読書録

シリアル番号 642

書名

アダムの呪い

著者

ブライアン・サイクス

出版社

ソニー・マガジンズ

ジャンル

サイエンス

発行日

2004/5/30第1刷

購入日

2004/06/26

評価

原題:Adam's Curse by Bryan Sykes

朝日新聞の書評を読んで買い求める。

読みはじめてとまらなくなり、夜中の3時までよんで読みきれずベッドに入る。朝は7時にファックスで、WPCフライトウエイト級、世界タイトル戦を 明日行う徳山昌守チャンピオンのパパに起こされて、WPC会長に手渡す直訴状の英訳をこなし、また寝て、昼におき、ついに読破した。

最新の遺伝子解析成果を盛り込んだとても興味あるは話であった。昔ICI本社のフィルム事業本部長のサイクス氏と一晩飲み明かしたことがあるので著 者名に興味を覚えたのも買い求めた動機のひとつ。フィルムデビジョンはICI本社の12の事業部のうちのひとつであったが、ICI本社のファインケミスト リーに特化するという大方針のもとに事業部毎売りに出され、サイクス氏も失業したはずである。かれの事業部の最大の顧客は日本のビデオテープメーカーで、 そこにポリエステルフィルムを売るのが仕事だったため、本社の事業本部長ながら単身赴任で日本の駐在していた。奥様が学校の先生だったため、単身赴任して いたわけである。

さてこの本によるとたまたま仕事で関係のできた英国の当時の製薬会社のグラクソウエルカム社の会長がサー・リチャード・サイクスで同姓であったこと から同氏の遺伝子分析をさせてもらって自分のそれと比較するとY遺伝子指紋が完璧に一致したことから話を始める。サイクス姓はヨクシャーの小川(サイク) から発生したことから始まり、サイクス性はハッダーズフィールドの南数マイルのフロックトン村の小作争いを記録した1286年の荘園記録のなかに初めて登 場する。判明したことはY遺伝子と姓名が非常に高い確度で一致することである。ついでケルトの英雄サマーレッドのY遺伝子はマクドナルド性50万人の男性 に受け継がれ、ジンギスカンのY遺伝子は1,600万人の男性にうけつがれていると紹介する。このようにY遺伝子は言語の発生、農耕の開始、所有権の発 生、家長制の支配、富の蓄積と権力の発生、男優位社会の発生、苗字のはじまり、戦争、技術開発、大航海時代、地球環境破壊等々とY遺伝子の関係が刺激的で あった。Y遺伝子もミトコンドリアDNAもリチャード・ドーキンズが喧伝した、「利己的遺伝子」として説明している。この本で利己的遺伝子の概念はそもそもオックスフォード大の謙虚な学者ウイリアム・ハミルトンが提唱したものであったことがわかった。

メスのミトコンドリアDNAとY遺伝子DNAが行うひそかなバトルも見事に解き明かしてくれる。たとえば精子だ、精子が卵子に出会うまでは自力で泳 がねばならない。このエネルギーは精子の細胞質のミトコンドリアが提供する。しかしこのミトコンドリアは卵子の細胞質に入ることはできない。あくまで女系 ミトコンドリアの一系を守るためである。ミトコンドリアDNAの利己的性格が如実に現れている。不妊・同性愛はミトコンドリアDNAが真犯人と推論する。

孔雀のメスが羽のきれいなオスにひかれるように人間のメスはオスのもつ富・権力にひかれるように性選択するため、自然選択による進化より早く進化し たとする。結果、人類の急速な進歩は達成されたが、一方Y遺伝子が痛んだDNAを修復するための交換する相手となるペア遺伝子がないため、ジャンク遺伝子 が蓄積し、15万年もすれば、男がうまれなくなり、人類は絶滅するかXX生殖、すなわち男なし生殖しかなくなるだろうという考察も意外性があった。恐竜は 亀とおなじく、卵がかえる温度でメスかオスになる仕組みだった。気候大変動で一方の性しか生まれなくなったため絶滅したのかもしれないなどと興味ある説が あとからあとからくりだされて華麗な本である。

ブライアン・サイクス氏はこの本に先行して「イヴの七人の娘たち」を上梓した。

関連情報:縄文人のルーツ


オキナワトゲネズミはY染色体があるがトクノシマトゲネズミとアマミトゲネズミはY染色体を持っていないにもかかわらず雄が生まれる。別の染色体に性決定遺伝子を持っているようだ。進化の先端を走っていることになる。

Rev. May 5, 2008


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