'99年9月


「旅と道具-豊かな旅を創るハードとソフト」
佐貫亦男 朝日文庫

 タイトルからは、旅行における荷物とか、そーいう話だと思っていた。確かに目次には、履物、服装、カメラ、写真と並んでいるのだが、どうも中身は違っている。
 著者は1908年生まれ。すでに二年前に亡くなっているがまったく爺さんの昔話としか思えない内容ばかり。何しろ、初めての海外旅行は、ナチス政権下のドイツ。初めてパリに行ったのは、ナチス統治下の時代だし、飛行船の旅の優雅さを今ごろ自慢されても困ってしまう。
 老人の昔話に付き合っているつもりで読んでいるなら面白いのだけど、今の時代の人が読んで、旅行に役に立つとは思えない。


「きらきらひかる」
江國香織 新潮文庫

 映画化しているけど未見。
 主人公の笑子はアル中、結婚した睦月はゲイ、紺はその恋人。面白かったけど、「落下する夕方の方」が好きかなあ。どうもここまで行ってしまうと、なんか、無理に泥臭い関係を奇麗に描いている様な気がする。リアリティを感じられずに、感情移入しにくい。


「落下する夕方」☆
江國香織 新潮文庫

 面白かった。映画「落下する夕方」原作。ストーリは映画とほとんど同じ。
 静かな展開でありながら、時々の張り詰めた緊張の上手さは映画そのまま。映画の追体験ではあるのだけど、同じ様に楽しめた。原作が先にあるのだから、映画化が上手く行っているのだろうけど。
 何故か、本文中の華子の台詞はみんな菅野美穂の声に聞こえてしまう。それだけ映画の華子役菅野美穂のイメージは強かった。

映画「落下する夕方」感想


「陋巷にあり」5妨の巻
酒見堅一 新潮文庫

 中弛みっぽいというか、どうもイマイチ。
 今回は事件がほとんど起こってない。なんか4徒の巻からダラダラ続いているだけど、肝心の主人公も悪役もあんまり出てこない(^^;)。今後の展開に期待と言ったところか。


「柔らかな頬」☆
桐野夏生 講談社

 「OUT」から二年たった、書き下ろし。
 謎の別荘地幼児失踪事件。「私は子供を捨ててもいいと思ったことがある」という主人公カスミ。事件を追うのが余命半年の癌宣告を受けた元刑事(34歳)の内海。

 人間の視点を変えて、それぞれの心理を描写していく、それによって事実が明らかになっていく手法は面白い。「OUT」みたいなパワーが無い分、繊細な文章や構成には引かれる部分は多い。でも「OUT」の方が好き。特に「OUT」の練りに練られたラストは最高だと思う。この「柔らかな頬」のラストは随分と逃げているような気がして欲求不満になってしまう。
 構成は、ちょっと高村薫を意識しているような気がした。


「おもしろ科学こーなっている!365のQ&A」
ジャロン・B・マグレイン 三田出版

 サイエンスもの。嘘っぽいのもあるし、古いものもあるけど、まあ、楽しめる。やや生物関係に片寄っていて、物理、数学などは少ない。著者は、エンサイクロペディア・ブリタニカの物理部門の編集者、執筆者なのに…。


「悪魔のワルツ」☆
フレッド・M・スチュワート 角川ホラー文庫
- The Mephisto Waltz - Fred M.Stewart

 1971年3月に刊行された単行本の文庫本化。本国での出版は1969年で、著者のデビュー作。
 主人公のクラークソンはピアニストになる夢を捨てて、フリーのルポライターとなっている。インタビューをきっかけに世界的ピアニストのダンカン・エリーはクラークソンを息子の様に溺愛するようになり、遺産を残して他界する…。「ローズマリーの赤ちゃん」を彷彿とさせる、悪魔主義の香り。あっさりとした展開ながら、十分に楽しめた。
 著者はコンサート・ピアニストを目指していただけあって、音楽の使い方が非常にうまい。音楽の悪魔的魅力が満ちている。


「玩具修理者」
小林泰三 角川ホラー文庫

 小林泰三の第一回作品集。表題の「玩具修理者」は第二回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。
 「玩具修理者」は雰囲気があってなかなかいいのだけど、死者の再生というテーマ自体は、それほど新鮮味は無い。
 もう一編の「酸歩する男」は、量子力学なども使ってもうちょっとSF色が強い。しかし、雰囲気だけで展開は面白く無い。


「ためらい」
ジャン=フィリップ・トゥーサン
- La Peticence - Jean-Philippe Toussaint

 息子をベビーカーに乗せ友人宅を尋ねる主人公。意味ありげな猫の溺死体も実は意味無く、何か事件が起こりそうで何も起こらない。いつものトゥーサンのそのままであるが、より、何も起こらなくなった気がする…。でも、なんとなくは面白いんだけど。


「超能力のトリック」
松田道弘 講談社現代新書

 歴史的には19世紀終わり頃の降霊会からユリー・ゲラーまで。内容も、スプーン曲げ、霊媒、テレパシー、予知能力など、さまざまな超能力のトリックを解説する。
 興味がある人には楽しめる本。


「日本のみなさんさようなら」
リリー・フランキー 情報センター出版局

 週間ぴあに連載していた「あっぱれB級シネマ」に加筆改稿したもの。
 帯には「これは映画評ではありません」とある。確かに、映画評とは言えないかもしれない。色々な映画を通じて、エッセイを書いている感じ。すべて邦画であるが、そのジャンルの広さはりっぱなモノ。「雨月物語」「天国と地獄」みたいな古典的名作から、「ガンガー 俵万智・イン・カルカッタ」、「北京原人」みたいなトホホなもの、「女優霊」「四月物語」など最近のモノも網羅している。データ的にも結構役に立つ。


「マンハッタン少年日記」
ジム・キャロル 晶文社
- The Basketball Diaries - Jim Carroll

 ディカプリオ主演の映画「バスケットボール・ダイアリース」(未見)の原作。

 60年代のニューヨークの下町、著者のジム・キャロル自信の13歳から16歳までの日記。盗み、喧嘩、麻薬の日常であっても、妙に純真な所もあり、その複雑な心理が面白い。そこには等身大のニューヨークの少年が一人見えるのだが、100%感情移入出来ずにかなりの反発も感じる。


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