S.S.W.

S.S.W.を「シンガー=ソングライター」と読むのを知ったのは、つい最近。

Artist
CAROLE KING

Title
WRAP AROUND JOY

Label/No.
EPIC/ODE/EK 34953=CD
 S.S.W.ブームを代表するアルバム『つづれおり』のキャロル・キング。しかし、個人的にはこれとこの前後の彼女のソロの歌は、作為的とも言えるくらい、覇気がなくて彼女の曲の良さを彼女自身潰しているような気がしてなりません。
 その点この74年作のアルバムは1曲目「NIGHTINGALE」から歌声が瑞々しく、アンディー・ニューマークのメリハリの効いたドラムなど、演奏陣も発刺としたプレイを聴かせてくれて、清清しい気持ちにさせてくれます。サックスをフィーチャーした「JAZZMAN」、これを挟む2、4曲目のスローで、スライドギターを効かせたりした、シミル系の曲でも歌声は伸びています。
 伴奏のピアノがザ・バンドの「ステージフライト」のイントロに似た「MY LOVIN' EYES」もファンキーな肌触りで、あくまでまろやか且つポップな曲と相成って、キャロル・キングでしか作り得ないポップな世界を展開しています。「NIGHTINGALE」と「MY LOVIN' EYES」がこのアルバムの中では好きな曲です。

Artist
HARRY NILSSON

Title
AERIAL BALLET

Label/No.
RCA/53956-2=CD

 68年発表。この作品を含めてジョージ・ティプトンがアレンジしている、初期のニルソンのアルバムはノスタルジックな雰囲気があり、同じ頃のハーパース・ビザールなどのバーバンク・サウンドに共通するものがあります。そして、あくまで私見なのですがビートルズのポール・マッカートニーの作品に共通する雰囲気も持っていると感じます(実際にニルソンはファーストアルバムで、ビートルズをパロディー化した曲もやっていたりするのですが)。ニルソンの豊富な音楽的素養とジョージ・ティプトンのノスタルジックなアレンジから生み出されるサウンドが、ポールの曲と彼自身がプロデューサーのジョージ・マーティンに要求する、ミュージック・ホールなど、やはり懐古趣味的なサウンドと、結果的に似ていることが私にそう感じさせるんじゃないかと。

 そんな訳で、曲、アレンジ共にソフト・ロック好きにも楽しめる、ソフト&フォーキーでディスカヴァー・アメリカ的な音楽ですが、あと肝心の歌の部分が、味に走りがちな他のシンガー=ソングライターとは違って、彼は本物のシンガー。何たって、かれの2大ヒット曲「噂の男」(このアルバムに収録)、「ウィズアウト・ユー」は共に他人の作品だったりします。そこら辺が逆にかれの作曲を含めたアーティストとしての相対的な評価を難しくしている、とも思いますが。

 あと、ジョージ・ティプトンのアレンジについても彼自身はそんなに気に入っていないみたいで(「ミュージック・マガジン増刊スペシャル・エディション1」参照)、後期の「プシー・キャット」みたいな、ある意味やけっぱちな作品が出て来たりもして、複雑な人だと思います。しかし、亡くなってしまったのは本当に惜しい。

