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書き下ろしショートストーリー
 「お料理対決コロシアム!」

●目次

「お料理対決コロシアム!」 ライトネス &チェリー(作者 むーむー)

●「お料理対決コロシアム!」ライトネス&チェリー(作者 むーむー)

※この話はシナリオ12以降、2年後くらいの話となります。

ブラス村にライトネス城と呼ばれる彼女の新しい邸宅が建ち、
それと合わせて武闘・演芸場も完成した。
ライトネス城の豪華な造りも凄いのだが、武闘・演芸場の方も相当な規模の物が作られた。
舞台となる楕円形の演武場はそれだけで直径50mは優に超えている。
舞台の裏手は楽団の待機場所や演劇などを行う場合の舞台裏が用意されていて、
ここが武闘以外の使い道を最初から想定して作られているのがうかがえる。
またそれを望む観客席は半円形の形をしており、岩山を少し削る様にして作られている。
元からあった自然を利用した建築物なのだ。
観客席の規模は現在建築済の部分だけで高さ30mを超え、直径は100mに届こうかという大きさだ。
それだけでもすでに1万人近く収容できる規模となっている。
追加の建築計画では、さらに岩山の上部を削るのと横に観客席を付け足していく予定で、
最終的な大きさは直径150m、高さは50mを超える予定となっている。
その場合の収容人数は2万5千人以上となる予定だった。
一体誰を呼ぼうとしているのか、というレベルである。

当然のことながら建築費はべらぼうに高くなる予定だった。
だが、ドワーフの技術者などの考案により元の岩山を使うという設計努力をしたことや、
ジャイアントやトロールなどの建築の手伝いが見込めたことにより、
コストを大幅にカットして建築ができる目途が立った。
また、幸運なことに、ドワーフの鉱山技師が多く来たことにより、
岩山の鉱山で銅や銀の鉱脈を掘り当てることに成功したおかげで、
ブラスはあっという間に富める村に変貌したのだ。
ライトネスはそれならと鉱山関連の投資を増やし、その後あっさりと利益を出すことに成功して、
建築費用を調達したのだった。

武闘・演芸場は週の中5日の朝から夕方まではブラスに駐屯する兵士たちの訓練に使用される。
訓練はブラス自警団、リスモア兵士団、聖騎士団、神官戦士団、暗黒騎士団、カノン自由軍、
妖魔兵、ジャイアント、ドワーフの戦士団、ハーピーの偵察兵団などが中心となって行われた。
また時折、暗黒を含む魔術師や神官、ダークエルフたちなどが魔法の訓練も行った。
これによりブラスの練度は誰が見ても高いまま維持されたのだ。
それらの訓練は届け出さえ出せば、誰でも見れるものとなっていた。
ライトネスの思惑としては、他国の者が見て恐れをなして端から戦を仕掛けられないようにするのが目的だった。
そのために日中の訓練は欠かさずやらせ、見たい者は見れるようにしたのだ。
また武闘・演芸場とは別に、海での争いについても海で訓練を行うなど実践訓練は欠かさずしたのだった。
武闘・演芸場の平日の夜は、届け出があれば楽団の練習や芸事を志す者に開放された。
夜9時くらいまでが限度で、そこで楽器の練習や週末に行われる催し物の練習などを行っていた。
休日という概念はあまりない世界だったが、週に1度、神が世界を作ったとされる曜日については
神を信じる者にとっては安息日と定められていたため、その日に催し物を行うこととしていた。
催し物の規模によっては、その前日から準備のため、兵士の訓練は中止される日もあった。

せっかく建てたのだから使わなければ損だとばかりに、ライトネスは毎月のように催し物を開催した。
本当は毎週開催したいくらいだったが、さすがに忙しくて出来なかったのだ。

最初は頭のおかしな領主が何かおかしなことを始めた、と村の者は笑っていた。
何しろ、剣で誰が一番強いか決める大会、とか、相撲でとか、腕相撲でとか、魔法は誰が一番凄いだの、
そういう腕っぷしの強い話から始まり、誰の歌が一番上手いかとか、誰の演奏が一番かっこいいかとか、
踊りは誰が一番かっこいいだのというちょっと変なものまで増え始め、
そのうち誰が一番木登りが上手いかとか、計算は誰が一番早いとか、
酒樽を持って走るのは誰が一番早いのか、誰の声が一番大きいかなど、
何やらよく分からないものまで出てきた。

が、あほだなと思いつつも、見ている分には面白いので、次第に催し物を見に行ったり、
実際に参加してみたり、見物人目当てに露店でも開こうかなどと欲を出す者が増えてきて、
どんどん賑やかになっていったのだ。
最初は村人たちだけで楽しんでいた。村の娯楽の域で遊んでいたのだ。
ところが、見る者が1,000人、2,000人を越えてきた辺りから、様子が変わってきた。
参加する者の心意気が変わってきたのだ。
最初はちょっとした人数に見られて笑いながらやっているだけだったが、
そのうち大観衆に見られて行うことになっていった。
その過程で、恐れをなして出てこなくなる者も中にはいたが、
俄然やる気が出てくる者の方が多かったのだ。
やる気が変わってくると、結果が見違えるように良くなっていく。
ものによっては、見る者を感動させるくらいの結果を出す者が出てくるようになる。
そうなるとそれが噂となり、見る者が増えてくる。
さらに、噂が噂を呼び…ということで、ブラス以外からも見る者が増えてくるようになった。

