東京長高会講演会

2008年12月13日

虎ノ門パストラルで開催された東京長高会主催の定例講演会にでかけた。学年幹事の小粥、飯田、才口、和田、加畑、村田、井上、小林などが出席していた。

今回も講師は全て長野高校の後輩達である。朝日新聞の松本仁一氏の「壊れてしまったアフリカの話」と元経済企画庁長官の田中秀征氏の「首相の重み」を聴講した。

 

「壊れてしまったアフリカの話」:松本仁一

日本では報道もされないし、無関心なのであまり知られていないが、1960年代のアフリカの独立から45年経てアフリカ 諸国が壊れはじめている。サハラ以南のブラックアフリカには48ヶ国あるがそのうち5-6ヶ国は壊れている。15ヶ国位は かなり壊れていて、20ヶ国位がほっておけば壊れるという状態だという。

ソマリアなどその最たる例だ。一応政府はあるのだが、隣の国にいる。それぞれの軍閥が十歳くらいの兵士に軍事訓練もしないでカラシニコフを持たせてテリトリーを警備させている。最近は米国の大型タンカーが漁民からなる海賊にハイジャックされて身代金を要求された。

シェラレオーネでは分別のない子供が人指し指を引き金にかけたままのため、危険極まりない。

私は仕事でナイジェリアに何度も出張したがこの10年、どうしようもなくなっているようだ。政府が機能していなく、石油収入の2割しか 外為にでてこない。ということは残りは政府高官のヨーロッパの銀行口座に入ってしまう。 警察を呼んでも来ない。彼らの給料は遅配のため賄賂で生活せざるをえない。国家の最低限の機能が死んでいる。ハウザ族の住む首都のアブジャは秩序が保たれているが、複数の部族が共存するラゴス とかビアフラにあるポートハコートは秩序が保たれていない。ラゴスの信号機のランプは交換されない。したがって交差点は進入する車で固まってしまう。そこに カラシニコフを持った自動車強盗が出没して質の良い自動車を強奪してしまうという。商社員はいうにおよばず、日本大使館の一等書記官のランドクルーザーを略奪されてしまった。かろうじて大使の乗った防弾仕様のロールスロイスだけが難を逃れている。イラクどころではない。

私も経験したがナイジェリアで多発している詐欺の手口がある。関東人は振り込め詐欺に弱いが、関西人は還付金詐欺に弱いという。ナイジェリア人は英語のジョーク集035番に収録したように還付金詐欺の手口を使う。 これを419事件という。関東人たる私は当然その手にはのらなかった。

松本氏は現象をこれでもかと紹介する。そしてアフリカを放置すると結局日本にも無秩序化の影響が及ぶので止めなければならないというがなぜそうなったかの話はしない。察するに アフリカを植民地化した列強が支配した領域をそのままにして複数の部族を括って国として独立させたため、部族毎に分裂してしまったの か、はたまたグローバリゼーションの副作用なのか。そしてどうすれば新秩序が形成してくるのかわからない。
 

「首相の重み」:田中秀征

田中秀征氏は同窓会で話すのはうれしくないという。善光寺平の南のはずれの川柳村(川柳将軍塚がある)の出身で 、北高にあこがれて入ったのでいまでも北高と聞くと胸が熱くなる。北高時代に入り長野高校となったときに卒業した。

氏は「麻生首相が軽いのは叩き上げでないからだ。最近の首相は皆二代目で小泉純一郎を除いたらやりたいこともないままトップになってしまっているからどうしたら良いかわからない。私が仕えた宮沢喜一は一言を発するにも慎重な人 だった。しかし聞く人間にとっては宮沢の話はちっとも面白くない。麻生首相はそのような慎重さがないのではじめは面白いが結局めちゃくちゃで首相の権威を破壊してしまった。字の読み違えをしないように補佐官は事前に原稿を音読してやっているのに、多分麻生さんは聞いていないのだろう。宮沢喜一はアメリカにはビックリするくらいハッキリともの言った。石橋湛山も占領軍に言い過ぎて公職追放にまでなった。しかし最近の政治家も官僚もアメリカにもの申すに必要な確固たる考えというものを持っていない」という。

氏は「小学校6年の時に、石橋湛山が河野一郎さんとともに、吉田首相によって除名されたときに関心持ったんですけどね、それからずっと、尊敬してるんですけど、政治家としてのたたずまいの見事さといいますかね。 志の高さ、志の強さというものに拠るんだと思いますけど、こういう人が居るんだなあと思った」という。以後、田中秀征氏は湛山を理想の政治家として仰いできた。

氏が心酔する湛山は1920年に「小日本主義」を掲げた。日本は島国で人口が多く、資源はない。このときとりうる戦略は2つある。その一は4つの島の制約の中で生きる。その二は外に拡張するである。「外に拡張して隣同士の日中が戦えばそれが日米戦争に発展する」と湛山は予言した。 「樺太、朝鮮、台湾を捨て、満州もあきらめて道義性の高い国家にすべき」と述べている。これだけ勤勉な国民がいるので、自由な貿易されできればやっていけると言った。これは当時理想主義とも空想主義とも受け取られていた。しかしその後の歴史の展開は、湛山の警告、主張、行動の正しさをことごとく実証するものとなった。

