2001年9月


「スーパートイズ」
- Super Toys - Brian Aldiss
ブライアン・オールディズ 中俣真智子訳 竹書房

 短編集。表題作の「スーパートイズ」(三章「いつまでも続く夏」、「冬きたりなば」、「季節はめぐりて」)が映画「A.I.」の原作、原案になっている。「スーパートイズ」は何をやっても母親を喜ばせることの出来ないアンドロイドの物語で、映画と本質的にはそこだけが同じ。

 後書き代わりの一文、「スタンリーの異常な愛情-または私とスタンリーは如何にして「スーパートイズ」を「A.I.」脚色しようとしたか」はなかなか面白かった。1977年の半ばからのキューブリックとのつきあいから、いかに映画に形作られていったかが判る。しかし、スピルバーグによる映画はキューブリックらしい完成度は無い。
 「ピノキオ」のアイデア、青の妖精がキューブリックのアイデアだったとは驚いたけど。しかし、それをそのまま使い映画的には失敗している。キューブリックの呪縛という事か。

 他の話はそれほど面白くなかった。それ以前に訳がこなれていない気がする。おそらく、癖があるであろうオールディズの訳文を上手く日本語に乗せられなかったのではないか。


「腐海」
- Sea Change - James Powlick
ジェームス・ポーリック 古賀弥生訳 徳間書店

 舞台はカナダ西部、バンクーバー島付近と米国北西部のピュージェット湾。この海域で、ボートの男、貨物船の船員、浜辺の少女などが、神経麻痺や全身の出血で死亡。元米国海軍将校の海洋学者ガーナーは、その原因を原生生物の"フィステリア"では無いかと疑う…。

 バイオ的恐怖の「ホットゾーン」に、ジョーズ的な海の怖さを加え、さらに環境問題などをうまく取り込んでいる。まあ、面白いけど、人間の厚みや、物語の作り方がイマイチなのが残念。
 最近はプリオン、炭疽菌とバイオ的な恐ろしさが実生活で感じられる様になってが、この人食い原生生物の「フィステリア」の怖さも凄い。検索してみると、実際アメリカ東海岸で"フィステリア"による被害があったらしい。


「真実の瞬間」
- Moments of Truth - Jan Carlzon
ヤン・カールソン 堤猶二訳 ダイヤモンド社

 副題「SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略は何故成功したのか。
 1978年、36歳のカールソンは世界最年少の航空会社社長としてスウェーデンの国内航空会社リンネフリュ社の経営を引き継ぎ、料金値下げ、空席を無くし業績を上げる。1981年にスカンジナビア航空の社長に就任。黒字経営に転じ、年間最優秀航空会社に選ばれる。
 本質は、「顧客本位の企業に作りかえる」必要性を説いている。当たり前ではあるが、それを実行出来ない企業のいかに多いことか。この行動力は素晴らしい。
 「真実の瞬間」とは、最前線の従業員が接客する最初の15秒の接客態度がその航空会社の印象を決めてしまう。この15秒間を真実の瞬間とカールソンは呼んでいる。

SAS(スカンジナビア航空)


「方向オンチな女たち」
- I'll Never Get Lost Again - Linda Grekin
リンダ・グレキン 築地誠子訳 メディアファクトリー

 方向オンチを真面目に語った本。ベストセラー「話を聞かない男、地図が読めない女」にも出てきた話題ではあるが、真っ向から方向オンチを取り扱った本は少ないらしい。

 方向オンチを「方向感覚に障害がある人」と捉え、今の社会がこの障害を持つ人が暮らすためにはうまく出来ていないという意見は、なるほどなあと思う。
 頭の中で図形をひっくり返せない人と、方向オンチの相関性も、研究レベルまでは行ってないが面白い視点だと思う。ブロック、積み木みたいなオモチャで育たなくなった子供たちは方向オンチが増えるのじゃないかと、ふと思った。
 調べてみると「方向オンチの科学」という本もあるので読んでみたい。

全日本方向音痴ーず Official Home Page
方向オンチ同盟
「方向オンチ」発掘!あるある大事典 第225回


「ウはウミウシのウ」シュノーケル偏愛旅行記
宮田珠己

 「旅の理不尽 」「東南アジア四次元日記」と最近立て続けに読んでいる宮田珠己の本ではあるが、今回はイマイチ。今回はシュノーケリングの話ばかり、宮田節はあまり発揮されていない。
 バリカザク島、アポ島、スミロン島、ビヤドゥ島、小浜島、柏島などなど…知らない所ばかりだった。