無駄に観客席を作り過ぎたかな?などとライトネスとドワーフ達は笑っていたのだが、
笑っていられなくなった。
建てて1年もしないうちに、このままだとあと半年もすればもう観客席に人が入らなくなる、
というのが見えてきてしまったのだ。
慌ててライトネスは現状の設備に影響が無いようにしつつ、観客席の増築を指示した。
建築費用は、今後の見世物の興行収入を見越すと2年程度で回収出来るという試算が出ていたので、
それを信じて投資した。
2万5千を超える観客を収容出来る規模だった。
半円形でなく円形にしておけば良かったとライトネスは若干後悔したが、
それだと平らな所に高い建物を建てなければならず、建築費が4倍以上かかるので
さすがに厳しいと判断し、半円形のまま増築した。
村の娯楽として行う催し物は基本的に無料だが、それ以外は多少の見物料を取る様になっていった。

そのくらいの頃から、ブラスは近隣から観光客がやってくるような村になっていった。
何しろそういった観光施設もあるし、毎月何かしか催し物はあるし、
村のメインストリートは何でも揃っているんじゃないか?というくらい商業が盛んだし、
港まであるのだ。
それもライデン経由で大陸からの物が買えるという。みなこぞってやってきた。
貴族達もちょくちょく通うようになってきていた。
ライトネスが城とも呼ばれる邸宅で、社交界のための舞踏会や晩餐会やサロンを
毎月のように開くようになったのだ。
貴族で無くなったのにも関わらず、むしろ貴族時代よりも定期的に、それも主催する側になってしまった。
忙しいどころの話ではない。
リスモアの貴族は馬車で来る者や船で来る者が増え、来ればそれなりに金を使っていく。
それも村を潤わす要因となっていった。
また温泉施設などもあり、歓楽街も出来つつある。もはや村といよりは街、下手すれば首都レベルだった。
刺激的過ぎる街となっていた。
ドワーフやエルフといった異種族も多く住む。
そのため、村の中で彼らの姿を見ることも多い。
特にドワーフたちがそれなりに住んでおり、彼らがもたらす職人技の品物はどれも品質が高く、
競い合って買われていった。
また、ここに住むエルフたちは比較的話しやすいエルフが多いようで、
飲み屋などで気軽に話せる存在として知られていた。
さらに言えば、この村には妖魔や暗黒に関わっていた者すら住んでいるのだ。
それも仲良くだ。こんな村どこにもない。
この村では暗黒魔法などはご法度で、彼らはそれを守ってちゃんと大人しくしているらしい。
使えばすぐに聖女ライトネスにバレるらしく、誰も試さないそうだ。
魔術師や神官を呼ぼうとして、普通の?暗黒の?と聞き返される場所などこの世界のどこにもない。
歓楽街の飲み屋でエルフの接待を受けること自体珍しいのに、
妖艶なダークエルフまで一緒に出てくるなど、どうあがいたってあり得ない。
何もかもが頭のおかしい村だった。

そんなブラスだが、ここ1年くらいで、食糧事情と食生活は激変したと言っていい。
ライトネスが領主になったすぐ位から森を積極的に開墾し、畑にしまくった成果がようやく現れてきたのだ。
また高位の精霊使い達の協力により、出来たばかりの畑の植物の精霊に若干無理をさせて
早くに収穫を行えるようにした。
そのため、最初の年で既に村人の分の食糧以上に収穫が可能となったのだ。
ライトネスが村の代表に変わった後も、手を緩めずにどんどんと森を切り開き、
そんなにいるか?と思うくらいの開墾をし続けている。
取れる収穫高は10倍以上に膨れ上がっていて、まだ開墾を続ける予定だった。
この後、休耕地を作らなければならないことを含めると、まだまだ畑は足りないのだ。
働き手は続々とカノンやマーモからくるので全く問題なかった。

ライトネス曰く「食料を制する者は戦いも制する」とのことで、生産量はまだまだ増やす予定だそうだ。
最初は麦やら米やら芋やら野菜やらといった、人が生きて食べていくために必要なものや、
牧草といった家畜に食べさせるものを中心に育てていた。
牧草の栽培と家畜の育成にはだいぶ苦労している。
食べるためにすぐに殺してしまうと数が増えず、かといって増やし続けようにも牧草の栽培が間に合わず、
というかなり苦しい状況だが、なんとか我慢して育成をし続けている。
恐らくは、来年くらいには食卓に家畜の肉が多く並ぶようになるだろうというくらいの目途が立ってきていた。
比較的手に入りやすいのは鳥肉で、それ以外の肉はリスモアから家畜を買い付けるため、やや高価だった。
そんな中、海からの幸は豊富に入って来ていた。
カノンの漁民がかなりの数、移住してきたのだ。
肉になかなかありつけないので、魚介類が食卓に並ぶことが多くなっていった。

自家消費として食べるための生産が一旦落ち着くと、今度はハーブやら香辛料、
やや高級な食材などの生産も開始し始めた。
食べるための栽培から、売るための栽培を増やしていったのだ。
また妖魔も住んでいたこともあり、人間では普段食べないような植物の生産も開始した。
ブラスでしかお目にかかれないような、独特の植物が店に並ぶようになっていた。
ブラスは元々ヴァリスに住んでいたブラス村民に加え、カノンからの農民、漁民、マーモの移民、
妖魔の移民などがひしめき合うようになっていた。
それぞれに好みが違うため、いろんな料理がそれぞれの食卓で出るようになっていった。
そんなこともあり、ブラスのメインストリートやその周辺では、
それぞれの国や種族などの特性を持った料理屋や飲み屋などがどんどん出来ていた。
さらに甘味処や喫茶店、土産物屋のようなものまで出来ており、
食文化は相当豊かになってきているのだった。

そんなある日の事。
夜になって、ブラスのメインストリートにある雑多な飲み屋で、男たちがわいわいと飲んでいた。
どうやらこの場で居合わせただけの仲の様だった。
それぞれに出身国や種族の違う面々だ。
酒場は満席、大盛況だった。

