マキカート

グリーンウッド

 

NPO、「えがお・つなげて」が(社)国土緑化推進機構が緑の募金公募事業に「間伐材で木炭自動車やインディアンテントをみなで作ろう」というテーマで応募し、その資金で間伐材ガス化発電を計画していた。しかし岡崎氏に第二次大戦中に大日本機械工業が多量生産して市販したマキ自動車の詳細を教えてもらってから方針を変更して動くものにしようということになった。

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大日本機械工業製マキ自動車1940年モデル 岡崎周氏提供

弁慶果樹園が所有している長さ2m、幅0.8mのカートにマキガス化炉を搭載してマキカートに改造するのが30万円という低予算、素人細工に向いていると判断された。エンジン定格は4サイクル、170cc、単気筒、1,800rpm 前進1段、後進1段である。遠心クラッチ、ギヤボックス・ブレーキである。設計には熱回収のない初期のバイオマス・ガス化発電設計プログラムを使った。

1.マキ組成

マキは含水量20wt.%の乾燥したマキの組成とした。

2.機器仕様

定格の吸入混合気量は9.18m3/hである。ガソリンを燃料にすれば4.5PS(メートル法馬力) の力持ちである。過剰空気率5%、圧縮容積比6とすれば、熱効率34.6%である。マキガス燃料では過剰空気率5%、圧縮比10とすれば定格熱効率は33.0%となる。エンジン出力は3.53PSになる。ガス発生炉直径を200mm、マキ容器深さ50cm、反応部深さ30cm、全高80cmとすればバギー車に搭載可能となる。

反応炉の形式は上向き向流、直交流、下向き併流、流動床の4方式があるが、大日本機械工業製マキ自動車の取り扱い説明書の図面を参考にして下向き併流の一段スロート付きとした。

下の写真は友人のクーパー氏がコペンハーゲンで見つけて写真を送ってくれたゼネラル・モータ製のものである。向き併流型。直径は34cmの帽子と比較されたし。(40cm位か)

デンマークで第二次大戦中使われたガス化炉 (クーパー氏撮影)

2.1 試作設計

炉形式は下向き併流の一段スロート付きとしたが、自作可能にするため、複雑な構造はさけることにした。炉床に空気を吹き付けるノズルは不要と考えて省略した。スロート下部のスカートは製作が面倒なのでこれも省略した。炉床(ハース)のスロート部内径をどうすべきか判らなかったため、圧力損失を嫌ってスロートの空塔速度を40cm/sec程度にとるのが良かろうと考えた。結果8cmとなった。これで試運転したところ、スタートアップ用空気を止めてからしばらくの間、ガス発生は継続し、短時間エンジンも動かせたが、長時間となると温度が下がり、ガス発生がとまることがわかった。試運転もそこそこスポンサーの展示に貸し出され、予算もないので試行錯誤は中断したままである。

2.1 FAO準拠設計

試行錯誤なしに一発でずばりの設計ができないかインターネットで文献調査をしたところ、国連のFAO(Food Agricultural Organization)のForestry Department編纂の設計マニュアルをみつけた。スエーデンでの経験値がベースとなっている。下向き併流の一段スロート付きの場合、炉床のスロート部内径は マキ消費量基準の最大炉床負荷(Hearth Load)が0.11kg/cm2/hか、発生ガス基準で標準状態の最大流量をスロート断面積で除した 0.25Nm3/cm2/hを目安とすべしと読める。そこで中間をとってスロート径を4cmとした。試作設計で長時間運転ができなかった最大の原因はスロート直径が 最大炉床負荷に相当する直径である4cmの2倍の8cmであったため、スロート部の流速が落ちて偏流し、炉床温度を維持できなかったことにあると考えられる。スロートの角度は45-60度にせよというので45度を選んだ。

木材の組成や含水量が設計値の20wt.%より多い場合は空気の注入が必要となる。空気吹き込みノズルは炉中心部を垂直に下に吹き付けるように設置し、ノズルから噴出す空気速度は30-35m/secがよいとしている。ノズル先端とスロートとの高度差はスロート直径の1.6倍か10cmの大きいほうにせよというので10とした。 スロート下のスカート状の還元ゾーンは最小で20cmは必要という。還元ゾーンが必要とされる20cmより大幅に少ない5cmしかなかったこともうまくゆかなかった二次的な原因と考えられる。

スカート下の火格子と灰溜まり用空間に10cmとすると反応部高は40cmとなる。図面のようにかさ上げが必要となった。下の炉床構造と流れ図はFAO準拠である。

試作仕様の保温はマキ格納部への熱損失はマキと共に還流すると考えたが、放熱が計算より多いので、マキ格納部も全て保温で覆うことにする。

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炉床構造と流れ図 (FAO準拠)

3. 機器の詳細設計と製作

弁慶果樹園の冨田氏が詳細設計・製作の統括と最終組み立てを担当した。

ガス化炉、フィルタ等はすべて2ミリ厚のステンレス板を曲げ加工し、アルゴン溶接で藤牧氏が製作した。火格子高さは試運転合わせとする。小型のため熱損失を押さえるため、支持はエンジンから燃料コンテナに取った。

