読書録

シリアル番号 656

書名

ある異常体験者の偏見

著者

山本七平

出版社

文芸春秋社

ジャンル

時評

発行日

1997/7/20第1刷

購入日

2004/10/06

評価

鎌倉図書館蔵、山本七平ライブラリー

大逆事件により処刑された医師を近親に持ち、内村鑑三のもとで無教会派の信仰を抱いていた著者が「辻政信型いいまくり」が跋扈する日本陸軍で下士官として体験したことの赤裸々な告発と敗因の分析の書。一気に読ませる。 氏によると日本陸軍や当時のマスコミが持っていた思考体系はそのまま戦後も残り、従軍後、毎日新聞の記者になった新井宝雄氏の「強大な武器を持っていた日本軍が中国民衆の燃えたぎるエネルギーに負けた」との見解に反論し、自らの砲兵将校の経験から「日本陸軍は強大な武器などもっておらず、せいぜい第一次大戦のヨーロッパの武器のものまね、欠陥兵器しかなく、中国のほうが米国の援助で優れた武器を持っていた」と反論。これは叔父が中華事変で渡洋爆撃隊長として出撃し、開戦直後中国の高射砲で撃墜された事実からも説得力ある説であった。「こうしてあせった陸軍は精神力で勝つのだという自暴自棄の戦略におちたのが日本の第二次大戦の実情である」というのが氏の主張である。陸軍の内情を語る氏の印象深い言葉はMemo Serial No.884, 885, 886, 887, 888, 889, 890, 891, 892, 893, 894, 895, 896, 897, 898, 899に抜粋まとめた。新井記者のように思い込みばかりで事実を理解できない人が、マスコミでいい加減な観念論を張るようでは日本の今後もおぼつかないという気になる。朝日も似たようなものだ。なにせ日本社会全体が一種のタブーによって自己規制してしまい、真実を見て論ずる気風がない社会であるからであろう。これは徳川時代に培われた根の深い悪弊と思う。400年間日本を支配してきた「濃尾システム 」から脱却する時期であろう。


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