ヨーロッパ滞在顛末 15


電話 01/07/01

部屋はとにかく見てみなければ良し悪しなど判るはずもない。けれどもこれだけ物件が絞られてしまっていると、もう選択の余地もないわけだ。仕方ないけどこの中から決めるしかない。比較的条件の合う期間を貸しに出している物件を更に絞り込んだ。
それはいいとして。電話をかけなければいけない。相手が英語の解る人だとは限らないから、当然ドイツ語で行かなければいけない。どうしよう。だからそんなことがスラスラできるくらいなら学校なんてわざわざ行かないって云ってるのに。

と管を巻いてもしょうがない。ぼくはノートに喋る内容をメモした。
「こんにちは、私は間借りする部屋を探しています。私はこの4月に日本から来て、ドイツ語の会話学校に通っている者です。私は Mitwohnzentrale であなたの部屋についての情報を得ましたが、一度部屋を見てみることはできるでしょうか」

次の日学校から帰ってきて、ぼくはしばらく電話の前でうずくまっていた。
……相手だって同じ人間だ。まして相手は部屋を貸したいんだ。取って喰おうとしている訳じゃない。とにかくかけてみよう。えいえいおー。

ドイツに来て何度目かの清水の舞台の覚悟で、受話器を取った。
…この特徴のない呼び出し音。これ、嫌い。
相手が出た! ………と思いきや、留守電のメッセージが聞こえてきた。全部聞かないうちに、すかさず切る。深いため息。…感じの悪い声ではなかったな。でもまるで判んないや、やっぱり。

くじけてなるものか。呼吸を整えて他の物件に再びかける。……あれ、また留守?
ではとにかく次へ。……またもや留守。昼間だからかな。
夕方7時頃まで待って、また次々とかけてみた。でもやはりみんな留守だった。
ドイツの都市部では一人暮らしの人が多いと聞く。この人たちも一人で、部屋を空けることが多いのだろうか。そうかもしれない。とにかく明日またかけてみるか。しかし何だかホッとしたなぁ。……って、ホッとしてる場合じゃないっつーの。

翌日は、前日ほどの勇気は要らなくて、どうせまたみんな留守なんだろうと予想していたら、本当にそうだった。……ドイツの人って、すぐに電話を取らないのが普通なのか? もしかして。

だんだんぼくは不安になってきた。このままでは誰にも連絡が取れないままズルズル時が経ってしまうではないか。これではまずい。情報もうかうかしているとすぐ古くなってしまう。

そうこうしている内に週末を越してしまった。午前中にかけてみたりもしてみたが、不思議なことに誰も出ない。いくら何でももうこれらの物件は片付いてしまっただろう。もう一度 Mitwohnzentrale で情報をもらってこなければいけない。あそこに行くのは何だか気が進まないけれど、そんなことは云っていられない。

また例の何だか愛想の悪い兄ちゃんに頼んで、新しい物件をプリントアウトしてもらう。今度は2件しかない。うそ。とぼくは思わず日本語で口走ってしまった。

もうこれは逃がさないぞ。幸い期間と面積と価格は2件ともまぁ申し分ないものだった。中央駅に戻って来たあと、ぼくはその場でその2件に電話してみることにした。
1件目、例によって留守電。またか…… ぼくは留守電のメッセージに続けて、例の台本の通りに用件を喋って切った。
2件目、もう8割方諦めながら、一応かけてみた。
すると相手が出た。女性の声だった。

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