保温は外部保温で設計したが反応器の変形防止のため、能力低下を犠牲にして内部保温をトライすることになった。

着火とマキ供給時のガス逆流防止のため、スタート用吸引ブロワーをベント管頂部に設置したトレイ上に置き、簡単に脱着可能とする。吸引ブロワーは吸引ガスがモーターに流入しないように改造して、家庭用掃除機の遠心ブロワーを転用した。マキ供給終了後は手持ちブロワーで送風する。いずれもスタートするまでの仮設のため100V駆動で電圧を替えて風量調節を行なうものとした。

冷却パイプ前にサイクロン灰分離器を設ける。最終分離は潤滑油への粘着分離とする。中間負荷運転以下でガス中の水分が凝縮する。負圧の燃料系から負圧に相当する水封なしで水は抜けない。そこで1バッチの最大凝縮量1リッターを溜め込む水溜めをエンジン直前に設けるものとする。

スタートと緊急用に2元燃料とする。そのためエンジンの点火ポイント角は変えなかった。機械工作が最も難しいスロットル弁とチョーク弁は中古キャブから弁体とシャフトを回収して弁体を納めるパイプは藤牧氏がパイプを縦割りにして内径を摘めて再溶接して作成した。

4.FAO準拠最終仕様でのパーフォーマンス予想

ガス化炉の安定運転下限は試作設計の試運転の知見からスロート速度0.4m/sec程度と見られる。エンジン負荷40%が低負荷限界であろうか。

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バギー車性能曲線

木炭でもガス化できる。設計点の運転温度は1,000度C(この温度確保のため235mmの保温必要)、空気中の窒素で希釈されるため、ガス発熱量が1,073kcal/Nm3となり、エンジン出力は設計点で2.2PSしかでない。一方1バッチ連続運転時間は長くなり、満タンで3.7時間となる。

5.FAO準拠最終仕様でのガス化炉運転状況予想

木炭の場合、空気で希釈される分風量が増え、設計点でマキ基準炉床負荷は0.073kg/c2/h、ガス基準炉床負荷は0.32Nm3/cm2/h、ノズル流速は47.1m/sec、スロート流速は3.8m/secとなる。

6. 完成車

お披露目予定日の7月21日の前日20日に弁慶の冨田さんによって完成し、ただちに試運転。7月29日には吸引ブロワーを増設し、8月2日の「瑞垣の森」デモに備えた。

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弁慶の完成車と燃料の木材チップ

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ベント管頂部トレイに仮置きした吸引ブロワー

7.試作設計での試運転

7.1運転手順

7月20日は吸引ブロワーが無しでテストしたが、着火と着火後のマキ投入が困難であったため吸引ブロアーを増設した。以下は増設後の手順をである。

(1)スロートの上下に炭を置き、燃えた新聞紙を投入し、吸引ブロワー(100V)で吸引して炭に着火するのを確認する。

(2)炭に着火したらマキを投入し、フタをする。

(3)送風ブロワーの送風を10分から20分継続し、炉内の温度を上げる。

(4)送風量を徐々に絞って排煙が可燃ガスになるのを待つ。可燃ガスかどうかは着火するかで判断する。

(5)排気ガスに着火したらエンジンをガソリンでスタートさせ、吸引ブロアーを停めて外し、直ちにガスに切り替える。このときベント管は自動的にエンジンの空気吸入口に切り替わるのでベント管に着いたゲート弁を半回転開程度に絞り、ガス発生系と同等の圧力損失を確保する。

(6)運転停止はエンジンを停止し、なにもせずそのまま放置し冷却を待つ。

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手持ち送風ブロアーでガス化炉の昇温中

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送風量を絞って発生ガスに着火

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燃え尽きたマキ

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コンデンセート (ph=4)

7.2 試作仕様での運転結果と対策

ガス発生があってもエンジンは短期間しかうごかない。ガスの濃度が低く、量が少ないようである。

(1)設計計算では含水量20wt.%以下のマキを前提としてガス化用空気無しで運転可能となっているが、実際に入手できるマキは含水量が30wt.%となり、ガス化用空気の注入をしないと温度維持がむずかしい。ところが空気流量を調節しないと空気吸入しすぎて希釈され、発生ガスは可燃範囲をはずれてしまう。⇒吸入空気の流路にノズルを設置し、高い差圧を与えて空気流量を拘束し、かつ炉床に強く吹きつける構造とする。ただこの場合、低負荷でもガス化空気流量とエンジン吸気量比を自己平衡的に維持するためにノズルの圧力損失に見合う圧力損失をエンジンの固定チョークで確保することと、ノズルとチョーク以外の系内の圧力損失を極力低く押さえる必要がある。FAOがノズルの噴出流速を30m/sec程度にせよという真の目的はこれであろう。ノズルの先端はスロート上10cmとする。このノズルは第二次大戦中に日本で多量生産された市販ガス化炉にはあったものであるが、過小予算で省略したものである。やはり実績に裏打ちされたノーハウは貴重なものと実感した。(未実施)

