国際連合大学

ゼロエミッションシンポジウム

2008

 

2008年11月26日にUNハウス3階ウ・タント国際会議場で開催されたゼロ・エミッションシンポジウム2008年「ゼロエミッションと生態系ーゼロエミッション活動による生物多様性の保全維持」に参加した。「ゼロ・エミッションシンポジウム2007年」に参加しはじめてこれで2年目だ。

洞爺湖サミットを迎えていたゼロ・エミッションシンポジウム2006の高揚した雰囲気は米国発の経済危機で掻き消え、参加者も少なくなっている。バイオダイバーシティーの維持などというものには関心が低いと感じる。人々は経済が再び成長をはじめることを願っているが、それはかなわぬ夢だろう。人間が増えすぎ、地球の生態系がもうまかないきれないのだ。だから資源が高騰し、いままでの資源多消費型の経済は立ち行かなくなっているとみたほうが良い。

コンラッド・オスターヴァルダー学長は生物の多様性が重要であることを示す逸話を紹介した。それはアフリカで発生したとある果実の食害はスリランカからもたらされたとある外来昆虫によるものだと判明したことだ。ベストの対策は農薬を使わずその昆虫の天敵をスリランカから導入することだ。

1988年のエドワード・O・ウィルソンの「生命の多様性」ではじめてBiodiversityという言葉が使われ、日本語には生物多様性と訳された。1992年のリオサミットで「生物の多様性に関する条約(CBD条約Conservation of Biological Diversity)」が締結された。(米国は未締結)1994年には年賀状にBiodiversityを理解しやすいFrances Fawcett のイラストを借用させてもらったこともある。

あれから14年が経過してまだこんな議論をしているのだ。

環境省自然環境局の黒田大三郎局長は、日本は1995年には国家戦略が決定したという。でも環境省からはなにも生じなかった。環境庁は民に生物の多様性の重要性を教えることに最大の興味があるようだ。いまだに愚民思想にとりつかれている。そして環境庁は生物の多様性に多くの脅威を与えている政府の主要官庁たる農水省、国土交通省、経済産業省の方策を生物の多様性保護の観点で修正させる努力をしているという態度は全く見せない。これは理解のできない無責任な態度で環境庁の存在理由を放棄していると思った。案の定、最後のパネルディスカッションでフロアからそのような意見が吐露された。

環境庁不介入のため、農水省は農民の農地の放棄を止められず、里山は放置され、国産木材産業は死に絶え、オリンピック方式の漁業で魚資源は枯渇し、国土交通省は干潟の埋め立てを止められず、水辺は垂直のコンクリート壁が依然立ち並び、砂浜は痩せ、経済産業省は既得権擁護に汲々として いる経団連を阻止することができず、地球資源が限界に近づく新時代に適合する新産業の創出を阻害している。

東大の里山研究者の竹内和彦氏は鎌倉・長谷大仏の後背地の山の樹木が1860年にF・ベアドが撮影した写真では松だが、今ではスダジイやタブの木から構成される照葉樹林に遷移しているという。竹内和彦氏の指摘を待つまでもなく、同じ遷移は鎌倉の西のはずれ竜口寺門前で1888頃撮影された写真にも見られる。森は江戸や明治時代のほうが疎林であったのだ。明治時代に作成された陸軍測量部の地図にも松となっている。薪炭として収奪されていたため土地が痩せ松しか生育できなかったのだ。縄文の森は照葉樹林だったのだが、農業がはじまり人口が増えた平安時代から里山の樹木は松に遷移したと考えられる。石油と人工肥料のおかげで縄文時代に先祖がえりしたのだ。

竹内和彦氏は身延山や奥多摩の御前山檜原都民の森の林床に自生するカタクリという植物は地球が1.5万年前に温暖化して第4間氷期に入るまえにあった氷河期の遺存植物であるという。

カタクリ

薪炭林であった里山は落葉樹のため、春先の短い期間林床で生き残ってきたのだ。この落葉樹林が人手が入らず放置されて照葉樹林に遷移すればこれら遺存植物は絶滅する。

鹿島建設の塚田高明氏は生物の多様性を守る工法を幾つか紹介した。しかし国の工事は建設会社が工事仕様を決める立場にはなく、国土交通省が決めている 。したがって建設会社からのこのような提案は官庁がその傲慢な態度をあらため、標準仕様を変えない限り、絵に描いた餅であってむなしさを感ずる。

パネル・ディスカッションではカナダ出身の民俗学者で国連大学の高等研究所石川・金沢オペレーティング・ユニット所長のアン・マクドナルド女史が宮城県の酒造会社(一ノ蔵酒造)が始めた有機米をつかった日本酒運動が回りの農家を巻き込み成功している例をあげて、やればできると紹介。 女史は日本政府各種委員会委員という顔を持っている。内閣官房の「『立ち上がる農山漁村』有識者委員会」、農水省の「生物多様性戦略検討委員会」、環境省の「全国里地里山会議委員会」、総務省の「地域力創造に関する有識者会議」、IPCC第3,4次評価報告書の政府レビュー員などです。

資源・環境ジャーナリストの谷口正次氏が官庁に3つの要望を出した。すなわち@環境省は環境税をしっかり構築する。A財務省は山林の相続のとき立ち木に課税することをやめる。B厚生省は廃法を改訂して廃棄物はリソース・ポテンシャルとして認定する。そうしないと日本から貴重な廃棄物資源が逃げてしまう。

何もしない官庁、抵抗勢力となった経団連、役所に担がれるだけで何もしない学者にたいする フロアからの厳しい叱責の意見が吐露された。これに対し、民主党の船山康江参議院議員は何もしない官庁に仕向けているのは政治家の責任で、そのような政治家をのさばらせているのは結局 、国民だとの発言で幕となった。

November 27, 2008

Rev. December 14, 2008


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