「サナダから愛をこめて」
藤田紘一郎 現代書林

 寄生虫博士、藤田紘一郎の一冊。この人の本を読むのは初めてだと思う。
副題「信じられない海外病のエトセトラ」で、主には海外での病気の話。海外での水、寄生虫、細菌などなど。潔癖、無菌状態に慣れた日本人は抵抗力が無くなり、海外で病気になりやすくなっている。海外旅行危険回避マニュアルとして読んでも結構面白い。

 モンタヨシノリと知り合いだという話が無意味に出てくるし、サナダ記念日、貧乏肥満ナシ、寝た者夫婦、カルキも水の味わい、などの章のダジャレ名前の付け方からくるオジさん臭さは何とかならないもんかなあ。これが著者のスタイルなのか。


「なんといふ空」
最相葉月 中央公論社

 「絶対音感」の著者。タイトルは種田山頭火の句から来ているらしい。
 平成12年(2000年)の一年間、週刊読売に連載していたエッセイ集、他の雑文をまとめたもの。映画「ココニイルコト」の原作、原案になっている、最初の「わが心の町 大阪君のこと」はわずか3ページのエッセイながら突出して面白い。映画を先に見ているせいかもしれないが。その他は大した事なかったけど、「絶対音感」では判らない著者の姿が判るのは面白い。

 通天閣、阪急ブレーブス、新世界の古道具屋、明石天文台、ええんちゃいますか…わずかな言葉をつなげて、映画のあれだけのイメージにする才能の凄さを、原案を読む事で感じた。

「ココニイルコト」感想


「Madal-Art for Maintoshとは何か」
今泉浩晃 実務教育出版

 「頭脳を活性化させ、思考をデザインするツール」というふれこみのMandal-Art。遙か昔使ったことあるけど、いまいちピンとこなかった。洗練されたアウトラインプロセッサの方が実用的な気がする。それでも、何か気になるソフトで、作者自身の解説の本があったので読んでみる。
 空間で認識するというのは正しいと思うのだけど、8つの空間ではあまりに狭すぎる。逆に狭苦しく感じて思考が制約される気がする。
 この本自体Mandal-Artで書いているようだけど、うまくまとまっていない。

「ヒロアートディレクションズ」 - 著者のサイト


「日本のおもちゃ・アニメはこれでいいのか」
堀孝弘 地歴社

 環境NPO「環境市民」で活動している著者。最近のアニメ、オモチャを見ると確かに納得出来る所は多いし、内容は年頃の子供がいれば100%共感出来ると思う。

 第一部は、おもちゃと番組のつながり。第二部は、子供番組の暴力シーンの問題、第三部は、消費者のあり方と分かれる。鼻につく部分は多少あるが、正しい主張ではある。
 グッズやオモチャを売るためのアニメ番組は、おもちゃを売るためにストーリ構成自体を変えてしまうなんて事はなんとなく判っていても、ちゃんと分析されるとその構造が判ってくる。
 使い捨てを促進し、創造性が欠如し、暴力シーンにより攻撃性も増すなどは問題ばかり。「愛」「平和」「正義」をテーマに歌いながら暴力シーンが多くなっている。
 海外のオモチャ事情、特にドイツとの比較もあるが、この環境の違いには驚かされる。日本の現状を是としない姿勢は必要だろう。なんか「世界名作劇場」、「日本むかし話」みたいなアニメが懐かしい。


「金持ち父さん貧乏父さん」
- Rich Dad,Pool Dad:What The Rich Teach Their Kids About Money -
ロバート・キヨサキ+シャロン・レクター 白根美保子訳 筑摩書房

 ここまでベストセラーになるとは思わなかったが、とにかく読んでみる。まあ、大抵の人の感想と一緒で、納得出来る所もあるが、納得出来ない部分も多い。金持ちになるには沢山働く必要が無い事、持ち家が資産だというのが信仰であること、資産と負債をはっきりさせる、などは共感出来るかな。
 上手く立ち回るヤツが勝ち的な所は、なんか好きになれない。


「てんとう虫が走った日 スバル360開発物語」
桂木洋二 グランプリ出版

 スバル360開発物語。中心人物の百瀬らと、その開発過程を描く。車には疎いものの、エンジニアとしてはこういう開発物語は面白い。しかし米国の開発モノ、たとえばDeta GeneralのMV/8000の「超マシン誕生」やデビット・カトラーのNT開発の「戦うプログラマー」に比べると、物語としての作りに魅力が欠けるのは残念。

スバル360 - SUBARU MUSEUM内


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