ヨーロッパ滞在顛末 2


出国まで 28/04/01

さて決断はしたものの、何をすればいいのだろう。いきなり途方に暮れる。
現実には修士の曲を始め、書かねばならない曲は何だかたくさんある。そこまで貯めたのも自分なんだけど。

とにかく行けるのは一年間。4月から3月まで。そうすると向こうの音楽学校のカリキュラムにはまるで合わない。私的にレッスンを受けるようなことくらいしか不可能だ。あとはいろいろなコンサートや音楽祭、講習会に足を運ぶとか。

それからは作曲の合間にドイツの大使館のホームページなどを見て、どういう手続をしなければならないか、何が必要かを調べる。と……
「2000年12月から、日本人は国内でビザを取得していく必要がなくなった」との項目を見つける。少数の例外のケースを除いてドイツに入国してからビザを申請するようになったらしい。あ、じゃあ割と簡単に入国は出来るんだ、と安心。と、その次に。
「プライベートのレッスンを目的とする滞在は認められない」との項目も見つかる。無言……。

じゃあ何なら滞在できるんだろう。考えているうちに年も明け、3月に名古屋で発表するオーケストラ曲を前に唸りながら、どんどん時間は過ぎた。

麻布にあるドイツ大使館に行く。ビザ・セクションの係員に相談すると、「語学研修の形くらいしかありませんねぇ」との答を得る。なるほど。では、それには何が必要になりますか?「向こうでの経済的な保証をこちらで明らかにしていく必要があります。あなたのドイツでの経済的な後見をする人に実際にここに来ていただいて、その保証を見せていただければ、証明書を発行することができます」と説明してくれた。
それで後日、親と一緒に預金通帳を携えて再び大使館を訪れる。幾つかの質問の後、めでたく債務表明の証明書Verpflichtungserklaerungが交付される。

次に航空券を予約する。帰国がいつになるかさっぱり判らないので、とりあえず片道を買おうとする。すると旅行社の係員は渋い顔をする。「ビザがなくて片道だと、下手をすると成田を通してもらえないかもしれませんよ」でもドイツは最近制度が変わりましてね、云々。「ではすみませんが大使館にもう一度片道でも大丈夫かどうかを確認してからにして下さい」はい、わかりました。

また大使館に電話。「もうすでに向こうに行ってからビザを申請した人も結構いますが、トラブルはまだ聞いていませんよ」でまた旅行社にその旨を云って、半ば強硬に片道航空券に決め、最初の一泊をフランクフルト市内のホテルに予約した。

では語学学校はどうしよう。とりあえず赤坂のドイツ学術交流会内にあるゲーテ・インスティトゥートに訊いてみる。「ケルン近辺なら、ゲーテはデュッセルドルフとボンにありますよ」ということで、ドイツのゲーテの授業日程や料金表のついたパンフレットをもらってくる。見てみると、……ぅわっっ、たっかぁい……。言葉を飲む。

語学研修でビザをもらうからには、いる間中は学校に登録しないとダメなんでしょ? 1年間まともに行ったら、余裕で7桁じゃないですか。語学研修が第一の目的というわけでもないのに……。

帰って親と顔を見合わせる。「……向こう行けば、もっと安い学校あるんじゃないの?」「う〜ん、多分…」「じゃあ、向こうで探すことね」臑齧りの身では致し方あるまい。行かせてもらえるだけでも有難いのだから。

もう出国まで1ヶ月もない。慌ただしくいろんな用事を片づける一方で、海外旅行保険と国際運転免許証を取った。

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