2002年10月


「阿弥陀堂だより」

 小泉尭史監督脚本、寺尾聡、樋口可南子、北林谷栄、小西真奈美、田村高廣、香川京子、井川比佐志、吉岡秀隆。

 隆夫(寺尾聡)は新人賞を受賞しながら、それ以降は売れない小説家。妻の美智子(樋口可南子)は大学病院に勤める優秀な医師であったがパニック障害になり、二人は隆夫の故郷の信州に移り住む事になる。96歳のおうめ(北林谷栄)が住む、村の死者が祭られた阿弥陀堂で、広報誌に「阿弥陀堂だより」というコラムを連載する少女、小百合(西真奈美)に出会う…。

 前作「雨あがる」は良かったが、今回は設定が地味過ぎてかなり不安。それでも、なんともほのぼのとする設定とゆったりとした展開が好感が持てる。登場人物みんなが、余りにいい人過ぎるのが気になったが、こういう映画も有っていい気がする。自然の描写は素晴らしいし、村の人はみんな気が良さそうだし、子供は無邪気だし、単純にこういう場所に暮してみたいと思わせる。
 小西真奈美はいい感じだけど、役的にはちょっと浮いてしまっているか。
 全体では、北林谷栄のコメディエンヌぶりに随分と助けら得ていると思う。北林のために作られたのかと思う程、上手く笑いを取っている。

「阿弥陀堂だより」Official Website


「千年女優」☆

 今敏監督原案脚本キャラクターデザイン、平沢進音楽、声優:荘司美代子、小山茉美、折笠富美子、飯塚昭三、津田匠子、鈴置洋孝、京田尚子。

 かつて一世を風靡した大女優、 藤原千代子は30年前突然引退、人里離れてひっそりと暮す。映像制作会社社長の立花源也は、閉鎖する銀映撮影所のメモリアル企画、千代子の足跡を辿るドキュメンタリーの制作中。立花はカメラマン井田恭二と共に千代子を訪ねる。かつて立花が拾った一つの鍵が、千代子の閉ざされた記憶、思想犯として追われる絵描きの鍵の君、それを追う傷の男、銀映株式会社専務の甥の甥大瀧、銀映の看板女優島尾詠子、さまざまな記憶を開いていく…。

 程面白かった。今敏のアニメーションは今では古くさい感じはするが、丁寧な作りで、物語にはピタリと合っている。語り、現実、記憶を巧みに混在させた作り方はアニメの特性を活かしている。見終わってみて、その構成の巧みさには関心するし、女優という人間の本質を見事に描いている。原節子、大船撮影所、「君の名は」などなど様々な日本映画から頂いたネタにもニヤリとさせられる。

 第5回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞受賞、なんだけど宣伝には必ず、「同時大賞受賞作『千と千尋の神隠し』」って書いてあるのはかなりヘン。もっと堂々として欲しい。

「千年女優」Official Website


「ロード・トゥ・パーディション」- Road to Perdition -

 サム・メンデス監督、トム・ハンクス、ポール・ニューマン、ジュード・ロウ、ジェ二ファー・ジェイソン・リー、スタンリー・トゥッチ、ダニエル・クレイグ。

 1931年、イリノイ州ロックアイランド。アイルランド系マフィアのジョン・ルーニー(ポール・ニューマン)。マイケル・サリヴァン(トム・ハンクス)は、ルーニーを父親の様に慕い、片腕として働いていた。ある時、12歳の長男が殺しの現場を目撃したことから一家の命が狙われ、マイケルと長男はシカゴへ逃げる。ルーニーは殺し屋マグワイア(ジュード・ロウ)にその後を追わせる。

 基本的には重厚な映像に、しっかりした展開、重みのある演技。その中でジュード・ロウの演出ぶりはちょっと浮いている。「A.I.」は良かったんだけど。一方、言葉少ないトム・ハンクスの演技は物語にしっかりはまり込み、親子関係の出し方も上手い。ちょっと死に過ぎているのが気に入らないが。
 しかしポール・ニューマンもこういう年の役が似合うようになったのかあ。

「ロード・トゥ・パーディション」Official Website


「釣りバカ日誌13ハマちゃん危機一髪!」

本木克英監督、やまさき十三/北見けんいち原作、山田洋次&朝間義隆脚本、西田敏行、三國連太郎、浅田美代子、鈴木京香、杉浦直樹、丹波哲郎、パパイヤ鈴木、谷啓、さとう珠緒、小澤征悦。

 鈴木建設営業3課の万年ヒラ社員浜崎伝助(西田敏行)は、釣り仲間の富山の老舗薬問屋「天狗堂」会長黒部五郎(丹波哲郎)から美術館の仕事を取ってくるが、黒部自身のデザイン画はとんでもない奇抜さ。それに反対する設計部のエース桐山桂(鈴木京香)は浜崎と共に、黒部の説得に富山へ向かう…。

「男はつらいよ」の後を継いで、御当地モノの色合いを強めているシリーズは今回は富山。エピソード的には、桐山桂を嫁にしたい黒部五郎会長をメインにするが、ちょっと弱いか。特に小澤征悦の取ってつけた様な存在は浮いている。笑いの部分ともかく、正統な松竹喜劇としては人情味は欠ける。今回、全国どこでも1000円で公開は立派。

「釣りバカ日誌」Official Website


「エンジェル・アイズ」 - Angel Eyes -

 ルイス・マンドーキ監督、ジェニファー・ロペス、ジム・カヴィーゼル、テレンス・ハワード、ソニア・ブラガ、ジェレミー・シスト、ヴィクター・アルゴー、シャーリー・ナイト。

