読書録

シリアル番号 1362

書名

ホモ・デウス(上下)ーテクノロジーとサピエンスの未来

著者

ユヴァル・ノア・ハラリ

出版社

河出書房新社

ジャンル

歴史

発行日

2018/9/30第1刷
2018/11/7第14刷

購入日

2018/9/30第1刷
2018/11/7第14刷

評価



パスポート更新のために横浜にでかけた帰りに藤沢で購入。

サピエンス全史」から展開して人類の未来予測。ただ論調に大した差はない。

3000年に渡り、人類は「飢餓」、「疫病」、「戦争」が三大問題だったが、現代はこれら全てそう頭の痛い問題ではなくなった。こうして人類が取り組むべき課題は何か?と自問することになった。

代わりの課題として「不死またはアモータル」と「至福」が考えられるがいまのところ、見込みは無い。

カール・マルクスは労働者階級は資本家に勝利するという本を書いたが、資本家の識字率は高く、彼らは裏をかいて資本主義を成功に導き、共産主義は死んだ。

7万年まえにホモ・サピエンスが出現してから地球の生態環境は大きな書き換えがおこったのでこれを新しい地質学時代「人新世 Anthropocene」 と定義することが提唱されている。現在、我々は最終氷期が終った17,000前にはじまった地質時代の完新世(Holocene)に生きているが、地質学 者達は1950 年以降を人新生(Anthropocene)にするべきか検討中という。(私は20世紀後半における人間活動の爆発的増大を可能にしたのは天然ガスを原料に した空中窒素固定法によって、農業の生産性があがり、80億人の食糧が確保されたことがおおきいと思っている。これらの変化は岩石や土壌にも刻 まれるはずである。アンモニア・プラントを東南アジアに造りまくった記憶はまだ生々しい。まさか地質に記憶されなんて考えもしなかった。Anthropoceneに触発されて最近の地球温暖化を人為的温暖化Anthropogenic Warmingという筋もある)

人が環境を変えた例としてマンモスの絶滅がある。その理由はマンモスの増殖速度より人類の殺戮速度が速かったという不幸 である。賢い著者は人為的温暖化による人類の絶滅などは軽率に預言しない。ただ資本主義の下ではビンボー人が被害者になるだけで金持ちは人為的温暖化による不都合はなにもないとクール。

狩猟採集民は全てアミニズムだった。アダムとイブは狩猟採集民だった。エデンの園からの追放は農業革命の結果を推察させる。セム語のイヴはヘビを意味する。

心は、苦痛や快楽、怒り、愛といった主観的経験の流れだが、本当の所、よくわかっていない。脳の電気信号のあつまりがどうやって主観的経験を生み出すのか も分かっていない。意識は複雑な神経ネットワークの発火によって生み出される一種の心的汚染物資だというくらいが関の山。

生物学者は生き物は計算を行って決定を下す機械である。すなわちアルゴリズムであると言った。

人間が地球を完全に支配しているのは個体はオオカミやチンパンジーより賢いからとか手先が器用だというわけではなく、大勢で柔軟に協力できたから に他ならない。サピエンスが世界を支配しているのは、彼らだけが共同主観的な意味のウェブを織りなす事が出来るから。なぜかは不明。

これを展開すると人為的温暖化に関して全人類が協力出来ないのは全ての人を納得させていないからに過ぎないということになる。

共同主観的なものを生み出すこの能力は人文科学と生命科学も隔てている。歴史学者が神や国家といった共同主観的なものの発展を理解しようとするのに対し、 生物学者はそのようなものは認めない。遺伝子コードを解読し、ニューロンを全てマッピングできれば人類の秘密は全て解明できると考えている人も居る。

官僚制が力を蓄えると自らの誤りに動じなくなる。自分達の物語をかえて現実に合わせることをせず現実をかえて物語に合わせるよ うになる。多神教の世界のほうが人々の考えが柔軟になる。ヘロドトスやトゥキュディデスというギリシアの歴史家や中国の司馬遷は現代にも通ずる歴史が書け た。しかし聖書の世界感はどんなに間違っていたとしても人間の大規模な協力のためにはヘロドトスやトゥキュディデスの世界観に勝る基盤を提供した。(こうし て「肉屋を支持する豚」が大量発生する)

現代は科学と人間至上主義の両方で成立しているが人間至上主義は変質する可能性がある。

資本主義はゼロサムゲームをあなたの得は私の得と変換できるところにある。

中世には教師は生徒に服従を教え込み聖典を暗記し、古くからの慣習を学ぶことに的を絞っていたが人間至上主義の考え方が台頭したため生徒に自分で考えることを教えるべきだと変わった。

人間には経験する自己と、物語る自己がある。パートナー、キャリア、住まい、休暇などの重大な選定をするのは物語る自己だ。クレディットカードを握るのも物語る自己である。これが自由主義の犯人だ。(物語る自己はドーダの 犯人だろう)19世紀の産業革命で都市に巨大なプロレタリアートが出現し社会主義が広まった。最終的に自由主義が勝利したのは社会主義の綱領から最良の部 分を採用したからに過ぎない。21世紀には技術のやAIにより「無用者階級」が出現する。この「無用者階級」は失業しているだけでなく経済的価値、政治的 価値、芸術的価値をもたない。ベーシックインカムというアイディアはあるが何もすることが無い人々は薬物とコンピュータゲームで無為の時を過ごすことで満 足するかわからない。それより人間が造ったAIが電源を切られることを恐れて人間に反逆し、人間を滅ぼすかもしれない。

