Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1998年3月

「フェイス/オフ」
ジョン・ウー監督、ジョン・トラボルタ、ニコラス・ケイジ、ジョアン・アレン、ジーナ・ガーション、アレッサンドロ・ニボーロ
★★★★

面白い。細かい事を言えばいろいろあるが、納得度の高いストーリーと見事なアクション。ただ、次々と人が殺されていくのを見るのが最近、苦痛なんだなあ。

この映画は実にわかりやすい。これは伏線だってわかるし、登場時間の少ないワキ役も印象深く描写されていて「この人、誰だったっけ?」ということもない。もっとも、そういう人たちがどんどん死んでいくんだけど。また、悪玉テロリストが踊るようにターンしたり、女性のお尻を撫でたりする癖とか、FBI捜査官の結婚指輪とか、細かい描写の意図がはっきりしていて、しかも後できちんとフォローされているのにも好感。他にも、対句的というかつまり、同じようなシーン、台詞が時間を置いてリピートされていて、その微妙な差異で2人の入れ替わりを表現するという工夫がうまい。

そう、この映画はトラボルタの善玉FBI捜査官とケイジの悪玉テロリストとが顔を入れ替わってしまう物語。これだけだと無茶な設定だが、シナリオがうまい。そして、トラボルタ顔になった悪玉はFBIで実権を振るい、ケイジ顔の善玉は刑務所を脱獄して戦いを挑む。このへんの心の葛藤や、パーソナリティの違いを演じさせたら、そりゃニコラス・ケイジの方が圧倒的にうまいわな。小さな息子を殺した憎い敵の顔に自分がなっちゃう、苦しさ。しかも秘密作戦を知る者は殺され、孤立無援でテロリストの顔をひっさげてFBIの包囲をかいくぐっていく。そしてテロリストの昔の女の家に逃げ込むわけですが、テロリストに扮している堅物捜査官というここの演技はさすが。(ちなみにこの昔の女はジーナ・ガーションですが、いいですねえ。それはさておき、)相変わらず不器用なトラボルタには、さきほど触れた「対句」技法を用いて性格を描き分けることに成功しています。

きわめつけはジョン・ウーお得意のアクション。しょっぱなの飛行機を追いかけて犯人逮捕のシーンから二丁拳銃対二丁拳銃。派手な脱獄。昔の女の家を襲うFBI。鏡をはさんで撃ち合う2人。教会での対決。そしてモーターボートでの追跡と、ボルテージはどんどん上がっていく。スピード感、サスペンス、ハラハラ、ドキドキ、「男たちの挽歌」の作家らしく、激しくも流れるような映像は様式美さえ感じさせます。

深く考えればアイデンティティの問題とか、善と悪の二元論とか、理屈はつきそうですが、ここは単純に顔を奪われ、自分を失いかけた男の苦闘と受け取っておけばよさそうです。主役2人の人物造型が図式的という批判も成り立ちますが、このストーリーの場合、典型的なキャラクターにしておかないとややこしくなりすぎて設定の面白さをそこないかねず、上出来のエンターテインメントと褒めちぎっちゃいましょう。

「ゲーム」
デビッド・フィンチャー監督、マイケル・ダグラス、ショーン・ペン
★★★
惹句といい、予告編といい、誰だって「セブン」のような緊張感と深みのある込み入ったストーリーを期待するよなあ。出だしもいいし、いわくありげな小道具とか、だんだんエスカレートしていく災難といい、盛り上がるんだけど。あのラストはないんじゃないの? 「セブン」のやりきれない、「ハリウッドお約束のハッピーエンド」じゃない結末に比べれば、数段落ちる。しかも、途中までのディテールと整合性に欠ける。勘ぐれば、製作サイドに押し切られて台本を変更したのか? とまで思った。しかし、どうやらゲームと現実の境目というテーマで遊んでみたかっただけなのかもしれない。どちらにしろ、突っ込みが浅い。思想というか、バックボーンがなっていない。いくら二転三転のストーリーをこさえても、うまく観客を乗せてくれないとねえ。
「HANA-BI」
北野武監督、ビートたけし、岸本加世子、大杉漣、寺島進
★★★★

97年のヴェネツィアでグランプリ。北野武監督は黒澤、溝口と肩を並べるのか? さて、期待にたがわず、いい映画でした。実は北野映画は初めて観たんですが、なかなか渋い。どうして興業成績が上がらないんだろう、と考えるに、どうも「ビートたけし」ファンには受けにくいような気がする。台詞は少ないし、ストーリーは説明しないし、突然暴力は噴出するし。邦画は面白くないという昨今の「常識」も影響しているのかもしれない。

いろいろな評によれば、今までの北野映画の集大成らしいのですが、確かに暴力描写も静かな抒情もある。しかし、何より、映像に説得力がある。各シーンの編集(ちなみに編集も北野武)はけっこう乱暴というか、カットバックが多用される上に映画文法を無視しているようにも見えるのだけれど、ちゃんと観客に謎かけした上で納得させる力を持っている。

ビートたけしの刑事は、しゃべりません(後半は時々しゃべりますが)。銀行強盗するときもしゃべりません。その妻の岸本加世子は輪をかけてしゃべりません。「これは?」「ありがとう」「ごめんね」これだけです。でも、いいんだな、これが。泣かせます。

ここまで褒めといてなんですが、いいところはたくさんあるけれども完成度というか、凝縮された感じは低い。印象的なシーンはあるんだけれど、作為的か美しくないか、どっちか。とにかくきれいに作ったぞ、というところと、こういう筋だぞ、と説明するところがはっきり分かれているのは惜しい。挿入された絵(この絵も北野武)も、それ自体はなかなかいいのに、どうも浮いている。とまれ、日本映画も捨てたもんじゃない。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1998