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1999年4月 『ホワイト・ジャズ』 ジェイムズ・エルロイ、佐和田雅子=訳、文春文庫 いったい、何がいいのか、よくわかんないが、でも、いいっす。ボクシングにたとえれば、パンチドランカー同士がノーガードで打ち合って場外乱闘になったようなもんか。
とにかく、しょっぱなから証人を守るはずの刑事が、窓から証人を放り投げて殺すんである。それも、ギャングの意向を受けて。検事も、刑事局長も、課長もヒラも、自分の利益と保身と打算で動く。麻薬、セックス、同性愛、近親相姦、のぞき、なんでもあり、なのだ。
それでも、ただの警察腐敗残酷エログロ風俗小説ではない。異様な迫力で、登場人物は果てしなく転落し、堕落し、破滅へと転げ落ちていく。しかもなお、どこか決然とした崇高な上昇していく幻のような香りが漂う不思議。愛とか希望とかいう手垢にまみれたコトバで表現した時点でこぼれ落ちていく、いまだに奇跡のように残っていた最後の「真実」が存在することのほのめかし。
誤解を恐れずに言えば、これは一種の信仰告白と読めないこともない。血にまみれ、麻薬にまみれ、金にまみれ、欲望にまみれてもなお、それだけではない何かを求めて突き動かされていく人間群像。
『ブラック・ダリア』に始まったL.A.四部作を締めくくるにふさわしい、狂気/凶器/驚喜/侠気にあふれた問題作。スラッシュの多用や拡大フォント、異書体の使用など、見た目もかなり異様/威容だが、ストーリーも人物描写も恋愛模様も相当ヘンで、でもすっごく迫真的なリアリティと叙事詩的感動すら感じさせるすごいヤツです、はい。
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