読書録

シリアル番号 643

書名

DNA

著者

ジェームス・D・ワトソン、アンドリュー・ベリュー

出版社

講談社

ジャンル

サイエンス

発行日

2003/12/18第1刷

購入日

2004/06/30

評価

原題:The Secret of Life by James D. Watson, Andrew Berry

亜細亜大学の研究会出席のためJR武蔵境駅を訪問したとき、駅前書店で衝動買い。

クリック氏には訪日時に直接講演を聞き、パーティーでもお会いしたが、ワトソン氏はかって本を読んだだけである。そのワトソン氏が1953年のDNAの発見後50周年記念にアンドリュー・ベリュー氏の助けを借りてその後の50年間の発見をまとめて紹介する本である。

DNAの機能と構造を解明したワトソン自身によってバイオテクノロジー史が過不足なく記述されていて、読みやすくわかりやすい。かってバイオテクノロジー担当となって学んだことが走馬灯のようにレビューされている。EPOとかTPAを組み替え技術で生産するという当時最先端であった技術を工業化する仕事を担当できたのが夢のようだ。

この本のよいところはDNA研究史でのブレークスルーをした人名、なぜそうなったかがもれなく紹介されていることだ。PCRやブライアン・サイクスのY遺伝子についても当然言及されている。

「遺伝情報は階層的に組織化されている」すなわち「階層的遺伝子スイッチングこそが複雑な体を構築する鍵である」というところが印象深い。

日本では自分は無神論者であると表明することはそんなに勇気のいることではない。しかし、欧米ではかなりリスクを伴うようだ。本書の最終章は私にとって感銘深いもであった。ジェームス・ワトソンは自ら無神論者であると表明して、いたるところで袋叩きにあっている。なかでも「無心論者には道徳のかけらもない」と決め付けられることが一番つらいといっている。彼の反論は宗教という古代に書かれた道徳律よりよりさらに古い進化の原動力となった自然淘汰によって磨かれた道徳律が我々遺伝子の中に組み込まれているので宗教なしに人類は未来にわたって存続可能なように設計されていると。すなわち集団としてまとまった社会を作るという遺伝子である。その例証としてパウロの「コリントの信徒への手紙1」をあげている。

ダイアナ妃の葬儀の実況中継をたまたま自宅に招いたBPのプロセスエンジニア、ヌッタール氏と一緒に観ていてブレア首相がこのコリントの信徒への手紙−1を朗読しているのを聞き、感銘をうけたことがある。パウロは古代宗教を広めた功績者だが、彼にこれを書かせたのは人類の進化の過程で我々のDNAに書き込まれた我々の生存のための設計書だったのだと思う。関連メモ:人間原理

北海道で羊の群れをみていて、やはり彼らは我々の持つ遺伝子より単純なものしかもっていないなとつくづく思ったものだ。


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