てっきり最近の高校生活の話だと思っていたら20年前だった。私の高校時代とほとんど重なるではないか。しかし、時代背景はほとんど関係ない。普通の子が女子ボート部をつくってがんばるだけである。劇的な勝利もない(「どべでない」ことをめざすだけ)。根性物語もない(練習はやっているが)。激しい恋もない(ほのかな恋心はある)。難病もない(なにしろ「ぎっくり腰」だし)。
過度の盛り上げを排して、飾り気のない映画づくりに好感。バターや生クリームたっぷりの料理よりもお茶漬けに肉じゃがということか。とにかくやたら叫び、争う派手な言い合いのアメリカ映画に辟易している向きにはおすすめ。こういうおさえた会話と目でコミュニケーションがちゃんと成立するのだ。
しかし、あっさり味でも基本のだしはしっかりしている。テクニックらしいテクニックは見せないが、きちんとつぼを押さえた美術とロケハンと演出と撮影と編集と、とにかくスタッフの高い力量と身の丈にあった展開でレベルの高い仕上がりになっている。とくに瀬戸内海や松山の街並みの映像の魅力的なことよ。
なによりすごいのは、ボート部の5人の少女のオールを漕ぐ姿勢や技術はもちろん、顔つきまでが一人前のボート漕ぎとして成長していくところだ。もちろん、スタントやメイクでいくらでもカバーできるのだろうが、演じている5人の女優(というより仲間か)は、演技と言うより素のままで勝負している。脚本の構成はよく計算されているが、むしろ演じている側が撮影中に獲得していったリアリティが映画の枠を飛び越えていったような気がする。
合宿の夜に浜辺で花火で遊ぶシーンが実によい。あらかじめ失われたこの一瞬の輝き。スローモーションが2箇所で使われているが、これもよく考えられている。プロローグも気が利いている。ラストがあっけないという人もいるだろうが、これでいいと思う。こういう小ぶりでいい映画が、たくさんできてほしいものだ。それにしてもあまりに世界が小さすぎて(松山に限定されているという意味ではない。映画から広がる世界への投げかけの射程だ)、こじんまりまとまりすぎ、という批判もしておこう。
なお、PTA推薦映画という「汚名」を着せられそうだが、それについては「否!」と答えよう。
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