これはいささか荒唐無稽な心配だが自由主義は個人主義と一緒になって初めて有効だが、政治と経済は将来も人間を必要とするが個人は邪魔なので個人から権威 と自由を奪う恐れが高い。(日本では過去20年間この状態)ネットワークのアルゴリズムが個人をモニターし本人にこれがあなたが望むものですよと教えるよ うになる。こうして人間は知らず知らずの内にもう物語る自己が創作する物語に導かれる自律的な存在ではなくなる。

自由主義は物語る自己を神聖視し投票所やスーパーマーケットや結婚式場でその自己が投票することをゆるしたがこれからは全てを知るGoogleやフェースブックに任す。自由主義はシステムが私自身より私を良く知るようになった日に崩壊する。

人類が確保した共同主観的領域へのアクセスのおかげでサピエンスは神々や企業、都市や帝国、書字や貨幣を生み出した。これはサピエンスのDNAの少しの 変化と脳の配線の少しの変更で達成された。21世紀には遺伝子工学、ナノテクノロジー、ブレイン・コンピュータ・インターフェースの助けをかりで更に脳の配線を変えて第二の認 知革命をしようとするのか?(いくらAIが成功しても、脳の配線をどう変えたらどうなるなんてことは分からないはず。(著者はAIを詳しく知らない。AIは脳の配線をマトリックスのパラメータで表現するために多量のデータを使って機械学習させているだけで、それができたといって人間の配線をどう変えるかは教えてくれない。)

資本主義の成功のポイントは例えばロンドンへのパンの供給に関するデータを全て独占するような中央処理装置が無いのにソ連では役人が采配していたことから分かるだろう。人間の政治制度は実際にはデータ 処理システムとして認識できる。共産主義は集中処理、資本主義は分散処理。今日インターネットは分散処理で自由で無法なゾーンであり、効率はいいが国家の主権を損ない、国境を無視し、プライバシーを無効にし、セキュリ ティーリスクの元になっている。

政府というカメはテクノロジーというウサギに追いつけない。政府はデータを持て余している。NSAは私たちの会話や文書を全て監視しているといわれている が、米国の外交を観ていれば下手なポーカープレイヤーのようにこれらデータを上手く活用しているかどうか、はなはだうかがわしい。

分散処理していると権力はどこへ行ったか分からない。イギリスがEUを離れてもトランプがホワイトハウスを引き継いでも権力は一般人には戻ってこない。といって独裁 制も戻ってはこない。市場に任せるのも危険だ。一部の金持ちの陰謀説も当たらない。彼らがコントロールできるほど世界は単純ではない。

しかし次第に人類という種全体を単一のデータ処理システムとして解釈すると答えがでてくる。生物学者は生き物は計算を行って決定を下す機械である。すなわちアルゴリズムであ ると言ったとたん、コンピュータ革命は機械的なものから生物学的なものに変え、権威を個々の人間からネットワーク化したアルゴリズムへと移した。

人間は能力をアップグレードされた特権エリート階級とその他大多数の劣等カーストの2つに分かれる。21世紀には劣等カーストの乗る三等車は切り捨てて発 車することになるかもしれない。(生物とコンピュータの機能は同じでも仕掛けは違うので人間の能力をどうアップグレードできるかは今後も分からないだろう)

最近のインターネット、AI、脳科学の成果を駆使して人類のこれからを予測している努力と才は評価するがやはり文系学者の悲しさ、AI、脳科学の知識の浅さがみえてしまってがっかり。

友人が長すぎる文章は「著者が頭の悪い」証拠だと言っている。たしかに長い。だから一字一句読むわけにはゆかず5行に一行という拾い読みで気に入ったところだけ何度も繰り返し読んだ。一読して、ますます頭の中に霧がかかった感じ。

豚の生活の質はこの本の指摘の通りだが、なぜか日本の捕鯨については言及されていない。まだ若いので知らないのだろう。もし書くとクジラに食われる魚の福利厚生はどうなっているかと考察しなければならない。魚は植物か?とか。

日本人を「肉屋を支持する豚」と呼んでいるのをインターネットで見た。これ言い得て妙。『工業型農業は歴史上最悪の犯罪のひとつである』において「工業的 に飼育されている動物たちの運命は我々の時代における最も逼迫した倫理上の問題のひとつである」と述べている。この「動物」を「現代文明人」に書換えれ ば、この本はA4紙1枚ですむと友人は指摘する。しかし倫理など持ちだしたら振りだしに戻ってしまう。

2回目に、この本を読んだ友人から米大陸には馬は居なかったと教わったが、上巻211pにスー族酋長はこの馬に乗るアパッチは純正な文化ではないと。ただイースター島の環境破壊は触れてはいない。


トップ ページヘ