読書録

シリアル番号 1260

書名

コネクトーム 脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか

著者

セバスチャン・スン

出版社

草思社

ジャンル

サイエンス

発行日

2015/11/24第1刷

購入日

2015/12/27

評価



原題:Connectome by Sebastian Seung (承現峻) プリンストン大計算機科学部、ニューロサイエンス研究所教授、ハワード・ヒューズ医学研究所 父はテキサス大オースチン校哲学教 授の承継号

ゲノムの解読により人類は全遺伝情報を手にしたが、脳神経の樹状突起と軸索が形成する全ネットワーク地図(コネクトーム)はいまだ作成されて いない。私の心がどうしてできるのか、記憶はどう蓄えられるのか、心の病はなぜおこるのか」などの疑問に答えられない。

ニューロンの接続の仕方には興奮性のものと抑制性のものがある。このシナプスの樹状突起と軸索が他のシナプスと接続のされかたがコネクトームだ。コネク トームにはヘッブ則にした がうニューロンの加重投票モデルがある。これはコネクトームの再加重(Reweighting)を行う。現在の人工知能の機械学習の基礎になっているもの だ。もう一つのコネクトームの変化の仕方は再接続(Reconnection)、再配線(Rewiring)、再生(Regeneration)といわれ るものだ。新しいシナプスがランダムに形成され、つかわないものは切断されるという神経ダーィニズムのことだ。こうしてできるシナプスの連結構造がその 人の記憶の一大要素となっている。

著者はこのコネクトーム作成の構想を博識の知識を駆使して展開してくれる。道具は50ナノメーターの薄片をスライスできる自動ウルトラミクロトームを内蔵 する電子顕微鏡をつかい樹脂でかためた脳の試料をダイヤモンド刃で少しずつ削り落としながらその断面を多数撮影する。脳の1mm3の 試料 から1ペタバイトの画像データが得られる。人間の脳は100万mm3なのだ。ヒトの脳には1000億個のニューロン、シナプスの数 は160兆に達する。これをコンピューターの自動映像解析器を使ってコネク トームを作成する。コネクトームの全情報量はgoogleのデータセンターの総ストレジ容量の数百ペタバイトいっぱいになると予想される。

カミッロ・ゴルジの方法で染色された大脳皮質のニューロンをサンチアゴ・ラモン・イ・カハールが描いたスケッチは空間に浮かぶ森の木々という風情だがこの空間にも染色さ れなかったニューロンの細胞体と樹状突起や軸索がぎっしり詰まっているのだ。

イギリスの科学者チャールズ・シェリントン(ノーベル賞受賞者でシナプスという言葉を作った)は「すべての新経路の最終目的地は筋肉だ」とした。人間にで きるのは、物を動かすことだけだ」音を出すことだって筋肉がしている。運動ニューロンの軸索は筋肉につながっている。

ある人のニューロンのタイプとコネクトームがわかればその人の全記憶または魂といわれるものは表裏の関係にあるかもしれない。SFの世界で死者の脳をよみ がえらせることも可能かもしれない。人工知能に生前のSNSなぞの全記録を学習させれば可能かもしれないと研究されているがいまだヒトのコネクトームはわ かっていないのではたして可能か?

理系脳と文系脳もあると予想がつく、文系脳に国を任せるどこかの国の伝統はもしかしたら国を誤る道かもしれない。あのスパルタのように疲弊するのだろう。

哲学者ルートヴッヒ・フォイエルバッハの言葉「人は自らの姿に似せて神を創った」を引用。

私の職業は化学プロセスのフローシート作成屋であった。配管が繋ぐものは反応器、熱交換器、ポンプ、蒸留塔など。電子回路屋がつなくものはコンデンサーや 抵抗器やトランジスター。コネクトームがつなぐものはニューロンだ。だから面白い。夢中で読破。

NHKがアインシュタインの脳の研究者はトーマス・ハ―ヴェイである。脳 の重さは一般人より軽かった。彼の脳の頭頂葉下部の下頭頂小葉という領野が通常より大きく拡大して、その前方の大脳皮質の溝を埋めるほど発達していたこ と、そして特にその下頭頂小葉内で、神経細胞に対するグリア細胞の比率が、通常よりかなり高くなっていたことがわかった。

脳のサンプルは研究のため多数に切分けられて多数の研究者に渡った。NHKは彼らを歴訪して散逸した脳のサンプルの地図を作製した。

Rev. July 29, 2018


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