 色々書きましたが、そんな背景抜きにして彼のこのアルバムを含めた初期の作品は、理屈抜きにして楽しめる、クオリティーの高いアメリカン・ポップスの到達点のひとつ。

Artist
AL KOOPER

Title
AL'S BIG DEAL/UNCLAIMED FREIGHT

Label/No.
COLUMBIA/CGK 45386=CD
 アル・クーパーのレコードは3回挑戦して、やっと格好良く思えるようになりました。
 まず、最初は大学3年の頃、スウィングジャーナル誌増刊の「ロック名曲名盤」というガイド本に彼のアルバムが多数、紹介されていて興味を持ち、その頃出来たばかりのHMV横浜で、当時唯一リイシューされていたこのベスト盤を購入して聴いた時(’90年頃)。
 その頃、ニュー・ウェイヴ、プログレ、ブリテッシュ・ロック等を好んで聴いていた私にとっては、その今一つキャッチーでなもなく、その中途半端さ(今にして思えば、様々な音楽が混ざり合っているのを、そう感じたのだと思う)に違和感を憶え、好きになれなかったです。その中で「JOLIE」や「BRAND NEW DAY」はまだ聴けた方ですが。それらの曲に対してもアレンジ、歌に何かわざとらしさ、ツメの甘さを感じたものでした。この頃の愛聴盤が、ピンク・フロイドの『アニマルズ』、ロキシー・ミュージック『フレッシュ&ブラッド』、スティーリー・ダン『ガウチョ』ということで、これらの巧緻を極めたアルバムのサウンドに比べて、アイデア先行のアルのサウンドの稚拙な部分に敏感に反応したのは仕方のないことかもしれません。

 2度目は就職してすぐの頃(’92)。彼のオリジナル・アルバムが世界に先駆けて日本でリイシューされ、レコード・コレクター誌でも特集が組まれ、それを読んでいるとやっぱりいいのかな、と思い『イージー・ダズ・イット』を購入。これは前回買ったベスト盤の中では一番気に入っていた「BRAND NEW DAY」が入っていたからなんですが、しかし、この時も前回と同じ、いやベスト盤に比べ、散漫な印象を受けたりして初めての時より彼への印象は悪くなりました。

 そして、その後自分で自由になる金が増えたことをいいことに、フリー・ソウル、ソフト・ロック、スマイル・ロックなど、様々なレコード会社の販促策にのって、CDを買い始め、イイお客さん状態になり喜んで聴いていました。

 しばらくしてパソコンも購入し、NIFTYの会員になったりして、そのロック・フォーラムのなかで他の会員の方との会話の中で「アル・クーパーいいよ」ということを聞いて、三度目に挑戦。この時聴いたのは、やはりベスト盤でしたが、1曲目「NEW YORK CITY」のピアノとオルガンの奏でるイントロを聴いたとたん、「何じゃー、この格好良さは」とやっと彼のサウンドを格好良く聴くことができるようになりました。
 彼の音楽はブルージーかつソウルフルな音楽の部分が多く含まれると思うのですが、かつて聴いた時はその部分に全く素養がなく(ブラック・ミュージックに全く暗かった)、引っ掛かりが無かったのと、そんな黒っぽいサウンドに対し、彼の全く白っぽいヴォーカルが、一緒に聴こえてきて違和感を感じたのだと思います。自分を肯定する訳じゃありませんが、彼の音楽はやはり、聴く側の調整が必要で、少しでも気になるところ(歌の弱さ、ツメの甘さ等)が、出てくると全然つまらない音楽に聴こえてしまうことになるのだろうと思います。逆にその辺が気にならず、彼のソウル、ブルース、フォーク、ロック&ロールなどの様々な音楽のブレンドの妙にはまってしまうと、他では得られない快感を憶え、抜けだせなくなってしまうのだと思います。

 今回挙げたベスト盤は、アナログ盤では2枚組だったものですが、マイク・ブルームフィールド等とのスーパー・セッションでの作品も収められ、彼の才能をギュと詰め込んだ、素晴らしい作品を集めたものだと思います。彼の声を弱いと感じず、都会を生きる男のうめき、囁きに聴こえるようになれば、もう彼のサウンドの虜。

