5月24日

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サッカー
第20回アジアクラブ選手権準決勝
イルティシュ・パヴロダル×ジュビロ磐田
(韓国・水原総合運動場)
キックオフ:14時5分、観衆:2500人
気温:28度

パヴロダル 磐田
0 前半 0 前半 0 1
後半 0 後半 0
延長前半 0 延長前半 1

金沢 浄:103分

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 韓国の水原で第20回アジアクラブ選手権決勝トーナメントが行われ、カザフスタンのイルティシュ・パヴロダルとジュビロ磐田が対戦した。
 磐田は、PKを狙って中盤4人、DFライン4人と8人でエリア内を守る布陣を敷いたカザフスタンに攻めあぐんで、最後まで崩すことができなかった。前半終了間際には、中山雅史が、相手GKの飛び出したところを、体を反転させて左サイドからシュート。これが無人のゴールに入りかけたところで、DFにかき出されてしまった。前半は、強風の風下にいた磐田はこれも凌いで無得点のまま後半へ。
 後半に入ると、右内転筋を痛めてこのところ耐えながら試合を続けている高原が、相手の激しいマークを受けるなどしてさらに踏ん張りがきかなくなったために交代。
 チーム全体的にも、Jリーグで、前節の札幌、前前節の清水と延長が続いている(1勝1敗)だけに選手の疲労も色濃くなる。後半は、終始ボールを支配しながらも得点を奪えずに、試合はそのまま延長戦に突入した。
 前半13分、鈴木−福西と左サイドに展開したボールに、後半交代で入った金沢が、マイナスまで切れ込んで、センタリングを上げたかに見えたが、これが見事ゴール隅に決まる。
 磐田が、金沢のプロ公式戦初ゴールで延長Vゴールでパヴロダールを下して、26日の決勝に3年連続で進出した。また、この試合で警告を受けた藤田は、26日の決勝は出場停止となる。
 決勝での対戦相手は、この日の第2試合でPirouzi(イラン)に2−1で勝利した水原三星(韓国)となる。

磐田・鈴木監督「墓穴を掘ったという試合になってしまった。守られると点を取ることができない弱みに、あれほど徹底して守られると……。決勝は自分たちのサッカーができると思うし、ここで負けてしまったら何も残らない。(体調も悪かった)奥も決勝には出場できるだろう。金沢も、思い切ってサイドを行け、と指示した通りに動いてくれた。高原は、あの状態(脚の痛みから踏ん張れない)を引っ張ると、本人にもチームにも良くないと思ったので代えたが大事ではない」

公式戦初ゴールの金沢「あの場面はニアの速いボールを(中に)返そうと狙っていたんで、決めるつもりじゃなかったんです。相手が守備的だから、サイドから崩すしか手がないとは思っていたんですが。あれは……“シュータリング”です」

中山雅史「やはり決めるところで決めないとね……(前半終了間際のシュート)ちょっと球威がなかったのかな。とにかくあれだけ引かれてしまって、しょぼいサッカーをしたな、という感じ。ボールとは関係のないところで、タカ(高原)にも自分にもガンガン(ファールで)来るのも、ちょっとひどかった。勝つことだけが必要な試合だったし、こういうのも仕方ない」

主将の服部「もう今日は結果だけだね。とにかく勝たないことには明後日(26日)が消化試合になってしまう。それだけは避けなければ、と思った。下(ピッチの状態)にもかなり神経を使う部分があったし、あれだけ引かれてしまうと打つ手がないというのも欠点というのもわかっている。それにしても、4人2列であんなにきれいに並んだのも初めて見たね(カザフのDF)。なんだか逆に新鮮だったよね」


「中山:オイ、上げろよ! あれ、入ったの?   
金沢:あれは、“シュータリング”というんです」

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 終わってみれば、苦笑、爆笑、予想もつかない結末で磐田が決勝に進出した。もちろん誰よりも引き分けを狙い、PK戦を目論んでいたパヴロダールにしてみれば、「なんじゃこれ?」という結果だったであろう。

 この日パヴロダールは、中盤を4人、最終ラインを4人と見事なまでの2列縦隊を組み、これがペナルティエリアを囲む「8バック」のような恰好で守備を敷いた。磐田を相手に、当然のことながら「かなり守備的に来るとは思っていたがあそこまでとは」と鈴木監督も予想はしていたが、まさに守るだけ。中山、高原がクサビとして動こうが、中央で速いワンツーを展開しようが、どうにもこうにも切り崩すことができなかった。唯一の望みが、セットプレーとサイド攻撃だった。

 Vゴールの場面を中山はこう話す。
「サイドから上げてもらって崩すしかない展開だったから、オイ、(サイドからセンタリングを)上げろよ! と怒鳴ったところだった。あー、また流れちゃった……と思ったら、(金沢のボールが)ありゃ入ったの、って感じですよ。仕事としては、まあしょぼいものです。あの守備では、くさびになったからといってどうにもなるわけでもないし、走り抜けてスペースができるわけもない。だから、本当に難しいですね」

 金沢は、左脚のアウトでボールをひっかけるキックをして、ニアを狙った。体は完全に中、つまりセンタリングを狙った位置にあり、ゴールが決まったときには、選手たちも笑い、本人も苦笑。その後、「名付けて“シュータリング”」と絶妙なネーミングまで披露して爆笑を呼んでいた。

 それにしてもこれがプロの仕事とはいえ、1週間で3試合の、それもタイトルをかけたアウェー戦を続けるしんどさは計り知れない。肉体以上に、神経が痛めつけられるだろう。
 磐田はこの3週間で、清水戦(104分)、札幌戦(102分)、このゲームと、3試合連続で309分ものゲームをエキストラでこなしている。中山は、「こういう試合が続くと、体よりも神経が参ってくる。休めたいのは、肉体よりも神経ですね」としみじみと話していた。

 中山、高原、服部、奥の4人は、この後、コンフェデレーションズ杯に合流する。当たり前のように、当たり前に試合を消化していく選手の肉体と、それを司る精神力のたくましさは、言葉で表現することは難しい。
 磐田が本当の意味で評価されなくてはならないのは、放っておいても注目を浴びる代表における人数の多さや、その試合においてではなくて、気温が30度近くにもなり、観客はわずかに数百人(公式記録ではかなり水増しして2500人だが)とどこか牧歌的な、しかも荒れたピッチで、たいした内容もない試合を「もの」にしていることである。
 たとえ、結末が絶妙の「シュータリング」であったとしても。勝つこととは、案外こんなつまらないものなのかもしれないと思う。

■第20回アジアクラブ選手権 準決勝 出場メンバー
パヴロダル   磐田
ノヴィコフ GK ヴァン ズワム
スロデエフ DF 鈴木秀人
マズヴル 田中 誠
ゴリャチェフ 大岩 剛
ボロゴフスリー MF 服部年宏
ハミドゥロフ 福西崇史
キロフ 藤田俊哉
クリシン 西 紀寛
クロトフ ジヴコヴィッチ
メンデス FW 高原直泰
ソアレス 中山雅史
コノワレンコ(クロトフ):54分
バルスコフ(ヴォロゴフスリー):76分
カルポヴィッチ(ハミドゥロフ):89分
交替 56分:西野泰正(高原直泰)
68分:川口信男 (西 紀寛)
78分:金沢 浄(ジヴコヴィッチ)



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