「あっはっは。今日は愉快ですな。
 まさかオークとこんなに楽しく飲めるとは…。祖国を離れて以来こんなに楽しいことはない!」

頭の禿げあがった中年男性だった。アラニア辺りの訛りがあるようだ。

「本当ですね。我が国としては妖魔などあり得ぬと思っておりましたが、意外と話せるものですね!」

若い貴族の青年といった感じだ。言葉遣いや内容からヴァリスの貴族ではないかと思われる。

「あんた達も良い奴だって分かったぜ。今まで敵と思っていたこともあったのが馬鹿みたいだったな!」

見るからにオークだ。筋肉粒々でなかなか良い面構えをしている。

「小生も楽しくて仕方ありませんな。海を渡ってきて良かった…」

マーモの魔術師か、文官か、といったところのちょっと癖のあるやせ型の風体の男だ。

4人は何度となく乾杯を繰り返していた。
それなりに長い時間飲んでいたため、かなり酔いが回っているようだった。
酒場の周りの連中も同じようなものだ。皆一様に酔っていた。
そろそろお開きか?というころアラニア出身風の男がこんなことを言い出した。

「今度は、ぜひ我が祖国の料理を食べていただきたい!
 皆気に入ってもらえることでしょう!」
「それならば我が国の料理もぜひご賞味いただきたい。
 絶対に満足させてみせますよ!」
「お、それなら、俺たちの料理も食ってもらいたいね。
 絶対に一番美味いと言わせてみせるぜ!」
「いやいやいや、一番は小生の生まれ故郷の料理でしょう。
 ぜひとも食べていただきたい!」
「…いや、一番は我が祖国ですぞ?」
「…何をおっしゃいますか。一番は我が国に決まってますよ」
「…あ?俺たちの料理に決まってんだろ?」
「…馬鹿なことを。話になりませんな…」
「なんですと?」
「今の言いようはあり得ないですね」
「あ?喧嘩売ってんのかお前」
「なんなら買いますか?」

そこからいきなり乱闘が始まった。

最初は4人だけだったが、すぐに隣の席に飛び火した。
そうなるとどんどん将棋倒しのように広がっていく。
ものの30秒くらいで酒場全体での大乱闘となってしまっていた。
どうやら、周りの客もこの会話を聞いていたようで、俺の国の料理が一番美味いなどと
言い合って収まらない騒ぎになってしまっていた。

そんな中、ライトネスが酒場に現れた。数分も経っていない。
近くでご飯を食べようと思っていた矢先に神の声を聞き、慌ててここに走ってきたのだった。
中では大乱闘中だった。店の者は悲鳴を上げてうずくまっている。
殴り飛ばされた者がテーブルにぶち当たって皿が飛び散っていたり、
テーブルごと粉砕して伸びていたりする者もいるようだった。

「何をやっている!やめろ!」

ライトネスはそう叫びながら店の中に入って行き、乱闘を止めようとする。
そんなライトネスに殴り掛かってくる馬鹿者がいる。
すかさず避けるが、何しろ人数が多い。
ライトネスは1発軽く後ろからもらってしまった。

ライトネスの中の何かがプチっと切れる。

「やめろと、言ってるのが、分からんのか、バカ者ども、が!」

それぞれ文節ごとに1人ずつ伸していく。
1、2分後には酒場の全員が伸びていた。

数分後。
床に伸びていた者はすべて座らされていた。
全員ライトネスから大人しく説教を食らっている。

数名、依然として床に伸びている者もいた。みな顔がひしゃげている。
それは起き上がった直後に、無謀にもライトネスに殴り掛かった者たちで、
一瞬で顔面を殴られ、みな再び伸びて起き上がってこないのだった。
それを見た周りの者はみな大人しく説教を食らう気になったのだった。

「はぁ??? どこの料理が一番美味いかで、喧嘩してた、だぁ???」

ライトネスは呆れ顔で周りを見回す。
周りの者はみな頷いている。どうやら本当らしい…。
馬鹿さ加減に頭が痛くなってくる。

「我が祖国の料理が一番であると私は主張したのですよ!」
「だから何を根拠に言うのですか。我が国に決まっているでしょうに」
「おいおい、俺たちの料理だっつってんだろうがよ。ぶん殴るぞ?」
「笑止…、小生の祖国以外一番はありますまいに…」

また睨み合いを始める4人の男たち。
今にも喧嘩しそうだったが、次の瞬間には皆黙ることになる。

「う、る、さ、い。…黙れ」

それぞれ一文字ごとに頭の上からライトネスの拳骨が落ちる。
トゥ・ナが食らっている裏拳と違い、真上から振り下ろされたため力が後ろに逃げず、
ずっしりと重い一撃になっている。
みな痛みのあまり言葉が出ない。

「どこの料理が一番美味いかなんて、どうだって良いじゃないか…みんな美味いんだから」

それを聞いて、アラニア出身と思われる男が異を唱える。

「どうだって良いとは酷い。
 それぞれの国に根差した食の文化が違うのですぞ?
 我がアラニアの1,000年の歴史の料理を食べたなら、同じことは言えますまい?」

ヴァリスの貴族がさらに異を唱える。

「ライトネス様なら分かりましょう?
 リスモアでも食されていたこのヴァリスの料理こそが、手間暇かけた逸品の数々であると。
 考えるまでもない」

それを聞いたオークが黙ってはいない。

「手間暇なら俺たちの料理だってかかってるぞ?
 オークの料理を知りもしないで馬鹿にしてんじゃねーよ」

意外と好戦的なマーモの男がこれに食って掛かる。

「は。笑えませんな。
 食材の良さを引き立たせ、食欲をそそるために粋を凝らした小生の祖国の料理こそ、
 至高だと言うに…」

周りの者はまたライトネスから拳骨が飛ぶだろうなと思っていたが、そうはならなかった。

「なるほど…。考えてみたら私はアラニアの料理は晩餐会で出てくるような料理しか食べたことが無い。
 ヴァリスの料理はまぁ…普段から食べているが…。
 オークの料理やマーモの料理は食べたことも無い…。
 比べることも出来ないな…。
 美味いのか?」