Artist
LAURA NYRO

Title
ELI AND THE THIRTEENTH CONFESSION

Label/No.
COLUMBIA/CK 9626=CD
 ローラ・ニーロのアルバムの中で、どれが一番凄いか、となると次作『ニューヨーク・テンダベリー』を挙げる人が多いと思います。その激情を歌、サウンドに全てぶつけた様な『ニューヨーク・テンダベリー』は、確かに凄いとは思うけど、ポップ・フィールドからやや、外れて(突き抜けて)しまっている感が否めないのに対し、この『イーライ〜』は、ギリギリの線で、大衆音楽として機能していると思います。ここでのアレンジャーはフォー・シーズンズなどで有名なチャーリー・カレロですが、やや、懐古趣味が入っていながら、時には凄まじく厚いバックに対し怯むどころか、そのバックを引きずり回して歌い上げていているところに、真のシンガー=ソングライターの姿をみることができます。あとこのアルバムに限ったことではないですが、この人の曲には、予想するコード進行を裏切られることが多く、そのへんのスリル感が魅力です。ドナルド・フェイゲンの曲にも同じような事を感じますが、って余談です。これ。

Artist
RANDY NEWMAN

Title
12 SONGS

Label/No.
REPRISE/6373-2=CD
 ランディー・ニューマンのアルバムは、まとめ買いしたことと、一枚通して聴くことが少ないことから、どのアルバムに、どの曲が入っているのか中々覚えられません。それと、どんな曲でも、またプロデューサーのレニー・ワロンカーがどんなアレンジをしようとも、彼のダミ声とループしているような彼自身の伴奏のピアノにかかれば、その強烈な個性にかき消されてしまい、余計覚えられなくなるような気がします。
 その個性的な声にヒリヒリする毒を感じながら、曲全体をよ〜く聴いてみると、なんとも美しい曲だったりして、そのギャップが面白かったりする訳で、その辺が彼のアルバムを聴いていての魅力に感じます。
 『12 SONGS』は比較的シンプルなアレンジで、彼の曲の格好良さが、分かりやすくライヴ盤と並んでよく棚から取り出して聴く盤です。

Artist
NEIL YOUNG

Title
AFTER THE GOLD RUSH

Label/No.
リプリーズ ワーナー/20P2-2092=CD

 バッファロー・スプリングフィールドのメンバーの中では、スティーヴン・スティルスの曲が最初好みで、彼の曲ばかり聴いていて、ソロの作品も先ずマナサスの1枚目を買って何度も聴いたりしていました。

 このニール・ヤングの『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』は、スティーヴン・スティルスのソロ作品よりやや遅れて、スマイル・ロック(フリー・ソウルなどのムーヴメントに便乗して、レコード会社が70年前後の所謂ロックの名盤を売らんが為に、このようないかがわしい仕掛けを起こしたりもしたのでした。スネークマン・ショウの桑原茂一が仕掛人)のアルバム選にも、入っていたので「いいんだあ」と思って聴いてみたけど、最初はさっぱりイイとは感じませんでした。そのギター1本とか、リズムが入ってもギターの弾き語りが中心のショボいサウンドの何処がいいのか全く分かりませんでした。しかし、たまに取り出して聴いていくうちにこの切ないメロディーと彼のか細いけど芯のある声、上手いとは言えないけどソリッドな演奏に惹かれていくようになり、ついには虜に。歌、メロディー、演奏が正に一体となって聴き手に飛び込んでくるといったサウンドは、やはり他では味わえないもの。今ではアルバムを通して聴ける、数少ないアルバムの一つとなっています。

 今ではスティーヴン・スティルスとニール・ヤングの私の好み度はほぼ同じか、ニール・ヤングの方がやや上といったところです。どちらもいいんですけどね。

Artist
JACKIE DE SHANNON

Title
WHAT THE WORLD NEEDS NOW IS...JACKIE DE SHANNON-THE DEFFINITIVE COLLECTION

Label/No.
EMI/7243 8 829786 6=CD
 ソフト・ロックの最高峰のひとつとされるアルバム『ME ABOUT YOU』やバカラックの「WHAT THE WORLD NEEDS NOW IS LOVE」の歌い手、ということから、私達の世代からはポップ・シンガーの面がクローズ・アップされるジャッキー・デシャノンですが、50年代から自作曲を歌う、真のシンガー=ソングライターと言える人です。
 このベスト盤はリバティー、インペリアル時代の彼女の代表曲、未発表曲を集めた素晴らしい内容のものですが、しゃくりあげるように歌うR&Rナンバー「BUDDY」、レッド・ツェッペリン結成以前のジミー・ペイジがギターをかき鳴らし、スピード感がたまらない「DON'T TURN YOUR BACK ON ME」など、自作にも聴くべき曲は多数あります。
 決して綺麗な声とは言えないけれど、R&Rナンバーではシャウトし、ソフトなナンバーではあくまで優しく歌う彼女の歌い方には好感が持てます。

