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銅の谷の女神秘録

 


幕 間


カーディーンの将軍は、私的な時間を二人の側近と過ごしていた。
よく似た輝くばかりの金の髪と、深い蒼の瞳、頬骨の高い貴族的な容貌。
すべてが、姉弟である事を示している。
この側近は、双子だった。
女の方が、クルストリア・バーン。
弟が、ウィストリク・バーンという。
「どこに、雲隠れしたんだ。あのチビは」
「姉さん。公子殿には、何か、考えが……」
「いつもなら、そうだろうがな。色ぼけしてるなら、どうかな。ザビエ子爵とかを、予定外にぶった切ってくれて、モンティール子爵とかが、苦労しているとか言ったのは、お前だぞ。ウィストリク」
将軍は、姉弟喧嘩を興味深げに見守っていたが、ここに至って、ようやく口を開いた。
「多少の回り道は、大目に見てやってくれ。あいつには、損な役目を振ってしまったんだ。ただ、道を踏み外すことはないよ。あいつはね」
クルストリアは、肩をすくめた。
「それは、女と、うまくやれるかどうかに、かかっているでしょうね」
ウィストリクは、その『女』を見たことがあるだけに唸った。
何しろ、腕に覚えのあった自分より強い。
「実力から言って、無理強いは、できませんからね。地道にくどき落とす…と言っても、公子殿ときたら、好きな人には、いきなり弱腰になるからな。無理かも」
将軍は、頷いた。
「誰に似たのかな。シリアの扱い方も、壊れ物みたいに大切にしてて、で、あっさりあきらめる。妙なとこで、不器用な奴だよ」
クルストリアは、意地悪く弟を見た。
「そうかぁ。遺伝的に言って、たらしだと思うぞ。女の子は知らないけど、男にはもててた。ウィストリクも、手を出し損ねた口だろう。女をくどき落とせる方に賭けるぞ」
ウィストリクは、二・三度、意味も無く口を開閉すると、決然として言った。
「落とせない方に賭けます」
将軍は、苦笑し、割って入る。
「こらこら……。何の話をしているんだ」
双子は、敬愛する将軍を振り返ると、問いかけるように見つめる。
人柄の良さで定評のある主は、罪の無い笑顔になり、こう言った。
「叔父甥の誼みで、落とすほうに賭けてやろう」


時は、ハンナム・カーディーン大公の治世、十九年の事である。
この年、若者達は、多くの夜を共に過ごし、多くの事を語った。
痛みを持った過去も、優しい思い出のように語られ、未来は、平穏なものであるよう思われた。


ハンナム・カーディーン大公の治世、二十年。
戦いは止まず、砂漠は、緩やかに広がりつつあった。
それが、彼らの最後の年になる。

(第四章に続く)


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