Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1997年2月

「ラストマン・スタンディング」

ウォルター・ヒル監督、ブルース・ウィリス、クリストファー・ウォーケン
★★★
黒澤明監督の「用心棒」のリメイク。舞台は禁酒法時代のアメリカ西部の町になり、刀を二丁拳銃にして、ブルース・ウィリス(三船敏郎の役)が暴れ回る。敵役にクリストファー・ウォーケン(仲代達矢の役)。冒頭の人間の手首をくわえた野良犬は出てこない。その代わりに主人公のモノローグがカットインされる。黒澤が1カットですさんだ町の状況を観客に伝えた方法に比べれば、やはり数段落ちると言わざるを得ない。あの木の枝を放り投げて道を決めるシーンもない。なにしろ、車だもの。桑畑三十郎はジョン・スミスに。絹問屋と造り酒屋の対立は密造酒をメキシコから運ぶ利権争いに。ビデオで見比べると、実に楽しい。ただし、黒澤作品にあったユーモアと深い諦観はみじんもない。ただの派手に人が死ぬ映画、と言えないこともない。

「リチャード三世」

リチャード・ロンクレイン監督、イアン・マッケラン
★★★☆
シェークスピアの原作から時代を20世紀前半(おそらくは1930年代)に移したピカレスク・ロマンの珍品。なにより凄いのは、原作そのまんまの台詞が随所に出てくることで、最後の有名な「馬をくれ! 馬を! 代わりにこの国をやるぞ、馬をくれ!」までそのまま。しかし内容は冒頭から戦車、機関銃、ガスマスクが登場する派手なアクション映画。背景の音楽はジャズ、衣装はアール・デコにフラッパー。容易に連想されるのはナチスとヒトラーだが、啓蒙的な意図はほとんどなく、野望と策略の男グロスター公リチャードの一代記に徹する。

「身代金」

ロン・ハワード監督、メル・ギブソン
★★★
たくさんの誘拐映画と一線を画すのは、身代金を変じて犯人をつかまえた者への報奨金としたこと。そのために、ストーリーは意外な展開を見せる。いかにもハリウッドの娯楽映画で飽きさせないが、ただそれだけ、とも言える。「アポロ13」には感動したんだけどなあ。

「マイ・ルーム」

ジェリー・ザックス監督、メリル・ストリープ、レオナルド・ディカプリオ、ダイアン・キートン、ロバート・デ・ニーロ
★★★★☆
贅沢な配役です。しかし、内容は地味な家族映画。レオナルド・ディカプリオが素行に問題のある少年で、メリル・ストリープはそのシングル・マザー。その母の姉がダイアン・キートンで、白血病にかかったために骨髄移植の可能性を探して長く音信不通だった妹とその子に望みを託す。ちなみにデ・ニーロは医者。難病ものとも少年の成長ものとも読めるが、実はもっと深いところにこの映画のメッセージが託されている。誰も死なないけれど、ラストには思わず涙してしまった。誰かを愛することの幸せを考えさせる佳品。この芸達者な面々でなければ生まれ得ない感動で、配役も納得がいく。

「エビータ」

アラン・パーカー監督、マドンナ、アントニオ・バンデラス、ジョナサン・プライス
★★★☆
成り上がりの典型的成功者としては、エビータもマドンナもよく似ていて、このキャスティングはよかったのかもしれない。個人的には、ミシェル・ファイファーで観てみたかった。なによりもアンドリュー・ロイド・ウェーバーの音楽が圧倒的で、容赦なくミュージカルの世界に連れていってくれる。エビータの背景にある政治的状況もよく整理され、光の部分だけでなく、影にもしっかり視線を行き届かせている。劇団四季の舞台と見比べると面白そう。

「ある貴婦人の肖像」

ジェーン・カンピオン監督、ニコール・キッドマン、ジョン・マルコヴィッチ、バーバラ・ハーシー
★★☆
はっきり言ってがっかり。舞台背景の美術や衣装は立派だが、肝心のストーリーに映画的説得力がない。ある令嬢が貴族との縁談を断り、自立した女性として生きるのかと思ったら、変な男(マルコヴィッチが異様な迫力)にはころっと参って結婚してしまう。結婚したら、今度は不幸な妻になり、と何を言いたいのかわからない。いかにヘンリー・ジェイムズの原作とはいえ、あんまりだ。「意識の流れ」の映画化はやはり困難なのだろうか。もっとも、女性の目から見ればまた違うのかもしれない。反論・異論お待ちします。シューベルトの即興曲をだしにしたのは印象的だった。