男どもはそれを聞いて如何に自分たちの国の料理が美味いかを熱弁する。
周りで静かに聞いていた男たちも加勢する。
喧嘩腰でなく、如何に美味いかを熱弁されたのだ。
ライトネスはついつい黙って聞いてしまっていた。
そう言えば、まだご飯を食べていない。
お腹が空いているのだ。
料理の話など聞いていたら、全部食べたくなってしまった。

「なんだ…?全部美味そうにしか聞こえてこないぞ…?」
「でしょうとも!」
「当然ですよ」
「へへ、ぜひ食って欲しいもんだね」
「なんなら全部食して比べてみては如何か?」

最後の一言が、ライトネスの心に刺さったようだ。

「それ…。いいな…」

酒場の男たちの皆がライトネスを見る。何を言い出すか注目しているようだ。

「なら、こうしようじゃないか。
 2週間後の安息日、ちょうど武闘・演芸場の予定が空いていたはずだ。
 そこでどこの料理が美味いか食事の対決をしよう。
 食材と器材は全部提供してやる。追加でほしい食材が有るなら言って来るが良い。
 そこで自分の国の料理がどれだけ美味いか、実力で示すってのはどうだ?」
「そんな量、ライトネス様だけで食し切れますかな…?」
「いや、無理に決まってる。
 だが、どうせやるんだ。たくさん人を呼んでみんなで食べてみないか?」
「それと言うのは詰まるところ…」
「凄い量を作って、皆で食べ放題、だな?w」
「マジかよ?どんだけ量作らなきゃならねーんだよ…」
「嫌なら、参加しなければ良い。
 お前の言う自慢の料理をみんなで食べれなくて残念だな?w」
「ふふふ。小生の知り合いの料理人をかき集めて対応してみせますぞ?w」
「それは何よりだ。
 さぁ?どうだ?
 やる気がある奴は、もう居ないのか?w」

酒場がどっと沸く。
皆口々に料理人のアテを挙げているようだ。
どこかの料理店の店主だったり女房だったりするようだ。

「ま、細かいことはシャーロットに言っておくから!
 2週間後を楽しみに待ってるぞw」

こうして、武闘・演芸場を使った料理対決が2週間後に急遽開催されることとなった。

この噂は瞬く間にブラス中に伝わった。
何しろライトネスが全部持ち、タダで食べ放題、それも色んな国の料理が食べられると言うのだ。
何のお祭りか、という騒ぎになった。
その後、シャーロットは降って湧いた事態にこめかみをヒクつかせながら対応することになるのだが、
ライトネスが何でも言うこと聞くというご褒美が後から出て、俄然やる気になったのは言うまでも無かった。

2週間後。ついに料理対決の日がやってきた。
料理人として参加したのは個人も含んでいたが30団体にのぼった。

武闘・演芸場の50mの大きさを持つ舞台の中央部分は審査員などを務めるライトネスや、
ブラスの重要取引先の舌の肥えた大口の商人、近隣の貴族などの10名程度の席が置かれた。
ただ、彼らが座る中央の食卓に30団体分を並べるのは現実的では無かったので、
中央には30卓それぞれの団体の料理を置くテーブルが設置され、
審査員はその中から食べてみたいものを食べて審査することとなった。
見た目がしょぼければ下手すれば食べてもらえない可能性すらある方式だった。

各料理人の調理スペースはそれを囲むように周囲に設置された。
作っている風景も見られるように工夫されたのだ。
それなりの参加団体数になってしまったので、武闘・演芸場の舞台には
急遽石組みのかまどなどを設置するのは、兵士たちの仕事となった。
これも訓練の一環として兵士たちは快く引き受けてくれた。
それぞれの料理人が使用する食材は事前に申請されたものが各自に用意されていた。
団体によっては高級食材ばかり使用する所もあり、シャーロットがその要望に
どう応えるか調達に頭を抱えていたが、何とか全て用意し終えていた。
こんな団体数が集まるとは正直思っていなかったのだが、さらに驚いたことに
観客もすごい数が集まってしまっていた。
タダで料理を食べられると聞いて2,000人くらい集まってしまったのだ。
各団体がそれぞれ料理を頑張って作っても70名分くらい作らないと全て行き渡らない。
なので観客は全ての料理が食べられる訳で無く、一品ずつ何か食べられるように
分配するなどしか方法がなかった。
それにしてもフルコースで500人分くらいは調理しなくてはならない量なので、
シャーロットが慌てて食材の追加を指示したくらいだった。
調理人が1人だけの団体で70名分も作ることは出来ないので、
そこら辺は人数の多い団体が負担するなど大慌てで取り決めをしていった。
ライトネス邸やアスカル邸、カミラ邸などの使用人全てが総出で手伝わないとならないような、
そんなイベントになってしまっていた。

観客席の最前列から数席分には、ブロックの上に板を敷いて布を掛けた急ごしらえのテーブルが作られた。
審査員分の提供が終わった料理はここに順次置かれて、観客が好きな物を取って食べるようにしたのだ。
ここらへんは取り合いになったりすると大変なので、兵士や衛兵が適度にさばくことになった。

料理人は最初こそその規模に驚いていたが、とりあえずは自分の腕を振るうために
審査員分の料理に取り掛かり、その調理が終わり次第、得意料理をひたすら観客分に調理するという
2段階の調理をすることとなったので、まずは審査員の為の料理を本気で取り掛かり始めた。
調理は下ごしらえを事前に済ませて持ち込んでも良いことになっていたので、
料理対決の調理時間は2時間、食べる時間は1時間半として取り決められた。

