読書録

シリアル番号 868

書名

参謀・辻政信

著者

杉森久英

出版社

河出書房新社

ジャンル

伝記

発行日

1982/8/4初版

購入日

2007/07/28

評価

いままで参謀・辻政信に関して読んだ書物での彼の印象は元気ばかりよくて、責任はとらず、ひどい男だということしか記憶にない。特に山本七平氏の「ある異常体験者の偏見」での「辻政信型いいまくり」は印象深い。「太平洋戦争、こうすれば勝てた」に紹介されていることだが、辻のように参謀でありながら司令官を無視して勝手な命令を出して日本を戦争に引き込んでいった背景には日本の組織が下位代行を奨励したためという。

それに「失敗の本質」で辻の行跡は随所にでてくるが、半藤一利の「ノモンハンの夏」で読んだ と思うのだが「のもんはん事件」のあと、辻が負けた現場指揮官に自決を促したということを読んで嫌悪感を持った次第である。

たまたま町内の方の引越しを手伝ったとき書棚でこの本を見つけ、いったい彼はどのような人物であったか知りたくて借りて読んだ。

いままで辻は都会で育ったと思っていかが、意外にも石川県の白山の山麓の山中町の今立部落の出身とのことだ。陸大を2番で卒業したため外国留学の特権があったが白人種への敵意のため、これを行使せず、外国を見た経験がなく非常に狭い視野しか持っていなかったようである。

また政治経済や社会問題について特別の見識もなく、無思想であったため石原莞爾大佐の東亜連盟の理念に簡単に感染してしまったようである。のもんはん事件も辻ら参謀が相手がロシアというだけで、条件反射的に、盲目的に突進したにすぎねかったようだ。一旦これが失敗だとあきらかになると、停戦後送還された将校に辻が自決を要求したことで自分のつたない作戦計画の責任逃れをしている。

マレー作戦での華僑虐殺事件も辻が軍令を草したという。またビルマ戦線では英軍飛行士の肉を自分でも食い、人にも食わせたといわれている。フィリピン最高裁判所の長官ホセ・サントスを銃殺の刑にしたのも辻、ガダルカナル戦の計画の失敗も辻である。

日本が負けた日に辻は戦犯として捕まるのをさけるためにバンコクで地下にもぐった。彼が捕らまらなかったために彼の罪を負って処刑された人もいたという。東京裁判がおわると ひそかに郷里に帰り、潜伏中に記した手記を「潜行三千里」という本にして出版し、大人気となった。

余勢を買って、選挙に出馬し、当選するのである。しかし、かっての参謀時代の天下を睥睨する態度は変わらず、政治家仲間やかっての軍人仲間からはまったくバカにされた。しかし石川県民は彼のデマゴーグの才にだまされて彼を支持し続けるのである。

政界においては失意の日々をおくり、石川県民にも見放されてついに謎の失踪をする。共産中国にあこがれをもち、潜入しようとするが、ラオスからソ連機でハノイに向かったまま消息を絶ち、ようとしてそのゆくえは知られていない。


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