「ミルドレッド」

ニック・カサヴェテス監督、ジーナ・ローランズ、マリサ・トメイ、ジェラール・ドパルデュー
★★★★☆
朝日新聞の夕刊で秋山登氏が褒めちぎっていたので観たが、一言でいって佳品。娘に反抗された初老の女性と少年との心温まる交流という筋ではあるが、それにとどまらない品があり、芯が一本通っている。監督は、あのジョン・カサヴェテスとこの映画の主演のジーナとの長男。とても初監督作品とは思えない。印象的なラストシーンに重ねて「For the Lady」との献辞が出る。母へのオマージュでもあり、現代に生きる女性へのポジティヴなメッセージでもある。あ〜、これで、ドパルデューを3本観たけど、これが一番よかった(出番は一番少ないけど)。

「パラサイト・イヴ」

落合正幸監督、三上博史、葉月里緒菜、中島朋子、大村彩子、別所哲也
★★
理科系エンタテインメントのはしりとなった同名の原作(瀬名秀明)はよく出来ているのに、こんなラストではぶちこわし。ミトコンドリアが意志を持って人類に君臨しようというプロットなのだから、首尾一貫すべきところを、凡庸なラヴ・ストーリーにしてしまった。原作者にかわって怒りを表明したい。途中までは、テンポよかったのに。でも、葉月里緒菜の肩の線はきれいだった。

「リディキュール」

パトリス・ルコント監督、シャルル・ベルリング、ファニー・アルダン、ベルナール・ジロドー、ジュディット・ゴトレーシュ、ジャン・ロシュフォール
★★★★
18世紀後半のフランス宮廷、ということはフランス革命前夜のヴェルサイユが舞台。ルコントが現代以外を舞台設定に選ぶのは、確か初めて。エスプリの利いた会話を武器にするサロンの世界を官能的に、またコミカルに描く。今までのルコントのタッチとは微妙に違い、それを「新境地」と見るか、「らしくない」と見るかは意見が分かれそう。私は想像していた以上に楽しめた。ルコントファンが期待して観ると、落ち込むかも。

「グリマーマン」

ジョン・グレイ監督、スティーヴン・セガール、キーネン・アイボリー・ウェイアンズ、ボブ・ガントン
★★☆
東洋かぶれの刑事になるセガールが暴れまくるのが唯一最大の見所。

「スティーヴン・キング痩せゆく男」

トム・ホランド監督、ロバート・ジョン・バーク、ジョー・モントーニャ、カリ・ワーラー
★★★☆
スティーヴン・キング原作というだけで、観に行った。デブの弁護士が、ジプシーに「痩せる呪い」をかけられる話。そんな呪いならかけられたいって? いえいえ、それがとっても怖い話なんです。ストーリーはよくできていて、ラストシーンまで、観客を引っ張っていく。あとは言えません。観てのお楽しみ。

「暗殺の森・完全版」

ベルナルド・ベルトルッチ監督、ジャン=ルイ・トランティニャン、ドミニク・サンダ、ステファニア・サンドレッリ
★★★☆
なんと1970年製作の修正追加ヴァージョン。時代がたっても古びない映像感覚はさすが。いかにも、ベルトルッチらしいタッチだなあ、と随所に思わせるが、そう思うということは映画に没入できていない証拠で、油断すると第三者の立場でカット割りを数えかねない。それにつけても、1930年代のパリに行ってみたいものだ。

「俺たちは天使だ」

ジャン=マリー・ポワレ監督、ジェラール・ドパルデュー、クリスチャン・クラヴィエ
★★★
半分は香港を舞台にしたアクション活劇で、舞台がフランスに移ると天使が登場してシニカルなコメディになる。でも、一番笑えたのが、エンドロールのNGシーンというのはちと寂しい。完全にB級アクション・コメディの乗り。クレージーホースから出演のミュージックホール場面は見応えあり。観客サービスに徹底しているのには感心。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1997