あのへんの描写もあざといぐらいに意図的ではあった。非常にわかりやすく作りながら、しかも図式的な弊に陥ることを巧みに避けているところに技を見た。

「哭」という漢字を映像で見せられたようなシーンもあり、また自ら首をかき切る所作をついに見たし、中国を文字テキストでしか知らなかった部分の勉強になりました。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1998