ヨーロッパ滞在顛末 13


霹靂 08/06/01

5月のとある晴れた日。晴れるとようやく暖かいと云える日も出てきた。
C語学学校で紹介されたK寮にぼくは住んでいる。寮の管理人Sさんは、最初に訪れたときにはニコニコと迎えてくれたが、いざ住んでみると、かなり無愛想な人だと判明。ま、そういうこともあるさ。

ぼくは彼にある話を切り出そうとしていた。
ぼくはここに入る時に、予め用心して、もし不都合があったら出られるよう、1ヶ月だけ契約した。部屋にインターネットに接続できる電話線があることを確かめ(そのくらい入る前に口頭で訊けよという話もある)、1週間経つ前に、もう1ヶ月延ばしてくれと頼んだ。

それから更に2週間ほど暮らしてみて、特に生活に困ることは見出せなかった。シャワーとトイレは部屋についている。キッチンは共同だが、どうせそう料理はしない。洗濯も共同で、洗濯室は1日単位で予約して使うことになっている。順番が回ってくるのはせいぜい月に1・2回だが、いざとなれば近くにコインランドリーもある。

唯一問題と思われたのは、部屋自体が狭いことだ。20平米に満たないこの部屋は、まぁホテルのシングルルームといった感じで、贅沢は云えないとは思いながらも、もう少し広ければいいなぁという気は、やはりする。
でも、とにかく安いのだ。月455マルク(約27000円)というのは、街の中心に地下鉄で10分ほどで出られる地域の賃貸料としては破格だ。結論としては、ここに最後までいていいや、ということになった。

なに、契約終了にはあと一月以上ある。今頼めば余裕で延ばしてもらえるだろう。と思って、ぼくは1階の管理人室に降りていった。

「こんにちはぁ」「ハロー」
「一つ訊きたいんですが」「何?」彼はデスクに向かったまま、こちらに目を向けずに答える。
「えと、ぼくはいま6月までお願いしてるんですけど、それを延ばしてもらえないでしょうか」「無理だね
「え?」「7月と8月は、うちは全室埋まってて、貸せない

「えっ……と」頭の翻訳機がいかれて間が空く。「それは、つまり……ぼくは新しく部屋を探す必要が…ある、と…いうことです、ね?」非情な返答は即刻返ってくる。「残念ながら、そういうことだね」口が半開きになったままのぼくを尻目に、管理人は億劫そうに一応手元のコンピュータで寮の貸室スケジュールを確認した。「やっぱりだめだ」そう云って彼は両の掌を上に向け、ぼくの顔を見た。

そのまま部屋に戻って、しばらくぼくは突っ立ってパニックを味わっていた。そんなの全然予想してなかったんですけど…… そう。要するにぼくは、「部屋を探す」ということに伴う困難さに怖気づいていたに過ぎないのだ。

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