膨張主義とは一種の国家バブルである。そしてバブルはいつか弾ける。膨張主義は他国にも迷惑かけるが国家バブルが弾けて一番困るのは自分である。バブルが弾ける前から次第にコストが増して採算に乗らなくなる。湛山は国家間の相互理解と相互依存の関係こそ最も現実的な安全保障であると説く。軍事的な威嚇や覇権は、侵略を抑止するように見えても、逆に相互不信を深めることによって侵略を誘発するものであると警告した。彼のこの「理想論」は、何百万人もの犠牲者を出してはじめて厳しい「現実論」であったことが判明した。

抑制派の例としては坂本竜馬、木戸後胤、大久保利通、高杉晋作である。膨張派は西郷などで征韓論に乗るが、これが後に膨張して満蒙となった。膨張している側は安心できるが膨張される側からみれば侵略である。戦後では吉田茂、石橋湛山、宮沢さんや梶山さんそして保守本流という人々は抑制派だった。現在は抑制派は弱まっている。最近では退職金をもらった某統合参謀議長などは膨張派である。

氏は1983年地元の小阪善太郎をやぶって衆議院議員になった。宏池会(宮澤派)に所属し、宮澤喜一から厚い信任を得ていたが、武村正義らとともに自民党を離党し、新党さきがけを結成、党代表代行に就任した。同年の第40回衆議院議員総選挙後、細川護煕の日本新党と統一会派を構成し、武村が内閣官房長官、鳩山由紀夫が内閣官房副長官に就任。氏は、党代表代行のまま、首相特別補佐に就き細川首相を支えた。 細川首相は規制緩和と小選挙区制導入に取り組み、細川首相が日本の侵略戦争にふれたとき脅迫状が沢山舞い込んだが、補佐官の氏がもらった脅迫状の数のほうは多かった。このとき自民党内部であれは侵略戦争だといってくれたのは小泉さんだけだという。1996年、自民党・社会党・さきがけの連立による第一次橋本龍太郎内閣に経済企画庁長官で入閣。しかし、同年10月の第41回衆議院議員総選挙で落選した。その後の選挙には出馬せず、知事選出馬要請も固辞して大学教授になり民権塾を主宰する。

氏は小泉純一郎元首相とも親しい。「最近はひとつの課題のために政治生命をかけるという政治家は、ほとんどいなくなったが小泉純一郎はそうだった。小泉純一郎はおかしな人で打たれるほど逆に張り切る。そして郵政民営化は成功した。 でも最大の成果は米国の景気に引きずられる形でのデフレからの脱却であろう。外の政治家なら先送りで先送りで脱却はできなかっただろうと思う。バブル破裂後の宮沢内閣は180兆円の金を投じたが、デフレからの脱却はできなかった。 小泉の行政改革は官僚まかせが多く、たいしたことはできなかった。ただネオリベラリストの竹中平蔵を引き出して米国流の過激な規制緩和をしたのは失敗だった。靖国参拝で中国の気持ちを逆なでしたのは遺族会との約束を守ろうとしたからで、日本は中国を侵略したと小泉は思っている。しかしあの喧嘩以後、偽善的だった日中関係もまっとうな関係になったという功績もある」という。

敗戦から佐藤首相までは戦前・戦中にキャリアを積んだ即戦力の官僚出身者だったし、田中から宮沢まではたたき上げの党人政治家か草の根の政党人がリーダーとなった。細川以降は選挙区の後継者難とかいろいろな事情で、政治家の息子か孫がやむをえずなったものが多くなった。政治家には一人の人間としての原体験から出てくる志が必要だ。これは他人によっても変えられないし、極端にいえば自分によっても変えられないものだ。それが政治の中で貫かれ、ときには、ものすごいエネルギーを出す。最近の政治家は立候補や当選してからのちにあわてて志というものを取って付けるのだが、そのようなものは志でも何でもない。これが政治家の劣化現象というものだ。官僚あがりでもなんでもいいが、能力のあるたき上げでないとだめ。給付金ばら撒きは必要ないと言っている世論をみれば後藤田さんが言ったように「マスとしての日本の大衆は賢い」という指摘はそのとおりだと思う。最近の政治家よりまともな考えをもっていると思う。日本にも希望はあるだろう。

ここら辺は山本周五郎の小説「赤ひげ診療譚」の主人公 新出去定(にいできょじょう)のせりふのようだ。

人材をどう養成するかという問題は案ずるより生むがやすしで、ドゴールは「国家が必要とする人材は国家がそれを必要とするようになれば必ずでてくる。なざぜならもしそうでなかったら人類はとっくに滅んでいる」と言っている 。功罪半ばするグローバリゼーションをどうするかは目下緊急の課題だ。いま我々が迎えている危機は200-300年に一度の危機だといわれている。今、自民党は存在意義を問われている。私が自民党を離党したとき 、宮沢さんは「君の気持ちは良く分かる」と言ってくれた。腐敗している組織より無能な組織は始末に終えない。自民党は無能になってしまった。そして世論は自民の無能に気がついた。

国会では話せないのでここで皆様にお話ししました。

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December 16, 2008

Rev. January 6, 2009


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