Vartovからの便り
昔日のグルントヴィとともに

清水 満

討論会の様子
グルントヴィ図書館での討論会
2002年2月22日の便り

2002年2月28日の便り

2002年3月5日の便り

2002年3月7日の便り

2002年3月12日の便り

2002年3月15日の便り

Vartov便り番外編

2002年2月26日

G君へ

 昨日、今日と雲一つない晴れの日になり、とても美しい春先のデンマークを楽しみました。週末はユラン半島のRyに行ったのですが、森の中に残る雪が陽光に輝く中を列車が走るのは何ともいえないすてきな光景でした。これまでスタディツアーや会議でデンマークに来るたびに悪天候が嘘のように晴れてしまったことから、私は「デンマークに晴れの日、太陽を運ぶ男」と友人のデンマーク人にいわれていたのですが、今回は期待を裏切ってしまいました。しかし昨日、今日は晴れ男の面目躍如というわけです。

 さて、前にも書いたように、先週の金曜日、2月22日の夜に、Kirkeligt Samfundの討論会に参加しました。畏友のオヴェ(Ove Korsgaard、デンマーク教育大学教授 『光を求めてーデンマーク成人教育500年の歴史』東海大学出版会の著者)にも再会し、またグルントヴィ協会にはおなじみの親友クリスチャン(前 Ryホイスコーレ教員)も来るように誘ったので、楽しいひとときを過ごすことができました。

 オヴェによるとこの会合は年に二、三回行われ、非公式なのだそうです。ホイスコーレやKirkeligt Samfundなどグルントヴィ・ムーブメントに属する主要な組織で指導的な地位にあるような者たちが親睦をかねてここに集まり、重要な問題について議論をするという趣旨。デンマークでも近年外国人排斥の風潮が大きな問題となっていますが(デンマーク国民党という右傾的な政党がこれを政策にして躍進し政権に加わっている)、今回はグルントヴィ・ムーブメントの中にももともとそうした傾向があったのではないかという議論でした。

 デンマーク語での闊達な議論なのでとてもついていけませんでしたが、フランス革命やフィヒテのナショナリズムなどから掘り起こして議論しているのはわかりました(笑)。

 議論の合間にディナーをとったり、終わってからはワインを飲みながら続きを話したりで、わきあいあいの雰囲気がとても心地よかったです。

 ただ惜しむらくは一番若いのが飛び入りのクリスチャンで(といっても39歳)、その次が私になり、ほとんどが50代以上のメンバーで占められていることでした。理由の一つには指導的な立場にある人々というのがあるのですが、もう一つグルントヴィ・ムーブメント自体が若い世代をうまく取り込めていないということもあるでしょう。ホイスコーレやエフタースクールには相変わらず若者は来るのですが、彼らにグルントヴィ・ムーブメントの精神をうまく継承できていないのではないかと思われます。

 グルントヴィ・ムーブメントといえるものは近年では80年代の原発に対抗しての風力発電運動があります。ただそのときの熱気を伝えるような人は今回の討論会のメンバーにはいません。組織的には保守的というべきか、どうも古き良き時代を懐かしむような人たちで占められているような感じがしました。

 農民層を始めグルントヴィ・ムーブメントが基盤とした階層がほとんどなくなった今、後継者がいなくなるのは必至です。今も政権交代に伴う教育費の削減に反対して高校生などのデモがあってはいるのですが、こうした「今」の動きにどこまでグルントヴィ・ムーブメントが対応できるかどうかが問われているといえます。

 現在マスコミをにぎわしているのは、Tvind schoolの創設者の一人のAmdi Pedersenが、税金を逃れて不等にお金を貯えたとしてホルステブロ警察から国際指名手配を受け、アメリカで逮捕された事件です。彼はかつてはデンマーク社会ではカリスマ的存在だった人です。

 輝かしい初期の歴史を誇るTvind schoolも90年代はセクト化が強まり、政府の補助金の不明朗な使用のとがでTvind schoolだけを対象とした援助打ち切りの特別法を制定されるなど非難の対象になりましたが、マスコミはここぞとばかり「カルト集団」「悪の集団」と追い打ちをかけています。

 私がデンマークのホイスコーレを知ったのもTvind schoolからですので個人的には複雑な感慨があります。今ジャーナリストの訓練を受けているクリスチャンは「みな袋だたきにしているけど、Tvind schoolのよい点はよい点として評価し、ほかのホイスコーレはそれを受け継がなくてはならない。僕は是々非々をはっきりとした記事を書くよ」といってました。それが一番まっとうな気もします。何でもかんでもカルトと決めつけ、愛人がいるのいないのと私生活までスキャンダルのネタにするのはデンマークも日本のマスコミも変わらないようです。

終わったらワインやコーヒーを片手にリラックスした議論の続き。