脳の回路と失敗

抑制というのは身体で覚えるものであり、何かを意識的に抑制しようとすると我々自身の内発的な行動を抑圧することになります。抑制を身に付けるには、不都合を自発的に認識し自然に抑制が起きるのを待つことが必要です。不都合というのは現実の現れであり、自発的な認識とは自分がその不都合を招いたのだと実感することです。要するに、実際に失敗した上で自分の失敗をありのままに捉えるということが必要なわけです。

大脳の回路はプラスの接続を記憶するようにできています。したがって、大脳では失敗という否定的なものは「それを回避する」という形でしか取り入れられません。つまり、失敗というものが起きないように、行動を禁止するわけです。それは現実を認識しないようにするということでもあります。現実の認識を禁止するために大脳に生じる回路が社会的制度という幻想を生むと考えられます。

一方、小脳の回路はマイナスの接続を記憶するので、小脳では否定的な認識をそのままの形でマイナスの接続として取り入れることができます。失敗は自分と現実の接点として「そこにある」ことになります。抑制性結合というものは、何かを明確に表現することはできません。表現というのは、プラスの信号が運動器官に伝達されて生じるものだからです。抑制というのは「何かをしない」という「引き算」として表現されます。

ところで、我々の行動は様々な要素から成り立っています。何かの行動がうまくいくためには、各要素のバランスがとれていなくてはなりません。そして、バランスというのは各要素が自己抑制し合うことで生まれるものです。抑制というのは失敗を取り入れることで身に付くものなので、「我々の行動がうまくいくのは、失敗することでバランスを身体で覚えたからだ」ということになります。

何かがうまくいっている場合は、潜在的な失敗がそれを支えているのだと想像するしかないわけです。何かがうまくいったとすると、その行動は成功であり明確な表現にもなっていますが、成功した行動は新たな次元の行動を成功させるための糧にはならないとも言えます。我々の行動がうまくいかないのは、より高いレベルでの行動を成功させるためだとも言えるわけです。