各審査員はそれぞれの調理風景を見ながらどれを食べようかな、などと物色をしていた。

色々な団体があったが、中でも目を引いたのは4つだった。
それぞれ、酒場で言い合いをしていた4人の団体だった。

アラニアの商人の男が率いる団体は、どうやらアラニアの料理人を集めて連れてきたようだった。
寒冷地を含むアラニアらしく、保存食を多用した煮込み料理や炙り料理などを調理しているようだった。
オーブンを多用するようなそんな料理が多かった。
強い酒の合いそうなそんな料理だった。

ヴァリスの貴族の男が率いる団体は、彼の抱える料理人たちの様だった。
これでもかという贅を尽くした料理だった。
前菜に始まり、スープ、魚料理、ソルベ、主菜の肉料理、サラダ、甘味、果物などのデザートといった
フルコースでの食事となっている模様だった。
いずれも凝った料理で、本命候補といって良かった。

オークの男が率いる団体は、どうやら彼の女房とその友人たちの様だった。
大型の獣を丸ごと一匹使うような豪快な料理で、香辛料の匂いが香ばしく食欲を誘っていた。
また家庭料理の一巻からか、デザートなどの菓子の類なども作っているようだった。

マーモの男が率いる団体は、マーモの知り合いの料理人をかき集めてきたようだった。
南国マーモらしくスパイシーな匂いと共に、魚介類などを多く用いた料理の様だった。
トウモロコシの粉を使った独特な生地に巻いて食べるようで、食べやすそうな料理だった。

ライトネスはこの日は朝食を抜いて、たくさん食べる準備をしてきているので、
匂いを嗅いでいる段階でお腹が鳴りそうだった。
その4つの団体以外でも相当な種類の料理が作られている。
どれを食べようかと目移りしてしょうがなかった。
調理時間はあと1時間くらいで終わりそうだ。
まだ1時間もある…。
そんな中ふと見ると、チェリーがいそいそと調理人たちの間を行ったり来たりしていた。

「チェリー?どうした?何してる?」
「あ、ライトネス様。
 色々足りない物が無いかとか、余ってる物が無いかとか、食材などの確認をしているんです…」
「ああ、そうか。結構な量を作らないといけないもんな。
 食材の手配も大変だったとシャーロットから聞いてるよ。
 悪かった…急に色々やらせてしまって」
「いえいえ。それは大丈夫です」

チェリーはそうは言いつつも、心配そうに観客席を見ていた。

「やっぱり…足りませんよね…」
「…ん?」
「あ、いえ。…何とかしてみますw」

チェリーはそう言うと、また各団体の調理人と何かを話して、調整をしているようだった。
ライトネスは仕事熱心なチェリーに感謝の念を送ると、また、各団体の調理風景の物色に入る。
しばらく涎を垂らしそうになりながら見回っていると、舞台の一番端の所で、
暗黒騎士のリーダー格のガートナーとオークの代表格のグレイグが、
大量の寸胴を並べて何やら調理をしていた。

「ん?お前たち?どうした?」
「おう、ライトネス姐さん」
「ライトネス殿。なかなか大盛況な催しですな…」
「ん。まぁ、たまには良いじゃないか…w
 で、何してるんだ? 寸胴とかこんなに並べて」
「調理の手伝いでさぁね」
「観客も多いですし、用意が間に合っていないのです」
「ああ…そういうことか。それは邪魔してすまなかった…。
 よろしく頼むよ^^;」

ライトネスはそそくさとその場を離れる。
自分が言い出したことで迷惑をかけてしまっているのだ。
長話して邪魔するのが申し訳なくなってしまったのだった。

そんなこんなで、1時間後。

いよいよ調理時間が終了し、食べ比べの時間になった。
審査員側のテーブル30卓には、こんな量食べきれないぞ、というくらいの豪勢な料理が並べられていた。
こちらの料理は審査員が食べた後は、調理人同士で食べて、味比べを行うことになっていた。
それでも多分余るので、その場合には手伝いをしてくれた兵士たちが食べることになるだろう。
食べ残さないように配慮がきちんとされていた。

――さて、どれから食べようか。

ライトネスはまずは、アラニア料理のテーブルに向かった。
晩餐会で食べるフルコースの贅沢品しか食べたことが無かったので、家庭風の料理に興味があったのだ。
さすがに自信を持つだけのことはある、そんな料理だった。
鶏肉やピクルスを多用したポテトサラダに始まり、
赤みの強いビートを使ったシチューにはキャベツなどの野菜や、
保存用の肉などが柔らかく煮込まれていてとろけるような味だった。
またロールキャベツなどの煮込んだ料理や、牛肉の細切りを玉ねぎや
マッシュルームと炒めたものをスープで煮込み、酸味の強いクリームと共に食べる料理が、
とてもコクがあるのに爽やかな味わいで美味だった。
オーブンで良く焼いた鹿の肉を小型のパイで包んで食べ、それを強い酒で流し込む、
そんな料理もあった。
また、紅茶にベリー系のジャムを混ぜて飲む独特の飲み方を勧められた。
寒い地方の料理らしく、保存食が多く使われ、酒が強く、またやや塩分が強めの印象を受ける料理だった。
寒い時は良いのだが、暑い時にはちょっと濃いかな?くらいに思えた。

食べ過ぎてしまうと他の料理が食べられなくなってしまうので、物足りないくらいの量で一旦終えた。
続けてすぐには食べられない。
だが、時間は1時間半しかない。
テーブルを回るとしても、5つか6つかしか回れないんじゃないかな、という気になってきた。
さすがに数分ずつ駆け足で食べるのもどうかなと思ったのだ。