(2)含水量20wt%以上にでかつ小型であると、ガス化で発生する熱は壁からの放熱で失われ、温度維持が困難となる。設計計算ではガス化炉上方のマキ格納部への熱損失がマキに吸収され、リサイクルされるとしたが、実際にはリサイクルされず、格納部の壁からの放熱量が多い。⇒保温材を格納部の蓋を除き、格納部全面につける。失敗の試行錯誤集(4)の結果から明白である。(未実施)このタイプの炉ではマキは長期間乾燥し、4センチ以下に切り刻んでつかう。恒久的には反応熱を回収して空気とマキを予熱する構造とすることがのぞましい。

(3)空気供給量を絞ると可燃ガスに変わるが、エンジンスタートしてもエンジンに着火しないか、動いても短期間である。しばらくするとガス発生が衰える。再度送風量を増しても、窒素希釈と炭酸ガス発生で発生ガスが可燃域からはずれてしまう。エンジン吸引量が少ないと全体の温度が低下してしまう。⇒FAO準拠設計でスロート内径を4cmとすることで流速を4倍にして偏流を防止する。また還元ゾーンを20cm確保することで反応時間を確保できると考えられる。この改造案は失敗の試行錯誤集(1)、(2)、(3)と(5)の知見も支持している(未実施)

(4)スタート運転開始後、30分でコンデンセートがキャブレター内いっぱいに溜まり、エンジンに水が入り、しばらくスタートできなくなる。潤滑油がコンデンセートでエマルジョンになったので交換。また運転中は負圧なのでドレンは切れない。⇒コンデンセートがキャブレターに溜まらないような構造にする。コンデンセート溜めのサイズは計算通り適切だった。コンデンセートのphは4で酸性。これは木酢などの有機酸のためと考えられる。(実施済)

7.3 試行錯誤記録

(1) 酸化反応ゾーン不足を疑い、空気吸入ノズルレベルまで炭を充填して炭のホールドアップを充分確保して運転しても可燃ガスの発生はなかったことから酸化反応ゾーン高さ(深さ)が不足している疑いは晴れたとしたが、スロート径が大きすぎ、偏流が生じていたため、火が消えてしまったとも考えられる。

(2) 還元ゾーン高さ不足を疑い、スロート下端と火格子のクリアランスを3センチ以上にして炭が火格子の上に広がるようにしてみたが、1-2センチ以上の深さまでガスがまわらず、下はデッドゾーンとなることが判明。結局、スロート下端にスカートをはかせ、火格子はバッフルスカート下端に直接溶接した。スロート径が大きすぎ、偏流が生じていたため、火が消えてしまったためと考えられる。

(3) マキがスロート内でブリッジングしたのでスロート内径8センチを10センチにしたが、ガス発生量はかえって減少した。これはスロート径が大きすぎ、偏流が生じていることの証明となる。

(4) スロート外側の保温を外してみたが、温度が上がらず、ガス発生に至らなかった。保温不足の証明である。

(5) 炉内に残った炭を取り出すのも面倒と空気を逆送してスロート内の炭を燃焼させたところ、スロート狭窄部を高速の空気が通過したためと、バッフルで空気が余熱されたこともあり、スロート最狭窄部が高温になり、焼損したが、大量の可燃ガスが発生することを確認。灰を掻き出そうと灰取り出し口を開けると、焼損した火格子とバッフルのスカート部は反応器底部にころがっており、ガラス固化したスラグが1個出てきた。やりすぎであるが炉床負荷を上げればよいことを示している。

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ガラス固化したスラグ

(6) キャブ一杯に溜まったコンデンセートをエンジンシリンダーに吸入してしまうとプラグが濡れてスタートできなくなるだけでなく、潤滑油系にもコンデンセートが入り、潤滑油をエマルジョン化してしまう。

8. あとがき

国連のFAOの設計マニュアルをみつけたいきさつは下記のとおり。

2004年2月Brenton & Margatet Pope夫妻がマキガス化車でオーストラリア中を旅した報告を発見した。http://members.tripod.com/~highforest/woodgas/woodfired.html Brenton & Margatet Pope夫妻はスロートの横から空気を吹き込む構造とマキ格納部をすっぽりと二重ドラムで包み、熱損失を少なくすること、発生ガスの熱で水蒸気を加熱し水素を余計に作ろうとしている。注意事項としてメタンガスはガソリンよりエンジンの着火ポイントを数度早めることをすすめている。スロートはナチ式とのコメントあり。ということは日本のデザインは戦時中のドイツから来ているのかもしれない。

このページを作成したのはオーストラリアのHans Hochwald氏で氏の上げる参考書リストのなかにFAOの設計マニュアルがあった。

マキカート・マキガスタービン発電に関する問い合わせ

May 6, 2003

Rev. May 31, 2005


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