Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1997年11月

「ナイト・フォールズ・オン・マンハッタン」
シドニー・ルメット監督、アンディ・ガルシア、リチャード・ドレイフュス、レーナ・オリン、イアン・ホルム
★★★☆

イタリア行きの飛行機の中で観ました。もう1本は「デビル」で、なんだかニューヨークの警察ものが並んでいました。さて、こちらは警察の腐敗に立ち上がる正義の検事の物語。なんだか「セルピコ」を思い出します。主人公アンディ・ガルシアは検事補で、その父親がたたきあげの刑事なんですが、麻薬密売の大物逮捕で重傷を負うわけですね。その逮捕では警官3人が犠牲になったうえに犯人には逃げられてしまう。検察は威信をかけてつかまえにかかる。すると、人権派弁護士が自首させて、法廷での戦いに持ち込む。警察は実は犯人から賄賂を受け取っていて、その増額を巡ってトラブルになり、彼(=麻薬密売の大物)を消しにかかった、という論拠なんですね。これに対抗する検察側になんとまだ新米でエリートでもないアンディ・ガルシア。要は父親の敵討ちという浪花節戦略。これが、成功しちゃうんですね。アメリカは陪審制ですから、論理よりインパクトという側面があって、かなり芝居気たっぷりです。さらに、アメリカでは検事は選挙です。政界への第一歩というわけです。そして、なんと、再選を狙っていた現職検事が倒れて、代わりの候補にアンディ・ガルシアがなっちゃう。おまけに美人の恋人まで手に入れちゃう。このストーリーだけ言っちゃうと、ほとんどファンタジーですね。

しかし、いいことは続かない。警察の汚職の疑惑は、父親の相棒にまで広がってくる。正義か、義理か。不正な手段で有罪に持ち込むのは果たして正義か。シドニー・ルメットらしい、正面切った社会派ドラマが展開されます。しかも結構リアリスティック。現実の醜悪さに眼を背けない毅然とした態度がこの映画を支えています。ただし、相当理想主義的ですが。ラストシーンで、アンディ・ガルシアが法律の行政官をめざす若者に語りかけますが、このへんにルメットの本音が出ています。そして、このラストを付け加えるところが、「青さ」という気もします。ちょっと余計かも。

「フェイク」
マイク・ニューウェル監督、ジョニー・デップ、アル・パチーノ
★★★★

マフィアに潜入するFBIのおとり捜査官にジョニー・デップ。彼を弟分として可愛がるうだつの上がらない初老のマフィアにアル・パチーノ。ミイラ取りがミイラになる話といっていえないこともない。しかし、これは男と男の、家族以上の信頼関係、それを仁義とも情というのかもしれない、その不思議な強さを描いた映画です。観終わって後味のいい映画ではありません。重い澱のようなものがひっかかります。ある種の深い感動、そういっていいのかどうか、心を打つものがあります。2人とも演技が渋い。

あまりヒットするとは思えませんが、私はなぜか泣きました。ただし、子ども向けにはちょっと難しいかも。殺人も死体切断もあるし、そのシーンがリアル過ぎて「そこまでやらなくても」と思いました。あとから考えれば映画的には必要なシーンですが。「fake=にせもの」が「reality=本物、現実」になっていくところに映画的真実がある、そんな感じでしょうか。

「ラヂオの時間」
三谷幸喜監督、唐沢寿明、鈴木京香、西村雅彦
★★★★

東京サンシャインボーイズのころからのファンとすれば、このところの三谷幸喜の快進撃は「やはり」の感が深い。だって面白かったもん。

さて、初映画は東京サンシャインボーイズ時代の「ラヂオの時間」。主題というか手法は傑作「ショウ・マスト・ゴー・オン」と同じ。舞台かラジオ局かという違いはあっても、無理難題を乗り越えてとにかくドラマを実現していくという構造は変わりません。いかにも三谷幸喜の腕のふるいどころ。脇役がいいですねえ。とくに藤村俊二。元効果音の職人の警備員。花火の効果音なんて、彼の芸の真骨頂。ははは。思い出しても笑っちゃう。笑いすぎて涙が出るくらい。

密室でのスピード感あふれるコメディが全編を映画用に書き直してさらにスリリングに。そんな解説はどうでもいい。「メアリー・ジェーンと漁師の虎三」「シカゴには海がない」「ダムが決壊する音」「ドナルド・マクドナルド」。ほら、また思い出し笑いが。

「コン・エアー」
サイモン・ウエスト監督、ニコラス・ケイジ、ジョン・キューザック、ジョン・マルコビッチ
★★★★

「ロスト・ワールド」を抜いて全米初登場No.1になった人気アクション映画。酔っぱらいにからまれたために殺人を犯した男が仮釈放を得て8年ぶりに愛する妻と初めて会う娘のもとへと帰るはずの囚人護送機がハイジャックされる。男は仲間を助けるために、飛行機に残る。果たして、男は帰れるのか?

サスペンスとスリルは一級品です。ニコラス・ケイジがいいですね。仲間のために、家族のために、信じるものために戦う男といういい役です。ラスト近く、銃をものともせずに対決するところなんか、雄々しいハードボイルド・ヒーローそのものです。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1997