そんなことを考えながら、食事が並んでいるテーブル群を見る。
ふと若干の違和感を覚えるテーブルが1つあった。
他のテーブルは物凄い豪勢に料理が美味しそうに見えるようがっつりと盛り付けてあったりするのだが、
このテーブルだけは、何と言うのだろう、目立たないような、特色が無いような、
そう、とても地味な感じがしたのだ。
並んでいる料理を見る。底の方にレモンの輪切りが入っている水、地味なポトフ、
どこにでもあるパン、ほぼお粥と言っていいボリッジ、
恐らくはブラスで一番手に入りやすいだろう鶏肉のロースト…。
え?これだけ?ていうくらいの内容だった。
とりあえず、きつい酒を飲んだ後だったのでついつい水に手を出す。
飲んだ後あまりにすっきりした味わいにびっくりする。
ちょっとレモンが入っているだけでこんなに味が変わるのだ。少し驚いた。
だが、他の料理はあまりにも地味だったので、とりあえず手を出さずに次のテーブルを目指したのだった。

次は本命ヴァリスの貴族の料理のテーブルに向かった。
ここは他の審査員もたむろしていた。
なにしろ一番豪勢と言って良い。
そりゃたむろもする。
オードブルとして野菜を使った色鮮やかなテリーヌから始まり、
高級エビや高級カニなどの甲殻類をふんだんに使ったトマトベースのビスク、
クリームソースベースの肉厚のブリのポワソン、口直しのイチゴのシャーベット、
アントレとして若い牛の柔らかい肉のロースト、その後にサラダ、チーズと続き、
デザートにケーキと果物、食後のコーヒーと小さな菓子となっていた。
正直、その順番で食べていたら、それだけで1時間半になってしまう。
とりあえずメインディッシュの牛のローストだけを食べる。
ナイフで切る必要が無いほど柔らかく、口に含んだ途端に溶けるのではないかというくらい、
ふわーっとした肉だった。
シャーロットが調達に苦労するのが分かる。
こんなものリスモアの実家でだって滅多に食べれないグレードの肉だった。
こんなの美味いに決まっている。
だが、値段が阿呆みたいに高そうなのがちょっと気になった。
自分はともかく、みんなが普段に食べる料理じゃないよなと感じた。
他の料理も勧められたが一旦席を立った。
本来なら順番に楽しむ料理のメインだけ食べてしまったのだ。
なんかちょっと居心地が悪かったのだ。

ふらーっと歩く。
また先ほどの違和感のあるテーブルについ来てしまう。
相変わらず地味だ。
上等な肉を食べた後でこれを食べるのは、普通は思い浮かばないだろう。
一応美味しいかもしれないので、ほんの一口、ポトフを取って食べてみる。
なんだろう。
見た目は地味だったが、出汁はきちっと効いていてしっかりとした味だった。
美味しいか不味いかで言ったら、断然おいしい側の味だ。
だが、特徴が有るか?と言われると極めて普通の味だった。
普段から食べ慣れているような、なんか懐かしいような、そんな味だった。
うん。なんだろう。普通だな。と思った。

次はオーク料理のテーブルに向かってみた。
食べたことも無いのだ。ワクワクしていた。
料理としては豚を一頭丸焼きにした料理があった。それだけで迫力がある。
また、そのまま焼いているのかと思っていたが、香辛料などを腹に詰め込んで焼いているため
香ばしくスパイシーな香りが漂う肉料理だった。
取り分けてもらい食べる。
びっくりするくらい辛くてしょっぱかった。だが、酒は進みそうな味だった。
また、独特の香草の香りがするので、食べ慣れると癖になりそうなそんな気がした。
他にも鶏肉の焼いた料理があり、香辛料が効いていた。
辛みと同時に酸味も効いており、こちらもやはり酒が進みそうな味だった。
あまりに辛いのでパンも一緒に食べようと思って噛んだところ、
びっくりするくらい固かった。
どうやらオークは普段から骨ごと肉を食べる食習慣のため、パンなども固い感触を好むらしい。
バキバキと音を言わせながら食べるのが良いのだそうだ。
ライトネスは歯が丈夫な方だが、このパンをずっと食べるのはさすがに無理だと諦めた。
何か口直しと思って揚げ菓子風のものを食べてみた。今度はびっくりするくらい甘かった。
砂糖と小麦を団子状にして揚げたものをさらにシロップに漬けてあるのだ。
ほぼ砂糖を食べているようなものだった。
どうやらオーク料理は味がかなりはっきりしていて辛い、甘いに振れているらしい。
酒の席でちょっと食べる分には良いが、毎日は食べられないな、とライトネスは思ったのだった。

オーク料理のテーブルから離れて、また先ほどの違和感のあるテーブルに来てしまう。
自分以外にここに来る者は今のところ見当たらない。
そりゃそうか、と思ってしまう。だが何故か来てしまうのだ。
口の中がまだちょっと辛い感じがする。
そのテーブルにあるパンを手に取る。ザ・普通の味、だった。
そう、これが食べたかったんだよ…。
たくさん食べると他が食べれなくなるので一切れだけにしておく。
お腹の具合としては6、7分目くらいか。
あともう1、2種類食べたらお腹いっぱいになりそうだった。