シカゴのハイウェイでの大規模な交通事故現場、警察官シャロン(ジェニファー・ロペス)は瀕死の被害者を必死で励まし続ける…。1年半後、追跡中の犯人に襲われたシャロンは突然現れたキャッチ(ジム・カヴィーゼル)と名乗るその男に助けられる。シャロンはすべてが謎のキャッチに不思議に心引かれて行く…。

 予告編からはもっとミステリアスな展開かと思っていたら、結構、素直なラブストーリ。意固地なロペスに、つかみ所の無いカヴィーゼルは上手い雰囲気の出し方。でもキャッチの過去の秘密や、シャロンの父親との確執など、ストーリとしては訴えかけるモノが弱く全体を印象薄くしている。特にキャッチの名前の由来とか、それほどポイントにならないと思うのだが、あれで最後まで引っ張るとは。

「エンジェル・アイズ」Official Website


「クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア」- Queen of the Damned -

 マイケル・ライマー監督、アン・ライス原作、スチュアート・タウンゼント、アリーヤ、マーガリット・モロー、ヴァンサン・ペレーズ、レナ・オリン。

「インタヴュー・ウィズ・ヴァンパイア」の続編。100年の眠りから覚めた吸血鬼レスタト(スチュアート・タウンゼント)はロックスターとなり人々を魅了する。正体を明かなさいという掟を破ったレスタトは一族から狙われ、またすべての吸血鬼の母であり古代エジプトの支配者アカーシャ(アリーヤ)までもが50世紀ぶりに目覚める…。

 原作のアン・ライスは耽美主義を極め同性愛、美少年好きの女性読者に絶大な人気らしいが、映画は主演のタウンゼンからして美少年路線一直線。物語はレスタトの吸血鬼になったエピソードや、吸血鬼一族の謎、そのすべての元のアカーシャなど、豊富な内容がありそうで実は薄っぺら、どれもバラバラでまとまりも無い。飛行機事故でこれが遺作となったアリーヤも、いい味が出てなかった。遺作としては残念なでき。

「クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア」Official Website


「アバウト・ア・ボーイ」 - About a Boy -

 ポール・ウェイツ&クリス・ウェイツ監督、ニック・ホーンビィ原作、ヒュー・グラント、トニー・コレット、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト。
 
 ノース・ロンドンに住むウィル・フリーマン(ヒュー・グラント)、38歳、独身、クリスマス・ソングの一発ヒットの親の遺産で定職にもつかず、優雅に暮す日々。マーカス(ニコラス・ホルト)は12歳、学校ではいじめられ、母親フィオナ(トニー・コレット)は自殺未遂。お手軽なナンパのために、シングル・ペアレントの会に出るウィルはマーカスと出会う事になる…。

 想像よりは面白かった。いい人役ばかりのヒュー・グラントも芸幅を広げて、見た目の洗練さと優雅さを出しながら、内心でのグータラさも上手く出ている。マーカス役も自然な憎たらしさがいい感じ。世の中に可愛い子役は多くても、可愛くなくて最後には愛らしく感じさせるこういうキャラは貴重。しかし「ブリジット・ジョーンズの日記」の男性版という宣伝はいかがなもんかなあ。

「アバウト・ア・ボーイ」Official Website


「サイン」- Sign -

 M.ナイト・シャマラン監督脚本製作出演、メル・ギブソン、ホアキン・フェニックス、ローリー・カルキン、アビゲイル・ブレスリン、チェリー・ジョーンズ、パトリシア・カレンバー。

 グラハム(メル・ギブソン)は妻の交通事故死により、信仰心が失い牧師の職を捨て農夫となる。家族は息子モーガン(ローリー・カルキン)と娘ボー(アビゲイル・ブレスリ)、元野球選手の実弟メリル(ホアキン・フェニックス)。家の周りの不思議な気配、巨大なミステリーサークルの出現、犬の凶暴化など不思議な出来事が続くが…。

 シャマラン監督も「アンブレイカブル」での肩透かしには驚かされるが、それを遥かに上回る展開。どちらかと言えば期待外れ。正体が明らかになってからは敵のチンケさだけが目立つ。主たる事件よりは、危機を前にしての家族を描きたかったのだろうけどやっぱりつまらない。シャマラン監督に次回作はあるのか?

「サイン」Official Website


「宣戦布告」

 石侍露堂製作監督、麻生幾原作、古谷一行、杉本哲太、夏木マリ、財津一郎、佐藤慶、夏八木勲、池内万作。

200X年、敦賀半島沖で北東人民共和国と思われる潜水艦が座礁、重火器で武装した特殊作戦部隊員が上陸。諸橋総理大臣(古谷一行)、寺崎首席秘書官(杉本哲太)、山ノ内防衛庁長官(石田太郎)、小池政外務大臣(天田俊明)らは警察SAT(特殊急襲部隊)で対応を図るが及ばず、自衛隊に出動を決めるが、法解釈の混乱、優柔不断な対応、縄張り争いに阻まれ事態は深刻化、世界戦争勃発の危機へ…。
 
 時期的になんとも危ない題材、原作は50万部のベストセラー、その割には話題になっていない気もするが…結果的には何とも内容が薄い印象。日本の危機管理意識の低さの表現あたりは面白いし、社会性も高いのだが、戦闘の薄っぺらな表現は悲しいばかり。戦争と外交の緊張感は「13デイズ」などには遠く及ばない。情報戦の実体や、結末などはちょっと説明不足の感じ。

「宣戦布告」Official Website


Movie Top


to Top Page