Artist
TODD RUNGREN

Title
RUNT

Label/No.
RHINO BEARSVILLE=CD
 この人の場合、シンガー=ソングライター=プロデューサー=エンジニアと何でもやってしまうのですが、そのソングライターの部分でも決して1パターンにならず、本当に色んなタイプの曲を作っていて、同じ人間が作っているのか?と思ったりもするけど、でも彼以外は作れそうもないな、と思わせたりもして。複雑です。トッド・サウンド。そのマルチな活躍にはアル・クーパーと共通するものを感じますが、アル・クーパーよりは歌はうまいし、アレンジ、曲、サウンド、全てにおいて統一されていると思います。やりたいことが音にちゃんと現れているなあ、と。
 あと、凄いと思うところは声の処理で、その曲その曲で、歪ませ方(コンプレッサー、リミッター等の掛け方)が絶妙ということで、このアルバムの「we gotta get you a woman」の出だしなどは、いつ聴いても快感を憶えます。

Artist
JESSE DAVIS

Title
JESSE DAVIS

Label/No.
ATCO/AMCY-2583=CD
 邦題『ジェシ・デイヴィスの世界』。70年作。ギター・プレイヤーの彼ですが、曲を作り、歌も歌っているこの盤は、どの曲もひいき目無しにカッコイイと思います。彼のそれまでのギター・プレイヤーとしての魅力、タルサ人脈などから多くのゲストミュージシャン(エリック・クラプトン、ジョン・サイモン、レオン・ラッセル、グラム・パーソンズなど)が参加していますが、それすらも魅力の一部でしかないような。
 「washita love child」の豪放なギターも彼の歌に上手く絡まって、決して邪魔していないし、「reno street incident」のルーズな格好良さも彼の味のある歌と、ギターがあればこそ。しかし、本当にギターが決して出しゃばることなく、サウンド全体に上手く溶け込んでいて、そのバランス感覚が逆に格好良さを増幅させていきます。
 彼のギター・プレイを堪能したければ次作『ウルル』でしょうが、歌、ソングライティング、プレイヤーのトータルの格好良さなら、こっち。とおもいます。

Artist
TONY JOE WHITE

Title
...CONTINUED

Label/No.
WARNER BROS./9362-46365-2=CD
 シンガー=ソングライターの曲はメロディーとリズムの関係で言えば、先ず曲があって、それにリズムをつけたような曲が多いような気がしますが、このトニー・ジョー・ホワイトの曲の場合、先ずリズムがあって、それにメロディーを乗せて作ったと思わせる曲が多いような気がします。スタジオでミュージシャンが遊んでいる内に出来たような。そういう意味では非常にバンドっぽいサウンドです。バンド名義でもいいんじゃないかと思いますが、そうしなかったのは、彼の自己主張が強かったからなのか?真相は分かりませんが。存在を誇示するかのような、オンマイクで異様に前に出て聞こえてくるヴォーカルに、「おれのソロアルバムだ」との主張を感じたりします。
 南部臭たっぷりのサウンドは非常にソウルフルで、彼の歌も黒人に間違えそうで(実際、収録曲「rainy night in georgia」は黒人歌手、ブルック・ベントンに取り上げられて、大ヒットしています)本格的、というか本物。「rainy night in georgia」のようなバラードも「old man wills」のようなファンキーな曲も、小馴れた感じで余裕を感じさせ、安心してそのサウンドに浸ることが出来ます。69年作。

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