次はマーモ料理のテーブルに向かうことにした。
こちらも食べたことが無い。
お腹の具合からみて、もしかしたら、これが最後の料理になるかもしれないな、と思っていた。
勧められたのは魚介のサラダとスープだった。
サラダは極めてシンプルで、生野菜の上にボイルした魚介類が乗っているだけのシンプルなものだった。
試しに食べてみたが、シナモンの効いた甘酸っぱいソースがなかなかの美味で、魚に合っていた。
新鮮な魚が取れるブラスだからこそのサラダだなと思った。
また、スープはタマネギ、ニンニク、トマトをコンソメで煮たもので、
それにトウモロコシで作った生地を揚げたものが一緒に煮込まれていた。
スープだけならするするっと入るのだが、この生地がなかなかの曲者だった。
お腹が空いている時には良いのだろうが、既にお腹が膨れ始めている時にはかなりキツかった。
これのおかげで腹8分目から9分目になってしまった。
本来なら、そのトウモロコシ生地に肉や野菜などの具を挟んで食べるのが美味いらしいのだが、
残念ながら、時間を置かないとお腹に入りきらない状況になっていた。
味としてはスパイシーで、かつ魚介類や肉をあまりあれこれいじらずにそのまま楽しむ料理かと思った。
これはまた食べてみたいな、と思った。
だいぶ、お腹がいっぱいになってしまった。
さすがにあとちょっとしか食べられなさそうだった。

また先ほどの違和感のあるテーブルに来てしまう。
なんで来てしまうかと言えば、このテーブルだけ料理の食べ方などを説明する人物が居ないのだ。
無理に勧められないので、居心地が良いのだ。
ふぅ。と息を吐く。
次のテーブルに行ったら何かしか勧められて数種類食べないといけないかもしれない。
さすがに、一品は入るが、それ以上は入らなさそうだった。
並んでいる料理を再び見る。
底の方にレモンの輪切りが入っている水、地味なポトフ、どこにでもあるパン、ほぼお粥と言っていいボリッジ、
恐らくはブラスで一番手に入りやすいだろう鶏肉のロースト。
それに加えて、いつの間にかリンゴが切られたものが追加されていた。
さすがに鳥のローストはお腹に入らないなと思った。だが、お粥はなんかするっといけそうな気がした。
一口よそって食べてみる。
ブイヨンがしっかり効いた味で、卵がといてあってまろやかな味だった。体に優しい感じがした。
本来ならお粥などはさほど好きでは無かったのだが、これは食べられるなと思った。
リンゴをじっと見る。
時間がさほど経っていないためか、色は白くて綺麗だった。
リンゴなどの味はどう出しても変わらないはずだが、試しに一切れ食べてみる。
リンゴの味に加えてちょっと酸っぱい感じがした。レモンがかかっている気がする。
これはかなり美味しいなと思った。
このテーブルは誰が料理人なんだろうときょろきょろと見回してみるが、誰も近くに寄ってこようとしない。
不思議だった。
みんな他のテーブルでは自分を売り込むために説明したくてうずうずしているというのに…。

――誰なんだろうな…?

疑問には思ったが、悩んでいる時間は無かった。
と言うのも、審査時間が終わったからだ。

審査は審査員が自分の気に入った料理のテーブルを紙に示してライトネスに提出する方式となっていた。
とはいえ、これはあくまで参考意見だ。
この票数で決まる訳では無かった。
ライトネスが全額出資しているので、結論を出すのはライトネスが決めるということになっていたのだ。

審査の発表は、観客席にもある程度料理が行き渡ってから、ということになっていたので、
ライトネスはとりあえず紙だけ受け取っていた。
後で、どこかで発表せよと言われたら、言うだけだった。
ちらりと見てみると、やはり予想通りヴァリスの貴族のテーブルの票が多かった。
そりゃそうか、とライトネスは思った。

周りを見ていると、料理人同士がそれぞれの作った料理を食べ、こんな料理があるのかなどと関心をしていたり、
いろいろ意見などを戦わせたりしている者もいるようだった。
喧嘩にならないよう、注意をしておかないといけないなと思った。

また周りを見回してみると、観客席の最前列に料理が並べ始められたようだった。
一口食べたいと観客が殺到しているが、兵士たちが上手いこと順番に並ばせるなどして仕切っていた。
そこで、困ったことが起きているようだった。
当初から予想されていたことだが、観客席側への料理があまりにも少なく、不平不満の声が出始めたのだ。
上手そうな料理を、舞台の上の奴らだけしこたま食いやがって、俺たちにはこれだけかよと思われたのだ。
本来なら、タダで食べられるだけありがたい話なのだが、食べ物の恨みは恐ろしい。
既に観客席からブーイングが出てしまっていた。

――まずいな…。このままだと悪い印象だけが残ってしまう…。

皆で楽しむために催したのだ。
不満が残る形にはしたくは無かったのだが、この期に至っては、時すでに遅しだった。
みんなに謝るかな…とライトネスが動こうとしたとき、舞台の隅の方で、動きがあった。

ガートナーとグレイグが作っていた料理が作り終わり、
彼らの指揮下の兵士が大慌てで観客席の最前列に配り始めたのだ。
どうやらあの大量に作っていたのはこのためだったらしい。
ライトネスが中身を確かめると、どこかで見たような、地味なポトフだった。
寸胴の大きさ、数からして、優に2,000人分くらいは配れる量だった。

またもう一つ動きがあった。
各調理人たちのオーブンや窯で、鶏肉のローストが順次焼き上がってきたのだ。
調理が終わったら焼くように指示されていたそうで、それも2,000名分くらい行き渡る量だったのだ。
兵士たちがそれも合わせて観客席に配っていく。
観客席のブーイングは次第に収まり、むしろ、ほくほく顔で食べている姿が多くなってきていた。
ライトネスはほっと胸をなでおろした。
さすがはシャーロットだなと、この時、ライトネスは思っていた。

それから15分ほど経ってから、シャーロットが現れて「そろそろ結果の発表を」ということになった。

「シャーロット、準備ありがとう。助かったよ」
「どういたしまして。苦労の甲斐が有りましたわね?w」
「この観客の数に耐えられるだけのポトフやらローストの調理の指示までしてくれてたなんて。
 ほんと、助かったよ」
「…はい? …何の話かしら…?」
「え…?」

