Vartovからの便り
昔日のグルントヴィとともに

清水 満

ロンドンでの反戦デモ
ロンドンでの反戦デモ
2002年2月22日の便り

2002年2月26日の便り

2002年2月28日の便り

2002年3月7日の便り

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2002年3月15日の便り

Vartov便り番外編

2002年3月5日

 G君へ

 1日から5日にかけてロンドン、ブライトンへいってきました。もともとはロンドンにあるInformal Education Centerを訪問したかったのですが、なぜかうまく連絡がとれず、結局行けなくてただの旅行になってしまいました。とはいえ、10年ぶりのロンドン、前回は充分な時間をとって見ることができなかったナショナル・ギャラリーなどをゆっくり見られてよかったです。

 コペンハーゲンからロンドンに行きそして戻ると人間らしい街とはなんぞやという気にもなります。ロンドンの狭苦しい地下鉄、華やかな商店街、日本やアメリカと共通する強い商業主義。それは繁栄や華やかさ、多くの若者にとっては都会らしさと映るのでしょうが、コペンハーゲンに戻ったときに感じたこの優しさ、暖かさ、人間的なスケールは明らかにロンドンや日本の大都市がもたないものだと思います。

 そもそも空港からして違います。Tax Freeの店は立派で華やかなのに客の座るような場所にはあまり工夫がされていないロンドンのGatwick空港に比べ、コペンハーゲン空港に着くと旅で疲れた心を癒すような色遣いの椅子や床、そして秀逸なデザインの空間構成など、ここは人を包む全体に配慮をこらしているんだなとわかります。故郷でもないのに、ここにつくとホッとしたくらいです。

 ホイスコーレ運動はユランやフューンの田舎を中心とするので地方での滞在が多く、これまではコペンハーゲンに来ると大都会の違和感を感じたものでしたが、ロンドンなどに行けば、この街の穏やかさ、魅力がよくわかります。西洋の大都市の中ではおそらく人間的なものをもっとも大事にしている街の一つなのかもしれません。

 ところでそのコペンハーゲンで、2月28日の夕方、バスセンターの屋上を占拠して抗議行動をしている若者を目撃しました。まわりでみていた人に聞くと、何でもコペンハーゲン近郊のある都市で、そこのキリスト教会が所有し、若者に自主管理させていた「青年の家」みたいな施設を、教会が売却してそれが失われることに対する抗議行動だとのことでした。デンマークではこうした若者の集まる自主的な活動の場が盛んですが、詳しい理由はわからないものの、それが閉鎖されることに抗議する若者たちの気持ちはよくわかります。

バスセンターの屋上で抗議行動

バスセンターの屋上で抗議行動
火を廻しているのはただのアピールのため
している。決して火炎瓶ではない(笑)。

 下では警察官たちが取り囲み、野次馬も多く出ていました。日本だったらすぐに機動隊が取り押さえるところですが、わりとゆったりと警察官も模様眺めで、垂れ幕やシュプレヒコールはあるものの、破壊的・暴力的ではないので、その辺を考慮したのかもしれません。野次馬の若者に聞いても同情的でした。

垂れ幕と警察官

垂れ幕と警察官
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 ロンドンでは、3月2日の土曜日、いちばんの繁華街のピカデリー・サーカスのカフェでお茶を飲んでいたら、外をデモ隊が通り過ぎるのを見ました。アメリカのアフガニスタン攻撃、そしてイラクへの威嚇とそれに協力的なブレア政権に対する抗議の集会とデモのようでした。どうせすぐ終わるだろうと思っていたら、なかなか列がとぎれず延々と続いています。これは一部の限られたグループによる抗議行動ではなく、高校生から大学生、あるいは教会系、そして中東系の人々や各種外国人などいろいろな人が参加し、シュプレヒコール以外にも歌あり演奏あり、ダンスありで、非暴力の平和的なものでした。おそらく数千人から一万人はいたと思われます。

アピールを規制する警察官

アピールを規制する警察官ともめる

抗議の路上座り込み

不当な規制にみなで抗議の路上座り込み
(クリックすると大きくなります)

 こういうものを見ると昔の血が騒ぎます(^^;)。反戦平和を願う気持ちは私も同じです。案内を頼み、いっしょにお茶を飲んでいた協会会員のMさん(現在サセックス大学留学中)といっしょにデモ隊に加わりました。彼女は生まれて初めての経験だそうです。世界に知られたロンドン一の繁華街をデモするのは気持ちよく、トラファルガー広場の終点まで歩きました。ただの観光なんですが、こんなことを異国ですぐにしでかす私も私です(笑)。

飛び入り参加で歩く筆者

飛び入り参加で歩く筆者

トラファルガー広場でまとめの集会

トラファルガー広場でまとめの集会

 その夜はMさんたちといっしょにサセックス大学に留学中のある日本人夫婦の方のところで楽しい食事会をしたのですが(Hさんありがとうございました)、そこで話題に出たことの一つとして、日本の若者の行動のことがありました。コペンハーゲンやロンドンで異議申し立てをきちんとする若者たち(高校生も多かった)を見て、日本を振り返ると半ば複雑な気持ちにならざるをえません。

 もちろん何でもかんでも体制に反対というのが決していいわけではありません。しかし享楽にだけ走り、自分たちで考え、ものをいい、行動する力を失ったかに見える日本の若者たちを見るとそれで健全な社会が伝えられていくのだろうかという気もします。それはとりもなおさずそういう若者にしている大人の責任でもあります。

 G君は国際社会でこれから活躍したいという希望をもっていますよね。それは決して自己保身ではなく、理不尽なことはきちんと批判し、弱い状況におい込められた他者と連帯していくようなものであることは知っています。日本では「クライ」とか「変わり者」といわれるかもしれませんが、コペンハーゲンやロンドンには君と熱く語れそうな同世代の若者がまだたくさんいました。視野を大きく持ってこうした人たちと未来を築いていければと、この地でふと思いました。