木炭自動車 vs マキ自動車

グリーンウッド

 

小学館の広瀬氏が彩流社の新刊本「炭焼きの二十世紀」を教えてくださった。これを紐解くと日中戦争が拡大し、太平洋戦争準備中、不足するガソリン代用として木炭またはマキを原料とするガス化ガスをエンジン燃料とすることを国家が立案した。これを「ガソリン代用薪炭瓦斯」と呼び、昭和14年12月(1939/12)には木炭配給統制規則が制定され、昭和15年(1940)にはガソリン代用燃料用木炭の需要が急増した。岩手県は増産、増産の毎日となった。しかし生炭者が軍に徴用されて生産量はむしろ少なくなる一方であった。昭和16年12月8日(1941/12/8)に太平洋戦争がはじまり、軍用以外の全ての自動車のガソリンの使用が禁止されるに至った。と書かれていた。まるで毛沢東末期の中国を思い出させられる光景である。

木炭自動車は岩国市麻里布町の麻里布モーターの藤村氏が復元して何台か製造している。木炭のコストが普及の阻害因子になっているとのこと。マキをガス化原料に選ぶのが正しいことか検証するために、木炭原料のガス化炉も設計して比較してみた。

1.バイオマス組成

マキと木炭の組成は木炭の組成は比較目的であるので、下記のように仮定した。

 

含水量20%マキの成分 重量%

木炭の成分 重量%

炭素元素 35.8 88.4
水素元素 4.7 0.1
酸素元素 36.6 2.5
水分 20.0 6.0
灰分 3.0 3.0

生マキの含水量は50wt.%といわれる。熱回収しない前提で水分含量が30wt.%の半生マキのガス化の場合も計算してみたが、断熱反応温度は650度Cである。水分含量がこれより増えれば反応熱が不足して断熱反応温度は下がる一方である。水分含量30wt.%以上の場合は、反応熱維持のためにガス化用空気の注入と、廃熱回収によって吸入空気とマキの予熱が必要になる。そして発生ガスは窒素によって希釈され、発熱量が減少する。

2.機器仕様

マキと木炭の比較は同一反応器径で比較することにした。即ちマキまたは木炭消費速度はスロート環状部の160ミクロン灰粒子沈降の0.19m/secを越えない限度一杯で運転するとした。またスロート径やノズル径はFAOの推奨流速できめた。エンジンのシリンダー容量はこれに見合うものとした。

含水量20wt.%のマキのガス炉の断熱反応温度は1,300度C付近だが、木炭のそれは1,200度Cである。ガス化の設計温度を1000度に設定したため、点火口など裸部分面積率0%にしても保温厚さは255mmと厚くなっている。ガス化の設計温度を950度Cにさげれば薄くなる。

項目 単位 含水量20%マキガス化炉諸元 木炭ガス化炉諸元
断熱反応温度 deg. C 1,300 1,200
ケイソウ土保温材熱伝動度 kcal/deg. C/m/h 0.12 0.12
反応部保温厚 mm 28.7 255
エンジンサイズ cc 609 210
エンジン回転数 rpm 3,600 3,600
エンジン形式 cycle 4 4

3.パーフォーマンス

なにより顕著なことは木炭は水分も含め、マキのように酸素含有量が多くないため、空気で酸素を補給する必要があることである。結果として空気に多量含まれる窒素が発生ガスを希釈し、発生ガスの発熱量を下げてしまう。木炭からの発生ガスの可燃ガスは46mol% のCOと1mol%のメタンだけで残りは窒素ガスである。木炭は空気希釈のため発生ガスの発熱量が低く、発生動力はマキの20%に過ぎない。

徹底的に保温して設計温度を1,000度Cに上げてもガス化炉のエネルギー転換効率は含水量20wt%マキの77.5%に比べ50%に低下する。

マキを焼いて木炭にする時、マキから木炭経由ガスへの総合転換効率は40%位という。従って総合変換率は20%程度になってしまう。この30%が電力になるわけだからマキのたった6%が電力になるわけでマキの26%の四分の一である。

木炭のメリットとしては生産地からの輸送の便だけしか考えられない。産地から最寄の鉄道まではマキ自動車で行なったというから生産現地ではマキの有利さが知られていたのに、当時の戦争指導者がなぜ木炭自動車をマキ自動車と共に採用したのか理解に苦しむ。よく検討しないまま、情報欠落の部屋の中で企画立案したためであろうか。太平洋戦争自体が杜撰な企てだったのだからいまさらどうこういうこともないのだろうが。

項目 単位 含水量20%マキ設計点 木炭設計点
バイオマス消費速度 kg/h 15 3
バッチ供給量 kg 54.3 20.4
1バッチ連続運転時間 h 3.6 6.8
ガス化炉空気消費速度 m3/h 0 10.7
ガス発熱量

kcal/Nm3

3,443

836

エンジン燃焼空気必要量/ガス量 (過剰空気率5%)

vol./vol.

3.49

0.6

エンジン混合吸気量

Nm3/h

64.9

20.1

混合気中可燃ガス成分 % 15.1 16.2
ガス可燃下限 % 6.3 12.2
ガス可燃上限 % 50.6 71.9
ガス総エネルギー kW 57.8 12.2
バイオマス発熱量 kcal/kg 4,276 6,996
ガス化炉転換効率(ガス発熱量/バイオマス発熱量) % 77.5 50
エンジン熱効率 % 33.6 30.5
エンジン出力 PS 26.4 5.05
エンジン出力/バイオマス消費速度 PS/(kg/h) 1.76 1.68
エンジン出力/エンジンシリンダー容量 PS/cc 0.043 0.024

May 6, 2003

Rev. April 27, 2004


トップページへ