2人で顔を見合わす。微妙な空気だった。

「…とりあえず、結果の発表を…w」
「あ、うん…」

ライトネスは戸惑っていた。
てっきりシャーロットがポトフや鳥のローストの準備をしてくれているのだと思い込んでいたのだ。
よくよく考えれば、あの料理は、謎のテーブルの料理と同じだった。
本来なら、結果発表は、「ヴァリスの貴族の料理」だと言えば終わりなのだろうけども、
どうしても、あのテーブルの調理人が知りたくなってしまったのだ。

「あー…。発表なんだけども。その前にだ…。
 このテーブルの調理人が誰だか、みんな、知らないか?」

ライトネスは大きな声で皆に問いかけをする。
ライトネスが指していたのは例の地味な料理のテーブルだった。
料理人はお互いの顔を見合わせる。誰も心当たりが無いようだった。

「誰が作ったんだろう…??
 気になるんだよ…誰だ?」

観客席の方も誰だ?という感じになっている。
ライトネスの戸惑いが増す。
誰も返事をしないからだ。

「怒っている訳じゃないんだぞ…?
 知りたいだけなんだよ…」

すると、グレイグが口を開いた。

「その料理を作った人なら…ここに…」

皆がグレイグに注目をする。
その隣には小さく縮こまる様にして手を挙げているチェリーが居たのだった。
彼女は背が小さいので、大きなグレイグの影に隠れてしまっていて、
手を挙げているのに誰も気付かなかったのだ。

「チェリーだったのか…w」

ライトネスはようやく合点がいったような気分になる。

「あの…勝手な真似してすみません…。
 お料理がみんなに行き渡らない気がしたので、ついついいっぱい作ってしまいました…」

チェリーはさらに縮こまってしまっている。

「このテーブルを置いたのもチェリーなのか…?w」
「いや、それは俺とガートナーさんでやったんだよ」

グレイグとガートナーがチェリーを庇うように証言する。

「折角、皆の役に立つことをしているのに、あまりにも控え目なので。
 ライトネス殿にも知ってもらおうと、我々で勝手にそこにテーブルを置いて、
 チェリー殿にそこに料理を出すように言ったのです。
 責めは我々が受けます」
「待て待て待て。全く怒ってないぞ? むしろ感謝してるんだ。
 …それにな。一つ分かったことがある。
 今日、色んな料理を食べてみて思ったんだ。
 やっぱり、いつも作ってくれてる人の料理が、一番美味いんだなって。w」

ライトネスは晴れやかな顔で周りの皆に聞こえるように大きな声で宣言した。

「ということだ!
 今日色んな料理を食べてみたが、私にとって一番美味しかった料理は、
 いつも頑張ってくれているチェリーの料理だった。
 今日はこれを一番としたい!
 不服は有るかもしれないが、分かってもらいたい!」

料理人たちはそれぞれ微妙な顔をしていたが、観客席からは拍手が沸き起こった。
それもそのはずだ。
観客の多くは、ブラス村に元々居なかった移民者がほとんどなのだ。
今日の料理のみならず、彼らのほとんどは、着の身着のままでこの村に流れてきて、
腹を空かした時に、一番最初に食べた料理はチェリーの料理なはずなのだ。
豊かな生活になって忘れてしまっていたが、誰もがこの味を懐かしいと感じたのだった。
ましてや自分たちに気を使って、ちゃんと大量に振舞ってくれたのだ。
歓声が起こらない訳が無い。

料理人たちもやむを得ないかという顔になる。
みんなが喜ぶ料理を提供できたのは誰でもない、チェリーだけだったのだ。
料理人たちも拍手をし始める。

「チェリー!いつもありがとう! 今日も美味かったよ!w」
「どういたしまして…お粗末様でした…w」

ライトネスは機嫌が良くなったので、ついついこんなことを言い始める。

「この催しものは楽しかったので、また開催したいと思う。
 その時には競争というよりは、皆で色んな料理を振舞えるような、
 そんな会にしたいんだけど、どうだろう?w」

料理人たちは、それぞれ顔を見合わせ、まぁ、それならその時にまた腕を振るおうか
という気持ちになっていた。
彼らは職人だ。喜んでくれる客と場所さえあれば、それを発揮する機会が有るのはむしろ喜びなのだ。
どうやら次回以降もこの回は開催される見通しとなりそうだった。

そんな中、頃合いを見計らったようにシャーロットがにこやかにライトネスに近づいてくる。

「さてさて。大変いい雰囲気のところ、申し訳ないのですけども?w」
「ん?なんだ?w」
「こちらの書類に、サインをお願いいたしますわ?w」
「ん?別に構わないけど…?」

と言って、ライトネスはその書類を受け取り、目を通す。

「うぇっ!!!何だこれ!」

そこには、今回の大会にかかった費用のすべて、締めて25,000GP近く(日本円にして2,500万円相当)が
ライトネス名義として請求されているのだった。

ライトネスはワナワナと震えてしまう。
全員分に行き渡る料理の料金はそれなりには高かったのだが、一番高くついたのは、
例の4団体、特にヴァリスの貴族料理にかかった金額がずば抜けて高かったのだ。
希少な部位だけを抽出したような非常に無駄な金の使い方をしていたのだった。

「あの、これ、えっと…」
「ポケットマネーで、お願いいたしますわね?w」
「あ。うん…はい…」

シャーロットは晴れやかな笑顔で皆に向かって、示し合わせたかのようにこう言う。

「さて、それではみなさん。ご一緒にw」
「ライトネス様! ゴチになります!!!w」

半泣きになりながら、頷くしかないライトネスなのだった。

これ以降、ライトネスは全額自腹でなく、観客から参加料を徴収するのと、
材料費は調理人持ちにして無駄に金を使わせないように運営を改良しつつ、
この催しものを継続していった。
調理人同士の交流も深まり、色々な料理があることを皆が知る機会となり、
ブラスの食文化はますます発展することになるのだった。


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